ただひたすらに甘い
四月に入って数日が経った。さすがに春めいてきて、冬用のコートの出番はめっきりなくなった。いつの間にか日も伸びていて、顧客の元から帰る道中はまだ少し明るさが残っていた。
水森は助手席に座って、菓子の箱を取り出した。夕飯の時間が近いのだが、それまで空腹で死んでしまいそうだ。大学に入学してもまだまだ食べ盛りだ。
「お前、甘いのばっかり食べてるな」
「だって、しょっぱいものってカスがでやすいじゃないですか」
呆れたような砂噛の言葉に、水森は言い返す。ポテチとか、煎餅とか、好きだけれどもここで食べたことはなかった。水森も一応気を使って菓子を選んでいるのだ。
「それにしたって、それ前に食べてためちゃくちゃ甘いやつだろ」
「……これが好きなんだから、いいでしょ」
砂噛の好みを考えて菓子を選ぶことはやめた。水森は今になって無意味だと知ったからだ。
信号待ちになると、案の定声をかけられた。
「ま、いいか。一個くれよ」
ほら、やっぱり。水森はため息をついた。
「先輩、好きでもないのになんで食べたがるんスか?」
文句を言いながらも水森はチョコレートを一粒つまむ。運転席へと顔を向けると、口を開けて待っている恋人が目に入った。
導かれるように、水森は腕を伸ばす。先ほどの問いの答えなど、聞かなくても分かる。それでも言葉を求めるのは、ただただ聞きたいからだ。
チョコレートを口の中に入れると、指が砂噛の唇に当たった。内心動揺したものの、水森は素知らぬ顔で手をゆっくりと引っ込めようとする。だが、それは許してもらえなかった。恋人に手首をつかまれたからだ。
「なんでって、そりゃ……」
先ほどまでチョコを摘んでいた指先を、赤い舌がくすぐる。時間にして数秒、じゃれあいのような行為だったが、水森には刺激が強かった。顔を真っ赤にして砂噛を睨みつけるが、相手は余裕の表情だ。
「お前が目当てだからだよ」
さらりと、質問への返答が返される。そうして砂噛は水森を開放して前を向いた。そろそろ信号も青に変わるだろう。
ああ、やっぱり勝てない。水森は何度目か分からない敗北感を感じた。
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