東京校
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ぼーっと日が傾き始めた空を眺める
「朱奈ちゃーん!やっと見つけた〜!」
灰原の声だとわかって手をぎゅっと握りしめて 聞こえないふりで空を眺め続ける
「任務で怪我したんだってね。大丈夫?」
真横に座り込んで優しい声で心配してくれる
けれど素っ気なく頷くだけ
「そう?なら良かった!」
安堵したような声 きっと眩しい笑顔をこちらにむけているのだろう
入学当初から ちょくちょく声をかけてきてくれるが正直 苦手だ
「ここ夕陽すごく綺麗に見えるんだね!知らなかったや!
朱奈ちゃんここにはよく来るの?」
(やめてよ…貴方もみんなも 私には眩しすぎるの)
視界が滲みかけて バッと抱えた膝に顔を埋める
「朱奈ちゃん!?
えっと…僕なにかしちゃったかな?」
困り果てる灰原
(きっと灰原くんもこれで私なんかに構ってこなくなるでしょ…アイツらみたいに
それでいいの 私に構わないで)
長い静寂が訪れた
でもそれを跳ね除けたのは灰原だった
「朱奈ちゃん!僕が悪いならごめん!」
驚いて顔を上げようやく まともに顔を見た
目と目が合えば ぱあっと笑顔になって
「あ!やっと朱奈ちゃんの顔見れた!」
そっと手が伸びてくる 過去がフラッシュバックして 身を強ばらせ目を瞑る
その手は 痛みを与える手ではなく 優しく頬を伝う涙をなぞる
「大丈夫!!
僕がいるよ!朱奈ちゃん!」
(どうして そんな言葉をこんな私にかけてくれるの…)
「頼りないかもしれないけど。あははっ」
(眩しい…眩しいの…
やめて そんな顔で笑いかけないで 惨めになる…)
せっかく拭ってくれたのに 次から次へと涙が溢れ出してくる 惨めな姿ばかり見せたくないと両手で必死に拭っているとふいに視界が暗くなった
「朱奈ちゃん、あんまり擦っちゃダメだよ。 泣きたい時は泣いていいんだよ。」
頭上から声が聞こえて 抱きしめられているのだと何となく悟る
今まで避けてきたその体温は不思議と心地よくて 縋り付くように泣き続けた
「よしよーし。辛かったね、頑張ってきたんだよね。」
優しく 髪を撫でる手のひら
(あなたもいつか離れていくんでしょ?
そうだとしても あなたが許してくれる限りそばにいたいなんて…思っちゃうじゃない)
「僕がいるから、大丈夫だよ」
(ねぇ…私まだ生きてていいの?
ううん、そんなわけない 生きてていいわけない…でも、期待していいのかな…)
ぐちゃぐちゃになっていく頭ととまらない涙
初めてに近い温もりに包まれて
いつしか意識が薄れ無くなった
目を覚ました私は医務室のベッドの上で
重い体を起こす
部屋全体電気がついている訳でもないのに明るいので それなりに眠ったのだと理解した
しんと静まった医務室で手首に巻き付けられた包帯を眺める
この下はなにも自傷行為だけでは無いが
ただおぞましく醜いものには変わりない
そっと左手の包帯を外して その醜い部分に爪を立てる
(キライ…キライキライキライ)
ガラガラと開く扉の音にも気付かず
腕を掻きむしり 次第に血が溢れ爪を染めていく
腕では飽き足りず 首元に巻かれた包帯に手をかける
「朱奈ちゃん!?」
カーテンが大きく揺れて 両手首を掴まれて
我に返る
(見られた…幻滅される…
いや、そんなの当然のこと…)
「会いに来たよ!」
ぱあっと輝く太陽のような笑顔を向けてくる
ゆっくり首元にあった手を下ろされて
先程より強いけれど優しく手を握ってくる
(なんで…こんな私に構うの
ただの同級生でしょ…ほっといてよ)
想いは口から出ることは無く
灰原の笑顔がいたたまれなくて目を伏せると
血まみれの左腕に右手の指先にはたくさんの血 眺めていると ポタリとシーツに雫が落ちる
恐る恐る 左腕の傷に 灰原の指が触れる
「僕も反転術式使えたら良かったのにな…」
傷口をそーっとなぞる灰原の指が自分の血で赤く染まっていくのを 綺麗だなぁなんて見つめていた
「そしたら朱奈ちゃんがいくら傷を増やしても治して僕があげられるでしょ!?
今度、家入先輩に聞いてみようかな?」
「ど…しで?」
顔をあげて掠れた声を絞り出すと
灰原はハッとして固まる
あぁ 気持ち悪い声だよね と下を向くと
「なになに?」
嬉しそうに聞き返してくるので
もう一度勇気を振り絞って 出し方も忘れかけた声を出す
「ゃさしぐ…し でくれるの…?」
「朱奈ちゃんの笑顔が見たいから!
笑ってる顔もそうだけど」
「今日!初めて朱奈ちゃんの声聞けた…。
先生よりも先にだよ?高専で僕が初めて朱奈ちゃんの声聞けた!
すごく嬉しい!ありがと!」
それからも 灰原は秋月に構い続けた結果
そんな姿を先輩達に見られる度
バカップル等といじられ
灰原が少し嬉しそうに 僕なんかじゃ秋月に悪いです。なんて全力で否定する
挙句の果てには時折 ペアを組まされるようになった
少しづつだけど 潰れて出せない声も発するようにした
嬉しそうに笑う灰原が居たから
だけどやっぱりあなたは居なくなった
安置室に置かれた 灰原の遺体を見つめて
あの時 ああしていれば こう伝えていれば
突き放していればと後悔がただ募る
赤黒くなった傷口に触れる
ここに呪力を流し込めば あなたはもう一度だけ動く
けれど 死体には変わりなくて
あの時の笑顔はおろか 声も発さず
きっと数日でその身体は朽ち果てる
死肢操術
あなたの前で使った時すごく驚いていたよね
でも引く訳じゃなくて 凄い!いい能力だね!
なんて言うから私が驚いた
傷を増やした時には 大丈夫 僕に任せて!ってそう言って包帯を巻いてくれたよね
先輩達にからかわれている時
ぼそっと そうなれたらな って呟いてたの知ってたよ
私もいつかそうなれたらって思ってたよ
愛は永遠 どこかで聞いた
なら私はいつまで苦しめばいいの?
いつの間にか居座った この愛はどうすればいい?
ねぇ、灰原くん 教えてよ
どれだけ 灰原くんだったものを眺めていたのか分からない 時計を見れば0時過ぎを指している
(私もそっちにいっちゃダメかな…
灰原くん…。)
そっと首元の包帯に手をかけた
END
参考
「シンデレラグレイ」 米津玄師