両面宿儺
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これは
遠い遠い昔の話
女子供構わず殺し 喰らいどのような強者も薙ぎ倒し 鬼神と恐れられた両面宿儺と 少女のー
奇跡か 気紛れか
雨の降る夜であった
夕刻より降り始めた雨は次第に強さをまし
退屈と煩わしさを感じた 鬼神は
適当な屋敷を見つけて そこにいた者たちの命を弄ぶ様に 奪った
最後に残した 年端もない子供を新鮮なうちに食しきったところだった
「ごめんください。 どなたかいらっしゃいませんか?」
どこからか ポチャンと水面を揺らした水滴の様な清らかな声がした
それが歳頃な女の声である事を感じ
口端についた血液を舐め取りながら口角が自然と上がる
誰の返答も無かったために諦めたのか
少女のため息が門構えの方から聴こえる
「困りました。
早々に上がると思っていたのに。」
少女は軒下から手を出し 降り注ぐ雨を手に掬い
暗く淀んだ夜空を見上げる
再度ため息をついた時 背後から人の気配を感じて 少女の顔は明るくなり すかさず振り向き声をあげた
「夜分に申し訳ありません!
どうか一晩泊めさせて頂け、ないでしょう…か…」
自身より遥かに大きく 異様な人物を見て
目を丸くした
「ほう、雨宿りか。奇遇だな。」
「この御屋敷の方…ではないのですか?」
少女は知らなかった 彼の者が 両面宿儺と呼ばれる者であると
異様な顔付きから 鍛え上げられた身体に目を移して我に返る
「すごい血…。
お怪我でもされているのですか?」
現れた男を心配するように安易に近づき
血液が着物により多く付着している箇所へと手を伸ばす
男は恐れを為して喚くはずであった少女の行動に驚いて
当初考えていた予定を変更する事にした
ただ興味が湧いたのだ
幼子でも 自分の人相を知り 恐れる対象であることを知り 感じ取れるというのに何故と
そして 無意識に少女の纏う 呪力が一番興味をひいた
「安心しろ怪我などしてはいない。」
「そうですか。よかった…。」
降りしきる雨の中 他者の身を案じ 胸を撫で下ろした少女を
死臭が漂う屋敷内へ招き入れる事にした
屋敷に上がるや否や 転がる死体に驚きを見せた
そっとしゃがみこみ 動かなくなった 人の形を保っているだけのそれに手を伸ばす
「これは…。」
背後から近付き 獲物を絡めとる蛇の様に少女の身体を抱きしめ 耳元で
「俺が殺った。」
ねっとりと囁けば 濡れた前髪の雫が少女に落ちる
思わず 息を呑んだ少女は スっと目を閉じた
生を諦めたのかと思い 少し興が冷める
軽く突き立てた爪が 柔肌を傷付け 芳醇な血の香りが鼻腔を駆け抜けて
満たしたはずであるのに空腹感に襲われる
「私も、殺すのですか?」
「喜べ お前は好みの香りがする。
余すことなく喰ってやる。」
「1年待っては頂けないでしょうか。
私はまだ死ぬ訳にはいかないのです。」
ゆっくりと開かれた 強い瞳に
見間違えかと宿儺は瞬きを繰り返す
「命をかけて約束致します。
1年後必ずまた 貴方の元へ現れると。
だから待ってはいただけないでしょうか?」
この期に及んで 少女は笑った
「名は…」
「私は朱奈と申します。
貴方は?」
素直に答える少女に考えがまとまる
少女は命をかけて 男と契りを結んだのだ
1年後 自身の元に現れず どこかで美食が腐るのは頂けないが
鬼神は少女の提案に乗ることにした
「名など忘れた。
宿儺そう呼ばれているらしい。」
その響きに聞き覚えはあったのか
少女は男に問いかけようとしたが
先程まで触れられていたはずの男の姿は消えていた
どこにも 感じられなくなった気配に
少し寂しさを感じた
「宿儺さま。
必ず来年お会いしに参りますね。」
祈るように目を伏せた
雨に濡れずっしりと重くなった着物を引きずるようにして
遺体の傍から離れ 休める場所を探した
それは案外簡単に見つかり
罰当たりな事をを承知で 濡れた衣服を脱ぎ
休息をとった
翌朝 少女は人目を盗み 屋敷をそのままに消えた
1年後
両面宿儺の拠点は 場所を変えていた
少女と出会った事も約束などもすっかりと忘れて
あの夜見ることの出来なかった 星空を仰いでいた
「お待たせ致しました。」
何に思いを馳せていた訳では無いが
余程 意識を飛ばしていたらしく
背後に現れた少女の気配を全く察知出来なかった
「…何者だ。」
「お忘れになられたのですか?
こちらは貴方を探すのに苦労したというのに…」
苦言を述べながら微笑む少女に
記憶が蘇る
「律儀な奴だな。」
「約束、致しましたから。
今日この日必ず貴方の元に行くと。」
何となく少女を喰らう気分では無かった
「ならばまた1年後に俺の元に来い」
驚いた様子を少し見せ 困った顔をした
「良いのですか?」
「今日は気分では無い。」
鬼神は数多に輝く星空を再度仰いだ
その少し後ろで少女も同じ様に 夜空を見上げた
「あの日と違って今日は綺麗に見えますね。」
問いかけに返事はしなかった
「それではまた来年 お会いしに参りますね。」
少し寂しそうな足取りで少女は鬼神の元を去った
こんなやり取りは数年続いた
決まったように 何故かその日は晴間を見せた
最初に会った時のような雨の日が訪れた
少女は数年経っても変わらず美しい少女であった
何となく気付いてはいた
彼女もまた人ならざるものであると
今年は雨が降った 決まった時刻に少女は現れる事は無かった
妙な胸騒ぎを感じて男は
彼女の呪力を探し出し 辿り着いた場をみて
ただ怒りが込み上げた
不快感を拭うように 少女を取り囲んだ者共を蹂躙した
力なく横たわる少女を抱え上げれば
薄らと瞼を開いた
「すく、なさま。」
「喋るな。 」
か細い呼吸を何とか繰り返す少女に 呪力を流し込む
「約束を果たして下さい。」
息絶え絶えな癖に 必死に笑みを向ける
「断る。」
「どうして?」
ただ嫌だと思う以外に答えは無かった
しかし 少女にどれだけ呪力を注ぎ込んでも
容態は良くならなかった
タイムリミットは遠に過ぎていたのだ
契りをもって 少女は鬼神の手の中 安らかな表情で息を引き取った
ただただその亡骸を朝日が指すまで見つめた
柄にもなくせめてと
鬼神は大切に 余すことなく 少女を喰らった
END