海の日は試験期間
大学のキャンパスというのはやたら木が植えられている、と水森は通い始めてから気がついた。森のようになっているわけではないが、なんでこんなところにまで?と思うような場所にも植樹されていたりする。一説には自然が多いと癒し効果があるので、学業に疲れた学生の慰めに植えているらしいが、試験に追い詰まっている今、そんなものを眺めるだけでは心は晴れない。
そして木が多いと必然、この時期は蝉がうるさく鳴いている。何重もの蝉の鳴き声を浴びながら、水森は鉄の到着を待っていた。大学の前、と言っていたので正門で待っているが、見慣れた明るい髪色は現れない。
頬を伝う汗を拭いながら、水森は昨日の電話での会話を思い返した。鉄が言う『敵』というのは、女の敵という意味らしい。鉄のギャル友達に、あの外星人は手を出し、浮気をし、捨てたと言う。
自分ごとのように怒り狂う鉄をなんとかなだめたが、今日大学に来て何をするつもりなのだろう。水森は不安になった。鉄には戦闘能力がないが、単純に何をしでかすか分からなくて怖い。
「水森、お待たせー」
「鉄先輩」
現れた鉄は、普段通りの格好だった。この大学には鉄のように派手な見た目の女子もいるが、その中でも圧倒的に露出度が高い。
「先輩、相変わらずのギャルっスね」
「おう、あんがと」
褒めた訳ではないのだが。
「じゃあ、早速いこ!」
そう言って、鉄はずんずんと構内に入っていく。まるでここの学生かのように迷いのない足取りだ。案内をしてくれと言っていたのに、気ままに歩いていく後ろ姿を、水森は慌てて追いかけた。
◇◇◇
敵情視察とは言ったものの、水森が案内できるのは、食堂とカフェスペースくらいだ。例の外星人がサークルに入っていることは知っているが、その活動場所までは知らないし、普段取っている授業を把握している訳ではない。
そういったことを説明すると、鉄は「別にいいよ」とあっけからんとした態度を示した。
「そんなストーカーみたいなことしたいわけじゃないから」
「じゃあ、何しにきたんスか?」
んー、と鉄は迷うように目を伏せた。
「水森はさ、あの男、本当に問題ないと思う?」
その聞き方をするということは、鉄は問題があると考えている、ということだろう。
「女性関係のことですか?」
「そう、ちょっとやりすぎって思うのは、ウチの友達のことがあるからか、自信なくて」
正直なことを言えば、水森とてあの外星人にはいい印象を持っていない。女性関係にも問題があると考えている。
「あの人が、地球人だとしても、女遊びが激しい、とは思います」
我が意得たりと鉄は頷いた。だが、水森は今から否定の言葉を口にしなくてはならない。
「ただ、それだけっス。保険会社として、どうこう言えるほどの問題ではないです」
それこそ、あのくらいのことをやる学生は地球人でも普通にいる。即自分の星に帰れ、と言えるほどの行為ではないのだ。
「じゃあ、クズ野郎のこと、見て見ぬフリをするしかないってこと?」
「子供を妊娠させた、とかなると大事なので注意とか、色々できるかもしれないですけど」
所詮、二人は保険会社の社員でしかない。顧客の性格に問題があったとしても、それを矯正するような権利も義務もない。
鉄もそれは分かっているはずだ。水森よりも長く働いているし、いろんな例を見てきている。それでも、今回冷静な判断ができないのは、自分でも口にしていた通り、友人のことが関係しているのだろう。
「悔しいよ、ダチ傷つけられて、なんもできないのは」
鉄は唇を噛んでいる。自分の手の届くところに相手がいるのに、何もできないことにどこか罪悪感を感じているようだった。
水森には何も言えない。ただ黙って、隣に立つ彼女のことを見ていることしかできなかった。
◇◇◇
結局、案内もしなかったし、話を聞いただけなのだが、鉄が奢ると言って聞かないので、カフェテリアに行った。「流石にフラペチーノはないかー」といいながら、アイスコーヒーを渡される。
先ほどまでの暗さはどこへ行ったのやら、鉄は普段の調子で話しかけてくる。
「水森はこの後授業あんの?」
「そうっスね、六限があります」
「はー、学生は大変だ。ウチには無理」
でも、大学見れたのは楽しかった。なんでもないことのようにいいながら、鉄はストローに口をつけている。水森も、COSMOSでの収入がなければ進学は諦めようかと考えていた。鉄の場合は、金銭的な余裕もなければ、外星人に拉致される、という経験もあり進路を選べなかっただろう。そんなバックグラウンドを知っていると、明るく振る舞う鉄になんて言っていいか分からなかった。
「あのさ、無理って言ったの、嘘ないって分かるっしょ?気、使わないでよ」
明らかに不機嫌な鉄の声に、水森は慌てて明るい声を出す。
「あ、バレてます?」
「うん、呼吸が浅いし、心音が緊張してる感じ」
水森同様、鉄も人の心の動きがある程度わかってしまう。二人とも、敏感すぎる感覚を時には持て余しながら過ごしてきた。相手もそうだとわかっていると、ある意味やりやすくはあった。
「先輩、本気になれば、嘘も見抜けるんじゃないっスか」
茶化すように水森が言うと、鉄は「水森ほどの精度では無理」とあっさり答えた。その声が、いつも通り屈託がなく、内心話を反らせたことにホッとした。
「心音に反応出れば分かるけどねー。試してみよっか」
質問に、いいえ、で答えてね、と言われ水森は素直に頷いた。
「妹がいますか?」
「いいえ」
「宇宙人の存在を信じますか?」
「いいえ」
「……今の所、反応ないね」
「まぁ、さすがに嘘ついているってほど緊張しないっスね」
ふーん、と鉄はちょっと悔しそうだ。それから、にやりと笑うと、質問を重ねてきた。
「じゃあ、もうドラ男とエッチした?」
「うぐっ!?」
水森は盛大にむせた。気管の変なところに入ったのがわかる。咳き込む彼の横で、鉄は「心音やべー」と呑気に呟いていた。
「ま、ま、まだっス」
「うーん、ほんとっぽいね。心臓バクバクだけど」
けらけらと笑う鉄に対して、水森は気が気でない。こんなところで、と周りを見渡すが、幸いカフェは空いていた。こちらの会話など他の客には届いていないようだ。
「てかさ、手、出してもらえないって悩んでたの結構前なのに、まだなの?」
大丈夫?とこちらを覗き込んでくる瞳は、真剣だ。鉄には、砂噛と付き合う前から相談に乗ってもらっていたこともあり、最初の方は割と赤裸々に関係について話していた。最近は、ドキドキしたり、恥ずかしかったりで、とてもじゃないが話せないことが増えてしまった。首を噛まれたり、キスされかけたりと言ったことは話せていない。
「オレが試験受かったら、その、できますし。砂噛先輩が、オレとそういうことをしたいのはわかったんで」
大丈夫、とは言えない。むしろ、今は体の関係を持つことにためらいが生じ始めている。ただ、こんな悩みは流石に話せなかった。
「まぁ、水森がいいなら、ウチから口出しはしないけど」
乱暴なことされたら、ちゃんと相談してな、と面倒見の良い先輩に笑いかけられて、水森は苦笑した。
自分は相手の悩みに何も答えられなかったのに、鉄は真っ直ぐに向かってくる。そんな彼女のことが眩しく思えた。
◇◇◇
鉄と別れて、六限が終了したころにはもう夕方と言っていい時間だ。こうなると出社はできない。
水森はなんとなく恋人に会いたくなった。不安な気持ちのままでいるより、ただ顔を見るだけでも安心できる。そんな気がした。
しかし、ためらう気持ちもある。水森が砂噛と会うのは基本的に相手の家だ。しかも、勉強をしに行く、という理由をつけて会っていた。顔が見たくて、という具体的な用事がない訪問はしたことがなかった。付き合ってから数ヶ月経つのに、いまだに他人行儀なところがある気がする。
これは、体を重ねてないからゆえの遠慮なのだろうか。そんな考えが頭をもたげ、水森はふるふると軽く首を振った。こんな調子ではダメだ。嫌な考えを払拭するために、水森は砂噛にメールを送った。今日家に行っていいかという簡潔な文章だ。
返信はすぐにきた。「何の用?」というそっけない四文字に水森の心は折れそうになる。用なんてない。会いたい、ただそれだけだ。
なんで返したものかと考え込んでいると、追加でメールがくる。「別に来るのは構わない」と、これまた簡潔な文章に、今度は気持ちが上向いていく。訪問の理由は書かずに、すぐに行くとだけ返して、水森は駆けていった。
「急に来てごめんなさい」
「別に、今日はもともと定時で帰るつもりだったからいいけど」
出迎えてくれた恋人が、怪訝そうな顔をしているのを見て、水森はやっぱり迷惑だったかな、と自分の行動を後悔した。
「どうした、何か問題でもあったか?」
砂噛の言葉からは純粋に心配する様子が感じられ、水森は申し訳なくなってしまった。鉄といい、砂噛といい、あんまりにも純粋に自分のことを気にかけてくれる。自分は勝手に不安を募らせているだけなのに。
「ごめんなさい、何にもないんです」
再び謝罪を口にした水森の様子に何か感じ取ったのか、砂噛は部屋の中へと恋人を通した。ソファに座るように促され、水森は素直に腰をおろした。その隣に、家主である砂噛も座る。
「今日は謝ってばかりだな」
そう言って少し笑う恋人を見て、水森は急に全てを許された気がした。自分を安心させようと、笑って見せる恋人の優しさに、寄りかかってもいいのでは。そう思った。
「……何にもないけど、会いたかったんです」
先ほどまでためらっていたセリフが、水森の口からこぼれ落ちた。
砂噛は意外そうに眉を動かした後、水森の頭を優しく撫でた。子供扱いされている、と感じたものの、その目があまりにも優しかったので、水森は黙って受け入れた。
「迷惑じゃないですか?」
「いや?恋人冥利に尽きるな」
機嫌良さげな恋人を見て、水森は安心した。そのまま、砂噛の肩にもたれ掛かる。冷房が効いた室内では、恋人の体温が心地よかった。
黙って自分の頭を撫でてくれる恋人の手を感じながら、水森はしばらく目を閉じていた。
この人は、あの外星人とは違う。きちんと自分と向き合ってくれているんだ。そう実感しすることができた。
そして木が多いと必然、この時期は蝉がうるさく鳴いている。何重もの蝉の鳴き声を浴びながら、水森は鉄の到着を待っていた。大学の前、と言っていたので正門で待っているが、見慣れた明るい髪色は現れない。
頬を伝う汗を拭いながら、水森は昨日の電話での会話を思い返した。鉄が言う『敵』というのは、女の敵という意味らしい。鉄のギャル友達に、あの外星人は手を出し、浮気をし、捨てたと言う。
自分ごとのように怒り狂う鉄をなんとかなだめたが、今日大学に来て何をするつもりなのだろう。水森は不安になった。鉄には戦闘能力がないが、単純に何をしでかすか分からなくて怖い。
「水森、お待たせー」
「鉄先輩」
現れた鉄は、普段通りの格好だった。この大学には鉄のように派手な見た目の女子もいるが、その中でも圧倒的に露出度が高い。
「先輩、相変わらずのギャルっスね」
「おう、あんがと」
褒めた訳ではないのだが。
「じゃあ、早速いこ!」
そう言って、鉄はずんずんと構内に入っていく。まるでここの学生かのように迷いのない足取りだ。案内をしてくれと言っていたのに、気ままに歩いていく後ろ姿を、水森は慌てて追いかけた。
◇◇◇
敵情視察とは言ったものの、水森が案内できるのは、食堂とカフェスペースくらいだ。例の外星人がサークルに入っていることは知っているが、その活動場所までは知らないし、普段取っている授業を把握している訳ではない。
そういったことを説明すると、鉄は「別にいいよ」とあっけからんとした態度を示した。
「そんなストーカーみたいなことしたいわけじゃないから」
「じゃあ、何しにきたんスか?」
んー、と鉄は迷うように目を伏せた。
「水森はさ、あの男、本当に問題ないと思う?」
その聞き方をするということは、鉄は問題があると考えている、ということだろう。
「女性関係のことですか?」
「そう、ちょっとやりすぎって思うのは、ウチの友達のことがあるからか、自信なくて」
正直なことを言えば、水森とてあの外星人にはいい印象を持っていない。女性関係にも問題があると考えている。
「あの人が、地球人だとしても、女遊びが激しい、とは思います」
我が意得たりと鉄は頷いた。だが、水森は今から否定の言葉を口にしなくてはならない。
「ただ、それだけっス。保険会社として、どうこう言えるほどの問題ではないです」
それこそ、あのくらいのことをやる学生は地球人でも普通にいる。即自分の星に帰れ、と言えるほどの行為ではないのだ。
「じゃあ、クズ野郎のこと、見て見ぬフリをするしかないってこと?」
「子供を妊娠させた、とかなると大事なので注意とか、色々できるかもしれないですけど」
所詮、二人は保険会社の社員でしかない。顧客の性格に問題があったとしても、それを矯正するような権利も義務もない。
鉄もそれは分かっているはずだ。水森よりも長く働いているし、いろんな例を見てきている。それでも、今回冷静な判断ができないのは、自分でも口にしていた通り、友人のことが関係しているのだろう。
「悔しいよ、ダチ傷つけられて、なんもできないのは」
鉄は唇を噛んでいる。自分の手の届くところに相手がいるのに、何もできないことにどこか罪悪感を感じているようだった。
水森には何も言えない。ただ黙って、隣に立つ彼女のことを見ていることしかできなかった。
◇◇◇
結局、案内もしなかったし、話を聞いただけなのだが、鉄が奢ると言って聞かないので、カフェテリアに行った。「流石にフラペチーノはないかー」といいながら、アイスコーヒーを渡される。
先ほどまでの暗さはどこへ行ったのやら、鉄は普段の調子で話しかけてくる。
「水森はこの後授業あんの?」
「そうっスね、六限があります」
「はー、学生は大変だ。ウチには無理」
でも、大学見れたのは楽しかった。なんでもないことのようにいいながら、鉄はストローに口をつけている。水森も、COSMOSでの収入がなければ進学は諦めようかと考えていた。鉄の場合は、金銭的な余裕もなければ、外星人に拉致される、という経験もあり進路を選べなかっただろう。そんなバックグラウンドを知っていると、明るく振る舞う鉄になんて言っていいか分からなかった。
「あのさ、無理って言ったの、嘘ないって分かるっしょ?気、使わないでよ」
明らかに不機嫌な鉄の声に、水森は慌てて明るい声を出す。
「あ、バレてます?」
「うん、呼吸が浅いし、心音が緊張してる感じ」
水森同様、鉄も人の心の動きがある程度わかってしまう。二人とも、敏感すぎる感覚を時には持て余しながら過ごしてきた。相手もそうだとわかっていると、ある意味やりやすくはあった。
「先輩、本気になれば、嘘も見抜けるんじゃないっスか」
茶化すように水森が言うと、鉄は「水森ほどの精度では無理」とあっさり答えた。その声が、いつも通り屈託がなく、内心話を反らせたことにホッとした。
「心音に反応出れば分かるけどねー。試してみよっか」
質問に、いいえ、で答えてね、と言われ水森は素直に頷いた。
「妹がいますか?」
「いいえ」
「宇宙人の存在を信じますか?」
「いいえ」
「……今の所、反応ないね」
「まぁ、さすがに嘘ついているってほど緊張しないっスね」
ふーん、と鉄はちょっと悔しそうだ。それから、にやりと笑うと、質問を重ねてきた。
「じゃあ、もうドラ男とエッチした?」
「うぐっ!?」
水森は盛大にむせた。気管の変なところに入ったのがわかる。咳き込む彼の横で、鉄は「心音やべー」と呑気に呟いていた。
「ま、ま、まだっス」
「うーん、ほんとっぽいね。心臓バクバクだけど」
けらけらと笑う鉄に対して、水森は気が気でない。こんなところで、と周りを見渡すが、幸いカフェは空いていた。こちらの会話など他の客には届いていないようだ。
「てかさ、手、出してもらえないって悩んでたの結構前なのに、まだなの?」
大丈夫?とこちらを覗き込んでくる瞳は、真剣だ。鉄には、砂噛と付き合う前から相談に乗ってもらっていたこともあり、最初の方は割と赤裸々に関係について話していた。最近は、ドキドキしたり、恥ずかしかったりで、とてもじゃないが話せないことが増えてしまった。首を噛まれたり、キスされかけたりと言ったことは話せていない。
「オレが試験受かったら、その、できますし。砂噛先輩が、オレとそういうことをしたいのはわかったんで」
大丈夫、とは言えない。むしろ、今は体の関係を持つことにためらいが生じ始めている。ただ、こんな悩みは流石に話せなかった。
「まぁ、水森がいいなら、ウチから口出しはしないけど」
乱暴なことされたら、ちゃんと相談してな、と面倒見の良い先輩に笑いかけられて、水森は苦笑した。
自分は相手の悩みに何も答えられなかったのに、鉄は真っ直ぐに向かってくる。そんな彼女のことが眩しく思えた。
◇◇◇
鉄と別れて、六限が終了したころにはもう夕方と言っていい時間だ。こうなると出社はできない。
水森はなんとなく恋人に会いたくなった。不安な気持ちのままでいるより、ただ顔を見るだけでも安心できる。そんな気がした。
しかし、ためらう気持ちもある。水森が砂噛と会うのは基本的に相手の家だ。しかも、勉強をしに行く、という理由をつけて会っていた。顔が見たくて、という具体的な用事がない訪問はしたことがなかった。付き合ってから数ヶ月経つのに、いまだに他人行儀なところがある気がする。
これは、体を重ねてないからゆえの遠慮なのだろうか。そんな考えが頭をもたげ、水森はふるふると軽く首を振った。こんな調子ではダメだ。嫌な考えを払拭するために、水森は砂噛にメールを送った。今日家に行っていいかという簡潔な文章だ。
返信はすぐにきた。「何の用?」というそっけない四文字に水森の心は折れそうになる。用なんてない。会いたい、ただそれだけだ。
なんで返したものかと考え込んでいると、追加でメールがくる。「別に来るのは構わない」と、これまた簡潔な文章に、今度は気持ちが上向いていく。訪問の理由は書かずに、すぐに行くとだけ返して、水森は駆けていった。
「急に来てごめんなさい」
「別に、今日はもともと定時で帰るつもりだったからいいけど」
出迎えてくれた恋人が、怪訝そうな顔をしているのを見て、水森はやっぱり迷惑だったかな、と自分の行動を後悔した。
「どうした、何か問題でもあったか?」
砂噛の言葉からは純粋に心配する様子が感じられ、水森は申し訳なくなってしまった。鉄といい、砂噛といい、あんまりにも純粋に自分のことを気にかけてくれる。自分は勝手に不安を募らせているだけなのに。
「ごめんなさい、何にもないんです」
再び謝罪を口にした水森の様子に何か感じ取ったのか、砂噛は部屋の中へと恋人を通した。ソファに座るように促され、水森は素直に腰をおろした。その隣に、家主である砂噛も座る。
「今日は謝ってばかりだな」
そう言って少し笑う恋人を見て、水森は急に全てを許された気がした。自分を安心させようと、笑って見せる恋人の優しさに、寄りかかってもいいのでは。そう思った。
「……何にもないけど、会いたかったんです」
先ほどまでためらっていたセリフが、水森の口からこぼれ落ちた。
砂噛は意外そうに眉を動かした後、水森の頭を優しく撫でた。子供扱いされている、と感じたものの、その目があまりにも優しかったので、水森は黙って受け入れた。
「迷惑じゃないですか?」
「いや?恋人冥利に尽きるな」
機嫌良さげな恋人を見て、水森は安心した。そのまま、砂噛の肩にもたれ掛かる。冷房が効いた室内では、恋人の体温が心地よかった。
黙って自分の頭を撫でてくれる恋人の手を感じながら、水森はしばらく目を閉じていた。
この人は、あの外星人とは違う。きちんと自分と向き合ってくれているんだ。そう実感しすることができた。
