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6.へぇ
ハリウッド映画に付きもののラブシーン。
惹かれ合う二人、愛し合う二人、助け合う二人。
たっちゃんはこれを、別の女の子と見るんだ。
自分たちに重ねながら。
気持ち悪っ、なんて悪態のひとつでもつきたくなるけど、私だって、自分を重ねてた。
隣が宮田じゃなくて、たっちゃんだったら良かったのに、って。
私が、他の男と映画に行った
なんて言ったら、たっちゃんはどう思うのかな?
------------------------
「よぉっ!」
最近の木村はいつになくご機嫌だ。
先日、鷹村そして青木の3人で開催した合コンで、仲良くなった女の子が居るらしい、とは鷹村の談。
鼻歌交じりで着替えをする木村に、青木が話しかける。
「どうだ?調子は?」
「今度デートよ」
「おぉっ・・・ゴム持ってけよ!」
「気が早ぇよバカ。・・・でも一応な」
「バカはどっちだよ」
木村の来るちょっと前に来たばかりの宮田は、二人の会話に混ざることなく黙々と着替えをしている。
「んで、どこいくのよデート」
「ああ、映画見に行くんだ」
「“トルネード”か?今流行ってる」
「そうそう。チケットも買ったし、準備万端よ!」
「あとはゴムだけだな」
「おうよ、ビシっとキメてやんぜ今回は!」
別に聞き耳を立てていたわけではない。
単に耳に入ってしまっただけのことであるが、宮田は木村が奈々の誘いを断った理由を把握した。
全く男女というヤツは面倒だ、と思う反面、一緒に映画に行った際の奈々の空回りとも言えるテンションを思い出すと、なんとなく居心地の悪さを感じる。
ガシャンと立て付けの悪いロッカーを閉めると、宮田は何も言わずに1階のリングに降りていった。
そして浮ついた話に夢中の青木村は、宮田が出て行ったことにも気付かなかった。
「な~んだ?浮かれた顔しやがってよォ」
ロードワークから帰ってきた鷹村が、ニヤニヤと締まらない顔つきの木村に蹴りを入れる。
いつもなら反撃や反論を繰り出すハズの木村が、今日はニヤけた顔のまま笑っている。
その様子に鷹村は、あからさまな嫌悪感を示した。
「コイツ、デートなんですって」
「何ィ?いつだよ?」
「絶対言いませんよ!邪魔しに来る気だろアンタ!!」
「生意気なんだよォ、木村のくせに!」
再度、尻に膝蹴りを食らうも、木村のニヤけた顔は崩れない。
一方で合コンの成果を上げられなかった鷹村は、ますますイラつきを増した。
ヘッドロックをかけながら、木村に根掘り葉掘りデートプランを問い詰める。
案外鷹村も、他人のゴシップが好きなようである。
「“トルネード”見に行くんですって」
「ああ、スティーブン監督のか?」
青木の言葉に鷹村が返すと、木村も青木も驚いた顔で
「鷹村さん、映画詳しいんスか?」
「いや、宮田が話していたのを聞いただけだ。オレ様は見たことがない」
「宮田が?」
すると鷹村は突然大声で宮田の名前を呼び、シャドーをしていた宮田がピタリと動作を止めた。
「なんです?」
「お前、スティーブン監督好きだったよな?」
「・・・・それが何か?」
宮田が冷たく答えると、青木村は目を見合わせて驚いた。
「お前、映画好きなのか?」
木村の問いかけに、宮田は目を閉じてつまらなそうに答える。
「・・・その監督のだけは見るんですよ」
「へぇ、意外だな」
「じゃあ、“トルネード”はもう見に行ったのか?」
青木も宮田がボクシング以外の事に興味を示すのが珍しいらしい。
身を乗り出して、興味津々な体勢だ。
「見ましたよ」
「おぉ~、誰とだよ?デートか?」
「何ィ!宮田のくせにデートだぁ!?」
茶化す青木の言葉に、鷹村が大げさとも言えるリアクションを取る。
木村ばかりか宮田にまで浮ついた話があるのが、理不尽大王としては許せないのだろう。
「・・・別に。誘われただけですけど」
「お前も隅に置けねぇなぁ。まぁツラだけは良いもんな!」
「キサマ、ボクシングバカだと思っていたら早々と脱童貞か!この野郎!」
「・・・バカじゃねぇの」
ジム内がギャンギャンと騒がしくなる。
そんな中、宮田は遠くから近づいてくる影にいち早く気付き、くるりとその場に背を向け、再びシャドーを始めた。
「宮田ァ、キサマさっさと筆おろし済ませやがってガキのくせに~」
「鷹村さん、宮田は映画に行ったしか言ってませんよ」
「うるせぇ!映画の後はセックスだろうが!」
「そりゃアンタだけだよバカ野郎!」
「な~にウダウダやっとんじゃぁ、貴様らァ!!」
鴨川はステッキを鷹村の首に引っかけ、怒鳴り声を上げた。
突然現れた鴨川に驚きつつ、青木と木村はその場をそそくさと離れた。
「ま、待ちやがれテメェら!」
「やかましいわ!ホレ鷹村っ、ロードワークじゃぁっ!」
鴨川はそのままステッキを引っ張り、犬の散歩のように鷹村を外へ連れ出した。
鷹村の罵声が遠のいていく中、一同はホッと胸をなで下ろす。
ジム一番の古株・宮田は、こういう危機に対する察知能力が非常に高い。
雷を落とされないポイントへいち早く身を隠し、1人だけ涼しい顔をしている宮田に木村が近づく。
「お前、見えてたなら言えよ」
「別に」
「あ~、相変わらず可愛くねぇの。女も出来てますます生意気になって」
3分間の終わりを告げるブザーが鳴ると、宮田は木村を避けるように、シャドーを終えてベンチに座った。
すると木村がコソコソと追いかけてくる。
「で、デートはどうだったんだよ?」
「デートじゃないですって」
「誰と行ったんだ?クラスメートか?」
「・・・高杉ですよ。木村さんの妹の」
宮田はわざと棘のある言葉を返した。
案の定、木村が一瞬固まった。
「奈々と?」
「チケットが余ったからって」
「・・へぇ。お前、奈々と仲良いのか?」
「別に・・・元々は別の人と行くつもりだったみたいですけど」
宮田はそういってチラりと木村を見ると、なんともバツの悪そうな顔をしていたのに気がついた。
一方で木村は、宮田がどこまで何を知っているのかという焦りが沸いていた。
自分は奈々の気持ちに気付かないようにしている。奈々は宮田に、自分のことを何か話したのだろうか?
それとも単に、何かのいきさつがあって一緒に行っただけのことだろうか?
ここで詳しく聞くのもバカバカしいと木村は思い直し、「へぇ」とだけ返事をして自分も練習に戻った。
宮田もそれ以上、その話をすることは無かった。
ハリウッド映画に付きもののラブシーン。
惹かれ合う二人、愛し合う二人、助け合う二人。
たっちゃんはこれを、別の女の子と見るんだ。
自分たちに重ねながら。
気持ち悪っ、なんて悪態のひとつでもつきたくなるけど、私だって、自分を重ねてた。
隣が宮田じゃなくて、たっちゃんだったら良かったのに、って。
私が、他の男と映画に行った
なんて言ったら、たっちゃんはどう思うのかな?
------------------------
「よぉっ!」
最近の木村はいつになくご機嫌だ。
先日、鷹村そして青木の3人で開催した合コンで、仲良くなった女の子が居るらしい、とは鷹村の談。
鼻歌交じりで着替えをする木村に、青木が話しかける。
「どうだ?調子は?」
「今度デートよ」
「おぉっ・・・ゴム持ってけよ!」
「気が早ぇよバカ。・・・でも一応な」
「バカはどっちだよ」
木村の来るちょっと前に来たばかりの宮田は、二人の会話に混ざることなく黙々と着替えをしている。
「んで、どこいくのよデート」
「ああ、映画見に行くんだ」
「“トルネード”か?今流行ってる」
「そうそう。チケットも買ったし、準備万端よ!」
「あとはゴムだけだな」
「おうよ、ビシっとキメてやんぜ今回は!」
別に聞き耳を立てていたわけではない。
単に耳に入ってしまっただけのことであるが、宮田は木村が奈々の誘いを断った理由を把握した。
全く男女というヤツは面倒だ、と思う反面、一緒に映画に行った際の奈々の空回りとも言えるテンションを思い出すと、なんとなく居心地の悪さを感じる。
ガシャンと立て付けの悪いロッカーを閉めると、宮田は何も言わずに1階のリングに降りていった。
そして浮ついた話に夢中の青木村は、宮田が出て行ったことにも気付かなかった。
「な~んだ?浮かれた顔しやがってよォ」
ロードワークから帰ってきた鷹村が、ニヤニヤと締まらない顔つきの木村に蹴りを入れる。
いつもなら反撃や反論を繰り出すハズの木村が、今日はニヤけた顔のまま笑っている。
その様子に鷹村は、あからさまな嫌悪感を示した。
「コイツ、デートなんですって」
「何ィ?いつだよ?」
「絶対言いませんよ!邪魔しに来る気だろアンタ!!」
「生意気なんだよォ、木村のくせに!」
再度、尻に膝蹴りを食らうも、木村のニヤけた顔は崩れない。
一方で合コンの成果を上げられなかった鷹村は、ますますイラつきを増した。
ヘッドロックをかけながら、木村に根掘り葉掘りデートプランを問い詰める。
案外鷹村も、他人のゴシップが好きなようである。
「“トルネード”見に行くんですって」
「ああ、スティーブン監督のか?」
青木の言葉に鷹村が返すと、木村も青木も驚いた顔で
「鷹村さん、映画詳しいんスか?」
「いや、宮田が話していたのを聞いただけだ。オレ様は見たことがない」
「宮田が?」
すると鷹村は突然大声で宮田の名前を呼び、シャドーをしていた宮田がピタリと動作を止めた。
「なんです?」
「お前、スティーブン監督好きだったよな?」
「・・・・それが何か?」
宮田が冷たく答えると、青木村は目を見合わせて驚いた。
「お前、映画好きなのか?」
木村の問いかけに、宮田は目を閉じてつまらなそうに答える。
「・・・その監督のだけは見るんですよ」
「へぇ、意外だな」
「じゃあ、“トルネード”はもう見に行ったのか?」
青木も宮田がボクシング以外の事に興味を示すのが珍しいらしい。
身を乗り出して、興味津々な体勢だ。
「見ましたよ」
「おぉ~、誰とだよ?デートか?」
「何ィ!宮田のくせにデートだぁ!?」
茶化す青木の言葉に、鷹村が大げさとも言えるリアクションを取る。
木村ばかりか宮田にまで浮ついた話があるのが、理不尽大王としては許せないのだろう。
「・・・別に。誘われただけですけど」
「お前も隅に置けねぇなぁ。まぁツラだけは良いもんな!」
「キサマ、ボクシングバカだと思っていたら早々と脱童貞か!この野郎!」
「・・・バカじゃねぇの」
ジム内がギャンギャンと騒がしくなる。
そんな中、宮田は遠くから近づいてくる影にいち早く気付き、くるりとその場に背を向け、再びシャドーを始めた。
「宮田ァ、キサマさっさと筆おろし済ませやがってガキのくせに~」
「鷹村さん、宮田は映画に行ったしか言ってませんよ」
「うるせぇ!映画の後はセックスだろうが!」
「そりゃアンタだけだよバカ野郎!」
「な~にウダウダやっとんじゃぁ、貴様らァ!!」
鴨川はステッキを鷹村の首に引っかけ、怒鳴り声を上げた。
突然現れた鴨川に驚きつつ、青木と木村はその場をそそくさと離れた。
「ま、待ちやがれテメェら!」
「やかましいわ!ホレ鷹村っ、ロードワークじゃぁっ!」
鴨川はそのままステッキを引っ張り、犬の散歩のように鷹村を外へ連れ出した。
鷹村の罵声が遠のいていく中、一同はホッと胸をなで下ろす。
ジム一番の古株・宮田は、こういう危機に対する察知能力が非常に高い。
雷を落とされないポイントへいち早く身を隠し、1人だけ涼しい顔をしている宮田に木村が近づく。
「お前、見えてたなら言えよ」
「別に」
「あ~、相変わらず可愛くねぇの。女も出来てますます生意気になって」
3分間の終わりを告げるブザーが鳴ると、宮田は木村を避けるように、シャドーを終えてベンチに座った。
すると木村がコソコソと追いかけてくる。
「で、デートはどうだったんだよ?」
「デートじゃないですって」
「誰と行ったんだ?クラスメートか?」
「・・・高杉ですよ。木村さんの妹の」
宮田はわざと棘のある言葉を返した。
案の定、木村が一瞬固まった。
「奈々と?」
「チケットが余ったからって」
「・・へぇ。お前、奈々と仲良いのか?」
「別に・・・元々は別の人と行くつもりだったみたいですけど」
宮田はそういってチラりと木村を見ると、なんともバツの悪そうな顔をしていたのに気がついた。
一方で木村は、宮田がどこまで何を知っているのかという焦りが沸いていた。
自分は奈々の気持ちに気付かないようにしている。奈々は宮田に、自分のことを何か話したのだろうか?
それとも単に、何かのいきさつがあって一緒に行っただけのことだろうか?
ここで詳しく聞くのもバカバカしいと木村は思い直し、「へぇ」とだけ返事をして自分も練習に戻った。
宮田もそれ以上、その話をすることは無かった。