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8.ボクサーならば
大嫌いだなんて初めて言った。
たっちゃんは分かってくれているはず。
それが本当の「大っ嫌い」じゃないことくらい。
そしてたっちゃんは知っているはず。
それは本当は「大好き」だってことくらい。
--------------------------
「おはよ」
奈々は通学バスの関係で、いつも時間ギリギリに学校に着く。
すでに席に着き、伏せて寝ている宮田の頭上から挨拶を交わすと、宮田は怠そうに起き上がって「おはよう」と言った。
「今日みたいな雨でも、朝から走るの?」
「ああ・・・毎日な」
「すごいね」
二言三言交わしてから、奈々は自分の席に着いた。
まもなくチャイムが鳴り、教室はバタバタと騒がしい雰囲気に包まれた。
HRが終わって、1時間目は物理。
実験室まで移動するため、またしても教室内がバタバタと騒がしくなる。
「ねぇ宮田」
1人で歩いている宮田を、奈々は後ろから追いかけて声を掛けた。
「なんだよ」
「たっちゃん、昨日も頑張ってた?」
「たぶん」
「ちゃんと見ておいてって言ったじゃん」
「他人の練習風景なんていちいち見てるわけないだろ」
冷たく言い放つ宮田に、奈々は面白く無さそうな顔をしつつも、確かに言われた通りだと思って口を閉ざしてしまった。
「そんなに好きなら見に来ればいいじゃねえか」
宮田が吐き捨てるように呟いた。
毎日毎日、木村のことで話しかけられてウンザリしているのだろう。
荒っぽい言いぐさながらも図星をさされ、奈々は慌てふためいて
「すっ・・好きとかそういうことじゃなくてっ!・・そのっ・・・っていうか、な、なんで分かった!?」
耳まで赤くしてうろたえる奈々を前に、宮田は大きな溜息をついて
「バレてないとでも?」
と言った。
まもなく実験室に着き、班が違うため別々の席に座らなければならず、宮田との会話はそこで終わってしまった。
宮田に自分の気持ちがバレバレだった。それは、単に自分が毎日木村の様子を尋ねているから、というだけの理由だろう。
青木にも、親にも、特に指摘されたことはない。
木村には自分の気持ちはとっくにバレているだろうと分かっていた。
だからこそ、それから目を逸らすような態度ばかりする木村が腹立たしい。
それよりもなによりも、目を逸らされている自分の存在が悲しいのだ。
しかし自分だって、幼なじみとか妹みたいな地位を利用して、木村の側にいるのだ。
何も言わずに遠ざける木村を卑怯だと言うのなら、自分だって立派な卑怯者だ。
彼に対し、どんな文句が言えるというのだろう。
授業など上の空で、ただノートの上にぐちゃぐちゃと線を引いて1時間が過ぎた。
「宮田ぁ」
授業が終わってクラスに戻る前、奈々は再び宮田に声を掛けた。
「なんだよ」
「さっきの話」
宮田が一瞬、めんどくさそうな顔をした。
「あんただったら、どうする?」
「・・・何が」
「脈の無さそうな人に好きっていう?」
宮田は斜め上を見るようにしばし考え込んでから
「…さぁな。人を好きになったことなんて無いし」
と答えた。
「は?」
「だから、そういう気持ちが分からねぇの」
「・・・・はぁ?」
「なんだよその顔」
「だ、だって…」
16歳男子たるもの、一生のうちで1人や2人は好きな女の子くらい出来たことがあるはず。
それなのに、宮田は平然とした顔で「人を好きになったことなどない」と答えた。
幼い頃からボクシングばっかりやっているから頭がイカれちゃったのかもしれない、なんて失礼な事すら浮かぶ。
「じゃ、もし好きになったら?」
「知るかよ」
「たとえばの話!ボクシングに喩えたら、勝ち目のない相手に立ち向かう?あきらめる?」
「ボクシングなら立ち向かうけど・・・恋愛とは別だろ?」
「そっか、宮田は立ち向かうのかぁ」
「聞けよ人の話・・・」
ボクサーの宮田が立ち向かうのであれば、ボクサーの木村に挑む自分もまた、立ち向かわなければならない。
そんな論理で奈々は、自分の気持ちにけじめをつけた。
妙に清々しい表情を浮かべる奈々の横で、宮田は心底面倒そうな表情をしていた。
「勝ち目が無いと思ってるのか?」
「だって、全く脈がないもん」
奈々が頬を膨らまして拗ねると宮田は少し笑みを浮かべて
「ガキだもんな」
「・・・あんたと同い年ですけど?そして2歳しか違わないけど?」
「見た目」
「うっわ、腹立つ!」
宮田の背中をバシンと叩き、奈々は思い切り不機嫌な顔をしている。
その様子が宮田には面白かったのか、ぷっと吹き出すように笑うと、奈々が肘を押し付けて小さく反抗した。
「まぁ・・・話、聞いてくれてありがとね」
教室に入って分かれ際、奈々はそういって宮田に軽く手を振った。
その顔は決して晴れたものではなく、いつも勝ち気な奈々にどこか小さな影を落としている。
宮田はふうっとため息をついて、同じように曇った窓の外を眺めた。
大嫌いだなんて初めて言った。
たっちゃんは分かってくれているはず。
それが本当の「大っ嫌い」じゃないことくらい。
そしてたっちゃんは知っているはず。
それは本当は「大好き」だってことくらい。
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「おはよ」
奈々は通学バスの関係で、いつも時間ギリギリに学校に着く。
すでに席に着き、伏せて寝ている宮田の頭上から挨拶を交わすと、宮田は怠そうに起き上がって「おはよう」と言った。
「今日みたいな雨でも、朝から走るの?」
「ああ・・・毎日な」
「すごいね」
二言三言交わしてから、奈々は自分の席に着いた。
まもなくチャイムが鳴り、教室はバタバタと騒がしい雰囲気に包まれた。
HRが終わって、1時間目は物理。
実験室まで移動するため、またしても教室内がバタバタと騒がしくなる。
「ねぇ宮田」
1人で歩いている宮田を、奈々は後ろから追いかけて声を掛けた。
「なんだよ」
「たっちゃん、昨日も頑張ってた?」
「たぶん」
「ちゃんと見ておいてって言ったじゃん」
「他人の練習風景なんていちいち見てるわけないだろ」
冷たく言い放つ宮田に、奈々は面白く無さそうな顔をしつつも、確かに言われた通りだと思って口を閉ざしてしまった。
「そんなに好きなら見に来ればいいじゃねえか」
宮田が吐き捨てるように呟いた。
毎日毎日、木村のことで話しかけられてウンザリしているのだろう。
荒っぽい言いぐさながらも図星をさされ、奈々は慌てふためいて
「すっ・・好きとかそういうことじゃなくてっ!・・そのっ・・・っていうか、な、なんで分かった!?」
耳まで赤くしてうろたえる奈々を前に、宮田は大きな溜息をついて
「バレてないとでも?」
と言った。
まもなく実験室に着き、班が違うため別々の席に座らなければならず、宮田との会話はそこで終わってしまった。
宮田に自分の気持ちがバレバレだった。それは、単に自分が毎日木村の様子を尋ねているから、というだけの理由だろう。
青木にも、親にも、特に指摘されたことはない。
木村には自分の気持ちはとっくにバレているだろうと分かっていた。
だからこそ、それから目を逸らすような態度ばかりする木村が腹立たしい。
それよりもなによりも、目を逸らされている自分の存在が悲しいのだ。
しかし自分だって、幼なじみとか妹みたいな地位を利用して、木村の側にいるのだ。
何も言わずに遠ざける木村を卑怯だと言うのなら、自分だって立派な卑怯者だ。
彼に対し、どんな文句が言えるというのだろう。
授業など上の空で、ただノートの上にぐちゃぐちゃと線を引いて1時間が過ぎた。
「宮田ぁ」
授業が終わってクラスに戻る前、奈々は再び宮田に声を掛けた。
「なんだよ」
「さっきの話」
宮田が一瞬、めんどくさそうな顔をした。
「あんただったら、どうする?」
「・・・何が」
「脈の無さそうな人に好きっていう?」
宮田は斜め上を見るようにしばし考え込んでから
「…さぁな。人を好きになったことなんて無いし」
と答えた。
「は?」
「だから、そういう気持ちが分からねぇの」
「・・・・はぁ?」
「なんだよその顔」
「だ、だって…」
16歳男子たるもの、一生のうちで1人や2人は好きな女の子くらい出来たことがあるはず。
それなのに、宮田は平然とした顔で「人を好きになったことなどない」と答えた。
幼い頃からボクシングばっかりやっているから頭がイカれちゃったのかもしれない、なんて失礼な事すら浮かぶ。
「じゃ、もし好きになったら?」
「知るかよ」
「たとえばの話!ボクシングに喩えたら、勝ち目のない相手に立ち向かう?あきらめる?」
「ボクシングなら立ち向かうけど・・・恋愛とは別だろ?」
「そっか、宮田は立ち向かうのかぁ」
「聞けよ人の話・・・」
ボクサーの宮田が立ち向かうのであれば、ボクサーの木村に挑む自分もまた、立ち向かわなければならない。
そんな論理で奈々は、自分の気持ちにけじめをつけた。
妙に清々しい表情を浮かべる奈々の横で、宮田は心底面倒そうな表情をしていた。
「勝ち目が無いと思ってるのか?」
「だって、全く脈がないもん」
奈々が頬を膨らまして拗ねると宮田は少し笑みを浮かべて
「ガキだもんな」
「・・・あんたと同い年ですけど?そして2歳しか違わないけど?」
「見た目」
「うっわ、腹立つ!」
宮田の背中をバシンと叩き、奈々は思い切り不機嫌な顔をしている。
その様子が宮田には面白かったのか、ぷっと吹き出すように笑うと、奈々が肘を押し付けて小さく反抗した。
「まぁ・・・話、聞いてくれてありがとね」
教室に入って分かれ際、奈々はそういって宮田に軽く手を振った。
その顔は決して晴れたものではなく、いつも勝ち気な奈々にどこか小さな影を落としている。
宮田はふうっとため息をついて、同じように曇った窓の外を眺めた。