徒花と呼ばないで
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「なあ、ちょっとでいいんだって。頼むよ」
「しつこい」
なんだ、あれは。
立ち寄った馬宿で暫し各々自由時間を過ごしていたのだが、周辺の植物採取から戻ってきたナマエの側に男がいた。それも最低な言葉をかけている。側から聞いていても不快なそれをナマエも当然不愉快そうに顔を顰めていて、リンクは素早く二人の間に身を滑り込ませた。
「嫌がってるだろ、離れろ。何なんだあんた」
「はあ? 何こいつ……って、ちょっと待て、もしかしてアンタも!?」
男は興奮したように今度はリンクに詰め寄った。見境ないのか、この男。
背中に背負った剣に手を伸ばした時、男はリンクのポーチを指差した。
「そ、そそそれ! 姫しずかじゃないか!?」
「……は?」
曰く、男は鉢合わせたナマエのポーチに幻の姫しずかを思わせる花を見て、話を聞くと本物だというので見せてくれとせがんだという。ナマエは少しだけなら、と了承したが男は満足出来ずナマエに食い下がりここまでついて来たようだ。
「頼む! ちょっとでいいんだ、譲ってくれ!」
「無理」
「三……一輪だけでも!」
「しつこい。私の手持ちが三なんだ、あげられない」
譲歩してるつもりらしい男に呆れながら、このままでは埒があかないとリンクはポーチから姫しずかを取り出した。
「ほら、俺のをあげるから。もう彼女にしつこくするのはやめてくれ」
「い、いいのか!? ありがとう! ありがとう!」
男は涙を流しながら感動し、大切そうに姫しずかを持ってどこかへ行った。馬宿に用はないらしい。
嵐が去った、と一つ息をつくと、隣から「ごめん」小さな声が届く。
「私がちゃんと断れなかったから、巻き込んじゃった……弁償する」
ナマエの手には件の姫しずかがあり、リンクは笑って首を振った。
「俺は結構持ってるから大丈夫。ナマエも必要だったらあげるよ」
「ううん。大丈夫」
ナマエもそれを大切にしているのだろう、力を入れすぎないように、でも手放したくないのだというように握っている。
姫しずかは希少性の高い花だ。珍しく思われるのも無理はないが、あんな風に詰め寄るのはいただけない。
「……疲れたよな。中で休もう」
こくり、頷く小さな頭を見て空いている手を引いて歩く。掴んだ手首は細くて、力加減に注意しながらそっと握った。
理由もなく手は繋げない。その手を直接とる勇気もない。
短い距離だが、触れた体温にナマエの存在を感じていた。
***
――俺が守る、と決めたはずだった。
「なあ、少しだけだって。いいだろ? 減るもんでもなし」
昼間に聞いたような台詞。だが、今度こそ下劣な言葉がナマエにかけられていた。
雨が降ってきたので外での調理を早々に切り上げ、宿の隅で簡単に副菜を作って戻ってくるまでの僅かな時間。その隙に一人の男がナマエに近寄っていた。
「さっき偶然声聞いてさあ、オレ好みだったんだよ。そんで顔も見てみてえなーって、興味出るのも当然だろ? な、ちょっとだけ見せてくれよ」
「お断りします。それ以上近づかないで」
目深に被られたフードの下を覗き込もうとする男から顔を逸らし、ナマエは距離を取る。しかし男はすかさず詰めてきて、ナマエはどんどん端へ追いやられる。
両手が塞がっているのも構わず、リンクはさっと二人の間に入った。
「俺の連れを困らせないでくれる?」
「はあ? あー、この子の兄弟? いいだろ少しぐらい」
「兄弟じゃない。それに本人が嫌がってるだろ」
数秒睨み合い、やがて男の方が折れて離れて行った。捨て台詞も不愉快で睨むのをやめられない。ていうか、兄弟だって? 身長差はほぼないが、だからって兄弟に見えるか? 腹立つ。万が一にも考えたくないけど、ナマエも兄だとか弟みたいだとか思ってないよな……?
「価値がないって分かってるはずなのにね」
お互いに、と小さく落とされた言葉に勢い良く振り返る。
「今、なんて? まさかだけど、価値がないって言った? あるに決まってるだろ。勿体ぶって何が悪いんだよ。見世物じゃない」
勿体ぶりやがって、と男は言っていたが、例え本当に勿体ぶったとしたって、当然だ。誰でも見ていいものじゃない。
ナマエは綺麗だ。
笑うと可愛いし、食べてる時にとろけた顔もするし、愛馬への愛情深い目だとか薬を作ってる時の真剣な表情とか、魅力を挙げたらキリがない。
「価値がないなんて言わないで」
どうして隠してるのか、事情は知らない。だけどリンクの前でならフードを外してくれる。その事実にどれほど舞い上がるか、ナマエは分かってない。
ナマエは数度目を瞬かせたあと、視線を落として「ごめんなさい」と小さく謝罪した。
「ん。分かったならいいよ。ご飯にしよう」
「うん、でもその前にもう一つ、ごめん」
何に対してのごめんなのか不思議に思っていると、ナマエは自身を抱き込むように二の腕辺りの服を掴んで俯いた。
「……以前なら、もっと強く拒否してた。ここから逃げてたかも。でも、今はリンクが来てくれるって無意識に甘えてた……情けないし恥ずかしい。リンクにも失礼だし……本当にごめん」
「えっ、嬉しいけど」
「……え? な、なんで」
思わず、といった様子で顔を上げたナマエの表情は困惑に満ちていて、リンクはにっこりと笑った。
「言ったじゃん。俺が守るって」
「…………リンクは頼もしいけど、それに甘んじるのは違う」
「えー? 頼ってよ」
「ねえ、お腹すいた」
「はいはい」
下手な話題転換だったが、今回は流されてあげる事にした。ナマエが無意識に頼ってくれたことも、こうして甘えてくれるのも嬉しかったから。
今日は焼き魚をメインに野菜たっぷりの夕飯。ナマエは好き嫌いがほぼ無いが、温かいご飯は好きみたいだ。野菜はサッパリしてる方が好みというのも、共に旅をしているうちに気づいた。
初めの頃はあまり顔色を変えなかったが、今ではすっかり「美味しい」と言葉でも表情でも伝えてくれる。これを見るのが楽しみで、当番制といえどリンクは食事を作るのが好きになった。ナマエは自分で作ったものではそういう顔をしないから、尚更。
じっと見つめすぎたみたいで、恥ずかしそうにしたナマエに「なに?」と胡乱げな目を向けられた。
「なんでもない。また作るね」
「……ありがと。それと……さっきの事も。ありがとう」
「どういたしまして。でも、困った時は呼んでくれるともっと嬉しいかな」
返事は魚によって飲み込まれた。という事にしておこう。
2026.02.
「しつこい」
なんだ、あれは。
立ち寄った馬宿で暫し各々自由時間を過ごしていたのだが、周辺の植物採取から戻ってきたナマエの側に男がいた。それも最低な言葉をかけている。側から聞いていても不快なそれをナマエも当然不愉快そうに顔を顰めていて、リンクは素早く二人の間に身を滑り込ませた。
「嫌がってるだろ、離れろ。何なんだあんた」
「はあ? 何こいつ……って、ちょっと待て、もしかしてアンタも!?」
男は興奮したように今度はリンクに詰め寄った。見境ないのか、この男。
背中に背負った剣に手を伸ばした時、男はリンクのポーチを指差した。
「そ、そそそれ! 姫しずかじゃないか!?」
「……は?」
曰く、男は鉢合わせたナマエのポーチに幻の姫しずかを思わせる花を見て、話を聞くと本物だというので見せてくれとせがんだという。ナマエは少しだけなら、と了承したが男は満足出来ずナマエに食い下がりここまでついて来たようだ。
「頼む! ちょっとでいいんだ、譲ってくれ!」
「無理」
「三……一輪だけでも!」
「しつこい。私の手持ちが三なんだ、あげられない」
譲歩してるつもりらしい男に呆れながら、このままでは埒があかないとリンクはポーチから姫しずかを取り出した。
「ほら、俺のをあげるから。もう彼女にしつこくするのはやめてくれ」
「い、いいのか!? ありがとう! ありがとう!」
男は涙を流しながら感動し、大切そうに姫しずかを持ってどこかへ行った。馬宿に用はないらしい。
嵐が去った、と一つ息をつくと、隣から「ごめん」小さな声が届く。
「私がちゃんと断れなかったから、巻き込んじゃった……弁償する」
ナマエの手には件の姫しずかがあり、リンクは笑って首を振った。
「俺は結構持ってるから大丈夫。ナマエも必要だったらあげるよ」
「ううん。大丈夫」
ナマエもそれを大切にしているのだろう、力を入れすぎないように、でも手放したくないのだというように握っている。
姫しずかは希少性の高い花だ。珍しく思われるのも無理はないが、あんな風に詰め寄るのはいただけない。
「……疲れたよな。中で休もう」
こくり、頷く小さな頭を見て空いている手を引いて歩く。掴んだ手首は細くて、力加減に注意しながらそっと握った。
理由もなく手は繋げない。その手を直接とる勇気もない。
短い距離だが、触れた体温にナマエの存在を感じていた。
***
――俺が守る、と決めたはずだった。
「なあ、少しだけだって。いいだろ? 減るもんでもなし」
昼間に聞いたような台詞。だが、今度こそ下劣な言葉がナマエにかけられていた。
雨が降ってきたので外での調理を早々に切り上げ、宿の隅で簡単に副菜を作って戻ってくるまでの僅かな時間。その隙に一人の男がナマエに近寄っていた。
「さっき偶然声聞いてさあ、オレ好みだったんだよ。そんで顔も見てみてえなーって、興味出るのも当然だろ? な、ちょっとだけ見せてくれよ」
「お断りします。それ以上近づかないで」
目深に被られたフードの下を覗き込もうとする男から顔を逸らし、ナマエは距離を取る。しかし男はすかさず詰めてきて、ナマエはどんどん端へ追いやられる。
両手が塞がっているのも構わず、リンクはさっと二人の間に入った。
「俺の連れを困らせないでくれる?」
「はあ? あー、この子の兄弟? いいだろ少しぐらい」
「兄弟じゃない。それに本人が嫌がってるだろ」
数秒睨み合い、やがて男の方が折れて離れて行った。捨て台詞も不愉快で睨むのをやめられない。ていうか、兄弟だって? 身長差はほぼないが、だからって兄弟に見えるか? 腹立つ。万が一にも考えたくないけど、ナマエも兄だとか弟みたいだとか思ってないよな……?
「価値がないって分かってるはずなのにね」
お互いに、と小さく落とされた言葉に勢い良く振り返る。
「今、なんて? まさかだけど、価値がないって言った? あるに決まってるだろ。勿体ぶって何が悪いんだよ。見世物じゃない」
勿体ぶりやがって、と男は言っていたが、例え本当に勿体ぶったとしたって、当然だ。誰でも見ていいものじゃない。
ナマエは綺麗だ。
笑うと可愛いし、食べてる時にとろけた顔もするし、愛馬への愛情深い目だとか薬を作ってる時の真剣な表情とか、魅力を挙げたらキリがない。
「価値がないなんて言わないで」
どうして隠してるのか、事情は知らない。だけどリンクの前でならフードを外してくれる。その事実にどれほど舞い上がるか、ナマエは分かってない。
ナマエは数度目を瞬かせたあと、視線を落として「ごめんなさい」と小さく謝罪した。
「ん。分かったならいいよ。ご飯にしよう」
「うん、でもその前にもう一つ、ごめん」
何に対してのごめんなのか不思議に思っていると、ナマエは自身を抱き込むように二の腕辺りの服を掴んで俯いた。
「……以前なら、もっと強く拒否してた。ここから逃げてたかも。でも、今はリンクが来てくれるって無意識に甘えてた……情けないし恥ずかしい。リンクにも失礼だし……本当にごめん」
「えっ、嬉しいけど」
「……え? な、なんで」
思わず、といった様子で顔を上げたナマエの表情は困惑に満ちていて、リンクはにっこりと笑った。
「言ったじゃん。俺が守るって」
「…………リンクは頼もしいけど、それに甘んじるのは違う」
「えー? 頼ってよ」
「ねえ、お腹すいた」
「はいはい」
下手な話題転換だったが、今回は流されてあげる事にした。ナマエが無意識に頼ってくれたことも、こうして甘えてくれるのも嬉しかったから。
今日は焼き魚をメインに野菜たっぷりの夕飯。ナマエは好き嫌いがほぼ無いが、温かいご飯は好きみたいだ。野菜はサッパリしてる方が好みというのも、共に旅をしているうちに気づいた。
初めの頃はあまり顔色を変えなかったが、今ではすっかり「美味しい」と言葉でも表情でも伝えてくれる。これを見るのが楽しみで、当番制といえどリンクは食事を作るのが好きになった。ナマエは自分で作ったものではそういう顔をしないから、尚更。
じっと見つめすぎたみたいで、恥ずかしそうにしたナマエに「なに?」と胡乱げな目を向けられた。
「なんでもない。また作るね」
「……ありがと。それと……さっきの事も。ありがとう」
「どういたしまして。でも、困った時は呼んでくれるともっと嬉しいかな」
返事は魚によって飲み込まれた。という事にしておこう。
2026.02.