短編小説
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「愛奈、ちょっと良くて?」
「え?主任?」
今正にエントランスを出て居酒屋に直行しようとしていたところに主任…リフィルさんに声を掛けられた。
どうかしたのだろうか?もしかして…考えたくは無いが何処か不備でもあっただろうか?
私は恐る恐るリフィルさんの方を向いた。
「な、何かありましたか?もももも…もしかして…不備でもありましたか?」
「安心なさい。仕事に不備は無くてよ。それどころか、訂正も無くそのまま上に提出出来たわ。流石愛奈ね」
「良かったです…では、私はこれで…」
一安心したところで私が再び歩き出そうとしたところで肩を掴まれた。私は早々に酒を飲みに居酒屋に行きたいのだが…。
「ちょっとお待ちなさい。もし、予定が無いのなら私の家で食事でも如何かしら?本当なら私の手料理を振る舞いたかったのだけれど…ジーニアスが作るって聞かなくてね」
「は、ははは…それはそれは…」
言っちゃ悪いが、リフィルさんの料理はまだ学生の頃遊びに行った時に食べた事があるが…この世の物とは思えない悪魔の食べ物だった。あの時は見えてはいけない河が見えたものだ。
「それで、ジーニアスが貴女も是非と言うのだけれど…駄目かしら?」
「いやいやいや、何言ってんですか。私とリフィルさんの…あ、主任の仲じゃないですか」
「ふふっ…昔みたいにリフィルって呼んで良いのよ?」
「じゃあ…リフィルさん。お言葉に甘えてお邪魔しても良いですか?」
「では、ジーニアスに連絡を入れておくわね。それでは、行きましょう」
こうして私はリフィルさんの車で家へお邪魔する事になったのだった。リフィルさんの家に行くのは何年振りだろうか…ジーニアスにも長いこと会ってないなー。
「突撃隣の晩ごはーん!」
デカい杓文字は持っていないがガチャリとリフィルさんの家の扉を開けると、私の声を聞きつけジーニアスが出迎えてくれた。おやおや、ちょっと大きくなって男前になったんでないの?
「いらっしゃい、愛奈…って、相変わらずだなぁ…」
「ただいま、ジーニアス」
「おかえりなさい、姉さん」
リフィルさんと共に家の中に入ると、既に玄関にまで良い香りが広がっていてつい大きな腹の音が鳴ってしまった。
「そういえば、貴女…お昼ご飯を食べていなかったわね」
「そうなの!?大丈夫?お仕事忙しかったの?」
「いやぁ…定時で帰りたくて昼飯抜いて仕事してたんだよ」
「そうだったんだ。じゃあ、一杯作ったからお腹一杯食べていってよね」
「ありがとな、ジーニアス」
私はコートとスーツの上着を脱いで皺にならないよう椅子に丁寧に掛けると席に着いた。
すると、徐々に目の前に豪華な料理が並べられていった。ここは一流レストランだったか、と錯覚する程豪華な料理に私は目を輝かせていた。
「どう?凄いでしょ。今日はかなり頑張って作ったんだよ?」
「うんうん、滅茶苦茶凄い。早く食べたい…涎が止まらない…」
「ふふ、少し待っていて。良いワインがあるの」
「こ、こんな素晴らしい料理に酒…ワインまで付くのか!?私は一体幾ら払えば…!!」
「無料で良くてよ」「タダで良いってば!」
セイジ姉弟は声を揃えて言うが、これに何も支払わないなんて…そうだ、今日はバレンタインデーだった。少し遅れてしまうが私も腕を振るって手作りのチョコレートか何かを作って持っていこう。
とてもじゃないが釣り合わないと思うが、そこは気持ちでカバーだ。
「これで全部だよ。さあ、召し上がれ」
「頂きます」
「うわーい!いっただきまーす!」
それぞれ手を合わせて食事の挨拶をすると早速料理に手を付けた。
あくまでお行儀良くナイフとフォークを使って上手く食べていくと、今まで味わったことの無い味と香りが口一杯に広がり、思わず黙々と食べてしまう。これはもう言葉では言い表せない程美味い。
「ははっ、愛奈って食べている時は昔から静かだよね」
「それだけジーニアスの料理が美味しいのよ。それに、愛奈は食事のマナーは良いのよね」
「……え、食事のマナー『は』?」
ごくり、とメインのステーキを飲み込みリフィルさんの方を向くとクスクスと笑っていた。
「あら、そうでしょう?目上以外の同僚とかに対しては貴女…雑なのだもの。まるで男性みたいよ?」
「うう…それは否定出来ない…」
「もう少し女性らしくしないと今期を逃してよ?」
「え?リフィルさんみたいに?」
その言葉を言った瞬間リフィルさんの顔は笑顔のまま凍り付き空気まで冷え切り凍てついた。
その氷のように冷たい笑みを貼り付けたままリフィルさんはジーニアスに指示を出す。
「………ジーニアス、どうやら愛奈はもうお腹一杯みたいよ。ワインも要らない様だから下げてもよくてよ」
「ごめんなさーい!嘘です嘘です!リフィルさんは引く手数多ですー!!」
「ふふ…冗談よ。でも、言葉には気を付けるのね…愛奈」
「はいー!」
そんな賑やかな食事をしているとふ、と私は思う。明日からまたお一人様ご飯なのだと。一人で食事が嫌だから私は何時も賑やかな居酒屋や飲食店でご飯を済ませてしまう。
楽しい食事が終わってしまうと私はワインを片手に名残惜しそうに空になった皿を見詰めた。
「どうしたの?もしかして足りなかった?」
「…ん?いや、そんな事ないぞ。十分お腹一杯。あ、VIPルームは空いているからデザートは空いているぞ!」
「じゃあ、バレンタインだしザッハトルテも作ったんだ。今から出しても大丈夫そうだね」
空いた皿を片付け食後のデザートの用意をする為にキッチンへと姿を消したジーニアスを見て、リフィルは私の方を向いて名を呼んだ。
「……ねえ、愛奈」
「ん?どうしたんだ、リフィルさん」
急に真剣な顔をするものだから私も釣られて真剣な顔をすると、リフィルさんは静かに話し出した。
「直ぐでなくて良いわ…貴女、うちに来るつもりはないかしら?」
「…へ?それはどういう…」
あまりにも衝撃的な言葉だったので危うく持っているワイングラスを落としそうになってしまった。リフィルさん…酔っているのだろうか?それとも私が酔っていて既に夢を見ているのか?
「そのままの意味よ。一人暮らしをするようになってから貴女…なんというか、外食が多いわよね」
「そうだな」
「それも居酒屋ばかり。食事をしても偏った物が多い…そんな貴女を見ていて心配になったのよ」
「大丈夫だよ、私は」
「『大丈夫』…昔からその言葉を聞いてきたけれども、ちっとも安心出来ないのよ?」
確かにリフィルさん…いや、セイジ姉弟とは長い付き合いだが、そんなに心配を掛けてしまっていただろうか?
私は心当たりが無いのでワインを飲みながらうーんと考え込んだ。
「それに、私が貴女と一緒に居たいと思ったのよ。だって、愛奈と一緒に居ると楽しいもの。今も昔も」
「それは…私だってそうだよ。此処に来るととても幸せな気持ちで一杯だ。でも…」
「分かっていてよ。直ぐには無理でも…何時かうちにいらっしゃい。そうね、ジーニアスが結婚して家を出て行くまでは待っていてもよくてよ」
「あー…ジーニアス、プレセアちゃんと…」
「わー!!二人共なんて話をしてるのさ!!」
途中から話を聞いていたジーニアスがザッハトルテが盛られた皿を持って此方に慌てて戻ってくるので、私はザッハトルテが落ちないか気が気でなかった。
「ジーニアス!危ないって!ザッハトルテが落ちたらどうするんだ!!」
「先ずボクの心配をしてよね!!」
「そうだよな!ジーニアスが怪我でもしたら美味いもん食えないもんな!」
「もう!愛奈の食いしん坊!」
「ふふっ…本当に仲が良いのね。まるで兄弟みたいよ」
「え、姉弟じゃなくて?」
「そうね」
三人で笑いながら食後のデザートも美味しく頂くと夜はあっという間に更けていって、気付けば日も跨いでいた。
「もう遅い時間だから私はそろそろお暇しようかな」
「あら、本当ね」
「時間が過ぎるのは早いよね」
よっこいしょ、と重い腰を上げスーツの上着とコートを羽織るとリフィルさんとジーニアスも立ち上がって、私を見送る為に玄関へと向かった。
「今日は御馳走様。また…来るよ。その時までに答えを考えて纏めておくよ」
「あら、答えが決まっていなくても何時でも来て良いのよ?」
「ありがと。でも…私なりに考えてみたいんだ。今後の事だから、さ」
「ボクが居るうちに来た方が良いと思うなー」
「そうだな、なるべく早めに決めるよ。それじゃあ、お休みなさい」
私は手を振ってそっと玄関の扉を開けて帰路についた。その間考えていたのは同居の話。
嫌では無いのだが、どうしても迷惑を掛けてしまうという考えばかり浮かんでしまう。しかし、二人はきっと微塵もそんな事は思ってはいないのだろう。
「良いのかな…誰かに寄り添っても…」
その後私はバレンタインデーは過ぎてしまったが心を込めて作った手作りチョコレートを手に二人の家に行き、私の答えを伝えに行ったのだった。
「え?主任?」
今正にエントランスを出て居酒屋に直行しようとしていたところに主任…リフィルさんに声を掛けられた。
どうかしたのだろうか?もしかして…考えたくは無いが何処か不備でもあっただろうか?
私は恐る恐るリフィルさんの方を向いた。
「な、何かありましたか?もももも…もしかして…不備でもありましたか?」
「安心なさい。仕事に不備は無くてよ。それどころか、訂正も無くそのまま上に提出出来たわ。流石愛奈ね」
「良かったです…では、私はこれで…」
一安心したところで私が再び歩き出そうとしたところで肩を掴まれた。私は早々に酒を飲みに居酒屋に行きたいのだが…。
「ちょっとお待ちなさい。もし、予定が無いのなら私の家で食事でも如何かしら?本当なら私の手料理を振る舞いたかったのだけれど…ジーニアスが作るって聞かなくてね」
「は、ははは…それはそれは…」
言っちゃ悪いが、リフィルさんの料理はまだ学生の頃遊びに行った時に食べた事があるが…この世の物とは思えない悪魔の食べ物だった。あの時は見えてはいけない河が見えたものだ。
「それで、ジーニアスが貴女も是非と言うのだけれど…駄目かしら?」
「いやいやいや、何言ってんですか。私とリフィルさんの…あ、主任の仲じゃないですか」
「ふふっ…昔みたいにリフィルって呼んで良いのよ?」
「じゃあ…リフィルさん。お言葉に甘えてお邪魔しても良いですか?」
「では、ジーニアスに連絡を入れておくわね。それでは、行きましょう」
こうして私はリフィルさんの車で家へお邪魔する事になったのだった。リフィルさんの家に行くのは何年振りだろうか…ジーニアスにも長いこと会ってないなー。
「突撃隣の晩ごはーん!」
デカい杓文字は持っていないがガチャリとリフィルさんの家の扉を開けると、私の声を聞きつけジーニアスが出迎えてくれた。おやおや、ちょっと大きくなって男前になったんでないの?
「いらっしゃい、愛奈…って、相変わらずだなぁ…」
「ただいま、ジーニアス」
「おかえりなさい、姉さん」
リフィルさんと共に家の中に入ると、既に玄関にまで良い香りが広がっていてつい大きな腹の音が鳴ってしまった。
「そういえば、貴女…お昼ご飯を食べていなかったわね」
「そうなの!?大丈夫?お仕事忙しかったの?」
「いやぁ…定時で帰りたくて昼飯抜いて仕事してたんだよ」
「そうだったんだ。じゃあ、一杯作ったからお腹一杯食べていってよね」
「ありがとな、ジーニアス」
私はコートとスーツの上着を脱いで皺にならないよう椅子に丁寧に掛けると席に着いた。
すると、徐々に目の前に豪華な料理が並べられていった。ここは一流レストランだったか、と錯覚する程豪華な料理に私は目を輝かせていた。
「どう?凄いでしょ。今日はかなり頑張って作ったんだよ?」
「うんうん、滅茶苦茶凄い。早く食べたい…涎が止まらない…」
「ふふ、少し待っていて。良いワインがあるの」
「こ、こんな素晴らしい料理に酒…ワインまで付くのか!?私は一体幾ら払えば…!!」
「無料で良くてよ」「タダで良いってば!」
セイジ姉弟は声を揃えて言うが、これに何も支払わないなんて…そうだ、今日はバレンタインデーだった。少し遅れてしまうが私も腕を振るって手作りのチョコレートか何かを作って持っていこう。
とてもじゃないが釣り合わないと思うが、そこは気持ちでカバーだ。
「これで全部だよ。さあ、召し上がれ」
「頂きます」
「うわーい!いっただきまーす!」
それぞれ手を合わせて食事の挨拶をすると早速料理に手を付けた。
あくまでお行儀良くナイフとフォークを使って上手く食べていくと、今まで味わったことの無い味と香りが口一杯に広がり、思わず黙々と食べてしまう。これはもう言葉では言い表せない程美味い。
「ははっ、愛奈って食べている時は昔から静かだよね」
「それだけジーニアスの料理が美味しいのよ。それに、愛奈は食事のマナーは良いのよね」
「……え、食事のマナー『は』?」
ごくり、とメインのステーキを飲み込みリフィルさんの方を向くとクスクスと笑っていた。
「あら、そうでしょう?目上以外の同僚とかに対しては貴女…雑なのだもの。まるで男性みたいよ?」
「うう…それは否定出来ない…」
「もう少し女性らしくしないと今期を逃してよ?」
「え?リフィルさんみたいに?」
その言葉を言った瞬間リフィルさんの顔は笑顔のまま凍り付き空気まで冷え切り凍てついた。
その氷のように冷たい笑みを貼り付けたままリフィルさんはジーニアスに指示を出す。
「………ジーニアス、どうやら愛奈はもうお腹一杯みたいよ。ワインも要らない様だから下げてもよくてよ」
「ごめんなさーい!嘘です嘘です!リフィルさんは引く手数多ですー!!」
「ふふ…冗談よ。でも、言葉には気を付けるのね…愛奈」
「はいー!」
そんな賑やかな食事をしているとふ、と私は思う。明日からまたお一人様ご飯なのだと。一人で食事が嫌だから私は何時も賑やかな居酒屋や飲食店でご飯を済ませてしまう。
楽しい食事が終わってしまうと私はワインを片手に名残惜しそうに空になった皿を見詰めた。
「どうしたの?もしかして足りなかった?」
「…ん?いや、そんな事ないぞ。十分お腹一杯。あ、VIPルームは空いているからデザートは空いているぞ!」
「じゃあ、バレンタインだしザッハトルテも作ったんだ。今から出しても大丈夫そうだね」
空いた皿を片付け食後のデザートの用意をする為にキッチンへと姿を消したジーニアスを見て、リフィルは私の方を向いて名を呼んだ。
「……ねえ、愛奈」
「ん?どうしたんだ、リフィルさん」
急に真剣な顔をするものだから私も釣られて真剣な顔をすると、リフィルさんは静かに話し出した。
「直ぐでなくて良いわ…貴女、うちに来るつもりはないかしら?」
「…へ?それはどういう…」
あまりにも衝撃的な言葉だったので危うく持っているワイングラスを落としそうになってしまった。リフィルさん…酔っているのだろうか?それとも私が酔っていて既に夢を見ているのか?
「そのままの意味よ。一人暮らしをするようになってから貴女…なんというか、外食が多いわよね」
「そうだな」
「それも居酒屋ばかり。食事をしても偏った物が多い…そんな貴女を見ていて心配になったのよ」
「大丈夫だよ、私は」
「『大丈夫』…昔からその言葉を聞いてきたけれども、ちっとも安心出来ないのよ?」
確かにリフィルさん…いや、セイジ姉弟とは長い付き合いだが、そんなに心配を掛けてしまっていただろうか?
私は心当たりが無いのでワインを飲みながらうーんと考え込んだ。
「それに、私が貴女と一緒に居たいと思ったのよ。だって、愛奈と一緒に居ると楽しいもの。今も昔も」
「それは…私だってそうだよ。此処に来るととても幸せな気持ちで一杯だ。でも…」
「分かっていてよ。直ぐには無理でも…何時かうちにいらっしゃい。そうね、ジーニアスが結婚して家を出て行くまでは待っていてもよくてよ」
「あー…ジーニアス、プレセアちゃんと…」
「わー!!二人共なんて話をしてるのさ!!」
途中から話を聞いていたジーニアスがザッハトルテが盛られた皿を持って此方に慌てて戻ってくるので、私はザッハトルテが落ちないか気が気でなかった。
「ジーニアス!危ないって!ザッハトルテが落ちたらどうするんだ!!」
「先ずボクの心配をしてよね!!」
「そうだよな!ジーニアスが怪我でもしたら美味いもん食えないもんな!」
「もう!愛奈の食いしん坊!」
「ふふっ…本当に仲が良いのね。まるで兄弟みたいよ」
「え、姉弟じゃなくて?」
「そうね」
三人で笑いながら食後のデザートも美味しく頂くと夜はあっという間に更けていって、気付けば日も跨いでいた。
「もう遅い時間だから私はそろそろお暇しようかな」
「あら、本当ね」
「時間が過ぎるのは早いよね」
よっこいしょ、と重い腰を上げスーツの上着とコートを羽織るとリフィルさんとジーニアスも立ち上がって、私を見送る為に玄関へと向かった。
「今日は御馳走様。また…来るよ。その時までに答えを考えて纏めておくよ」
「あら、答えが決まっていなくても何時でも来て良いのよ?」
「ありがと。でも…私なりに考えてみたいんだ。今後の事だから、さ」
「ボクが居るうちに来た方が良いと思うなー」
「そうだな、なるべく早めに決めるよ。それじゃあ、お休みなさい」
私は手を振ってそっと玄関の扉を開けて帰路についた。その間考えていたのは同居の話。
嫌では無いのだが、どうしても迷惑を掛けてしまうという考えばかり浮かんでしまう。しかし、二人はきっと微塵もそんな事は思ってはいないのだろう。
「良いのかな…誰かに寄り添っても…」
その後私はバレンタインデーは過ぎてしまったが心を込めて作った手作りチョコレートを手に二人の家に行き、私の答えを伝えに行ったのだった。