最終章 きっと、いつか
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台座へ向かいながらも、あたしはまだ諦められずにいた。でも無情にも残された時間は過ぎていくし、台座へ向かっていく先生たちの足音が背後から聞こえてさらに焦る。
ここはアスラントの力が今までの比じゃないほど満ちていて、あたしがいくら念じてもそよ風すら起こすことができなかった。それ以前にどうにかできるイメージが一向に浮かばない。もしこのままどうにもできなかったらと嫌な考えばかりが頭をよぎる。
そうしている内に台座の前まで来てしまった。結局あたしは先を知っていても何もできないのか。いや、この台座は後から来るブロネフが立っていたはず。5つの台座が最初から同時に埋まっていれば何か変わるかもしれない。
無意識に手が服の下にある小瓶を握りしめた。あたしは奇跡が起きることを信じて、紫の光へ一歩踏み出した。
次の瞬間、バチンと音がして軽く弾き飛ばされた。そのまま勢いよく床に叩きつけられ、想像していたものとは違う痛みが襲う。
「……ぇ」
「レイカさん!」
床に転がったあたしを心配してアーリアが駆けてきた。
何が起きた…?
状況は理解できないけど嫌な汗がじわりと手のひらに滲む。あたしの信じた奇跡は、起こらない。
慌てて先生たちを見ると、みんな台座の上で紫の光を浴びて苦しそうな声を上げていた。
「ストップ!一回中止して!」
全ての台座が埋まらないならいくら先生たちが命を張っても意味はない。なのに、あたしの声が聞こえてないのか出られないのか、誰も台座から動かなかった。
自棄になったあたしは何でもいいからこの状況を変えるために台座に向かって手をかざした。でもやはり何も出なくて苛立ちから自分の右手首を締める。
「くそっ、なんで何も出ないんだよ!」
「私がやります」
「アーリア待って!」
アーリアが静止も聞かずに台座の元へ向かうが、同じように弾かれた。
何なんだよ…あたしはみんなと一緒に死ぬことすら許されないのか。
アーリアと一緒に向かうも光が壁のようになって拒まれ、その度に床に弾き飛ばされた。その内、アーリアは立ち上がれなくなってしまったが、それでもあたしは光に突進し続けた。
「くっ!……?」
「下がっていなさい」
また床にぶつかると思ったら、後ろから力強く両肩を掴まれ、振り返るとブロネフに受け止められていた。
あの絶望から立ち直ったのかと呆気にとられていると、あたしたちの入れなかった紫の光線の中へ躊躇なく入っていった。
…ほとんど再現されてる。
目が痛くなるような強い光、みんなの苦しむ声、うまくできない呼吸、打ち身だらけで痛む身体。あたしは耐えられなくて膝をついた。
このままだとみんな死んじゃう。
もう、あたしの力だけじゃどうにも…
「レイカ、さん…」
「!」
か細い声が耳に届き、顔を上げるとアーリアが目に涙をためて悲痛な表情をしていた。
「私は…皆さんに命を落としてほしくありません!でも私は番人だから、何もできない…!」
「アーリア…」
「こんなことになるならっ、全てを投げ捨てて逃げ出せばよかった…」
堪えていた涙がアーリアの頬を滑り落ちる。そこにいたのはアスラントの番人ではなく、あたしたちと旅をしてきた、ただの女の子だった。
可哀想に。番人にしておくにはアーリアは優しすぎた。
でもそんなアーリアだからこそ、みんなの生存を願ってくれている。
―――それが他ならぬあたしに力を与える。
「何もできないなんてことはないよ」
「え…?」
「ありがとう、アーリア。君のおかげであたしは戦える」
アーリアをその場に残し、レイカは禍々しい光を放つモニュメントへ向かった。
ある程度のところまで近付くと立ち止まり、大きく息を吸い込んだ後、「おい!アスラント!」と声を張り上げた。
「お前らムカつくんだよ!言葉巧みにすごい遺産があるみたいに
突然の行動にアーリアは驚いたが、レイカの背中を見守ることにした。自分が信じた彼女なら、と。
アーリアの想いを背にレイカは声を放ち続ける。
「お前らがそんなんだからアスラントドールに反乱起こされて滅んだんだろ!反省すべきはお前らであってあたしたちじゃない!人間は愚か?上等だよ、愚かなんて言葉じゃ片付けられないようなヤツなんて山ほどいるわ。でも全員がそうじゃない。良いヤツだってたっくさんいる。ここにいる人間たちだってそうだ。ちょうどいいからお前らに教えてやるよ!」
降り注ぐ光の中でレイトンは微かに聞こえるレイカの声に目をこじ開けた。かすむ視界の中でレイカと目が合った気がした。彼女はこちら見て勇ましく笑うと再びモニュメントに向かって吠えた。
「どんなに辛いことがあっても全部背負って前へ進もうとする人」
「誰よりも真っ直ぐで日々成長している正義感の強い子」
「自分の心を傷めても大切な人のために頑張った人」
「降りかかる不幸も悲しみも糧にして努力し続けた人」
「ただひたすら夢を追い求めて全てを捨ててしまった人」
「白紙にたくさんの思い出を描いて優しい心を手に入れた子」
「そしてあたしは…」
言葉を止めたレイカは、しまっていた小瓶のペンダントを首から外し、力強く握りしめ、
「帰り方が分からないからみんなに生きててもらわないと困る人だァァァ!!」
叫びと共にレイカは小瓶のペンダントを五角錐に向かって思い切り投げた。
小瓶は五角錐に当たり砕けると、中に入っていた水晶が侵食するかのように大きく結晶化し、一瞬で全てを覆い尽くした。それによりレイトンたちを苦しめていた紫の光は屈折し、彼らを痛みから解放した。
複数の苦悶の声が止み、視界の端でレイトンが倒れたのを捉えた。しかし未だ輝き続けている光を抑えるために彼らに駆け寄ることはできなかった。次第にひび割れ、光が漏れ始めた水晶に向かって手をかざし、耐えろ耐えろと念じ続けた。
長いような短いような時間が過ぎ、ようやく光が収まり始めた。そしてついに紫の輝きは消え、それを見て安堵したレイカの身体はゆっくりと傾き、その場に倒れた。同時に、供給源を失った巨大な水晶は跡形もなく砕け散り、天井から注がれるわずかな陽の光を反射しながら静かに降り注いだ。
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