短編
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地上にある秋の里で暮らすようになり早幾日。ナマエはカイと共に過ごす傍ら、用心棒のような事をして日銭を稼いでいた。偶然人間が魔物に襲われていたところに出会して助けた話が、どういう訳か鬼の用心棒と噂になっていて。それでも「カイ様に美味い飯と良い物を捧げたいから、まあいいか」と事実に変わった。本当は子分として常に側に控えていたいが、カイが一人になりたい時はそっとしておいてあげたいのも子分心で、そういう時だけ仕事を引き受けるのであまり金は貯まっていない。
居酒屋にツケで飲食をしては稀に多少返すという微妙な行いだが、いつか全て返すという意思表示にはなっているか、とぼんやり思う今日この頃。
依頼を終えてカイのもとへ帰ると「ほらよ」何か貰った。白いそれは見覚えのあるものだが、部分的に色が違う。
「なんですか、これ」
「見りゃ分かんだろ、仮面だ。お前の」
「俺の……?」
首を傾げながらしげしげと眺める。カイのものと同じように顔の半分が象られ、角の部分が窪み、青の塗料で描かれている。これ、俺のなのかあ。俺の……。
「……俺の!?」
「うおっ、急にデケェ声出すな!」
「すみません! でもこれ、お、お揃いって事では!?」
「あ? あー、まあ、そうなるか」
「い、いいんですか」
「構わねえよ。つか、前からお前にやろうと考えてはいたんだよ」
「そうなんですか?」
「前に言ってたろ、俺の仮面格好良いって。そのままはやれねえから、代わりにな」
確かに言った。常に思ってるからカイの言う「前」がいつのことか分からないが、気にしてくれていたんだ。それで、形も色も少し違うけど、同じようにつけられる仮面を用意してくれた。
「……ありがとうございます。大事に、大事にします……!」
心の底から湧き上がる喜びをどう表現したらいいか分からなくて、結局ありきたりな言葉になってしまった。それでも気持ちが届いたのか、くしゃくしゃに頭を撫でられる。
「いつもそれ着けとけ。飯の時も風呂の時もな」
「はい!」
カイが言うならそうしよう。カイに倣って常に身につけよう。
「そんで、一つ約束しろ」
「なんでしょう」
浮き立つ心を抑え、カイを見上げる。
「俺の前以外で絶対に外すな」
カイは素顔を見せたがらない。詳しい理由は知らないが、カイがやる事にも言う事にも異論などない。
「はい!」
カイが望むように、ナマエはするだけだ。
こうして赤鬼のカイ、青鬼のナマエが誕生した。
――――――
月日は流れ、早幾年。
国の危難に大地の舞手が現れ、神々を千早振り大地と人の絆を結び平和をもたらした。ケガレが祓われ、秋の里にも清らかな風が吹いている。
大地の舞手スバルは利己を顧みず人々の為に動ける善人である、が。鬼神を豆まきの練習台にさせた事で怒りを買い反撃に合っている。根の国の鬼達と共にアズマを襲うなどという嘘に騙されたのは、クラマやイカルガの演技もあって信憑性が増したのだろうが。
しかしよほど心配させてしまったらしく泣かせてしまい、その罰があたったのか豆がカイの顔と仮面の間に入り、取り除くために素顔を晒す事になった。ナマエが気づいてすぐに仮面をつけさせたが、見られたのは間違いない。
カイの御尊顔を見られるなんて。日頃の行いが良い褒美と理解してくれたらいいのだが。
カイが気に入った人物の事はナマエも気に入っているけれど、カイが望まない事――素顔を見られるのは、仕方なかったと理解していても腹立たしい。それを表に出すような、大人げない真似はしないが。
「ナマエさんも見せては……くれませんよね」
「わざわざ見せるような事はしないなあ」
「ですよね」
ついでとばかりに見つめられては尚更、仮面を取る事はない。ナマエの素顔は、カイほどではなくとも安くないのだ。
ナマエは自分の顔に関して思うところは何も無い。見せたところで減るものでもない。スバルの願いを叶えてやりたい気持ちもないわけではないが、これだけは外してやれない。
仮面の表面を指先で撫でて、あの日を思い出す。
「カイ様と約束したから」
敬愛するカイが俺に望んでくれた。それ以上に大切なものなどない。
口元が綻ぶのを自覚した時には、もう隣からため息が落ちていた。
「……本当に、カイさんのこと好きですね」
「まあね。好きって言葉に収まりきらないくらい、お慕いしているよ」
「いいなぁ……」
「なにが?」
「いえ、なんでも」
よく分からないが、まあいいか。スバルの事は、スバルとその相棒が考えるだろう。
2025.
2026.03. 加筆修正
居酒屋にツケで飲食をしては稀に多少返すという微妙な行いだが、いつか全て返すという意思表示にはなっているか、とぼんやり思う今日この頃。
依頼を終えてカイのもとへ帰ると「ほらよ」何か貰った。白いそれは見覚えのあるものだが、部分的に色が違う。
「なんですか、これ」
「見りゃ分かんだろ、仮面だ。お前の」
「俺の……?」
首を傾げながらしげしげと眺める。カイのものと同じように顔の半分が象られ、角の部分が窪み、青の塗料で描かれている。これ、俺のなのかあ。俺の……。
「……俺の!?」
「うおっ、急にデケェ声出すな!」
「すみません! でもこれ、お、お揃いって事では!?」
「あ? あー、まあ、そうなるか」
「い、いいんですか」
「構わねえよ。つか、前からお前にやろうと考えてはいたんだよ」
「そうなんですか?」
「前に言ってたろ、俺の仮面格好良いって。そのままはやれねえから、代わりにな」
確かに言った。常に思ってるからカイの言う「前」がいつのことか分からないが、気にしてくれていたんだ。それで、形も色も少し違うけど、同じようにつけられる仮面を用意してくれた。
「……ありがとうございます。大事に、大事にします……!」
心の底から湧き上がる喜びをどう表現したらいいか分からなくて、結局ありきたりな言葉になってしまった。それでも気持ちが届いたのか、くしゃくしゃに頭を撫でられる。
「いつもそれ着けとけ。飯の時も風呂の時もな」
「はい!」
カイが言うならそうしよう。カイに倣って常に身につけよう。
「そんで、一つ約束しろ」
「なんでしょう」
浮き立つ心を抑え、カイを見上げる。
「俺の前以外で絶対に外すな」
カイは素顔を見せたがらない。詳しい理由は知らないが、カイがやる事にも言う事にも異論などない。
「はい!」
カイが望むように、ナマエはするだけだ。
こうして赤鬼のカイ、青鬼のナマエが誕生した。
――――――
月日は流れ、早幾年。
国の危難に大地の舞手が現れ、神々を千早振り大地と人の絆を結び平和をもたらした。ケガレが祓われ、秋の里にも清らかな風が吹いている。
大地の舞手スバルは利己を顧みず人々の為に動ける善人である、が。鬼神を豆まきの練習台にさせた事で怒りを買い反撃に合っている。根の国の鬼達と共にアズマを襲うなどという嘘に騙されたのは、クラマやイカルガの演技もあって信憑性が増したのだろうが。
しかしよほど心配させてしまったらしく泣かせてしまい、その罰があたったのか豆がカイの顔と仮面の間に入り、取り除くために素顔を晒す事になった。ナマエが気づいてすぐに仮面をつけさせたが、見られたのは間違いない。
カイの御尊顔を見られるなんて。日頃の行いが良い褒美と理解してくれたらいいのだが。
カイが気に入った人物の事はナマエも気に入っているけれど、カイが望まない事――素顔を見られるのは、仕方なかったと理解していても腹立たしい。それを表に出すような、大人げない真似はしないが。
「ナマエさんも見せては……くれませんよね」
「わざわざ見せるような事はしないなあ」
「ですよね」
ついでとばかりに見つめられては尚更、仮面を取る事はない。ナマエの素顔は、カイほどではなくとも安くないのだ。
ナマエは自分の顔に関して思うところは何も無い。見せたところで減るものでもない。スバルの願いを叶えてやりたい気持ちもないわけではないが、これだけは外してやれない。
仮面の表面を指先で撫でて、あの日を思い出す。
「カイ様と約束したから」
敬愛するカイが俺に望んでくれた。それ以上に大切なものなどない。
口元が綻ぶのを自覚した時には、もう隣からため息が落ちていた。
「……本当に、カイさんのこと好きですね」
「まあね。好きって言葉に収まりきらないくらい、お慕いしているよ」
「いいなぁ……」
「なにが?」
「いえ、なんでも」
よく分からないが、まあいいか。スバルの事は、スバルとその相棒が考えるだろう。
2025.
2026.03. 加筆修正
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