第十八章 例えばの話
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「この先は私が引き受けよう。さぁ、それをこちらによこせ!」
「く…」
ブロネフがキーストーンを要求するように手を出すと、デスコールは悔しそうに歯噛みしてキーストーンをブロネフに向かって投げた。
ブロネフはそれを受け取ると満足そうに笑い、そのまま銃で脅しながらデスコールを階段下へ下がらせて、自身は扉の前まで移動した。
「いけません!アスラントの秘宝は、決して開けてはならないもの…それを開けた時…人は、滅んでしまうかもしれません」
「今更何を言うか。お前はメッセンジャーではないのか?アスラントの秘宝をこの世界にもたらすための」
「私はっ……!」
自身の立場に顔を歪ませて言葉を詰まらせたアーリアを見て、ムッとしたルークが一歩前に出た。
「返せ!それは僕たちが集めたんだ!」
「フフ…集めたのではない。集めさせられていたのだよ、この私によって」
「そんなんどっちでもいいから返せ!今から活火山の火口にそれぶん投げに行くから!」
「なおさらお前などに渡すものか!」
突然大声を出したグラロリに黒服たちも驚き、それに気付いたグラロリは切り替えるように咳払いを一つした。
グラロリといい、デスコールといい、あたしへの当たり強くないか…?絶対コイツらカルシウム足りてないって。
「聞いてくれ、ブロネフ!アスラントの秘宝は、私たちが想像していたものとは全く違うのかもしれない」
「それは、すぐに分かることだ」
いつもの調子を取り戻したグラロリは先生の言葉に耳を貸さず、こちらへ背を見せ壁の方に向かった。
その隙に先生がルークと小声で何かを話し始めた。
何か策でもあるのか?と思っていると先生がこちらに振り返った。
「レイカ、彼らの注意をこちらに向けるわけにはいかない。とりあえず浮かないように堪えるんだ」
「浮かないようにって簡単に言わないでよ…!」
「堪えられないのなら私に掴まってもいいから「全力で踏ん張ります」
こんな場面でそんな軟弱なマネできるか!
あたしは意地でも浮かないように足を肩幅に開いて構えた。
次の瞬間、ブロネフの後ろに付いていた黒服たちが狼狽え始めた。彼らの持つ機関銃が次々と上に向かって引っ張られ、その手を離れては吸い寄せられるよう天井に張り付いていった。
思いもよらぬ事態にブロネフも動揺し、彼らの視線は天井に描かれた紋章へ集まった。
「今だ、ルーク!」
「!?」
混乱に乗じてこっそり忍び寄っていたルークが、ブロネフからキーストーンをくすねてレイトンに向かって投げた。
綺麗な軌道を描いたキーストーンはレイトンがキャッチして、ルークも得意気な顔をしてこちらへ駆けて戻ってきた。
「これは、どういうことだ…」
「これは、アスラント人が作った、遺跡内に武器を持ち込ませない仕掛けだ」
「マリードールの遺跡で見たのと同じものですね」
「あぁ」
ブロネフは足元の紋章を見てから天井の紋章を忌々しげに見上げた。
「こうなるのを分かっていて隙を狙っていたのか。小賢しい真似を…」
「形勢逆転です!」
「そうかな…」
ブロネフは不敵に笑うと、何か合図するかのように顔を横に振った。
その仕草に、あたしたちの後ろに第二陣でも控えているのかと思って振り返ろうとした。
すると振り返り際に後ろから見慣れた黄色の影が通り過ぎ、わっと驚くルークの小さな声がして前を見た。
黄色の影―――レミはこちらに対峙してルークを左手に抱え、右手で鋭く尖った大きな氷柱を持ち、その切っ先をルークの喉元に突きつけた。
何だこの状況は…これじゃまるで…
「レ、ミ…?」
「教授、キーストーンを渡してください」
「レミ、どういうことだ」
「レミさん、何の冗談ですか?」
予想していなかった事態に動揺が隠せない。先生とルークも同じなのか、声に戸惑いが滲んでいた。
そんなあたしたちをレミは動じない真っ直ぐな眼差しで射抜いた。
「…ごめんなさい、冗談ではないの」
「レミ、君は一体…」
「私は…タージェントの人間なの」
「なんだって!?」
レミが、タージェント。
それは確かに可能性として考えられることの1つだった。いや、デスコールとレイモンドさんが離脱した時点でほぼ確実だったのに、そうあって欲しくないという思いが邪魔をして触れられなかった。
それがまさか、こんな形で…
「教授、私は貴方の助手を務めながら監視していた。貴方を導いて、アスラントのナゾを解かせるのが私の役目だった」
「そんな!やめてくださいレミさん!」
「さぁ、早く渡して!」
氷柱をさらにルークの喉元に近づけ、催促するようにレミが声を荒らげた。
ルークを傷つけるとは考えにくいが、今のレミが何をするかわからない。
「レミ、何故だ…何故こんなことを。君にもわかっているはずだ。アスラントの秘宝を蘇らせてしまったら大変なことになってしまう!」
「そうですよ!レミさんがそんなことをする理由はないはずです」
「私はおじさまのために働いてきたの…!私を救ってくれた、おじさまのために…」
「おじさま…?」
先生とルークの言葉にレミの瞳に迷いが見えたと思ったら、まるで自分に言い聞かせるように声を張った。
レミがタージェントということは、その『おじさま』を人質にされているか、あそこにいるグラロリがそれということかのどちらかだ。
前者の方が救いはあるが、昨日のレミの相談内容から考えると、おそらく後者だ。
行きついた答えにグラロリの方を見ると、勝ち誇ったように笑っている。
「ごめんなさい、教授…」と消えそうな声でレミが謝罪の言葉を零した。
レイトンは厳しい表情でキーストーンを一瞥すると、ブロネフに向かってそれを放り投げた。
さも当然だと言うような顔でキーストーンを再び手にしたブロネフは、それを見せつけるかのように軽く振った。
「残念だったな、レイトン。君にレミを付けておいたのは、やはり正解だったようだ」
「ダメ!それをセットしてはダメっ!」
アーリアの必死の叫びも虚しく、ブロネフはキーストーンを扉にかざした。
すると壁の一部が青く光り、重々しい音を立てて石の扉が開き、それを見たアーリアは顔に暗い影を落とした。
「やはり、この時代の人たちも…アスラントと同じ…愚かな」
「さぁ来い!お前にも、この最後のナゾトキの手伝いをしてもらうぞ」
「アーリア…!」
アーリアはグラロリに無抵抗のまま腕を掴まれ、そのまま扉の向こうへ連れていかれてしまった。
動こうにも依然としてレミがルークを人質にしこちらへ牽制していたので、あたしたちはグラロリたちが見えなくなるまで黙って見送る以外になす術がなかった。
そして、この場が完全にあたし・先生・デスコールだけになって、あたしは堪らずに地面に手をついた。
紅茶帝国とか言ってた数時間前のあたしのバカァァァ!
もっと、もっと掛けてあげるべき言葉があったはずなのに…!
「まさか、あのお嬢さんが裏切るとはな。とんだ助手を飼っていたものだ」
「……」
先生は返事をしなかった。
そりゃそうだ。あたしだって今は顔を上げる元気もない。
しかし、反応のないあたしたちに構わずデスコールは話を続けた。
「まだ信じられんと言った顔だな。だが、我々がこうしている間にもブロネフはアスラントに近づこうとしている。あのボウヤがどうなろうが関係ないが、お前たちはそうではないのだろう?ブロネフを追い詰めるために、今だけはお前たちに協力してやろう」
「は?協力
発破をかけたつもりの言葉は、沈んでいた2人の逆鱗に触れたらしく、レイトンとレイカはデスコールの方を向きただならぬ圧をかけてきた。
その様子にデスコールは、これはまずいと気付くも全てが遅すぎた。
「ご自分の立場はお分かりですかね?」
「私たちは2人で問題ないが」
「協力を必要としているのは、おひとり様の貴方の方ですよねぇ」
「君が、私たちの先に行こうが後に来ようがどちらでも構わないが」
「どうしても1人がやだって言うんなら、一緒に行ってあげなくもないですけどぉ」
「さて、どうするかい?」
「………」
デスコールは心の中で静かに舌打ちをした。
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