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7.兄として
たっちゃんは、やっぱりバカだ。
人一倍、臆病なところのあるたっちゃん。
意外と繊細で、人の心に敏感なたっちゃん。
だからこそ、優しくて、
だからこそ、不良になっちゃった。
ねぇ、たっちゃんさ。
ボクシングに向き合うように
私にも向き合ってくれないの?
-----------------------------
「よぉ、奈々」
学校帰りの奈々が「木村園芸」の前を通りかかったとき、不意に声を掛けてきたのは、珍しく店先に立っていた木村だった。
「たっちゃん、この時間に店番?珍しいね」
「あー、オフクロが今日、用事有るってさ。親父も配達出てるし、ジムは夜遅くに行くことにしたんだわ」
「へー」
奈々は立ち止まって、エプロン姿の木村をジロジロと眺めた。
近所に住んでいるにも関わらず、木村の家は登下校の際くらいにしか通らない。
店番をしている姿は、滅多に見られないのだ。
「そうだ、お前さ」
「うん」
「宮田と映画行ったんだって?」
なんで木村がそのことを知っているのだろう、と奈々は不思議に思った。
宮田の性格上、プライベートなことは余り口に出さないはず。
奈々が一瞬目を大きく見開くと、木村は笑って
「ジムで“トルネード”の話になってよ。宮田がお前と見たって言ってたから」
「私も学校でその話してたら、宮田がスティーブン監督のマニアだって知って、誘ったの」
へぇ、と木村が軽い相づちを打って続ける。
「お前と宮田って、意外な組み合わせだよな、ちょっと驚いたぜ」
「そう?学校では割とよく話してるよ。たっちゃんの事とか」
「へー、仲良いんだな」
奈々はその返事を聞いて内心苛立ちを覚えたが、いちいち突っかかるのも可愛くないと思って堪えた。
「まぁ、普通だよ」
「あの付き合い悪い宮田が映画に行くなんて、珍しいんだぜ?」
「スティーブン監督だから行ったんでしょ?それにチケットもタダなわけだし」
木村の“意図”が、突き刺さるほど感じられる。
宮田と自分の間に、何かが芽生えますようにとでも言いたげな口調に奈々はますます腹立たしくなる。
「まぁ映画は本当に面白かったよ」
「そっか、人気だもんなあ」
「特に熱いシーンはさぁ、予告でも流れてるあの・・」
すると木村は、奈々の言葉を遮るように
「言うなっ!オレも今週末行くんだからっ!」
そう言われて、奈々は固まってしまった。
その様子に気付いた木村はハッとして、フォローするように乾いた笑いを浮かべながら
「こ、これから見るヤツだって沢山いるんだぜ?バラすなんてマナー違反だろうが」
「別に、予告でも流れてたところだけど」
「で、でも実際に見るのとじゃ・・・」
見るからに落ち込んだ奈々の態度から、木村は目を逸らして弁解を続ける。
「そうだよね、デートで見る大切な映画だもんね」
「ま、まぁ・・・」
「私も宮田とデートして楽しかったよ」
当てつけるように奈々が言うと、木村は引きつった笑いを浮かべながら、
「そ、そっかぁ。お前ら、うまくいくといいな!」
奈々のイライラは頂点に達していた。
なぜ自分が、ここまで我慢しなければならないのだろう。
「うまくいくってどういう意味?」
「い、いやぁ…仲良さそうだし、と思って…ま、まぁ宮田にも選ぶ権利あるけどなぁ!」
木村のいつもの冗談が、奈々の心をえぐるように深く刺さっていく。
普段なら「失礼ね、たっちゃん」と笑えたはずの言葉。
今はそんな余裕など、まるで無かった。
「・・・っと、ちょっと言い過ぎたか・・おい、奈々」
いつものように怒ることもなく、ただ険しい顔をして固まってしまった奈々を前に、木村が取り繕うように話しかける。
「おい、そんなにムクれるなよォ。冗談だっつぅの。宮田もまんざらじゃねぇかもよ?」
木村が口を開けば開くほど、憎らしくなってくる。
「たっちゃん」
「・・・なんだよ」
泥流が心に渦巻く。
木村が自分のことを見てくれない苛立ち。
宮田を押しつけてくる態度。
木村とデートする女の子に対する嫉妬。
そんな風にしか思って貰えない自分が、余りにも惨めで、情けなくて、でもその気持ちをどうやって処理したらいいのか分からない。
「大っ嫌い!!」
奈々はその後の木村の反応を見ないように、走り去った。
奈々の後ろ姿を情けないほどボンヤリ眺めていた木村は、その姿が見えなくなると同時に頭を抱えた。
「無理だろぉ、だって…」
脳裏に浮かぶのは、小さい頃の思い出ばかり。
「どう考えたって、妹じゃねぇかよ…」
奈々の好意はありがたいほどに感じていた。
けれど、じゃあ実際付き合ったとして。
抱けるか?あいつを。
そう思うと、罪悪感に近いものすら感じる。
本能的なレベルで、拒絶してしまう。
たっちゃん、たっちゃん、と後を付けて来た小さな妹。
もう、あんな日々には戻れないのかと思うと、木村は心が痛む。
自分のせいか?
そう考えて頭を振る。
違う、誰のせいでもない。
ふぅっとため息をついたのもつかの間、携帯から着信音が鳴り響く。
名前を見ると、意中の相手。
「おっ♪」
木村は今しがたの憂鬱を忘れて、いそいそと通話ボタンを押した。
たっちゃんは、やっぱりバカだ。
人一倍、臆病なところのあるたっちゃん。
意外と繊細で、人の心に敏感なたっちゃん。
だからこそ、優しくて、
だからこそ、不良になっちゃった。
ねぇ、たっちゃんさ。
ボクシングに向き合うように
私にも向き合ってくれないの?
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「よぉ、奈々」
学校帰りの奈々が「木村園芸」の前を通りかかったとき、不意に声を掛けてきたのは、珍しく店先に立っていた木村だった。
「たっちゃん、この時間に店番?珍しいね」
「あー、オフクロが今日、用事有るってさ。親父も配達出てるし、ジムは夜遅くに行くことにしたんだわ」
「へー」
奈々は立ち止まって、エプロン姿の木村をジロジロと眺めた。
近所に住んでいるにも関わらず、木村の家は登下校の際くらいにしか通らない。
店番をしている姿は、滅多に見られないのだ。
「そうだ、お前さ」
「うん」
「宮田と映画行ったんだって?」
なんで木村がそのことを知っているのだろう、と奈々は不思議に思った。
宮田の性格上、プライベートなことは余り口に出さないはず。
奈々が一瞬目を大きく見開くと、木村は笑って
「ジムで“トルネード”の話になってよ。宮田がお前と見たって言ってたから」
「私も学校でその話してたら、宮田がスティーブン監督のマニアだって知って、誘ったの」
へぇ、と木村が軽い相づちを打って続ける。
「お前と宮田って、意外な組み合わせだよな、ちょっと驚いたぜ」
「そう?学校では割とよく話してるよ。たっちゃんの事とか」
「へー、仲良いんだな」
奈々はその返事を聞いて内心苛立ちを覚えたが、いちいち突っかかるのも可愛くないと思って堪えた。
「まぁ、普通だよ」
「あの付き合い悪い宮田が映画に行くなんて、珍しいんだぜ?」
「スティーブン監督だから行ったんでしょ?それにチケットもタダなわけだし」
木村の“意図”が、突き刺さるほど感じられる。
宮田と自分の間に、何かが芽生えますようにとでも言いたげな口調に奈々はますます腹立たしくなる。
「まぁ映画は本当に面白かったよ」
「そっか、人気だもんなあ」
「特に熱いシーンはさぁ、予告でも流れてるあの・・」
すると木村は、奈々の言葉を遮るように
「言うなっ!オレも今週末行くんだからっ!」
そう言われて、奈々は固まってしまった。
その様子に気付いた木村はハッとして、フォローするように乾いた笑いを浮かべながら
「こ、これから見るヤツだって沢山いるんだぜ?バラすなんてマナー違反だろうが」
「別に、予告でも流れてたところだけど」
「で、でも実際に見るのとじゃ・・・」
見るからに落ち込んだ奈々の態度から、木村は目を逸らして弁解を続ける。
「そうだよね、デートで見る大切な映画だもんね」
「ま、まぁ・・・」
「私も宮田とデートして楽しかったよ」
当てつけるように奈々が言うと、木村は引きつった笑いを浮かべながら、
「そ、そっかぁ。お前ら、うまくいくといいな!」
奈々のイライラは頂点に達していた。
なぜ自分が、ここまで我慢しなければならないのだろう。
「うまくいくってどういう意味?」
「い、いやぁ…仲良さそうだし、と思って…ま、まぁ宮田にも選ぶ権利あるけどなぁ!」
木村のいつもの冗談が、奈々の心をえぐるように深く刺さっていく。
普段なら「失礼ね、たっちゃん」と笑えたはずの言葉。
今はそんな余裕など、まるで無かった。
「・・・っと、ちょっと言い過ぎたか・・おい、奈々」
いつものように怒ることもなく、ただ険しい顔をして固まってしまった奈々を前に、木村が取り繕うように話しかける。
「おい、そんなにムクれるなよォ。冗談だっつぅの。宮田もまんざらじゃねぇかもよ?」
木村が口を開けば開くほど、憎らしくなってくる。
「たっちゃん」
「・・・なんだよ」
泥流が心に渦巻く。
木村が自分のことを見てくれない苛立ち。
宮田を押しつけてくる態度。
木村とデートする女の子に対する嫉妬。
そんな風にしか思って貰えない自分が、余りにも惨めで、情けなくて、でもその気持ちをどうやって処理したらいいのか分からない。
「大っ嫌い!!」
奈々はその後の木村の反応を見ないように、走り去った。
奈々の後ろ姿を情けないほどボンヤリ眺めていた木村は、その姿が見えなくなると同時に頭を抱えた。
「無理だろぉ、だって…」
脳裏に浮かぶのは、小さい頃の思い出ばかり。
「どう考えたって、妹じゃねぇかよ…」
奈々の好意はありがたいほどに感じていた。
けれど、じゃあ実際付き合ったとして。
抱けるか?あいつを。
そう思うと、罪悪感に近いものすら感じる。
本能的なレベルで、拒絶してしまう。
たっちゃん、たっちゃん、と後を付けて来た小さな妹。
もう、あんな日々には戻れないのかと思うと、木村は心が痛む。
自分のせいか?
そう考えて頭を振る。
違う、誰のせいでもない。
ふぅっとため息をついたのもつかの間、携帯から着信音が鳴り響く。
名前を見ると、意中の相手。
「おっ♪」
木村は今しがたの憂鬱を忘れて、いそいそと通話ボタンを押した。