第十一章 風の谷のヨーデル
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「じゃ、じゃあもう一回行ってきまーす!」
外に出る扉を開けた瞬間、あの嫌な風を全身に浴びて、ノブを掴んだまま力なく座り込んだ。
それ見たことかと先生はあたしを回収しボストニアス号の中へ戻した。
「………」
「違うよ!絶対あの風が悪い!体調は問題ない!」
「風、とは?」
「よくわからないですけどここの風、気持ち悪いんですよ!なんかこう、テンション持ってかれそうになる」
「ふむ…」
「土地が合わないのでしょうか…」
「あ、そんな感じですかね」
「そうなると君は船から降りることができなくなるが」
「いーやーだー!どうにかしてよ!そう、ナゾだ!可哀想な居候が船から降りれません。風を受けないで外を出歩く方法はなんでしょう!」
「それはナゾというより状況説明じゃないかい…?」
縋りつくあたしをよそに先生はふむと考え込んだ。
その光景はドラ◯もんに縋りつくの◯太のようだろう。
「どの程度で影響が出てしまうかは分からないが、風が当たらないよう着込むのはどうかな」
「あー、コートとか?持ってきてたかな…」
「ございます」
レイモンドさんのその言葉に振り返ると、ハンガーにかかった見慣れぬケープコートを持っていた。
てかいつの間に持ってきたんだ…
「スノーラのような寒冷地などあらゆる土地に備えて皆様の防寒着を用意しておりましたので、ここマリードールの気候であればこちらがよろしいかと」
「さすが…!」
「さらにこちらリバーシブルになっておりまして、裏面にすると防寒機能が上がります」
「レイモンドさーん!」
さすがハイパー有能執事…!
さっそく用意してもらったコートに袖を通すと、なんだか最強装備になった気分だ。
よし、と扉のノブを握ったが、あの嫌な風がフラッシュバックしてあと一歩踏み出す勇気が出ない。
「なんかテンションが上がるような歌とかありません…?」
「そういうことは君のほうが詳しいと思うが…」
「今のテンションだと思いつかなくて…」
「私、実はヨーデルの嗜みがございます」
「ヨ、ヨーデル!?」
「それは興味深いですね」
「では…」
レイモンドさんによるヨーデルのリサイタルが開催された。
それはもう、言葉が出ないほど感動した…!
外がほぼ見えないボストニアス号の通路なのに、その歌声に広大なアルプスが容易に想像できた。
勇気やテンションというより何か素晴らしいものを得た気分だ。
「ご静聴いただきありがとうございました」
「レイモンドさん、感動しました…!」
「見事なヨーデルでしたよ」
「もったいないお言葉を。それよりも、私のヨーデルはお力になれましたか?」
「はい!なんか行けそうな気がします!」
脳裏に残るレイモンドさんのヨーデルが背中を押し、意を決して外へ出る扉を開いた。
風を受けたがさっきと比べればまだ耐えられそうだ。
大地に足をつき、どうにか調査の再開ができそうなので、ボストニアス号から見守るレイモンドさんに大きく手を振った。
「レイモンドさんありがとう!行ってきまーす!」
「ご無理なさらずお気を付けて」
隣に来た先生も帽子を軽く上げてお礼をすると、レイモンドさんはペコリとお辞儀をして見送ってくれた。
とりあえず、テンションが下がったら力尽きるのでレイモンドさんのヨーデルを噛み締めた。
それも相まってか周りの景色が自然と目に入るようになった。
よく見たら青々とした草原が広がる爽快なところだな…
さっきまで周りをじっくり見る余裕もなかったからなんだか新鮮だ。
「よし、先生。テンション爆上げでみんなのところへ追いつきましょう!」
「その前に、この先絶対に無茶はしないこと。どうしようもない不調を感じたらすぐに私に報告すること。いいね?」
「ふふ…」
「?」
「今の先生、母様そっくりだなって」
「私の場合は心配性というわけではなく、君がいつも無茶をするからだろう」
「はーい、ブーメラーン。抱き締めローリングガードは無茶じゃないんですかー?」
「………。確か君、あの技を覚えたいと言ってたね?この坂なんて絶好の練習場所じゃないかい?」
「ぎゃあああ!助けてぇぇぇ!父様ァァァ母様ァァァ!!」
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