第十四章 ぶち当たる心の壁
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なんやかんやあったが、再び大鳥の水飲み場までやって来た。
案の定、この水門を開けることになったらしく、正面の壁に仕掛けられているナゾを先生・サーロインさん・ロクスが解きに行った。
残ったあたしたちは横の階段から水門の見晴し台へ避難している。
ゴゴゴ…と何かが動く音がすると水門が開け放たれ、大量の水が堀を伝って町へ流れていった。
それをしばらく眺めていると、なんと町の水路全体が不死鳥の姿を模していることがわかった。
その光景に、遅れてきた三人も含めて全員でおぉと驚きの声を上げた。
「鳥さんが言っていた輝く不死鳥って、この事だったんだ…」
「そんな気はしてたけど、なるほどねぇ」
「それにしても、町の形が不死鳥だったのはわかりましたけど、不死鳥の涙ってなんなんでしょう?」
「涙は目から流れるものさ。不死鳥の目がある場所に行けばきっと涙も見つかるはずだよ」
「不死鳥の目の部分…わかった、あそこだな!」
ロクスは意気揚々とサーロインさんの手を引いて町の方へ走り出した。
やはり満更でもない様子のサーロインさんに、数時間前とは違ってなんとなくほっこりした気持ちで二人を眺めた。
不死鳥の目の部分、つまりまんまる塚に着くと、不自然だった堀にいい感じに水が張って、塚は離児島のように浮いて見えた。
それを見ていると、伝承の通りにナゾを解いたあたしたちに反応したのか、塚がまるで目蓋を上げるように開いて、猫の目のような入口が現れた。
「目が開きました!」
「え、なんか可愛くない…」
「なるほど、これが涙か」
「どういうことなんですか、博士?」
興味津々のルークとロクスに考古学者モードのサーロインさんがつらつらと解説を始めた。
弟子取られてますよーと先生をからかおうとそちらを見たが、こちらも考古学者モードを発動していてそれどころではなさそうだった。
現れた飛び石を渡って入口の壁面をよく見ると、様々な大きさの青系のタイルが綺麗に張られたモザイク技法で、さりげない美へのこだわりを感じた。絡まれたら困るから絶対口では言わないけど。
そのまま地下へ降りると、そこには、文字や紋様がびっしりと刻まれた石碑がいくつもあり、見かけの質量に反して壁からスッと空中をスライドしているものもあった。
…なんか、ラ◯ュタで見たぞこれ。
「ここは…」
「石碑が、こんなにたくさん…」
「ラピ◯タ…?アスラント、ラピュ◯?」
「先生、レイカさんがまたよくわからないこと言ってます」
「この光景が衝撃すぎて語彙力を失っているんだよ」
サーロインさんは近くの石碑の文字を手でなぞり、周りを見渡した。
「これは、アスラントが後世に遺した知識。すなわち、アスラントの書庫だ」
「アスラントの書庫!じゃあ、不死鳥の涙って…」
「おそらく、ここに収められた石碑そのものが万病を癒す医療の知識『不死鳥の涙』なのではないかな」
「アスラント人たちは、この伝承を正しく読み解いた者に書庫の知識を与えるつもりだったのだろう」
「なるほど…それでこの町の人たちは、古くから伝わっていたアスラントの伝承を大事に扱ってきたんですね」
そう言うとレミはこの空間をパシャリとカメラに収めた。
目の奥をギラギラとさせた考古学者コンビはすぐにでも読み解きたいのか、石碑を目で捉えたまま会話をしだした。
「さて、調査をしたいのは山々だが今は町の大人たちを起こすのが先だ。碑文を読み解いていくとしよう。レイトン君、エッグの回収は後回しになるが、構わないね?」
「異論はありませんよ、博士。早急に治療法を探すこととしましょう。博士は向こう側をお願いします」
「フッ、任せてくれたまえ。なにしろこれでも、考古学の権威だからね」
「二人ともにっこにこやん…」
「ふふふ、教授も博士もあんなに淡々としてる割に、はしゃいでるのよね…さて、私も助手の仕事しなきゃ」
すぐさま二手に分かれて、薬草だ樹皮だとレミに注文する先生とサーロインさんを見て、あたしはその助手の手伝いをするかと入口に戻ろうと階段に足をかけた。
すると先生に呼ばれ、そちらに顔を向けると手招きをされた。もうイヤな予感しかしない。
「レイカ、見てごらん」
「え、何?」
「この碑文は比較的簡単な内容だから解読してみるといい」
「………いや、何をおっしゃっておられる?」
「レイカ君、それならこっちの碑文も参考になるはずだ」
「はずだじゃなくてさ…いい加減アスラントハラスメントやめろ!!」
こうして解読班と調達班に分かれて治療法を研究することになった。
それからしばらくして日が沈みきり、何度目かのレミの差し入れの際に、今日はもうボストニアス号で休むようにとサーハイマンは労いとともに伝えた。
さて、とサーハイマンが息をつくと、集中しすぎてレミの訪問にも気づいていないレイトンに声をかけた。
「レイトン君、少し休憩をはさもうか」
「!ええ、そうですね」
地下ということもあり、夢中になって解読している内にいつの間にか夜になってしまっていた。
文句を言いつつ解読に挑戦していたレイカは、少し離れた石碑になだれ込む形で眠っていた。
きっと力尽きたんだなとレイトンは思わず笑みをこぼした。
つられてレイカを見たサーハイマンは、昼間の騒動を遠い昔のように感じながら自然と笑っていた。
「それにしても、レイカ君の洞察力には驚いたよ。表情一つであれだけ推測できるとは…いつも通り上手く誤魔化せたと思ったのだがな」
「彼女は感受性が豊かで、人の痛みを自分のことのように感じる性格なので…そういう隠し事はバレてしまうようです」
「君もその経験が?」
「恥ずかしながら、何度か」
その度に彼女に励まされますとレイトンは目を細めた。
「それは惚気かな」
「いえ、そういうつもりでは…」
「共に過ごせる時間は限られている」
「え?」
「どんな関係にせよ、君たち二人には後悔してほしくない。いや、余計なお世話だったか。年長者の戯言だと思ってくれていい」
「…そうですね。肝に銘じておきます」
サーハイマンの言葉にレイトンは何かを思いながらレイカの寝顔を眺めた。
それからしばらく他愛もない話をして、リフレッシュした二人は再び碑文の解読を再開し、夜明け前に治療法を見つけ出した。
目が覚めたら身体のあちこちが痛み、あたしは呻きとともに起き上がった。
周りに誰もいなかったので外に出てみると、昨日とは打って変わって町は人の声でにぎわい、眠っていた大人たちも目を覚ましていた。
どうやらあたしが冷たい床で寝ている間に治療法が見つかったようだ。
大して解読に貢献できず、なんだか納得いかないが、まぁ、喜ばしいことだ。
みんなと合流して、サーロインさんがロクスのお家から出てくるのを待った。
満足げな様子で戻ってきたサーロインさんからロクスのお母さんも無事に目覚めたことを聞いて、よかったよかったとひと安心した。
その後、目覚めた長老さんからお礼を言われ、一族で守り続けてきたという不死鳥の卵・エッグを譲り受けた。
あのままだったらひと月眠り続けるところだったらしく、あたしたちを英雄ともてはやしてくれた。
そしてあたしたちはすっかり活気を取り戻した町を通り、ボストニアス号へ向けて歩き始めた。
「そう言えば結局何が原因だったの?」
「…大人だけに発症する土地病、だったかな」
「おい、それあたしの目見ながらもう一回言ってみな!」
原因を聞くとサーハイマンはレイカの顔を見ないように斜めの方向を見ながらそう告げた。
そんなサーハイマンの顔を追いかけぐるぐる周るレイカにレイトンは声をかけた。
「レイカ、エッグを手に入れたら博士に聞きたいことがあるんじゃなかったかい?」
「え、なに……ああああ!あった!思い出した!サーロインさん!」
「な、何かな…」
「レイモンドさんってカレー作ってくれたりします!?」
「(カレー…?)あぁ、レイモンドの作るカレーは格別だよ」
夕飯に頼んでみようかとサーハイマンが提案すると突っかかっていたことをすっかり忘れて両手を挙げて喜ぶレイカ。
サーハイマンは苦笑いをしながらこっそりとレイトンに感謝の目配せをした。
「カレー…」
「秘技・話逸らし、ですね」
「よっぽど認めたくないのね、レイカの仮説通りだったってこと…」
こうして一行はスリープルスを後にして、再び空へ旅立った。
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