第十四章 ぶち当たる心の壁
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町の仕掛けにより不死鳥像が忽然と姿を消し、代わりに現れた壁面の文字を読み解き、レイトンたちは再び大鳥の水飲み場へ向けて歩きだした。
まもなく解き明かされる町のナゾに少し重くなっていた空気も幾らかマシになったと思われた。
若干一名を除いて。
「静かですね」
「教授、あれって…」
「あぁ、おそらく」
「レイトン君、彼女をどうにかできないのか」
「数日経てば戻ると思いますが」
「数日あの状態なのか!?」
たぶんレイカのノスタルジースイッチが入っちゃったので…と後ろを覗うレミにつられてサーハイマンも振り返った。
最後尾を歩くレイカは数メートル進むごとに立ち止まり、目に見えた様子で落ち込んでいた。
「元をたどれば私が原因だろう。少し話をしてきてもいいかな」
「はい、お願いします」
「博士、気をつけてください。感傷モードのレイカはいつも以上に何が地雷か分かりませんので、くれぐれも慎重に…!」
レイトンとレミに見送られ、サーハイマンは少しの苛立ちを心に秘めたまま踵を返してレイカの元へ向かった。
下を向いて歩いていると前方からどこかで見覚えのある靴が視界に入った。
誰だっけと思いながら顔を上げると胡散臭い笑顔をしたサーロインさんがいた。
「……………なんだ、サーロインさんか」
「下ばかり見ていると危ないよ」
「そうですねぇ…」
返事はするものの再び視線を地面に戻したレイカを見て、数刻前の威勢のいい彼女とは別人じゃないかとサーハイマンは苦笑いをした。
そしてレイカの歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。
「空気を悪くするつもりはなかったんだが」
「悪くはないですよ」
「気のせいなら申し訳ないが、同情はいらないよ」
「同情…ではないです。同情できるほどあたしは人生経験豊富ではないので」
「なら何が君をそうさせるんだ」
何が、と言われても今のあたしの頭の中はいろんなことでぐちゃぐちゃで。
ちらりとサーロインさんの表情を見た。
それは、励ます気はないけどとりあえず励ましに来ましたって感じの笑顔だった。
絶対鬱陶しいって思ってんだろと思いつつ、何か話さないとこのままなのであたしは頭の中のぐちゃぐちゃを口に出した。
「サーロインさんって親なんだぁその頃は胡散臭くなかったんだろうなぁ絶対娘さん可愛かっただろうなぁきっと幸せな家庭だったろうになぁ…ってこんなこと本人の前で言ってしまってる時点であたしはサーロインさんの傷口の上でタップダンスを踊ってしまっているという罪悪感に苛まれて、そんな身の上の人が簡単に心を開いてくれるはずもないのに八つ当たりのようにイジってしまって知らないところでサーロインさんを傷つけたかもしれないって考えると地中深くまで埋まってしまいたくなる後悔が襲いかかってきてることが原因ですかね」
「………意外と繊細だったんだな」
「それにサーロインさんってああいうこと、自分からしゃべるタイプじゃないですよね」
「まぁ、どちらかと言えばそうかな」
「あ、しゃべってほしいわけじゃないんです。…ただ、サーロインさんが何かを抱えているなら何とかしてあげたいけど、たぶんサーロインさんは望んでなくて、どうしたらいいか分からなくて、いろいろ考えてたらあたしまでしんどくなってきて…」
「………」
「…要はあたしが勝手に沈んでいるだけなんで気にしないでください」
はぁぁぁ…と魂まで出てきそうな深いため息を吐くレイカに、聞いていた以上に厄介なことになっているぞとサーハイマンは思った。
「自慢の勘と想像力がこんな形で弊害を生むんだな…」
「あたしもびっくりですー…」
「安心したまえ。その罪悪感や後悔を君が感じる必要はない」
「………」
「それにもう、昔の話だ。君が気にすることでは「それはダメです」
突然凛と声を上げたレイカにサーハイマンは面を食らった。
「何も知らない人間に言われたくないと思いますが、本心でなくても、それを余計な話とか昔の話って片付けちゃうのはよくないです」
「………」
「でもずっと引きずるのも違くて…あーもう!とりあえず!あたしのことはほっといてくださいってば!」
少し大きな声を出したら何故か涙腺が緩んで視界がぼやけてきた。
サーロインさんに見られてたまるかと咄嗟に両手で顔を覆うと、ヒュッと息を呑む音がした。
「君…泣いて「泣いてない!砂埃が目に入っただけ!」
「それは私が困る。とにかく泣き止んでくれ」
「はぁ!?だから泣いてないって言ってんじゃん!」
「その状態で騒ぐんじゃない…レミ君とレイトン君が飛んでくるぞ」
「レミは分かるけど、なんでそこに先生が出てくるんですか!」
両目を塞いだ状態で前へ進むレイカの歩みをどうにか止めることができ、サーハイマンは安堵した。
しかし油断はできないと、努めて笑顔で気を引く言葉を選びながら話を続けた。
「ガードの固い男だよ、彼は。私が君の力について触れた途端、私と二人きりにしないように目を光らせてるからね」
「………なんで?」
「ん?」
「あぁ、力について先生より研究が進んじゃうからってこと?」
何が言いたいんだ?とでもいうような訝しげな目が指の隙間から覗いていた。
それを見て、思わぬ発見をしてしまったとサーハイマンは口角を上げた。
「ロミー君の時は愛だの何だのと騒いでいたのに、自分のことについてはこうときたか…」
「?」
「なるほど、レミ君たちが盛り上がる理由が少しわかった気がするよ」
「あの、勝手に自己完結しないでくれます?」
「どうやら沈んだ気分も元に戻ったようだね」
「戻ったっていうかサーロインさんへのイライラが増しただけですね」
「…あんなに沈まれるよりはいいさ」
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