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34.お節介な連中
初めて会ったとき
それから入学式で再会したとき
なんか感じの悪いヤツだなと思った。
それから、意外と良いヤツで
ドライな性格かと思いきや、案外人情派で
本当は優しいくせに、それを見せようとはしなくて
つまり照れ屋で、謙虚なヤツで
たっちゃんでいっぱいだったこの頭に
いつのまにか、あいつが入り込んでたんだね。
たっちゃんのことを好きでなければ
鴨川ジムに行くこともなくて
宮田には会えなかった
いや、同じ高校だとしても
ここまで親しくはならなかったと思う。
だからさ、たっちゃん、
私はたっちゃんの恋人にはなれなかったけど
たっちゃんのこと好きでよかった。
ありがとう、たっちゃん。
「随分遅かったな宮田」
宮田がジムに戻ると、すでに多くの練習生が帰宅し、ジム内はガランとしていた。
鷹村に話しかけられ、ぐるりと周りを見渡したが、目的の人物は居ないらしい。
「木村さんは?」
「木村か?今日はもう帰ったぞ」
「そうですか」
宮田はしばし考えて、「オレも今日は上がります」といって、ロッカーへ向かった。
シャワーを浴びたあと、帰る支度をしていると、鷹村が入ってきた。
特に何かを話すわけでもなく着替えを続けていると、突然背後から、ふぅっと耳に息を吹きかけられた。
「何してんですか」
驚かせようと思ったものの、宮田は全く動じずに着替えを続けながら言った。
無反応な宮田がおもしろくなく、鷹村はチッと舌打ちをして、自分のロッカーを開けておもむろに上着を脱ぐ。
「一郎ちゃんよォ」
「なんです」
「木村なんか探してどーしたよ?」
「別に」
そっけない答えだったが、珍しく鷹村が追撃をしてこない。
今日はやけに大人しいなと思いながら、宮田は着替えを続けた。
そうして着てきた学生服に身を包んで、脱いだジャージ類を畳んでカバンにしまい、ジッパーを閉じた。
カバンを持ち上げ、「お先です」とロクに鷹村の目も見ずにロッカーを出ようとした瞬間だった。
鷹村が宮田の肩を掴んで引き留めた。何か用でもあるのかと宮田は振り返り、
「どうしたんです?」
しかし鷹村は、肩を掴んだまま、無表情で固まっている。
宮田は一体何がしたいのだと少し呆れて、再び鷹村に背を向けようとした。
「アンタには」
鷹村が突然、口を開いた。
「アンタには渡さない・・・・・ってかぁ!!!ぐわはははは!!カッコいいなぁオイ!!!」
さすがの宮田も焦りのあまり、考えるより先に鷹村の方を振り返った。
すると鷹村は、地面にすっころんで手足をバタバタさせながら大笑いしている。
「さすが宮田ぁ~!!カッコいいぜ!シビれるなあ!ぎゃはははは、ダメだ腹痛ぇ!!」
悶える鷹村を見下ろしながら、宮田は木村がコトの一連を鷹村や青木にバラしたのだろうと察し、思っていたよりも最悪な展開に怒りと恥ずかしさがこみ上げて止まらなかった。言いふらすだけ言いふらして、宮田が帰ってくる前にさっさと帰宅した木村の処世術には、さすがにお見事と言わざるを得ない。
殴ってやりたい相手は既におらず、関わるだけ無駄な人間が目の前で大笑いしているこの状況に、宮田は拳に込めた殺気のやり場に困った。
「帰ります」
「まぁ待てよ、宮田。結果はどうだったのよ?」
「・・・何のです?」
「トボけんなよ、告白しに言ったんだろ?」
一体木村は何をどこまで話したのだ、と宮田は今からでも木村の家に押しかけて殴り倒したい気分に駆られた。
「うまく言ったか?キスしたか?セックスしたか?ん~?」
ハエの様にまとわりつく鷹村に殺虫剤でもまき散らしてやりたい、と宮田は思いながらも、力では叶わないだけでなく、こちらが反応するだけ被害が増えるという最悪の相手に、為す術はなかった。
無視してロッカー室を出ようとするも、鷹村がまとわりついて思うように動けない。
相手を引きずるようにして無理矢理歩き始めると、鷹村は「生意気だな」と言って、急に大声を上げた。
「みんなぁ~!!今日、宮田が童貞を卒業したらしいぞ~~!!!」
「・・・ッ!!・・何言って・・」
「おめでとう、宮田ぁ~!!」
「ちょっ・・・止めろバカ野郎!!」
宮田は持っていたカバンをその辺に投げると、鷹村に覆い被さるようにして口を塞ごうと手を伸ばす。
鷹村は嬉しそうに応戦し、宮田の攻撃をかわしながら「チェリーボーイの卒業」という自作の歌を大声で歌い始めた。
「アンタな、悪ふざけもいい加減に・・」
「無視するからよォ。ちゃんと話してくれたら言わないぜ?」
「ちゃんと話したところで、どうせ止めないだろうが!」
「オレ様を甘く見んなよ?こう見えても口は固いぞ」
どの口が言うんだ、と宮田は内心ツッコんだ。
「告白ったのか?ん~?なんだ、恥ずかしくて言えないのか?」
宮田は鷹村に両手首をつかまれ、マウントポジションを取りつつも劣勢にいた。
観念したのと、安い挑発と雖も腹立たしい台詞に我慢がならないのとあって、宮田はとうとう言い返した。
「言ったよ」
「ほぅ。で?」
「で、何?」
「OKだったのか?」
「そうだけど」
鷹村と宮田は睨み合ったまま、互いに半笑いの状態でピタリとも動かなかった。
体格と腕力の差はあれど、気の強さは互角らしい。
「キスしたのか?」
「さぁ?」
「セックスしたか?」
「するわけねぇだろ!」
鷹村はしばし、じぃっと宮田を見つめながらニヤニヤと心底愉快だと言わんばかりの顔をしていた。
照れて赤くなった宮田など見るのは初めてで、それがどうにも嬉しいらしい。
一方で宮田は、屈辱にも似た感覚を味わっていた。
しばらくして鷹村が急に身体を起こしたので、上に乗っかっていた宮田は思わずバランスを崩しそうになった。
一瞬の隙を突いて鷹村の両手をふりほどくと、宮田はさっと立ち上がり、距離を取る。
同じく立ち上がった鷹村を威嚇するように目線を外さないで居ると、鷹村は笑って
「じゃあ次はセックスしたら言えよ」
「誰が言うか」
「ま、今日はこのくらいで勘弁してやらぁ!!」
そういってバンバンと宮田の肩を叩き、口笛を吹きながらロッカー室を去っていった。
着替えも途中だというのに、一体何処に行くのかと思ったが、宮田はそのまま荷物を持って1階へ降り、そしてまだ残っている練習生たちに「お疲れ様でした」と挨拶をしながら、ジムを後にした。
すっかり冷え込んだ夜の空気を感じながら家路につく。
面倒なことになった、と大きく溜息をつきながら、明日のスパーリングでは木村をボコボコにしてやろう、と1人笑みを浮かべた宮田だった。
しばらくして、父親が帰宅したらしい。
ガチャンとドアの開く音がしたので、自室にいた宮田は、階段を下りて玄関の様子を伺った。
「父さん、遅かったね」
「ん?・・ああ」
父親はそういってリビングまで行き、床にドサッとカバンをおろした。
「オレ、もう寝るから」
そういって宮田が自室に引き換えそうとした時だった。
「あ、一郎」
「・・なんだい?父さん」
「鷹村から、預かりモノだ」
「預かりもの?」
そういって父親は、カバンから取り出した紙袋らしきものを投げて寄越した。
宮田はそれをキャッチすると、その場で中身を確認し・・・・
「okamoto」と書かれた文字を見るやいなや、紙袋ごと握りつぶした。
「一郎」
それを見ていた父親が宮田に話しかける。
「何・・・?」
「む、その、なんだ・・・」
父親はゴホンと咳払いをし、
「遊びすぎるなよ」
そういって、照れたようにキッチンの奥へ去っていってしまった。
自室で宮田は、ぐちゃぐちゃになった紙袋をゴミ箱に捨てて、ベッドに倒れ込む。
「気が早いんだよ、バカ野郎」
さんざんな目に遭い、憎まれ口を叩きながらも、不思議と笑みがこぼれてくる。
色々なことがあった疲れか、気がつくと宮田は眠りに落ちていた。
初めて会ったとき
それから入学式で再会したとき
なんか感じの悪いヤツだなと思った。
それから、意外と良いヤツで
ドライな性格かと思いきや、案外人情派で
本当は優しいくせに、それを見せようとはしなくて
つまり照れ屋で、謙虚なヤツで
たっちゃんでいっぱいだったこの頭に
いつのまにか、あいつが入り込んでたんだね。
たっちゃんのことを好きでなければ
鴨川ジムに行くこともなくて
宮田には会えなかった
いや、同じ高校だとしても
ここまで親しくはならなかったと思う。
だからさ、たっちゃん、
私はたっちゃんの恋人にはなれなかったけど
たっちゃんのこと好きでよかった。
ありがとう、たっちゃん。
「随分遅かったな宮田」
宮田がジムに戻ると、すでに多くの練習生が帰宅し、ジム内はガランとしていた。
鷹村に話しかけられ、ぐるりと周りを見渡したが、目的の人物は居ないらしい。
「木村さんは?」
「木村か?今日はもう帰ったぞ」
「そうですか」
宮田はしばし考えて、「オレも今日は上がります」といって、ロッカーへ向かった。
シャワーを浴びたあと、帰る支度をしていると、鷹村が入ってきた。
特に何かを話すわけでもなく着替えを続けていると、突然背後から、ふぅっと耳に息を吹きかけられた。
「何してんですか」
驚かせようと思ったものの、宮田は全く動じずに着替えを続けながら言った。
無反応な宮田がおもしろくなく、鷹村はチッと舌打ちをして、自分のロッカーを開けておもむろに上着を脱ぐ。
「一郎ちゃんよォ」
「なんです」
「木村なんか探してどーしたよ?」
「別に」
そっけない答えだったが、珍しく鷹村が追撃をしてこない。
今日はやけに大人しいなと思いながら、宮田は着替えを続けた。
そうして着てきた学生服に身を包んで、脱いだジャージ類を畳んでカバンにしまい、ジッパーを閉じた。
カバンを持ち上げ、「お先です」とロクに鷹村の目も見ずにロッカーを出ようとした瞬間だった。
鷹村が宮田の肩を掴んで引き留めた。何か用でもあるのかと宮田は振り返り、
「どうしたんです?」
しかし鷹村は、肩を掴んだまま、無表情で固まっている。
宮田は一体何がしたいのだと少し呆れて、再び鷹村に背を向けようとした。
「アンタには」
鷹村が突然、口を開いた。
「アンタには渡さない・・・・・ってかぁ!!!ぐわはははは!!カッコいいなぁオイ!!!」
さすがの宮田も焦りのあまり、考えるより先に鷹村の方を振り返った。
すると鷹村は、地面にすっころんで手足をバタバタさせながら大笑いしている。
「さすが宮田ぁ~!!カッコいいぜ!シビれるなあ!ぎゃはははは、ダメだ腹痛ぇ!!」
悶える鷹村を見下ろしながら、宮田は木村がコトの一連を鷹村や青木にバラしたのだろうと察し、思っていたよりも最悪な展開に怒りと恥ずかしさがこみ上げて止まらなかった。言いふらすだけ言いふらして、宮田が帰ってくる前にさっさと帰宅した木村の処世術には、さすがにお見事と言わざるを得ない。
殴ってやりたい相手は既におらず、関わるだけ無駄な人間が目の前で大笑いしているこの状況に、宮田は拳に込めた殺気のやり場に困った。
「帰ります」
「まぁ待てよ、宮田。結果はどうだったのよ?」
「・・・何のです?」
「トボけんなよ、告白しに言ったんだろ?」
一体木村は何をどこまで話したのだ、と宮田は今からでも木村の家に押しかけて殴り倒したい気分に駆られた。
「うまく言ったか?キスしたか?セックスしたか?ん~?」
ハエの様にまとわりつく鷹村に殺虫剤でもまき散らしてやりたい、と宮田は思いながらも、力では叶わないだけでなく、こちらが反応するだけ被害が増えるという最悪の相手に、為す術はなかった。
無視してロッカー室を出ようとするも、鷹村がまとわりついて思うように動けない。
相手を引きずるようにして無理矢理歩き始めると、鷹村は「生意気だな」と言って、急に大声を上げた。
「みんなぁ~!!今日、宮田が童貞を卒業したらしいぞ~~!!!」
「・・・ッ!!・・何言って・・」
「おめでとう、宮田ぁ~!!」
「ちょっ・・・止めろバカ野郎!!」
宮田は持っていたカバンをその辺に投げると、鷹村に覆い被さるようにして口を塞ごうと手を伸ばす。
鷹村は嬉しそうに応戦し、宮田の攻撃をかわしながら「チェリーボーイの卒業」という自作の歌を大声で歌い始めた。
「アンタな、悪ふざけもいい加減に・・」
「無視するからよォ。ちゃんと話してくれたら言わないぜ?」
「ちゃんと話したところで、どうせ止めないだろうが!」
「オレ様を甘く見んなよ?こう見えても口は固いぞ」
どの口が言うんだ、と宮田は内心ツッコんだ。
「告白ったのか?ん~?なんだ、恥ずかしくて言えないのか?」
宮田は鷹村に両手首をつかまれ、マウントポジションを取りつつも劣勢にいた。
観念したのと、安い挑発と雖も腹立たしい台詞に我慢がならないのとあって、宮田はとうとう言い返した。
「言ったよ」
「ほぅ。で?」
「で、何?」
「OKだったのか?」
「そうだけど」
鷹村と宮田は睨み合ったまま、互いに半笑いの状態でピタリとも動かなかった。
体格と腕力の差はあれど、気の強さは互角らしい。
「キスしたのか?」
「さぁ?」
「セックスしたか?」
「するわけねぇだろ!」
鷹村はしばし、じぃっと宮田を見つめながらニヤニヤと心底愉快だと言わんばかりの顔をしていた。
照れて赤くなった宮田など見るのは初めてで、それがどうにも嬉しいらしい。
一方で宮田は、屈辱にも似た感覚を味わっていた。
しばらくして鷹村が急に身体を起こしたので、上に乗っかっていた宮田は思わずバランスを崩しそうになった。
一瞬の隙を突いて鷹村の両手をふりほどくと、宮田はさっと立ち上がり、距離を取る。
同じく立ち上がった鷹村を威嚇するように目線を外さないで居ると、鷹村は笑って
「じゃあ次はセックスしたら言えよ」
「誰が言うか」
「ま、今日はこのくらいで勘弁してやらぁ!!」
そういってバンバンと宮田の肩を叩き、口笛を吹きながらロッカー室を去っていった。
着替えも途中だというのに、一体何処に行くのかと思ったが、宮田はそのまま荷物を持って1階へ降り、そしてまだ残っている練習生たちに「お疲れ様でした」と挨拶をしながら、ジムを後にした。
すっかり冷え込んだ夜の空気を感じながら家路につく。
面倒なことになった、と大きく溜息をつきながら、明日のスパーリングでは木村をボコボコにしてやろう、と1人笑みを浮かべた宮田だった。
しばらくして、父親が帰宅したらしい。
ガチャンとドアの開く音がしたので、自室にいた宮田は、階段を下りて玄関の様子を伺った。
「父さん、遅かったね」
「ん?・・ああ」
父親はそういってリビングまで行き、床にドサッとカバンをおろした。
「オレ、もう寝るから」
そういって宮田が自室に引き換えそうとした時だった。
「あ、一郎」
「・・なんだい?父さん」
「鷹村から、預かりモノだ」
「預かりもの?」
そういって父親は、カバンから取り出した紙袋らしきものを投げて寄越した。
宮田はそれをキャッチすると、その場で中身を確認し・・・・
「okamoto」と書かれた文字を見るやいなや、紙袋ごと握りつぶした。
「一郎」
それを見ていた父親が宮田に話しかける。
「何・・・?」
「む、その、なんだ・・・」
父親はゴホンと咳払いをし、
「遊びすぎるなよ」
そういって、照れたようにキッチンの奥へ去っていってしまった。
自室で宮田は、ぐちゃぐちゃになった紙袋をゴミ箱に捨てて、ベッドに倒れ込む。
「気が早いんだよ、バカ野郎」
さんざんな目に遭い、憎まれ口を叩きながらも、不思議と笑みがこぼれてくる。
色々なことがあった疲れか、気がつくと宮田は眠りに落ちていた。