第十六章 ナゾ解かぬ者、ナゾに泣く
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結局普通に入った。しかも何もなかった。
あたしの数々の不安は杞憂に終わり、それが逆に腹立たしかった。
中に入ると眼前にそびえ立つアスラントチックな柱が構えていて、必然的に一同の視線を集めた。
ビルは柱に合わせて吹き抜けになっていて、見上げてみるとかなりの高さまであり、下を覗けば地下深くまで掘られていた。
「これは…!」
「この柱から、アスラントの強い波動を感じます…」
「まさか、ブロネフは私たちにこれを見せるために…?」
「え、自慢ってこと…?」
「アイツならやりかねない。この高層ビルは遺跡を隠すための代物なのだろう」
おいおい、自己主張の塊なのかあの極悪グラサンロリコン野郎は。
ビル内の壁や床一面に金が使われているのもそのせいか。
呼吸をするように一定の間隔でぼんやりと光る柱。
その文様を見上げていたアーリアが静かに口を開いた。
「ここに刻まれている文様は後世の人々に遺されたアスラントの記録です」
「歴史が刻まれているということかい?」
「えぇ、多分…読んでみますね。『我らの英知を手に入れたくば5つの聖閃石を求めよ。さすれば道は開き、神殿へと続くだろう。我らの英知はそこにある』」
『神殿』というキーワードにより心臓がどきりとした。
こんなの絶対行く流れじゃん…
どうしたものかと、あたしは柱から目を逸らして無駄に輝いている金の床へ視線を落とした。
「5つの聖閃石…奴らの動きから察するに、この記録が解読されている可能性は極めて高いと言っていいだろう」
「となれば、タージェントは既にエッグの使い道を知っているのでしょうね」
「ここに書いてあることが本当なら、聖閃石はその神殿に私たちを導くためのもの。全ての石を集めたら、その記憶が蘇るかもしれません。もう少しで、全てを思い出せそうなのに…」
「君が焦っても仕方あるまい。たった今得られた情報のおかげで奴らの動きが知れたのだから良しとしよう」
表情の曇ったアーリアを励ますように、サーハイマンはアーリアの右肩に手を置き、眉を下げて笑いかけた。
アーリアの話を聞いたレイトンは、「しかし、妙な話です」と疑問点を口にする。
「彼らはこのメッセージを解読したのなら、なぜ全てのエッグを奪わなかったのでしょう」
「この柱自慢したかったんじゃないの?」
「フッ、もしそうならヤツがいかに器の小さい男かということが露呈しただけだな」
「………」
エッグを取り返すついでに聞いてみるかと言葉を続けたサーロインさんを無言で見上げた。
この先、グラロリの話が出るたびにサーロインさんのお小言を聞かないといけないのだろうか…
何があったか知らないけど相当根に持ってるなぁと思っていると、レミがフロアを移動するエレベーターを見つけて指差した。
「教授、向こうにエレベーターがあります。乗り込んじゃいましょう」
「他に上に行く手立てはなさそうだね」
「早くエレベーターに乗っちゃいましょう!」
エレベーターに行くには柱に沿って向こう側まで右回りにぐるりと進む必要があった。
ルークが元気よくエレベーターへ向かう姿勢を取るとレミがすかさず両肩を押さえて止めさせた。
「ちょっと待って、見張りがいるわ」
「うっそ、ここのセキュリティ、あの受付カウンターみたいな見張りだけ…?」
エレベーターまで行く途中にあるガラス張りの部屋に黒服の姿が見えた。
見張りと言ってもこちらには全く気付いておらず、セキュリティの脆弱性が伺える。
「悪の組織ならさぁ!幹部を倒さないともらえないカードキーとかどこに跳ぶか分からないワープとか無意味に回転させられながら進む床とかないの!?」
「君は悪の組織にどんな期待をしているんだ」
「回転する床か…それは興味深いな」
「レイトン君…?」
ナゾにするのはどうだろうと提案するレイトンと、イヤそうな顔をするレイカとのやり取りを見てサーハイマンは眉間を押さえてため息を吐いた。
「うーん、しゃがんで行っても見つかっちゃいそうですね…」
「通してもらうより他はあるまい。彼にはお眠りいただこう」
「しかし、どうやって?」
「スリープ、ル………」
「スリープる?」
いつものように得意気に話していたサーロインさんは突如言葉を詰まらせた。
なんだ…?と怪しんでいると、あきらかに取り繕った笑顔を浮かべて懐から2つの玉を出した。
「いや、事前にこの催眠ガスを用意していてね。これを使えばヤツを眠らせることができる」
「ふーん」
「…君たちは下がっていたまえ」
見張りの部屋の横に通気口が何故か複数あり、サーロインさんはその内の2つの通気口に催眠弾を転がした。
すると見張りの部屋にガスが届いたらしく、中にいる黒服はパタリと眠りに就いた。
そんなことより通気口が横並びに5個も設置されている理由が知りたい。アホなのか?
通気口の存在を心の中でイジっていると、一仕事を終え戻ってきたサーロインさんをルークが感心したように褒め称えた。
「こんな準備までしているなんて、さすがは博士ですね」
「ヤツらは人の命を奪うことを何とも思っていない連中だ。ブロネフの命令さえあれば、罪のない女子供ですら手に掛ける。こちらも相応の準備をさせてもらったよ」
「じゃあその気になればこっちもやることやっていいってことだね」
「…レイカ君、人の道を踏み外さない程度にしたまえ」
「捕まったら、僕たちもタダじゃすまないってことですね…」
サーロインさんの言葉にルークは緊張感を漂わせ顔を引き締めた。
その緊張をほぐすように先生がルークへ顔を向ける。
あ、この流れ…来るぞ。
「例え何があったとしても、君たちに手出しはさせないさ」
「……先生、僕だって立派な英国少年です。守られているばかりじゃありません。いざって時は、僕がレミさんとアーリアを守ってみせます!!」
「ピピーッ!はい、フラグ警察です。守る守る言わないでねー二人とも取り締まりますよ」
「フ、フラグ警察…」
先生とルークの間に割って入ると、ルークがマジで面倒くさそうな顔をしたが職務だから仕方ない!
気を抜くとすぐフラグ立てるんだから困ったもんだ。
通常であれば注意で終わりだが、ルークの発言に見過ごせない点があったので事情聴取を続けた。
「で、ルーク君はなんであたし守ってくんないの」
「レイカさんには先生がいるじゃないですか」
「いやいやいや、先生は守ってくれるっていうより崖から突き落としてくるタイプでしょ」
「レイカ、試しにここの深さを確かめてみようか」
「何で何を試そうとしてるんですかねぇ、こちらの英国紳士殿は」
「うーん、愛ね!」
「さすがにこれは違うのではないか、レミ君…」
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