第4章:一喜一憂
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授業が終わって昼休み。
昼食を済ませたあとで購買にノートのコピーを取りに行く際、廊下で宮田とすれ違った。
「あ、宮田。さっきはありがと」
「さっき?」
「黒板」
「…ああ。ところでお前コピーしに行くのか?」
手元のノートと小銭入れを見て宮田が問う。
「そうだよ」
「昨日の古文、オレの分も頼む」
そう言ってポケットから小銭を取り出し、呆気に取られている奈々の手元へ落とす。
「私のノートでいいの?」
「お前得意だろ」
古文の先生は退職後に講師として再雇用されたおじいちゃん先生だ。とても優しくて穏やかで、寝ていても注意することは無い。
それゆえに殆どの生徒がこの時間は「おやすみタイム」と称して爆睡する。宮田も例外ではなかった。
「じゃ、よろしくな」
気楽そうに去ろうとする宮田の横顔めがけて、つい不満が飛び出した。
「何よ、クリスマスにデートする彼女に頼めばいいじゃん」
「そんなのいねぇよ」
「去年はいたじゃん」
「はぁ?」
宮田は訝しげな顔をして、奈々の顔をじっと見つめた。
あんまりにもワケが分からないと言った表情を浮かべるので、奈々は解説するように続けた。
「だって去年は“クリスマスは1人じゃない”って…」
面白くなさそうに呟いた奈々を見て、宮田は何故だかプッと吹き出した。
「な、なによ」
「いや、別に」
宮田はククク、と体を曲げて口元に手をやり、可笑しくてたまらない様子だ。
「なによ笑って!きちんと言わないとコピーしてあげないよ?」
「そんなに聞きたいのか?」
「べ、別に……」
宮田の意地悪そうな顔に、どういうわけか頬が赤くなって行くのが分かる。
「親父だよ」
「……は?」
「クリスマスは毎年、親父と映画に行くんだよ」
ポカンと口を開けたまま固まる奈々を見て宮田は、少し気恥ずかしそうに下を向く。
「ご期待に添えられず、残念でした」
「いや……いい、すごく素敵!いいなぁ、羨ましい!」
てっきり茶化されるかと思っていた宮田は、予想外の反応にしばし固まった。
「笑わないのか?」
「え?なんかおかしいの?いいなぁお父さんと映画なんて…」
キラキラと目を輝かせている奈々を前にして、宮田が続ける。
「小さい頃、親父がクリスマスになると映画に連れて行ってくれて。それがなんとなく・・・止め時を逃してさ」
「そっかぁ。でもいいなぁ、素敵だなぁ………すごく、好き」
“好き”の言葉に宮田が反応して、顔を上げた。
「あ・・・あ、違う!その、そういう変な“好き”じゃなくて!」
「・・・知ってるよ」
冷たく睨むような宮田の目が痛くて、奈々はバツが悪そうに目線を逸らす。
「オレも好きだぜ」
宮田から発せられた言葉に慌てて顔を上げると、そこには先程と同じ、意地悪そうな顔をした宮田がフッと笑っていた。
「映画のことだけど?」
「わ、分かってますー!」
じゃあな、と奈々の頭をポンと叩いて宮田が去って行く。
もう…と文句を言いながらも、どこかで頰の緩む自分がいる。
そっか、クリスマスは…お父さんと過ごすのかぁ…
去年から引きずっていたモヤモヤが晴れて、別になんの約束もない、1人のクリスマスには変わりがないのに、それでも心はどこかウキウキと弾んで仕方なかった。
昼食を済ませたあとで購買にノートのコピーを取りに行く際、廊下で宮田とすれ違った。
「あ、宮田。さっきはありがと」
「さっき?」
「黒板」
「…ああ。ところでお前コピーしに行くのか?」
手元のノートと小銭入れを見て宮田が問う。
「そうだよ」
「昨日の古文、オレの分も頼む」
そう言ってポケットから小銭を取り出し、呆気に取られている奈々の手元へ落とす。
「私のノートでいいの?」
「お前得意だろ」
古文の先生は退職後に講師として再雇用されたおじいちゃん先生だ。とても優しくて穏やかで、寝ていても注意することは無い。
それゆえに殆どの生徒がこの時間は「おやすみタイム」と称して爆睡する。宮田も例外ではなかった。
「じゃ、よろしくな」
気楽そうに去ろうとする宮田の横顔めがけて、つい不満が飛び出した。
「何よ、クリスマスにデートする彼女に頼めばいいじゃん」
「そんなのいねぇよ」
「去年はいたじゃん」
「はぁ?」
宮田は訝しげな顔をして、奈々の顔をじっと見つめた。
あんまりにもワケが分からないと言った表情を浮かべるので、奈々は解説するように続けた。
「だって去年は“クリスマスは1人じゃない”って…」
面白くなさそうに呟いた奈々を見て、宮田は何故だかプッと吹き出した。
「な、なによ」
「いや、別に」
宮田はククク、と体を曲げて口元に手をやり、可笑しくてたまらない様子だ。
「なによ笑って!きちんと言わないとコピーしてあげないよ?」
「そんなに聞きたいのか?」
「べ、別に……」
宮田の意地悪そうな顔に、どういうわけか頬が赤くなって行くのが分かる。
「親父だよ」
「……は?」
「クリスマスは毎年、親父と映画に行くんだよ」
ポカンと口を開けたまま固まる奈々を見て宮田は、少し気恥ずかしそうに下を向く。
「ご期待に添えられず、残念でした」
「いや……いい、すごく素敵!いいなぁ、羨ましい!」
てっきり茶化されるかと思っていた宮田は、予想外の反応にしばし固まった。
「笑わないのか?」
「え?なんかおかしいの?いいなぁお父さんと映画なんて…」
キラキラと目を輝かせている奈々を前にして、宮田が続ける。
「小さい頃、親父がクリスマスになると映画に連れて行ってくれて。それがなんとなく・・・止め時を逃してさ」
「そっかぁ。でもいいなぁ、素敵だなぁ………すごく、好き」
“好き”の言葉に宮田が反応して、顔を上げた。
「あ・・・あ、違う!その、そういう変な“好き”じゃなくて!」
「・・・知ってるよ」
冷たく睨むような宮田の目が痛くて、奈々はバツが悪そうに目線を逸らす。
「オレも好きだぜ」
宮田から発せられた言葉に慌てて顔を上げると、そこには先程と同じ、意地悪そうな顔をした宮田がフッと笑っていた。
「映画のことだけど?」
「わ、分かってますー!」
じゃあな、と奈々の頭をポンと叩いて宮田が去って行く。
もう…と文句を言いながらも、どこかで頰の緩む自分がいる。
そっか、クリスマスは…お父さんと過ごすのかぁ…
去年から引きずっていたモヤモヤが晴れて、別になんの約束もない、1人のクリスマスには変わりがないのに、それでも心はどこかウキウキと弾んで仕方なかった。