最終章 きっと、いつか
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「―――……」
「!!」
微かに聞こえた声にレイトンは顔を上げた。そしてまじまじとレイカの顔を覗き込む。心なしか先ほどより口角が上がっているような気がした。自身が見せた幻かと思いつつ、もう一度名前を呼んだ。
「レイカ…?」
「…サーロインさん!…もうたべられない…よぉ……」
「………」
一瞬で空気が変わった。
とどめを刺すかのように「死んだんじゃないのか」とデスコールの声が空しく響いた。
深い溜息を吐いた後、表情を無にしたレイトンは眠るレイカの鼻を摘んだ。するとみるみるうちに顔が赤くなり、眉間に皺が寄った。
「…………………ぷはぁぁぁぁ!!はぁはぁ…こ、殺す気か!」
限界が来たレイカがレイトンの手を跳ね除けて目を覚ました。
なんか変な夢を見たような…そうだ、サーロインさんの髪から無限にコッペパンが出てくる夢を見て…
夢の内容に軽くイラつきながら思い出していると不意に影が差す。見上げると先生が今まで見たことない恐ろしいオーラを放ち笑っていらっしゃった。その恐ろしさに思わず喉がひゅっと鳴った。
逃げようにもいつの間にかガッチリ肩を掴まれていて身動きすらできない。詰んだ。
「レイカ」
「な、なに…?」
「お茶とお菓子…だったかな」
「へ…?」
「反省会、楽しみだね」
楽しみだねと言う割に、背後でゴゴゴゴと効果音が入りそうなオーラを背負っている。
おかしいな、あたし功労者のはずなのに。熟考会がいつの間にか反省会になってるし。それよりも先生近くない?これなんであたし先生に抱き起こされてる状態なの。パーソナルスペース限界突破してるんだけど。どうしてこうなった。
恐怖とは違った意味でフリーズしていると呆れた様子のデスコールとルークが近付いてきた。
「全く人騒がせなヤツだな」
「びっくりさせないでくださいよレイカさん」
「はぁ?…ていうかみんな超元気じゃない?」
「アーリアのおかげだ」
「さっすがアーリア」
先に立ち上がった先生がご丁寧にあたしに手を差し出した。その手を掴んでよいしょと立ち上がると少し奥にいたアーリアが晴れやかな表情で歩いてきた。
「皆さんは、アスラントが課した条件を満たしました。この遺跡に眠る、アスラントの知識は全て、貴方がたのものです。これを使えば、より豊かな暮らしができるようになることでしょう。さぁ、受け取ってください」
「いえ、私たちには必要ありません」
「えっ?」
先生の返答にアーリアは面食らったように目を少し見張らせた。ついでにあたしは先生の答えにほっとした。
だってアーリアのことは大好きだけど、もうアスラントなんて懲り懲りだ。絶対にいらん。
「人間はまだ可能性を持っています。これから、100年かかるか、1000年かかるか分からない。でも私たち人間は、アスラントとは違う、より大きな英知を生み出すかもしれない」
「そうそう。今の人間も紆余曲折を経て色々生み出すのよ。携帯電話しかりタピオカミルクティーしかり」
「またレイカさんがよくわからないことを…」
「はーい、今ここに未来のルークがあたしに頭を垂れる未来が確約されましたー」
「な、なんでそうなるんですか!」
「…。私はその未来を信じて、アスラントの秘宝はアスラントの人々に返します」
揉め始めたレイカとルークを見て、苦笑いしたレイトンがアーリアに告げると彼女は満ち足りた様子で微笑んだ。
「みなさんと共に旅をして、たくさんの人や物に触れて感じたこと…私は決して忘れません」
「アーリア…?」
穏やかな表情で目を伏せたアーリアが何故か遠くに感じた。すると神殿が再び大きく揺れ始め、天井の一部が落ちてきた。
「あぁ」
「神殿が…」
「私とこの神殿の役目は終わりました。もう時間がありません。行ってください」
「でも!」
「私は、アスラントと運命を共にすることが務めなのです。私もアスラントドールの1人です。この身体ももうじき機能を停止する」
そう言うアーリアの身体は静かに金色に輝き、少しづつ消え始めていた。
もしかしたら、自分がこうなってしまうことを解っていて使命を果たしたのかもしれない。誇らしい目をしたアーリアを見て、なんとなくそう思った。
「アーリア…」
「そんな…一緒に…!」
ルークがアーリアの手を引こうと両手を掴むと、それは光の粒子に変わり指の隙間から立ち上っていった。ルークが驚いて消えていく光を見るも、アーリアは気にせずあたしたちの避難を急かした。
「早く行ってください」
「わかった、行こう」
しかし先生の呼びかけがあってもルークはその場から動こうとしなかった。気持ちは痛いほど分かる。あたしだってアーリアとまだ一緒にいたい。こんなところに一人残して行きたくない。
でもアーリアは、永きにわたる役目を全うし、ようやく本当の意味での眠りに就くことを願っているようだった。
ルークのしゃくりを上げる声が聞こえて、つられてあたしの視界も滲み始める。
「さよなら、アーリア」
「違うぞルーク。こういう時は『またね』だ」
「っ、またね、アーリア!」
「はい…!」
今までで一番の笑顔を浮かべたアーリアに背を向け、あたしたちは神殿の外へ向かって走った。
始めはルークと一緒に顔を涙でべしょべしょにしながら走っていたが、外に出た瞬間思ってた以上に崩れている足場を見てスンッと涙が引っ込んだ。
先頭を走る先生に必死に付いていくと比較的広めな場所で立ち止まり、後ろを振り返った。その視線の先をたどると神殿の入り口に立つデスコールが見えた。どこをどう走ったらあそこにたどり着くんだ。
「デスコール!」
「おーい方向音痴!道間違ってるぞー!」
「〜〜〜!」
「…なんか叫んでるけど何も聞こえないわ。あーあ、見えなくなった」
「まぁ、彼に何かあってもレイモンドさんが何とかしてくれるだろう」
「そうだけど…アイツ絶対団体行動苦手だよね」
「まるでフィールドワーク中に突然いなくなる生徒のようだ」
「せんせー、デスコール君がいませーん的な?ウケる」
「ウケてる場合じゃないですよ!僕たちこれからどうするんですか!?」
鼓膜を突き破らんとする勢いでルークが叫んだ。
状況としては確かにウケてる場合ではない。現在あたしたちは神殿の瓦礫に乗って絶賛落下中だ。でも正直疲れすぎて何する気にもなれない。
するとあたしのコートをルークが掴み、訴えるように前後に揺らし始めた。やめろ。酔う。
「レイカさん、風!またあの風出してくださいよ!」
「いやーもう何も出ないわ。潔く諦めよう」
「さっきまで一番粘ってたのに何が潔くですか!」
「ルーク、落下と言えばこんなナゾがあるよ」
「もー先生!!」
ルークの大声と共に視界を覆う水飛沫。ギャーギャー騒いでいる内に下にあった湖に着水したようだ。瓦礫に残っていたアスラントの浮遊する力でうまく水面に打ち付けられずに済んだ。気の抜けたルークは座り込み、崩れゆくアスラント神殿をみんな無言で見上げていた。
その後、湖のど真ん中の孤島で途方に暮れていると非難していたスノーラの人たちが発見してくれてゴムボートを使って救助された。その頃には日が暮れ始め、辺りをオレンジ色に染めていった。
「終わったんですね…」
「あぁ」
「なんか、長かったね…」
「ブロネフを捕らえよ!」
聞き慣れたダンディな声に振り返るとダンディー警部が数名の警官を連れて走ってきてブロネフを取り囲んだ。あれだけ威勢の良かったブロネフは何の抵抗もなく大人しく手錠をかけられていた。
すっかり忘れていたけどアイツ、先生の生物学上のお父さんなんだよなぁと思い出し、ちらりと先生の顔を盗み見た。先生は複雑そうな顔をして、湖の方を見たまま連行されていくブロネフを見ないようにしていた。
「すまなかったな、レパード。それがお前の本当の名だ」
ブロネフの声に先生の肩がピクリと動く。謝罪とともにまたとんでもない内容をぶっ込んできた。血は争えないとはこのことか。
振り返らない先生の代わりにブロネフの方を見ると、足を止めて先生をしっかりと見つめていた。
「申し訳ないが、私の名はエルシャール・レイトン。私にそれ以外の名はない」
「そうだったな…では失礼する」
「私の両親はロンドンで暮らしている。貴方を父親と呼ぶことはできない」
歩み出そうとしたブロネフの足を先生の言葉が止めた。そこでようやく先生はブロネフの方へ顔を向けた。でもその表情は責めるものではなく、何かを期待しているようなものだった。
「…ですが貴方と、いつか考古学者の友人として、語り合える日を楽しみにしています」
返事はなかったけどブロネフは先生の言葉を噛み締めるように少しの間立ち尽くし、再びダンディー警部と歩いていった。
人類滅亡させかけたヤツに向ける言葉にしては甘いなと思ったけど、先生らしいなとも思った。それにもしそんな日が来たら、きっと先生は同士として心から楽しむだろう。
「早く来るといいね、その日」
「あぁ」
「熟考会はもういらない感じ?」
「反省会は必要だね」
「………」
あたしには全然甘くなかった。
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