徒花と呼ばないで
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それはウオトリー村で親子から話を聞いた時だった。夕飯の材料を買いに行かなくちゃ、でも雨が降っていて大変だ、いいところに来たね頼むよ、といった具合でリンクが買い出しを引き受けたのだ。
「リンクは優しすぎるよ」
雨宿りをしながらポーチの中身や所持金を確認していると、イリアがため息混じりに言う。
「困ってる人を放っておけないっていうのは、リンクの美点だよ。それに助けられてる人はたくさんいる、私だってそう。だけど誰にでも手を差し伸べてたら……いつか潰れちゃうんじゃないかって、心配だよ」
どんよりした天気につられてるみたいに、ナマエの表情は暗い。けれどリンクはそれらに左右される事なく、至って平常通りに返す。
「平気だよ。それに、誰にでも手を差し伸べるほど俺は優しくないよ」
「……そうは見えないけど」
フードの陰から見上げてくる視線は疑わしげだ。リンクはなんだかそれが可笑しくて、笑った。
「ナマエが教えてくれたんだよ。頑張ってる人を応援したい、ってさ」
ナマエはきょとんとして、やがて思い当たる節があったのだろう、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「そうだとしてもさあ……はぁ……」
「ため息つかないの」
「……にんじんなら持ってるよ」
「本当? あげていいの?」
「私はリンクにあげるの」
「ナマエって意外と素直じゃないよね」
「お嫌いなら置いてけば」
「はいはい。行くよ」
「最近雑じゃない……?」
ゲルドの街での印象とまるで違うのだが、根は変わらない。ナマエが手を伸ばせる範囲とリンクのそれが違うだけで、ナマエも出来るなら人助けがしたいはずだ。リンクに対して下心がなかったように、ただ応援したいという気持ちで動いただろう。
手に負えない距離にならないように、リンクは少しだけ気をつけている。せっかく捕まえたのに、やっぱり無理だなんて離れられては堪らない。
今のところリンクだけで手一杯のように見えるが、はてさて。
材料を揃えてくれたお礼にと夕飯をご馳走になり、美味しさから頬を緩めるナマエに安堵するやら料理に嫉妬するやら。レシピを教えてもらい、次にその顔をさせるのは俺だ、と意気込んだ。
***
「一度ゲルドの街に戻ろうかと思うんだけど」
手に持っていた皿を落としそうになり、危うく料理を地面に食べさせるところだった。ナマエが作ってくれたケモノ肉たっぷりの野菜炒めは絶品だが地面には勿体ない、ってそうだけどそうじゃなくて。
「え? なんで……?」
「お世話になったお礼に薬を安く仕入れますって約束したから、果たしに行こうかなって」
確かに沢山の植物や虫を採取してきたし、在庫も潤沢で道行く人に売る事もあったけど。リンクは今のところゲルドへの用事はなく、他の地でやりたい事がある。
つまり、別行動。
――ナマエは、戻ってくるだろうか。
不安に駆られていると、ナマエから窺うような視線を受ける。
「リンクの予定はどう?」
「俺は……まだ、この辺りでやりたい事がある、かな……」
心臓がドクドク鳴ってうるさい。胸が締め付けられるように痛み、呼吸がしにくい。
ナマエを止めなければ。でも何て? ゲルドを発つ時から言っていたんだ、反故にはしないだろう。
「じゃあ、いいや」
頭が真っ白になった。
「ゲルドの近くに行く用事が出来たら、教えてくれる?」
再会はむこうで、ってこと? どうやって連絡を取るんだ。
どうして行く事を決めて、離れて行くんだ。
「リンク、聞いてる?」
「俺を置いていくの」
「は?」
「行くんだろ。ゲルドに」
「いつかはね」
「……ん?」
「やっぱり聞いてなかったでしょ」
考え事してたでしょ、と水を飲むようコップを差し出され、大人しく受け取る。
あれ? いつかって言った?
今は行かない……?
「いつとは約束してないし、そもそも自己満足だし。在庫増えてきたからどうかなって思っただけで、今はリンクと一緒にいるって決めてるから、リンクの予定に合わせるよ」
「じゃあ、置いて行かない……?」
「置いて行く事があるとすれば、それは私じゃなくてリンクだと思うけど」
明確な旅の理由は未だに話していないが、目的がある事は伝えている。いざハイラル城へ向かう時はナマエとはどこかで別れる事になるが、まだその時ではない。
「……一緒にいてくれるの?」
「誰かさんが置いていかない限りはね」
悪戯っぽく笑う顔もまた可愛い。案外天の邪鬼で、でもリンクには甘いナマエ。ゲルドの街では惜しげなく振り撒かれていた優しさが、今はリンクにだけ向けられている。薬の在庫が増えてきたといっても、殆どをリンクのために蓄えてくれているのを知っている。食べ物だって。
「捕まってるのは俺の方かも……」
「どうだか」
それ、分かってて言ってるのかな。結構鈍いから、違うこと言ってるかも。
何はともあれ、まだ一緒にいられる。安心したらまたお腹が空いてきた。
「おかわりいる?」
ああやっぱり、敵わないな。
2026.02.
「リンクは優しすぎるよ」
雨宿りをしながらポーチの中身や所持金を確認していると、イリアがため息混じりに言う。
「困ってる人を放っておけないっていうのは、リンクの美点だよ。それに助けられてる人はたくさんいる、私だってそう。だけど誰にでも手を差し伸べてたら……いつか潰れちゃうんじゃないかって、心配だよ」
どんよりした天気につられてるみたいに、ナマエの表情は暗い。けれどリンクはそれらに左右される事なく、至って平常通りに返す。
「平気だよ。それに、誰にでも手を差し伸べるほど俺は優しくないよ」
「……そうは見えないけど」
フードの陰から見上げてくる視線は疑わしげだ。リンクはなんだかそれが可笑しくて、笑った。
「ナマエが教えてくれたんだよ。頑張ってる人を応援したい、ってさ」
ナマエはきょとんとして、やがて思い当たる節があったのだろう、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「そうだとしてもさあ……はぁ……」
「ため息つかないの」
「……にんじんなら持ってるよ」
「本当? あげていいの?」
「私はリンクにあげるの」
「ナマエって意外と素直じゃないよね」
「お嫌いなら置いてけば」
「はいはい。行くよ」
「最近雑じゃない……?」
ゲルドの街での印象とまるで違うのだが、根は変わらない。ナマエが手を伸ばせる範囲とリンクのそれが違うだけで、ナマエも出来るなら人助けがしたいはずだ。リンクに対して下心がなかったように、ただ応援したいという気持ちで動いただろう。
手に負えない距離にならないように、リンクは少しだけ気をつけている。せっかく捕まえたのに、やっぱり無理だなんて離れられては堪らない。
今のところリンクだけで手一杯のように見えるが、はてさて。
材料を揃えてくれたお礼にと夕飯をご馳走になり、美味しさから頬を緩めるナマエに安堵するやら料理に嫉妬するやら。レシピを教えてもらい、次にその顔をさせるのは俺だ、と意気込んだ。
***
「一度ゲルドの街に戻ろうかと思うんだけど」
手に持っていた皿を落としそうになり、危うく料理を地面に食べさせるところだった。ナマエが作ってくれたケモノ肉たっぷりの野菜炒めは絶品だが地面には勿体ない、ってそうだけどそうじゃなくて。
「え? なんで……?」
「お世話になったお礼に薬を安く仕入れますって約束したから、果たしに行こうかなって」
確かに沢山の植物や虫を採取してきたし、在庫も潤沢で道行く人に売る事もあったけど。リンクは今のところゲルドへの用事はなく、他の地でやりたい事がある。
つまり、別行動。
――ナマエは、戻ってくるだろうか。
不安に駆られていると、ナマエから窺うような視線を受ける。
「リンクの予定はどう?」
「俺は……まだ、この辺りでやりたい事がある、かな……」
心臓がドクドク鳴ってうるさい。胸が締め付けられるように痛み、呼吸がしにくい。
ナマエを止めなければ。でも何て? ゲルドを発つ時から言っていたんだ、反故にはしないだろう。
「じゃあ、いいや」
頭が真っ白になった。
「ゲルドの近くに行く用事が出来たら、教えてくれる?」
再会はむこうで、ってこと? どうやって連絡を取るんだ。
どうして行く事を決めて、離れて行くんだ。
「リンク、聞いてる?」
「俺を置いていくの」
「は?」
「行くんだろ。ゲルドに」
「いつかはね」
「……ん?」
「やっぱり聞いてなかったでしょ」
考え事してたでしょ、と水を飲むようコップを差し出され、大人しく受け取る。
あれ? いつかって言った?
今は行かない……?
「いつとは約束してないし、そもそも自己満足だし。在庫増えてきたからどうかなって思っただけで、今はリンクと一緒にいるって決めてるから、リンクの予定に合わせるよ」
「じゃあ、置いて行かない……?」
「置いて行く事があるとすれば、それは私じゃなくてリンクだと思うけど」
明確な旅の理由は未だに話していないが、目的がある事は伝えている。いざハイラル城へ向かう時はナマエとはどこかで別れる事になるが、まだその時ではない。
「……一緒にいてくれるの?」
「誰かさんが置いていかない限りはね」
悪戯っぽく笑う顔もまた可愛い。案外天の邪鬼で、でもリンクには甘いナマエ。ゲルドの街では惜しげなく振り撒かれていた優しさが、今はリンクにだけ向けられている。薬の在庫が増えてきたといっても、殆どをリンクのために蓄えてくれているのを知っている。食べ物だって。
「捕まってるのは俺の方かも……」
「どうだか」
それ、分かってて言ってるのかな。結構鈍いから、違うこと言ってるかも。
何はともあれ、まだ一緒にいられる。安心したらまたお腹が空いてきた。
「おかわりいる?」
ああやっぱり、敵わないな。
2026.02.