TENDERNESS
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35.TENDERNESS
たっちゃんはバカだ。
バカがつくほど、優しい。
後から聞いた話。
私たちのためにたっちゃんが
一芝居打ってくれたって。
宮田は話を広められたと怒っていたけど、
それってたぶん、宮田に貸しを感じさせないように、
敢えて言いふらすことで、
憎まれ役を買って出たんじゃないかって、
私にはそんな風に思えた。
そして宮田も、それを分かっていながら
たっちゃんの気持ちを汲んで、
わざと怒っているんじゃないかって思う。
なーんてね。
「おはよう」
奈々が宮田の頭上から声を掛けると、宮田はゆっくりと顔を上げて「おはよう」と返した。
それから目と目を合わせて、軽く微笑み合う。
休み時間、コトンと机に置かれたイチゴ牛乳。
「あら、また買い間違えた?」
「そんなとこ」
宮田は牛乳を飲みながら、平然とした顔で答える。
「ねぇねぇ、奈々」
「ん?」
「宮田くんと仲直りしたの?」
「・・・・うん」
友人らがコソコソと聞いてくる。
宮田という単語を出しただけで奈々の顔が赤くなったのが分かり、友人らは顔を見合わせて、ぐいっと奈々を取り囲むように詰め寄りながら、
「ひょっとして、付き合ってる、とか?」
「・・・・ハイ・・」
奈々の言葉に再び顔を見合わせ、それから大声でキャーッと黄色い歓声を上げた。
「木村さん、スパーしましょうよ」
グローブを嵌めながら、宮田が声を掛けた。
「お前最近、やたらとオレを指名するよな・・・」
「会長の指示ですよ、オレと体格近いでしょ?」
「・・・ひょっとして、言いふらしたの根に持ってんのか?」
木村もまたグローブとヘッドギアを嵌めて、リングに上がる。
カン、と固い金属音が鳴り、二人はグローブを合わせた。
宮田は軽快なステップインから、テンプルを狙ってフックを打つ。
とっさにガードした木村の脇腹が空くと、そこに続けてボディブローを打ち込んだ。
「ぐはっ・・・」
思わず倒れ込む木村を見下ろしながら、宮田はボソリと呟いた。
「まだ許してませんから」
木村は腹を押さえながら、声を絞り出すように呟いた。
「・・・勘弁してくれよぉ・・・」
「面白かったね、映画」
「ああ・・・」
「でもまあスティーブン監督には敵わないかな」
人の多い駅前通を、手を繋いで歩く二人。
今日見た映画は普通のSFモノではあったが、それなりに楽しめたらしく、足取りは軽い。
「ところで宮田って、なんでスティーブン監督のファンになったの?」
奈々がなんとなしに聞くと、宮田はしばし考えてから
「親父と初めて見に行った映画が、スティーブン監督だったから」
「へぇー、そうなんだ」
「それまで親父、ちょっと荒れてて・・・」
それから宮田が少し口籠もったので、奈々が少し首をひねって不思議そうな顔をすると、
「まぁそれで、余計に嬉しかったってのもあるんだ」
「荒れてたって何?」
言葉を濁したにも関わらず、そんなのお構いなしにズケズケと聞いてくる奈々に宮田は驚きつつも
「酒乱だったというか・・・・」
思いがけない言葉に、奈々が固まる。
それから、ふぅっと深い溜息をついて、落ち込んだ表情をありありと浮かべながら
「私・・・本当にダメだよね」
「何がだよ?」
「聞いちゃいけないことってあるよね」
「・・別に・・・」
「あー、ホント、私って優しくないなぁ・・・」
しょぼくれた奈々を横目に見ながら、宮田はポンポンと頭を叩いて、
「お前のそういう素直なところで救われるヤツもいるよ」
と言って、軽く微笑んだ。
奈々は再び宮田の手を握り、腕を絡ませて言う。
「優しいね、宮田」
すると宮田は、そっぽを向いてこう言った。
「お前よりはな」
駅前の大通りに、宮田の背中をバチンと叩く音が響いた。
END
たっちゃんはバカだ。
バカがつくほど、優しい。
後から聞いた話。
私たちのためにたっちゃんが
一芝居打ってくれたって。
宮田は話を広められたと怒っていたけど、
それってたぶん、宮田に貸しを感じさせないように、
敢えて言いふらすことで、
憎まれ役を買って出たんじゃないかって、
私にはそんな風に思えた。
そして宮田も、それを分かっていながら
たっちゃんの気持ちを汲んで、
わざと怒っているんじゃないかって思う。
なーんてね。
「おはよう」
奈々が宮田の頭上から声を掛けると、宮田はゆっくりと顔を上げて「おはよう」と返した。
それから目と目を合わせて、軽く微笑み合う。
休み時間、コトンと机に置かれたイチゴ牛乳。
「あら、また買い間違えた?」
「そんなとこ」
宮田は牛乳を飲みながら、平然とした顔で答える。
「ねぇねぇ、奈々」
「ん?」
「宮田くんと仲直りしたの?」
「・・・・うん」
友人らがコソコソと聞いてくる。
宮田という単語を出しただけで奈々の顔が赤くなったのが分かり、友人らは顔を見合わせて、ぐいっと奈々を取り囲むように詰め寄りながら、
「ひょっとして、付き合ってる、とか?」
「・・・・ハイ・・」
奈々の言葉に再び顔を見合わせ、それから大声でキャーッと黄色い歓声を上げた。
「木村さん、スパーしましょうよ」
グローブを嵌めながら、宮田が声を掛けた。
「お前最近、やたらとオレを指名するよな・・・」
「会長の指示ですよ、オレと体格近いでしょ?」
「・・・ひょっとして、言いふらしたの根に持ってんのか?」
木村もまたグローブとヘッドギアを嵌めて、リングに上がる。
カン、と固い金属音が鳴り、二人はグローブを合わせた。
宮田は軽快なステップインから、テンプルを狙ってフックを打つ。
とっさにガードした木村の脇腹が空くと、そこに続けてボディブローを打ち込んだ。
「ぐはっ・・・」
思わず倒れ込む木村を見下ろしながら、宮田はボソリと呟いた。
「まだ許してませんから」
木村は腹を押さえながら、声を絞り出すように呟いた。
「・・・勘弁してくれよぉ・・・」
「面白かったね、映画」
「ああ・・・」
「でもまあスティーブン監督には敵わないかな」
人の多い駅前通を、手を繋いで歩く二人。
今日見た映画は普通のSFモノではあったが、それなりに楽しめたらしく、足取りは軽い。
「ところで宮田って、なんでスティーブン監督のファンになったの?」
奈々がなんとなしに聞くと、宮田はしばし考えてから
「親父と初めて見に行った映画が、スティーブン監督だったから」
「へぇー、そうなんだ」
「それまで親父、ちょっと荒れてて・・・」
それから宮田が少し口籠もったので、奈々が少し首をひねって不思議そうな顔をすると、
「まぁそれで、余計に嬉しかったってのもあるんだ」
「荒れてたって何?」
言葉を濁したにも関わらず、そんなのお構いなしにズケズケと聞いてくる奈々に宮田は驚きつつも
「酒乱だったというか・・・・」
思いがけない言葉に、奈々が固まる。
それから、ふぅっと深い溜息をついて、落ち込んだ表情をありありと浮かべながら
「私・・・本当にダメだよね」
「何がだよ?」
「聞いちゃいけないことってあるよね」
「・・別に・・・」
「あー、ホント、私って優しくないなぁ・・・」
しょぼくれた奈々を横目に見ながら、宮田はポンポンと頭を叩いて、
「お前のそういう素直なところで救われるヤツもいるよ」
と言って、軽く微笑んだ。
奈々は再び宮田の手を握り、腕を絡ませて言う。
「優しいね、宮田」
すると宮田は、そっぽを向いてこう言った。
「お前よりはな」
駅前の大通りに、宮田の背中をバチンと叩く音が響いた。
END