第九章 幸せのカタチ
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先生たちが去った後、怒涛の団体客ラッシュで社員ばりに働いた。
ようやく最後のお客さんが退店してカウンターでへばっていると店長が賄いのパエリアを持ってきてくれた。
労働の後のパエリアは骨身に沁みるぜ!
「嬢ちゃんは幸せかい?」
「ふぁい!へっはんひあわへれふ」
「はは、なに言ってるかわからねぇが幸せみたいだな。一緒にいた大人しそうなお嬢さんは何か悲しいことでもあったのか?」
「悲しいこと、はないと思いますが…どうしてですか?」
「いや、俺にはどうにも幸せに見えなくてな」
「たぶんアーリアは幸せがわからないのかもしれないですね」
「そうかい…」
「?」
店長は何かを考え込むように海の方を見た。
「てか店長、ポポンチョ持ってますよね?なんでそのこと言ってくれないんですか?」
「それだが、なんで嬢ちゃんは俺が本物のポポンチョを持ってるって思ったんだ?」
「勘です」
「…なんだ取り越し苦労か」
「えー?違いますー?」
「いや、確かに俺が『幸せの贈り物』を持ってる。だがただでは渡せられないと思ったのさ」
「それが『幸せの贈り物』探し?」
「この島のやつらはみんないいやつだ。相手の幸せを考えられる気持ちがこの島のいいところだ。俺は幸せの贈り物のルートをたどってあのお嬢さんに幸せを教えてやりたかったのさ」
「………」
驚いた。
店長は今日初めて会ったアーリアのためにそこまで考えていたのか。
「さて、頃合いかな」
「?」
「嬢ちゃん、ちょっくら留守番頼むぜ」
「へーい………ってえ、留守番?」
客が来たらどうするんだと振り返ってもそこにはもう店長はいなかった。
しばらくすると本物のポポンチョを持った店長が戻ってきた。
店の手伝いももう大丈夫とのことなので、目的地はここだがみんなを探しに行くことにした。
その道中、島の人達の様子も観察していたが、確かにみんないい人ばかりだった。
恵んでもらったマフィンを食べながら捜索していると島に馴染めていない黒服の二人組がいた。
その両手にはポポンチョを山ほど抱えていた。
あれかな、組織だから出張先でお土産とか買わないといけない的な…
「待てー!」
「ん?」
黒服の丸っこい方が転がるポポンチョを追いかけていた。
あれは転ぶだろうなぁと思った瞬間に盛大に転んで、抱えていたポポンチョもぶちまけた。
無視をするにはあまりに可哀想だったのでこちらに転がってきたポポンチョをいくつか拾ってあげた。
「はい」
「お、お前は…あの時の!」
「大事なものなんでしょ?エコバッグあげるからもう落とさないでよ」
ぽかんと見上げる丸黒(丸っこい黒服)に仕方ないなとエコバッグを広げてポポンチョを詰めてあげた。
ついでにお出かけセットから絆創膏を渡した。
「あとこれ」
「え」
「消毒があればいいけど、とりあえず綺麗な水で洗って使いな」
「う、うるせー!感謝なんかしないからな!覚えとけ!!」
「おい、待てロビン」
丸黒は少し顔を赤くしてエコバッグと絆創膏をぶん取って走っていった。
細黒(細っこい黒服)は何か言いたげな視線をこちらに寄越したが、そのまま丸黒を追いかけていった。
残されたあたしは、意外と無害なんだなと思いつつ捜索を再開した。
結局島を一周してもみんなに会えず、マーケットに戻ってくるとそこで集合していた。
マジでただ散歩してきただけじゃん、有意義だったけど。
「あ、レイカさん」
「お店の手伝いは終わったの?」
「うん、たぶん今お客さんいないよ」
「結局レイカさんの勘の通りでしたね」
納得いかないですとむくれるルークに、いつもなら調子に乗るレイカが曖昧に笑って終わらせた。
その様子にレイトンが声をかけようとしたが、レイカがアーリアに話しかけたので追及はしなかった。
「ポポンチョ探し、どうだった?」
「私には少し難しかったですが、皆さんがいてくれて…それに島の人たちも暖かかったです」
「そっか!」
「今からゴドックさんに話を聞きに行くところなんだよ」
「あ、店長待ってるからナイスタイミングだと思うよ」
行こ行こーとレイカが先導をきり、一行はダイニングへ入っていった。
店に入るとゴドックがちょうどカウンターから出てきた。
「おぉ、もどってきたか、あんたら」
「本物のポポンチョを持っているのはあなたですね?」
先生の指摘に店長は満足げに笑うと、背後からポポンチョ、改めエッグを取り出した。
「やっぱり見込んだ通りだったな。あんたたちを待ってたんだよ。お嬢さん、あんたは幸せに見えない。オレはあんたにこそ渡したかったのさ」
「なぜですか?」
「ポポンチョってのは、もともと島のみんなが幸福を願って始めた風習だからさ。ポポンチョは初めっから、幸せを運ぶものなんかじゃなかった。そんないいもんじゃなかったんだよ。なんせ、最初にそれを見つけた町の創始者ポポンチョは、人生に幕を下ろそうとしてたんだからな」
「どういうことですか?」
「事業に失敗したポポンチョさんは誰にも見つからない場所で死ぬつもりで島の奥にある危険な遺跡に向かった。そこでたまたま、その遺物を見つけ、ふと、新しいビジネスが浮かんでそれを町に持ち帰った」
「それが、土産物の原型だったのですね?」
「あぁ、そうさ。皮肉なことに、ポポンチョさんの人生はそこから一気に好転することになったんだ。わかっただろう、幸せなんてものはどこから降ってくるかわからない。ポポンチョはそのキッカケに過ぎんよ。お嬢さん、あんたに『幸せの贈り物』をやろう。そして笑顔を知るといい」
店長はアーリアにエッグを渡した。
渡されたエッグをアーリアは大事そうに受け取り、ふわりと笑った。
「…ありがとう。この島で見た人たちの姿はみんな幸せそうでした。こんな形の幸せがあるなんて、私、知らなかった…」
「だからお嬢さん、幸せを知らないあんたはそれを持っていくにふさわしいのさ。それがポポンチョさん…オレのご先祖様の願いなんだ」
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