第十八章 例えばの話
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扉の向こう側には全体的に黄土色な石造りの神殿内部が広がり、両サイドには数え切れない柱が一列ズラッと並んでいた。いつものアスラントチックな素材ではないせいか、ものすごくピラミッド感がした。
奇しくも念願のアスラント神殿に足を踏み入れたことで、全員思わず歓声を上げる。
「わぁ…」
「なんかすっごい古代遺跡っぽいね」
「数百万年の時を経ても、全く朽ちる事なく形を残しているとはな…さすがは超古代文明と言ったところか」
「氷山の中で風化を免れたのか…ここまで完全な形で遺っているとはにわかには信じがたい」
「神々の壁であの娘が言っていた事が真実なら、アスラントの使者と共に神殿を守る古代の力が働いていたのだろう」
「…神殿だけ守ってもねぇ」
すごいっちゃすごいんだけど、なんか腑に落ちないんだよなアスラントって。
「これだけの英知をもってすれば世界を支配する事など容易い。ブロネフの手に渡ればどうなるか分かるな?」
「お前だってブロネフと変わらないくせに!」
「…なんだと?」
またグラロリの話かとうんざりしていると、突然火が点いたようにルークが声を上げた。しかもデスコールの地雷を思いっきり踏んで。これは良くない流れだと感じてルークを呼ぶも怒りが収まる様子はない。
「ルーク」
「お前がカギを奪って逃げなかったらこんなことにはならなかったんだ!」
「勘違いするな。私はブロネフへ復讐するためにお前たちと行動を共にしていただけだ。全てはアスラントの謎を解き明かすための演技にすぎない。それに勝手な期待を抱いただけだろう?」
「…っ、黙れ!僕は、絶対にお前を許さない!!」
ルークが珍しく声を荒げた。
ここまで怒りをあらわにするルークは初めてで、あたしも先生もとても驚いた。そのまま飛びかかるんじゃないかと思いきや、小さな手を握りしめ肩を震わせながら涙を零した。
それにはさすがのデスコールもギョッとしていた。
「あんなに…アーリアにだってあんなに優しかったのに、全部、演技だったなんて…」
「……」
「ルーク…」
「…くだらん感傷は捨てろ。泣いているヒマはないぞ」
「いや、誰のせいだよ誰の」
あたしの言葉にデスコールはぐっと喉を詰まらせた。今のはふっかけたルークも悪いけどさ。
沈黙が支配するこの場を振り切るようにデスコールがマントを大きく払って前を向いた。
「………こうしている間にもブロネフはアスラントの秘宝に近づいている」
「もし、それをブロネフが蘇らせれば…」
「初めから、何もかも仕組まれていたのだ。私もお前も、そしてブロネフさえもアスラント人の思惑通り踊らされているに過ぎん。先へ進む他はない」
「……。行こう、ルーク。アーリアが待っているはずだ」
先生がルークの肩に手を乗せて声を掛けると、ルークは小さく返事をして歩き出した。
先頭を歩くデスコールと最後尾をトボトボ歩くルーク。そしてその間にいるあたしと先生と沈黙。
何だこの居た堪れない空気は…!いや、始めから状況が状況だから楽しいものではなかったけど、これは重すぎる。
あまりの気まずさに先生をちらりと見るとバチリと目が合った。
「どうすんですかこの空気」
「こういう時は君の出番だろう?」
「面倒事を何でもかんでもあたしにぶん投げるの、やめてくれません?」
先生は眉を下げて軽く笑った。先生だけはいつも通りでなんだか救われた気がした。
この窒息しそうな地獄の空気をどうにかするには、前後の二人をせめて普通に会話できるぐらいまでに回復させるしかない。それには先にルークを元気にするかと後ろを盗み見た。
「私はルークと話してくるよ」
「えー」
まぁ、先生の言うことの方がすんなり受け入れそうだからいっか。
ルークの方へ向かう先生を見送り、あたしは前を歩くデスコールの横に並んで無言で顔を見上げた。
「………」
「言いたいことがあるなら言え」
「デスコールさん、ちょっと言い過ぎたなって思ってるでしょ」
「………事実を言ったまでだ」
「思ってんのかーい」
子供を泣かして罪悪感を抱くようなまともな感情あったんだな。
仮面で表情は見えないけど、雰囲気から結構落ち込んでることはあきらかだった。
「だいたい、あのボウヤは何故あそこまで私に敵意をむき出しにしている」
「それマジで言ってる?」
「?」
「この状況下で余裕がなくなってるっていうのを抜きにしても、家族を監禁されて自分の住んでる町をめちゃめちゃにしたり、その後も何かと邪魔してくる上に、信じてた人が裏切ってその正体がアンタだったら、あんなに怒るのも無理ないと思うけど」
「………」
「それにサーロインさんの全部が演技じゃなかったくせに、ルークにあれを言うのはなー」
ま、日頃の行いってことだね!と少し俯き気味の背中をバシッと叩いた。
こっちはこれでいいとして先生の方はどうかなと後ろを振り返ると、まるで積年の恨みでも抱えているようなすごい表情のルークがデスコールの背中を睨んでいた。デスコールさん、刺されるかもしれない…
もうちょっとかかりそうだからこのままデスコールの横にいることにした。何か話題はないかと思案している内に前方に何やら入り組んだ物が見えてきた。そういやすっかり忘れてたけど、ここはもう
「前に、あたしの力はアスラントの脅威って言ってたよね?」
「あぁ」
「………勝てるかな」
「…何を考えている」
デスコールは歩みを止めてあたしを見た。
思いの外、シリアストーンで返ってきて一瞬面食らってしまった。だがこの話を拗らせる訳にはいかないのでいつもみたいにへらりと笑って誤魔化す。
「例えばの話だよぉ。もし万が一どうしようもない事態になったら、あたしの力でどうにかできないかなーって」
「結局お前の力については研究できずじまいだったからな。…可能性は0ではないんじゃないか?」
「だよね、なんてったってあたしだし!」
「だが無謀なことは考えないことだ」
「え、もしかして心配してくれてる?あのデスコールさんが?」
「…お前ではない。このアスラント神殿が破壊されるのを危惧しているだけだ」
あたしは「はいはいアスラントアスラントぉ」と止まった歩みを進めさせるように、不満気なデスコールの背後に回って背中を押す。
とにかく後ろにいる先生にこの話を聞かれることは避けたかった。こんな話したらまた無茶だなんだと言って余計な心配をさせるだろうし。
それに、可能性は0じゃないということを聞けただけで十分だ。
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