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4.打算と反撃
たっちゃんはやっぱりバカだ。
私が4歳くらいのころから、成長が止まっていると思ってるに違いない。
たっちゃんの中で私はまだ、すべり台から降りられなくて泣いていた小さい子供のままなんだ。
砂場で一緒にお城を作っていたときも
声が枯れるまで、たっちゃんの野球の試合を応援していたときも
たっちゃんのバイクにこっそり乗せてもらったときも
いつだって私は、たっちゃんに恋する乙女だったっていうのに。
------------------------
「宮田ぁ」
「なんですか?」
「これ、奈々に返しておいてくれねぇ?」
ある日の鴨川ジムのこと。
木村は宮田を呼び止めて、すっと奈々から借りた少年マガジンを差し出した。
「近所なんでしょ?自分で返しに行けば・・・」
「いいじゃねぇか、お前同じクラスなんだろ?」
「嫌ですよ。面倒だし、だいたいそれ重いし」
「何だよ、つれねぇなあ」
宮田の言うとおり、木村と奈々の家は5分も離れていない。
読み終わったら歩いて返しに行けばいい話である。
わざわざ宮田を通して返す必要など全くないにも関わらず、なぜ木村が自分を通そうとしているのか・・・
そう考えて、宮田は木村が自分と同い年の“妹”を勧めているのだと察した。
恋愛ゴシップの好きな鴨川バカトリオの考えそうなことだ。
けれども自分は、恋愛にはまるで興味がない。
面倒を避けるためにも、そのことについて触れるつもりは無かったのだが、木村の方は自分の作戦をアピールしたくて仕方がないらしい。
「最近、奈々が電話でよくお前の話してるぜ」
「そうですか」
「女子にモテモテなんだってな」
「・・・さぁ」
同世代の女の子をアピールしたい気持ちは分かるが、些か強引ではないかと宮田は感じた。
ひょっとしたら奈々が木村に、自分に気があるとでも相談したのかもしれないと思ったが、すぐにその説はありえないと思い直す。
なぜなら、奈々はいつも木村の話ばかり自分に聞いてくるだけで、自分にはまるで関心を持っていないと感じていたからだ。
何か、心に引っかかるものがある。
そうして、ある可能性に気付いて宮田は木村に話しかけた。
「木村さん」
「ん?」
「アイツも毎日、木村さんの話してますよ」
「・・・おぉ、そっか」
「ちゃんと練習してるかとか、サボってないかとか」
「で、なんて答えたんだ?」
「見てないって答えた」
「おい!」
なるほど、と宮田は心の中で頷いた。
木村が奈々の関心を自分に向けさせようとしているのだと宮田は感じ取り、まるで興味がないのに変なことに巻き込まれるのはゴメンだ、と深い溜息をついた。
「とにかく面倒なんで自分でやってください」
「・・・・頼むよ宮田ぁ」
「会いたくない理由でもあるんですか?」
「あるわけねーだろ!い、家まで返しに行くのが面倒くせぇだけだよ」
「ロードワークだと思えば?」
「・・・ああ、そうだな!」
宮田の見透かしたようなセリフに、木村は珍しく苛立って答えた。
中学に上がってから高校1年までの約4年間。
ヤンキーだった頃は、奈々とは昔ほど遊ばなくなっていた。
ボクシングを始めて、プロになって、世間で言う「落ち着いてから」ようやく、再び奈々とよく会話するようになった。
そこで木村は、なんとなく奈々の自分に対する態度が昔のそれと違っているように感じ始めた。
というよりはむしろ、昔と違うことを確信していた。
昔からよく懐いていてくれたことには変わりない。
ひょっとしたら受け手側のこっちが、ちょっと自意識過剰になっているのかもしれない。
けれども、可愛い妹としか思っていなかった子供が自分を男として見ている可能性に、心が対処しきれないのだ。
「ところでよ、宮田」
「なんです」
「アイツ、学校では真面目にやってるか?」
「・・・父親みたいなこと聞くんですね」
「せめて兄貴って言えよな!」
面白く無さそうに答えた木村を見て、宮田は小さく笑みを浮かべ
「まぁ普通にやってるんじゃないですか」
「なんだよそれ」
「あんまり気にしたことがないもんで、報告しようがありませんね」
「・・・・そうかよ」
宮田は滅多に他人に感心を寄せない男だというのを、木村はうっかり忘れていたらしい。
自分に対する奈々の気持ちを宮田の方に逸らせよう、なんて木村は卑しいことを考えていた。
奈々の気持ちに答えられない自分の罪悪感みたいなものを、どうにか誤魔化したいというだけの理由で。
しかし宮田はそもそも恋愛に全く興味がないという特殊な人間であるばかりでなく、洞察力も高いため、こっちの打算はすぐに見抜かれてしまった。
逆に「高杉は学校でも木村さんの話をよくしてますよ」なんて意地悪なアピールすら喰らったほどで、木村はダシに使う相手を間違えたと悟った。
それから特に何を言ったりしたりするわけでもない宮田の「無関心攻撃」が、木村には辛かった。
たっちゃんはやっぱりバカだ。
私が4歳くらいのころから、成長が止まっていると思ってるに違いない。
たっちゃんの中で私はまだ、すべり台から降りられなくて泣いていた小さい子供のままなんだ。
砂場で一緒にお城を作っていたときも
声が枯れるまで、たっちゃんの野球の試合を応援していたときも
たっちゃんのバイクにこっそり乗せてもらったときも
いつだって私は、たっちゃんに恋する乙女だったっていうのに。
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「宮田ぁ」
「なんですか?」
「これ、奈々に返しておいてくれねぇ?」
ある日の鴨川ジムのこと。
木村は宮田を呼び止めて、すっと奈々から借りた少年マガジンを差し出した。
「近所なんでしょ?自分で返しに行けば・・・」
「いいじゃねぇか、お前同じクラスなんだろ?」
「嫌ですよ。面倒だし、だいたいそれ重いし」
「何だよ、つれねぇなあ」
宮田の言うとおり、木村と奈々の家は5分も離れていない。
読み終わったら歩いて返しに行けばいい話である。
わざわざ宮田を通して返す必要など全くないにも関わらず、なぜ木村が自分を通そうとしているのか・・・
そう考えて、宮田は木村が自分と同い年の“妹”を勧めているのだと察した。
恋愛ゴシップの好きな鴨川バカトリオの考えそうなことだ。
けれども自分は、恋愛にはまるで興味がない。
面倒を避けるためにも、そのことについて触れるつもりは無かったのだが、木村の方は自分の作戦をアピールしたくて仕方がないらしい。
「最近、奈々が電話でよくお前の話してるぜ」
「そうですか」
「女子にモテモテなんだってな」
「・・・さぁ」
同世代の女の子をアピールしたい気持ちは分かるが、些か強引ではないかと宮田は感じた。
ひょっとしたら奈々が木村に、自分に気があるとでも相談したのかもしれないと思ったが、すぐにその説はありえないと思い直す。
なぜなら、奈々はいつも木村の話ばかり自分に聞いてくるだけで、自分にはまるで関心を持っていないと感じていたからだ。
何か、心に引っかかるものがある。
そうして、ある可能性に気付いて宮田は木村に話しかけた。
「木村さん」
「ん?」
「アイツも毎日、木村さんの話してますよ」
「・・・おぉ、そっか」
「ちゃんと練習してるかとか、サボってないかとか」
「で、なんて答えたんだ?」
「見てないって答えた」
「おい!」
なるほど、と宮田は心の中で頷いた。
木村が奈々の関心を自分に向けさせようとしているのだと宮田は感じ取り、まるで興味がないのに変なことに巻き込まれるのはゴメンだ、と深い溜息をついた。
「とにかく面倒なんで自分でやってください」
「・・・・頼むよ宮田ぁ」
「会いたくない理由でもあるんですか?」
「あるわけねーだろ!い、家まで返しに行くのが面倒くせぇだけだよ」
「ロードワークだと思えば?」
「・・・ああ、そうだな!」
宮田の見透かしたようなセリフに、木村は珍しく苛立って答えた。
中学に上がってから高校1年までの約4年間。
ヤンキーだった頃は、奈々とは昔ほど遊ばなくなっていた。
ボクシングを始めて、プロになって、世間で言う「落ち着いてから」ようやく、再び奈々とよく会話するようになった。
そこで木村は、なんとなく奈々の自分に対する態度が昔のそれと違っているように感じ始めた。
というよりはむしろ、昔と違うことを確信していた。
昔からよく懐いていてくれたことには変わりない。
ひょっとしたら受け手側のこっちが、ちょっと自意識過剰になっているのかもしれない。
けれども、可愛い妹としか思っていなかった子供が自分を男として見ている可能性に、心が対処しきれないのだ。
「ところでよ、宮田」
「なんです」
「アイツ、学校では真面目にやってるか?」
「・・・父親みたいなこと聞くんですね」
「せめて兄貴って言えよな!」
面白く無さそうに答えた木村を見て、宮田は小さく笑みを浮かべ
「まぁ普通にやってるんじゃないですか」
「なんだよそれ」
「あんまり気にしたことがないもんで、報告しようがありませんね」
「・・・・そうかよ」
宮田は滅多に他人に感心を寄せない男だというのを、木村はうっかり忘れていたらしい。
自分に対する奈々の気持ちを宮田の方に逸らせよう、なんて木村は卑しいことを考えていた。
奈々の気持ちに答えられない自分の罪悪感みたいなものを、どうにか誤魔化したいというだけの理由で。
しかし宮田はそもそも恋愛に全く興味がないという特殊な人間であるばかりでなく、洞察力も高いため、こっちの打算はすぐに見抜かれてしまった。
逆に「高杉は学校でも木村さんの話をよくしてますよ」なんて意地悪なアピールすら喰らったほどで、木村はダシに使う相手を間違えたと悟った。
それから特に何を言ったりしたりするわけでもない宮田の「無関心攻撃」が、木村には辛かった。