徒花と呼ばないで
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今日はもう休もうと決めたはいいが、近くに馬宿もなく人の住んでいる地域でもないため野宿をする事になった。焚き火を挟むような位置で各々横になり、消火して就寝。という形にはなったのだが。
今日は戦う事が多かったから疲れているはずなのに、眠れない。夜に出現する魔物もいるから警戒はするべきだが、慎重に選んだこの場所は比較的安全なはずだ。以前ナマエがリンクに何も言わず不寝番をしていたから、その件を怒ってからなるべく宿や小屋で寝るようにしていたのに。今回は運が悪い。
眠れないと碌な事を考えない。悪い事ばかり思い出して気が滅入る、一度気を晴らそうと体を起こすと視線を感じて振り返った。
「眠れない?」
ナマエも起きていたみたいだ。リンクが頷くと「私も」息をついて、夜空を仰ぐ。
「今夜は星がよく見えるね」
「……本当だ」
気がつかなかった。今夜は雲一つなく晴れていたことも。
横になったままナマエが指で空をなぞる。
「私が育った村の言い伝えで、流れ星が落ちるまでに願い事を三回言えたら叶うっていうのがあったんだ」
「三回も言って間に合うの?」
「難しいから、それが出来たら叶うって信じられてたんじゃない?」
「ナマエは言えた?」
「言えた事ないなぁ。そもそも流れ星見たことが一回あったかどうか……」
「それもそうか」
場所や方角、色んな条件が重ならなければ見つけるのは難しい。
「……だから、降らない星にただ祈ってた」
呟くように言ったナマエの声が悲しげに聞こえて顔を覗き込んだが、特に普段と変わらなかった。リンクの挙動に不思議そうにしているくらい。
リンクは誤魔化すように問いかけた。
「……何を祈ってたの?」
「えー、何だったかな。明日雨が降りますようにとか、そういうのだった気がする」
「雨? なんで?」
「雨が降れば大体の行事は中止、もしくは延期になるから。……古臭い村の行事なんて、ろくなものが残ってないからね」
辟易した様子のナマエに苦笑を漏らす。
ナマエが星に願うほど嫌に思う行事ってなんだろう。踏み込んで聞いて良い事か分からず口を閉じていると、察したのかナマエから話してくれた。
「山に登るとか川で探し物するとか、そういうの。子どもの健康を願うだの何だの言ってたけど、行事なんかなくたって毎日登ってたからね。面倒くさかったんだよ」
「ああ、昔から草花取りに山に入ってたって言ってたね」
「そうそう。改めて山神様に顔を出さなくたって、また来たのかって呆れられてたと思うよ」
必ず参拝して、一日無事に過ごせるように願っていたと聞いた事がある。あまり多くは語らないナマエの貴重な過去の話だったから、よく覚えている。
あ、と漏れ聞こえた声にどうしたのかと首を傾げると「流れ星」と、流れたのであろう方向が指差された。
「何かお願い事した?」
「この一瞬で願うのはやっぱり無理があるよ……」
「だよね」
「だから祈っとく」
手を重ねて目を閉じたナマエは、少しして目を開けた。
リンクは今度は好奇心で顔を覗き込んだ。
「何をお祈りしたの?」
「……願い事は人に話さない方がいいという説が」
「さっきは教えてくれたじゃん」
「過去のやつでしょ」
「まあ、そうだね」
話したくないならそれでもいいんだけど、俺が叶えられる事かもしれないし。
そんなふうに伝えるとナマエは困った顔をして、ため息をついた。
「そうね。リンクが頑張ってくれるかもね」
「えっ! どんなこと?」
叶えられたら、きっとナマエは喜んでくれる。あの笑顔を見せてくれる。そう思って聞いたのだが。
「リンクがこの先ずっと健康で、無事でありますように」
なんだそれ。
今度はリンクがため息をつく番で、ナマエは不満そうな顔をしている。
「頑張って叶えてよね」
「それは、頑張るけど……なんで俺?」
「お人好しリンクが健康で無事なら、世界はみんなハッピーだし私も安心」
リンクの使命を思えば間違いではないのだが、どうも腑に落ちない。しかしナマエは微笑みを浮かべて星を見上げている。
「頼れるものは星でも頼るべき、ってね」
満足したのか再び寝ようとするナマエに、まだ眠気の来ないリンクは歩み寄ってそれを妨害した。健康のために寝なさいと言われたが、眠くないのだから仕方ない。
ナマエも睡魔に襲われているわけではないらしく、渋々ながら寝るのをやめて一緒に星を見ようと誘ってくれたので並んで横になる。それから沈黙を挟みつつぽつりぽつりと星のことを語ってくれた。リンクが依頼の報酬として貰った星のかけらで初めて現物を見たこと、星には名前があるらしいこと。心地良い声音に段々と瞼が重くなってくる。それに気づいたナマエが小さく笑った。
「寝ていいよ、リンク。今日も一日お疲れさま」
頭を撫でられて、その暖かさと眠気に身を委ねてしまいそうになる。けれどまだ、伝えていないことがあるから、それだけは。
「星に、願わないで。ナマエが、そばにいて」
「願うけど、そばにいるよ」
「ナマエがいてくれれば、それだけで、心強いから」
「薬が役に立ってるなら、薬師冥利に尽きるよ」
「そうじゃなくて……ナマエがいてくれることが、力になるんだよ」
「……私が?」
「ナマエが」
解ってくれるだろうか。ナマエがいてくれるから頑張れたり、休めたり、出来てること。ひとりでも出来るけど、ナマエがいてくれる事が、どれほど力になるか。
ナマエのことだから、うまく伝わってないかも。結構鈍感だし、眠くて俺の頭も回ってないし。
「そっか……そっかあ。嬉しいな」
閉じかけていた瞼を上げて目をやると、ナマエは本当に嬉しそうに、目を細めて笑っていた。
ああ、愛おしいなあ。
その頬に触れようと手を伸ばして、意識が落ちた。
「おやすみ、リンク」
2026.03.
今日は戦う事が多かったから疲れているはずなのに、眠れない。夜に出現する魔物もいるから警戒はするべきだが、慎重に選んだこの場所は比較的安全なはずだ。以前ナマエがリンクに何も言わず不寝番をしていたから、その件を怒ってからなるべく宿や小屋で寝るようにしていたのに。今回は運が悪い。
眠れないと碌な事を考えない。悪い事ばかり思い出して気が滅入る、一度気を晴らそうと体を起こすと視線を感じて振り返った。
「眠れない?」
ナマエも起きていたみたいだ。リンクが頷くと「私も」息をついて、夜空を仰ぐ。
「今夜は星がよく見えるね」
「……本当だ」
気がつかなかった。今夜は雲一つなく晴れていたことも。
横になったままナマエが指で空をなぞる。
「私が育った村の言い伝えで、流れ星が落ちるまでに願い事を三回言えたら叶うっていうのがあったんだ」
「三回も言って間に合うの?」
「難しいから、それが出来たら叶うって信じられてたんじゃない?」
「ナマエは言えた?」
「言えた事ないなぁ。そもそも流れ星見たことが一回あったかどうか……」
「それもそうか」
場所や方角、色んな条件が重ならなければ見つけるのは難しい。
「……だから、降らない星にただ祈ってた」
呟くように言ったナマエの声が悲しげに聞こえて顔を覗き込んだが、特に普段と変わらなかった。リンクの挙動に不思議そうにしているくらい。
リンクは誤魔化すように問いかけた。
「……何を祈ってたの?」
「えー、何だったかな。明日雨が降りますようにとか、そういうのだった気がする」
「雨? なんで?」
「雨が降れば大体の行事は中止、もしくは延期になるから。……古臭い村の行事なんて、ろくなものが残ってないからね」
辟易した様子のナマエに苦笑を漏らす。
ナマエが星に願うほど嫌に思う行事ってなんだろう。踏み込んで聞いて良い事か分からず口を閉じていると、察したのかナマエから話してくれた。
「山に登るとか川で探し物するとか、そういうの。子どもの健康を願うだの何だの言ってたけど、行事なんかなくたって毎日登ってたからね。面倒くさかったんだよ」
「ああ、昔から草花取りに山に入ってたって言ってたね」
「そうそう。改めて山神様に顔を出さなくたって、また来たのかって呆れられてたと思うよ」
必ず参拝して、一日無事に過ごせるように願っていたと聞いた事がある。あまり多くは語らないナマエの貴重な過去の話だったから、よく覚えている。
あ、と漏れ聞こえた声にどうしたのかと首を傾げると「流れ星」と、流れたのであろう方向が指差された。
「何かお願い事した?」
「この一瞬で願うのはやっぱり無理があるよ……」
「だよね」
「だから祈っとく」
手を重ねて目を閉じたナマエは、少しして目を開けた。
リンクは今度は好奇心で顔を覗き込んだ。
「何をお祈りしたの?」
「……願い事は人に話さない方がいいという説が」
「さっきは教えてくれたじゃん」
「過去のやつでしょ」
「まあ、そうだね」
話したくないならそれでもいいんだけど、俺が叶えられる事かもしれないし。
そんなふうに伝えるとナマエは困った顔をして、ため息をついた。
「そうね。リンクが頑張ってくれるかもね」
「えっ! どんなこと?」
叶えられたら、きっとナマエは喜んでくれる。あの笑顔を見せてくれる。そう思って聞いたのだが。
「リンクがこの先ずっと健康で、無事でありますように」
なんだそれ。
今度はリンクがため息をつく番で、ナマエは不満そうな顔をしている。
「頑張って叶えてよね」
「それは、頑張るけど……なんで俺?」
「お人好しリンクが健康で無事なら、世界はみんなハッピーだし私も安心」
リンクの使命を思えば間違いではないのだが、どうも腑に落ちない。しかしナマエは微笑みを浮かべて星を見上げている。
「頼れるものは星でも頼るべき、ってね」
満足したのか再び寝ようとするナマエに、まだ眠気の来ないリンクは歩み寄ってそれを妨害した。健康のために寝なさいと言われたが、眠くないのだから仕方ない。
ナマエも睡魔に襲われているわけではないらしく、渋々ながら寝るのをやめて一緒に星を見ようと誘ってくれたので並んで横になる。それから沈黙を挟みつつぽつりぽつりと星のことを語ってくれた。リンクが依頼の報酬として貰った星のかけらで初めて現物を見たこと、星には名前があるらしいこと。心地良い声音に段々と瞼が重くなってくる。それに気づいたナマエが小さく笑った。
「寝ていいよ、リンク。今日も一日お疲れさま」
頭を撫でられて、その暖かさと眠気に身を委ねてしまいそうになる。けれどまだ、伝えていないことがあるから、それだけは。
「星に、願わないで。ナマエが、そばにいて」
「願うけど、そばにいるよ」
「ナマエがいてくれれば、それだけで、心強いから」
「薬が役に立ってるなら、薬師冥利に尽きるよ」
「そうじゃなくて……ナマエがいてくれることが、力になるんだよ」
「……私が?」
「ナマエが」
解ってくれるだろうか。ナマエがいてくれるから頑張れたり、休めたり、出来てること。ひとりでも出来るけど、ナマエがいてくれる事が、どれほど力になるか。
ナマエのことだから、うまく伝わってないかも。結構鈍感だし、眠くて俺の頭も回ってないし。
「そっか……そっかあ。嬉しいな」
閉じかけていた瞼を上げて目をやると、ナマエは本当に嬉しそうに、目を細めて笑っていた。
ああ、愛おしいなあ。
その頬に触れようと手を伸ばして、意識が落ちた。
「おやすみ、リンク」
2026.03.