第十四章 ぶち当たる心の壁
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次なる目的地へ歩きながら、ふと、あの年季の入った寺院の壁の仕掛けが今でも動いて、遠くの場所へ連携していることに少し感動してしまった。
「…思ったんだけどさ、アスラントって百万年以上前の文明なんだよね?それが仕掛けごと現存してるってすごくない?」
今さらだけどーと適当に零した言葉に、前を歩いていた先生とサーロインさんがものすごい勢いで振り返って目の前に立ち塞がった。
二人ともそれはそれは嬉しそうにニコニコしていて、その勢いが恐すぎて泣きそうになった。
「君にもようやく考古学のロマンが分かってきたようだね」
「え?いや、ただ普通にそう思っただけで…」
「それが考古学への入口だよ、ようこそレイカ君」
「あ、最悪だこれ」
二人はあたしを挟んで考古学がどうのアスラントがどうのとステレオ状態で強制的に講義を始め、その状態のまま不死鳥像の広場を通り抜け、ロクスと初めて会った正門近くの場所に戻ってきた。
そして解放されたあたしは安易に考古学に関する感想を言うのはやめようと心に誓った。
「あれ…?おじさん、あそこを見て!」
何か変化はないかと辺りを見回したロクスはパン屋の看板が付いた建物を指差した。
ぞろぞろとみんなで近付くと、掲示板の上の壁に三角の青い石版が現れていた。
「こんな石版、初めて見るよ。一体どこから出てきたんだろう?」
「やはり、寺院の仕掛けを動かしたことで町に眠るアスラントの仕掛けが動き出したに違いない」
「でも、なんて書いてあるか読めないよ…」
「私に任せてください…!」
「「!?」」
アーリアが少し得意気にトンと自身の胸を叩いた。
おそらくさっきのレミを真似したのだろう。
得意気なのに少し恥ずかしそうなところが可愛すぎて、あたしは胸を押さえ、レミは叫びながら高速連写している。
「レミ…レミ…!アーリアが可愛すぎて辛い!」
「アーリア!そのままこっちに視線ちょうだい!」
「二人とも、落ち着こうか…アーリア、解読を頼むよ」
「は、はい…『眠りから蘇った不死鳥は時を刻む塔から飛び立ち、西へ羽ばたく。6つの山を見渡した不死鳥はまず、2つ目の山で羽を休め、さらなる頂を求めてもう1つの山を越える。不死鳥が羽を休める場所に光を灯せ。さすれば不死鳥は安らぎを与えた者に心を開くであろう』」
「時を刻む…もしかして、この時計塔のことだろうか」
アーリアの可愛さを理解してないのか、ドライな先生はパン屋もとい時計塔を見上げた。
「時計塔から西へ…私たちが向いているのは北だから、西側は左になるね」
「山ってなんのことだろう?」
「あの石碑…あれが山?」
アーリアの指差す先には、時計塔から反対側の建物へ繋がるアーチの上にいくつかの小さな石碑があった。
来た時はただの装飾だと思ってたのに日常に溶け込んでるな、アスラント。
「よし、仕掛けを動かして不死鳥を蘇らせるんだ」
「………で、どうやって?」
「「「………」」」
「フフ、今日は私、大活躍ですね」
レミはそう言うと助走をつけて壁を蹴り、その勢いのままアーチの上に登りつめた。
マジでレミがいなかったら詰む仕掛けじゃん。
光を灯すという部分はどうするのかと思いきや、石碑に触れると淡く光る仕組みになっていて、今回も先生とサーロインさんの指示で明かりを灯した。
すると何かが動いたような音と揺れが起こって、どうやら上手く仕掛けが作動したようだった。
あたしとアーリアが戻ってきたレミとハイタッチしていると、サーロインさんは不死鳥像の広場の方向を向いて考え込んでいた。
「不死鳥は安らぎを与えた者に心を開く…心とは、すなわち町の中心部の事だろう」
「おじさん、すごい推理だね。どうしてそんなことまでわかるのさ?」
「これくらいの閃きと発想がなければ考古学を解き明かすことはできないのさ」
「ふぅん、すごいんだね…オレの父さん、オレが子供の頃に死んじゃったんだけど、生きてたらおじさんみたいな感じだったのかな」
ロクスは少し寂しそうに笑った。
だからサーロインさんとよくしゃべってたのかなと思っているとサーロインさんが珍しく優しい声音で話し出した。
「そうかもしれないな。私の娘も生きていたら、キミくらいの年齢になっていただろう」
「えっ!?」
「博士にお子さんが…?」
サーロインさんの発言にロクスだけでなく全員が驚いた。
あたしも思わずサーロインさんの方を見た。が、
「おっと、余計な話をしている場合ではなかったな」
「…ぁ」
サーロインさんは何でもないとでも言うような表情で言葉を紡いだ。
表情では取り繕っていても、その目の奥で見え隠れする何かを垣間見てしまった気がした。
そしてたぶん、そのことについて触れられることをサーロインさんは良しとしていない。
みんなで不死鳥像の広場へ向かう中、あたしは先ほどのサーロインさんの発言と目を引きずってしまって、不死鳥のこととかエッグのことを考える余裕がなくなった。
サーロインさんに、娘さん…?
生きていたらって…それってつまり…
てか既婚者ってこと?奥さんは?
え、もしかして奥さんも…?
いや、それはわからないけど聞けたとしても悪い答えしか返ってこないだろこれ…
止まらない推測と想像に自然と足取りは重くなり、一行から距離が出来るほど離れていった。
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