第4章:一喜一憂
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学校祭当日。
準備もせずに参加だけするのは悪いから、ということなのか、ボクシング関係で何かスケジュールが合わなかったのか、宮田は欠席した。
後夜祭の打ち上げ花火。
去年、宮田と二人で静かに見た花火を、クラスメイトとワイワイ騒いで見る。
「穴があくほど見ても、宮田はお空にいないよぉ?」
ミズキが耳元でこっそり呟く。
「・・・あのねぇ、ミズキ・・」
「残念だねぇ。一緒に見られなくて」
「・・・別に」
「なにその宮田みたいなリアクション」
ミズキが意地悪そうに笑っていうが、それに対して余裕あるリアクションが取れない。
本当に宮田みたいに腕を組み、目を瞑って黙るしかなかった。
「教室で、宮田と二人きりで花火とか、やるよねぇ」
「あ、あれは不可抗力で・・・」
「私もわかってるよ。でもライバルちゃんたちは、そう思わないんだろうね」
“ライバル”という生々しい単語を聞いて、脳裏に数人の顔が浮かぶ。そしてブンブンと頭を振り、
「ラ、ライバルだなんて」
「あのねぇ」
ミズキはいつにない厳しい口調と表情で、奈々の顔をじっと見つめて言った。
「認めないなら、先越されても、盗られても、文句言えないんだからね?」
花火が終わる最後のラッシュの音がパパパパと響く。
一瞬咲いて、煙と余韻だけを残して消えていく花火。
宮田みたいな花火。
「認めたところで、どうなるのよ」
煙になって頼りなく落ちてくる火花の行方を見ながら、ボソリと呟いた。
「私はただ近所に住んでるだけのクラスメイトだよ」
「・・・だからなんなのよ」
「宮田ファンのライバルには成り得ないってこと」
「ふうん・・・じゃ、宮田が誰かと付き合ってもいいんだ?」
しばし間が空いて、奈々が答える。
「宮田が選んだなら仕方ないじゃん」
「何それ、バカみたい」
ミズキは自分の恋愛が上手く言って、好きな人に好かれ、幸せの最中にいるから、わからないのだ。
宮田はとても強烈で、ちょっと笑っただけで、稲妻が落ちたみたいな衝撃をくれる、劇薬みたいな人。
少し触れるだけで、足の先までしびれるような、クセになる甘さをくれる人。
でも、距離感がわからない。
近づけば遠ざかって、遠ざかれば近づいて。
私はどの距離で、彼と接していけばいい?
考えれば考えるほど、相手が遠くなる。
宮田のことを好きな子がたくさんいる中で、自分だけは特別だなんて・・・
とても言えない。
「私が思うに、宮田は奈々に割と心を許してると思うけど?」
ミズキがボソリとつぶやく。
今までの思い出を頭に浮かべてみると、確かに心を許している気はしないでもないが、きっと他にもそういう人はいるんだと思う。
自分と宮田の間の思い出を、他の誰もが知らないのと同じで・・・
宮田と他の誰かの思い出を、自分が知らないだけだ。
「・・・そんなこと・・・ないよ」
花火が終わって、職員室の明かりがついた。
クラスメイトもバラバラと教室へ戻っていく。
夜の校舎に光る、職員室の明かり。
帰り道に宮田と一緒に見た光景。
去年は楽しかったな。
宮田、今何してるのかな。
あの時のこと、覚えてくれてるかな・・・・
ああ、そうだ。
自分はたぶん、あの時からずっと、
宮田のことが、好きなんだ。
認めてしまったら、急に怖くなった。
失いたくない。
だから・・・このままで、いい。
このままで・・・