祈り
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痛いよ……痛い……。
すまない、アニ、ライナー。完遂出来なかった。
……アニ……君を助けられなかった。
全ては僕の力不足が原因だ。体力の回復も追いつかず、反撃出来ない。
此処は……何処だろう。静かで、真っ暗だ。四肢を切断されてから記憶が無い。僕は今、夢を見ているのか? 無意識下で見る、夢の中……
ボウっとした頭で考えていると、視界の奥に人影が映し出された。その姿が徐々に鮮明となる。懐かしさを覚える小柄な佇まいに驚愕した。
君は、マーレにいた頃の……子どもの頃の僕じゃないか。
『ベルトルト』
聞き覚えのある声にハッとする。まさか──声の方に顔を向けると、やはり君だった。その姿は傷だらけで痛々しく……絶句した。
「……それは、僕が巨人化した時に出来たものだろうか。ああ……ごめん」
『その子が、手を引っ張ってあなたの元まで連れてきてくれたの』
子どもの僕に目をやると、僕を刺すように見据えたまま何も答えてはくれなかった。
暫く互いを見合った後、再び君に視線を戻す。君は伏し目がちに俯き、口角を緩ませた。
君のそんな姿にいたたまれず、懺悔の思いを何度も口にした。
「君には散々な思いをさせてしまった。すまない」
『ベルトルトだったら、そう言うと思った。でも……許さないから』
「そうだね。許してもらおうとは思ってないよ。何度謝っても足りない。本当に申し訳なく思う」
『じゃあ、私への償いとして、抱き締めてよ』
君の悲しみを帯びた眼差しに僕は言葉を詰まらせ、自分の姿を一瞥した。
「……ごめん。それはこのとおり、出来ないんだ」
『……わかってる!』
語気を強めた君が、膝から崩れ落ちる。そして巨人化の残る熱をもろともせず僕を抱き締め、むせび泣いた。
ああ……ごめん。抱きしめて償うことも、指で涙を拭ってあげることも出来ない。君の前でも、ただ無力でいるしかない。
『……逢いたかったの。もう無理だと思った』
切なくも消え入りそうな声が、僕の胸に振動した。
君の思いに僕の瞼が濡れ初め、雫がこめかみを伝う。
あの日、君と向き合うべきだった。それなのに僕は……。今更抗えない自責の念にかられながら、溢れるものを静かに流したところで気が付いた。
僕の胸に落ちた君の涙が熱で蒸発している。よく見ると君の身体も、熱のせいか少しずつ蒸発していた。
行かないでくれ……。蒸気とともに昇る君の欠片を掻き集めたいのに、それも出来ないなんて。
もう時間がない。あの日の後悔を開放した。
「君の気持ちをずっと蔑ろにして、ごめん」
『ううん。いいの。もう、いいの』
涙に濡れた顔は優しい微笑みを湛え、僕を慰めてくれているかのようだ。君にした仕打ちを考えれば、そんな資格は無いのに。
熱は容赦せず君のカタチを変えていく。蒸発が頭部に差し掛かると、次第に虚ろな表情へ変化した。
「ああ……笑ってくれ……君には笑っていてほしい……すまない。本当に、すまない……」
すると君はまた、僅かに残る力で微笑んでくれた。
『……ありがとう。……さよなら ベル、ト、ルト……』
「待ってくれ! 僕は、君に何もしてやれなかった! 今だって! これからだって……」
僕の叫びが届くはずもなく、君は最期の言葉を遺して跡形もなく消えた。
愛してるわ──
一筋の蒸気が高く昇っていく。
本当に、仕方なかったのだろうか? こんな結末、誰が望んでいるというのか。教えてくれ……。
微動だにせず僕らを見ていた子どもの僕に目をやると、苦悶の表情で目を閉じ、大粒の涙を落としてから暗闇へ吸い込まれていった。
目が覚めたら、僕は裁きを受ける。
己の痛みをどれだけ叫ぼうが、これだけの犠牲を出したんだ。到底赦されない。
だからせめて、祈り続けたい。
僕を愛してくれた、君への贖罪を。
永遠に。
すまない、アニ、ライナー。完遂出来なかった。
……アニ……君を助けられなかった。
全ては僕の力不足が原因だ。体力の回復も追いつかず、反撃出来ない。
此処は……何処だろう。静かで、真っ暗だ。四肢を切断されてから記憶が無い。僕は今、夢を見ているのか? 無意識下で見る、夢の中……
ボウっとした頭で考えていると、視界の奥に人影が映し出された。その姿が徐々に鮮明となる。懐かしさを覚える小柄な佇まいに驚愕した。
君は、マーレにいた頃の……子どもの頃の僕じゃないか。
『ベルトルト』
聞き覚えのある声にハッとする。まさか──声の方に顔を向けると、やはり君だった。その姿は傷だらけで痛々しく……絶句した。
「……それは、僕が巨人化した時に出来たものだろうか。ああ……ごめん」
『その子が、手を引っ張ってあなたの元まで連れてきてくれたの』
子どもの僕に目をやると、僕を刺すように見据えたまま何も答えてはくれなかった。
暫く互いを見合った後、再び君に視線を戻す。君は伏し目がちに俯き、口角を緩ませた。
君のそんな姿にいたたまれず、懺悔の思いを何度も口にした。
「君には散々な思いをさせてしまった。すまない」
『ベルトルトだったら、そう言うと思った。でも……許さないから』
「そうだね。許してもらおうとは思ってないよ。何度謝っても足りない。本当に申し訳なく思う」
『じゃあ、私への償いとして、抱き締めてよ』
君の悲しみを帯びた眼差しに僕は言葉を詰まらせ、自分の姿を一瞥した。
「……ごめん。それはこのとおり、出来ないんだ」
『……わかってる!』
語気を強めた君が、膝から崩れ落ちる。そして巨人化の残る熱をもろともせず僕を抱き締め、むせび泣いた。
ああ……ごめん。抱きしめて償うことも、指で涙を拭ってあげることも出来ない。君の前でも、ただ無力でいるしかない。
『……逢いたかったの。もう無理だと思った』
切なくも消え入りそうな声が、僕の胸に振動した。
君の思いに僕の瞼が濡れ初め、雫がこめかみを伝う。
あの日、君と向き合うべきだった。それなのに僕は……。今更抗えない自責の念にかられながら、溢れるものを静かに流したところで気が付いた。
僕の胸に落ちた君の涙が熱で蒸発している。よく見ると君の身体も、熱のせいか少しずつ蒸発していた。
行かないでくれ……。蒸気とともに昇る君の欠片を掻き集めたいのに、それも出来ないなんて。
もう時間がない。あの日の後悔を開放した。
「君の気持ちをずっと蔑ろにして、ごめん」
『ううん。いいの。もう、いいの』
涙に濡れた顔は優しい微笑みを湛え、僕を慰めてくれているかのようだ。君にした仕打ちを考えれば、そんな資格は無いのに。
熱は容赦せず君のカタチを変えていく。蒸発が頭部に差し掛かると、次第に虚ろな表情へ変化した。
「ああ……笑ってくれ……君には笑っていてほしい……すまない。本当に、すまない……」
すると君はまた、僅かに残る力で微笑んでくれた。
『……ありがとう。……さよなら ベル、ト、ルト……』
「待ってくれ! 僕は、君に何もしてやれなかった! 今だって! これからだって……」
僕の叫びが届くはずもなく、君は最期の言葉を遺して跡形もなく消えた。
愛してるわ──
一筋の蒸気が高く昇っていく。
本当に、仕方なかったのだろうか? こんな結末、誰が望んでいるというのか。教えてくれ……。
微動だにせず僕らを見ていた子どもの僕に目をやると、苦悶の表情で目を閉じ、大粒の涙を落としてから暗闇へ吸い込まれていった。
目が覚めたら、僕は裁きを受ける。
己の痛みをどれだけ叫ぼうが、これだけの犠牲を出したんだ。到底赦されない。
だからせめて、祈り続けたい。
僕を愛してくれた、君への贖罪を。
永遠に。
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