TENDERNESS
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
9.とぼけたフリ
気まずいと思っていたのは私だけだったのかな。
たっちゃんには、何も気にしていなかったのかな。
まだ「大っ嫌い」の弁解、してないよ。
なのに、たっちゃんの態度はいつもと同じだ。
無かったことにされたのかな。
その中に含んだ「大好き」の気持ちごと。
-----------------------------
昨晩、久々に木村から電話があった。
内容は、日曜日にジムの連中でバーベキューするからお前も来い、とのことだった。
ジムのバーベキューといっても、後援会との交流会を兼ねているらしい。
年に1度の行事で、色々な人が参加するから、奈々が来ても問題ないのだそうだ。
そして日曜日の朝。
クラクションの音がしたので、奈々はいそいそと玄関のドアを開け、すぐ前に止まってある車へ近づいた。
するとウィンドウが徐々に下がり、そこから木村が「よっ」と顔を出した。
運転席には、話に聞いていた宮田の父親、そして助手席に宮田が座っていた。
「はじめまして、高杉奈々です」
宮田の父に挨拶をすると、相手も少し笑みを浮かべて
「どうも。いつも一郎が世話になってます」
と答えた。
宮田と違って、わりと感じのいい人だなと奈々は思った。
それから後部座席の木村の隣に座り、木村に話しかける。
「お誘いありがとね」
「いやいや。鷹村さんがお前も誘ったらどうだって言ってくれてな」
「・・・たっちゃんの誘いじゃないんだ?」
「またお前はそうやってすぐ・・・誘いたかったけどさ、身内呼ぶのって照れくさいんだぜ?」
“身内”じゃないけど、というセリフが喉まで出かかる。
「まぁ、とにかく楽しみだわ」
宮田親子のいる手前、ニッコリと作り笑いをして怒りをおさめた。
やがてバーベキュー会場に着き、車を脇に寄せて荷物を持って河川敷へ下っていく。
すでに何人か集まっていて、その中に炭をおこす青木の姿があった。
「まーくん、おつかれー」
「おお、奈々!よく来たな。久しぶりだな」
「しばらくラーメン食べに行ってないもんね」
へへへ、と笑いながら青木は再び炭おこしに熱中した。
それぞれが準備に奔走しているので、奈々も手伝いを始めた。
後援会らしき人たちも続々と集まってきて、木村や青木などプロボクサーたちは挨拶回りにも忙しい。
炭も野菜も準備できたところで、「よォ!」という威勢の良い掛け声と共に、遅れて鷹村が登場した。
やはり鴨川ジム一番のホープである。瞬く間に人に囲まれ、あれやこれやと世間話が始まった。
「鷹村の野郎、準備終わってから来やがって・・・」
「シッ・・明らかに見計らってきたんだろ、あの理不尽大王のことだから」
木村と青木がコソコソと嫌味を言う。
「おぉ!妹ちゃんか!?」
「鷹村さん、お招きありがとう」
「うむ。今日はオレ様のパーティーを楽しむがいい」
ニカッと笑って鷹村はまた、後援会の他のメンバーの輪へ取り込まれた。
それからは楽しい宴の時間。
奈々も前回会えなかった鴨川や八木へ挨拶をしたり、後援会の方々と話をしたりと、貴重な時間を過ごしていた。
「宮田、何してんの?」
「・・・見れば分かるだろ」
コンロから少し離れたところで、宮田が野菜の皮をむいていた。
手慣れた包丁さばきに、料理が得意そうな気配を感じた奈々は、
「上手ねぇ。料理好きなの?」
「別に・・・よく自分で作るってだけ」
「へー・・ところで野菜、足りなかった?」
バーベキューの方をチラリと見て奈々が言うと、宮田は手を止めること無く続けて
「残しても処理が大変だから、全部食っちまおうと思って」
「そっか、じゃあ私も手伝うよ」
「出来んの?」
「失礼ね!出来るわよ、皮むきくらいっ!」
宮田と並んで野菜の皮をむく。互いに無言だが、居心地は悪くない。
ふと木村はどこで何をしているだろう?と周りを見渡すと、後援会のおじさん達と楽しそうに話をしていた。
色々な人の期待を背負って闘う木村を、かっこいいと思った。
「おーい、木村ぁ」
「なんスか、鷹村さん」
手に焼きトウモロコシを抱えた鷹村が、木村にのそのそと近づいてくる。
「妹ちゃん、しばらく見ないうちに大人っぽくなりやがったな」
「そうですかね?オレは小さいときから知ってるから、よくわかんないスけど」
色の変わってきた肉を裏返しながら、木村が適当に答えると、鷹村はニヤリと笑って
「今、宮田となにやらコソコソしているようだが・・・アイツら付き合ってるのか?」
「さ、さあ・・仲は良いみたいですけど」
「大切な妹が、宮田に取られちゃうよォ!?」
いつもの調子で茶化す鷹村に、木村は乾いた笑いを浮かべながら
「宮田ならいいじゃないスか。オレも安心ですよ」
すると鷹村、トウモロコシをガブリとひと囓りして
「ふぅん」
と笑い、なにやらニヤけた顔を崩さないでいる。
「なんスか?」
「とぼけたフリしやがって、木村のくせに」
「・・・は?」
射貫くような鷹村の目線に、木村は逃げ場を失った気がした。
怯えたような表情を浮かべる木村を見て満足したのか、鷹村は再びニヤリと笑って
「まぁ、どーでもいいけどよォ」
と言い、またトウモロコシをひと囓りしてその場を離れた。
その後ろ姿を見ながら、木村は厄介な人物にコトを知られたと、内心青ざめた。
チラリと奈々の方に目をやると、ふと奈々と目が合った。
無邪気に笑顔を返す奈々に、“心ここにあらず”といった感じで手を振り返す。
奈々は木村を見ていたせいで、指を切ってしまったらしい。
宮田が奈々の手を掴んで、なにやら世話をしている。
やれ「よそ見するからだ」「うるさいわね」などという痴話げんかに似た喧噪が聞こえてくる。
同学年らしいというか、子供らしい雰囲気。
自分よりはずっと宮田の方が似合う気がするし、宮田もまんざらでもなさそう、と木村は思ったが・・・・
だからといって自分には、ただごまかし続けるということ意外に何も成す術は無かった。
気まずいと思っていたのは私だけだったのかな。
たっちゃんには、何も気にしていなかったのかな。
まだ「大っ嫌い」の弁解、してないよ。
なのに、たっちゃんの態度はいつもと同じだ。
無かったことにされたのかな。
その中に含んだ「大好き」の気持ちごと。
-----------------------------
昨晩、久々に木村から電話があった。
内容は、日曜日にジムの連中でバーベキューするからお前も来い、とのことだった。
ジムのバーベキューといっても、後援会との交流会を兼ねているらしい。
年に1度の行事で、色々な人が参加するから、奈々が来ても問題ないのだそうだ。
そして日曜日の朝。
クラクションの音がしたので、奈々はいそいそと玄関のドアを開け、すぐ前に止まってある車へ近づいた。
するとウィンドウが徐々に下がり、そこから木村が「よっ」と顔を出した。
運転席には、話に聞いていた宮田の父親、そして助手席に宮田が座っていた。
「はじめまして、高杉奈々です」
宮田の父に挨拶をすると、相手も少し笑みを浮かべて
「どうも。いつも一郎が世話になってます」
と答えた。
宮田と違って、わりと感じのいい人だなと奈々は思った。
それから後部座席の木村の隣に座り、木村に話しかける。
「お誘いありがとね」
「いやいや。鷹村さんがお前も誘ったらどうだって言ってくれてな」
「・・・たっちゃんの誘いじゃないんだ?」
「またお前はそうやってすぐ・・・誘いたかったけどさ、身内呼ぶのって照れくさいんだぜ?」
“身内”じゃないけど、というセリフが喉まで出かかる。
「まぁ、とにかく楽しみだわ」
宮田親子のいる手前、ニッコリと作り笑いをして怒りをおさめた。
やがてバーベキュー会場に着き、車を脇に寄せて荷物を持って河川敷へ下っていく。
すでに何人か集まっていて、その中に炭をおこす青木の姿があった。
「まーくん、おつかれー」
「おお、奈々!よく来たな。久しぶりだな」
「しばらくラーメン食べに行ってないもんね」
へへへ、と笑いながら青木は再び炭おこしに熱中した。
それぞれが準備に奔走しているので、奈々も手伝いを始めた。
後援会らしき人たちも続々と集まってきて、木村や青木などプロボクサーたちは挨拶回りにも忙しい。
炭も野菜も準備できたところで、「よォ!」という威勢の良い掛け声と共に、遅れて鷹村が登場した。
やはり鴨川ジム一番のホープである。瞬く間に人に囲まれ、あれやこれやと世間話が始まった。
「鷹村の野郎、準備終わってから来やがって・・・」
「シッ・・明らかに見計らってきたんだろ、あの理不尽大王のことだから」
木村と青木がコソコソと嫌味を言う。
「おぉ!妹ちゃんか!?」
「鷹村さん、お招きありがとう」
「うむ。今日はオレ様のパーティーを楽しむがいい」
ニカッと笑って鷹村はまた、後援会の他のメンバーの輪へ取り込まれた。
それからは楽しい宴の時間。
奈々も前回会えなかった鴨川や八木へ挨拶をしたり、後援会の方々と話をしたりと、貴重な時間を過ごしていた。
「宮田、何してんの?」
「・・・見れば分かるだろ」
コンロから少し離れたところで、宮田が野菜の皮をむいていた。
手慣れた包丁さばきに、料理が得意そうな気配を感じた奈々は、
「上手ねぇ。料理好きなの?」
「別に・・・よく自分で作るってだけ」
「へー・・ところで野菜、足りなかった?」
バーベキューの方をチラリと見て奈々が言うと、宮田は手を止めること無く続けて
「残しても処理が大変だから、全部食っちまおうと思って」
「そっか、じゃあ私も手伝うよ」
「出来んの?」
「失礼ね!出来るわよ、皮むきくらいっ!」
宮田と並んで野菜の皮をむく。互いに無言だが、居心地は悪くない。
ふと木村はどこで何をしているだろう?と周りを見渡すと、後援会のおじさん達と楽しそうに話をしていた。
色々な人の期待を背負って闘う木村を、かっこいいと思った。
「おーい、木村ぁ」
「なんスか、鷹村さん」
手に焼きトウモロコシを抱えた鷹村が、木村にのそのそと近づいてくる。
「妹ちゃん、しばらく見ないうちに大人っぽくなりやがったな」
「そうですかね?オレは小さいときから知ってるから、よくわかんないスけど」
色の変わってきた肉を裏返しながら、木村が適当に答えると、鷹村はニヤリと笑って
「今、宮田となにやらコソコソしているようだが・・・アイツら付き合ってるのか?」
「さ、さあ・・仲は良いみたいですけど」
「大切な妹が、宮田に取られちゃうよォ!?」
いつもの調子で茶化す鷹村に、木村は乾いた笑いを浮かべながら
「宮田ならいいじゃないスか。オレも安心ですよ」
すると鷹村、トウモロコシをガブリとひと囓りして
「ふぅん」
と笑い、なにやらニヤけた顔を崩さないでいる。
「なんスか?」
「とぼけたフリしやがって、木村のくせに」
「・・・は?」
射貫くような鷹村の目線に、木村は逃げ場を失った気がした。
怯えたような表情を浮かべる木村を見て満足したのか、鷹村は再びニヤリと笑って
「まぁ、どーでもいいけどよォ」
と言い、またトウモロコシをひと囓りしてその場を離れた。
その後ろ姿を見ながら、木村は厄介な人物にコトを知られたと、内心青ざめた。
チラリと奈々の方に目をやると、ふと奈々と目が合った。
無邪気に笑顔を返す奈々に、“心ここにあらず”といった感じで手を振り返す。
奈々は木村を見ていたせいで、指を切ってしまったらしい。
宮田が奈々の手を掴んで、なにやら世話をしている。
やれ「よそ見するからだ」「うるさいわね」などという痴話げんかに似た喧噪が聞こえてくる。
同学年らしいというか、子供らしい雰囲気。
自分よりはずっと宮田の方が似合う気がするし、宮田もまんざらでもなさそう、と木村は思ったが・・・・
だからといって自分には、ただごまかし続けるということ意外に何も成す術は無かった。