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29.誰のせい
「もうオレに関わらないでくれ」
宮田の残酷な言葉は
身体の隅々まで行き渡って
冷たい血液が感覚を鈍らせていく。
頭が働かない。
身体が動かない。
食欲もわかない。
一体自分が何をしたと言うのだろう。
何が間違っていたのだろう。
昔は当たり前のように側にいた宮田が
欲した今になって、するりと手をすり抜けていく。
狂ったように泣き喚きたい
だけど平気な顔をしなきゃ。
じゃないと、宮田が心配するから。
平気な顔を、しなきゃ。
「最近、元気ないんだよなぁ」
木村がボソリと呟くと、青木が「ん?」と呑気な返事を返してきた。
「いや、奈々だよ奈々」
「おー、どうかしたのか?」
「昨日、マンガ借りに行ったんだけどよ、なんか暗い顔しててよ・・・」
その言葉に、青木も何かを思い出したらしい。
ポンと手を叩いて
「そういえばこないだウチにラーメン食いに来たけど、そのときも言われてみれば大人しかったかもなぁ」
「そっか・・・やっぱり・・・」
「お前、心当たりあるのか?」
青木に聞かれて木村は少し考えてから
「ちょっとな」
もったいぶった態度に、青木はなにやら面白そうなニオイを嗅ぎつけたらしい。
にやけ顔をしながら木村に迫って、
「なんだよ、教えろよ」
「無理無理、お前絶対言うだろ」
「オレとお前の仲だろ?隠し事すんのかよォ」
「・・・鷹村にバレたら面倒なんだよ。絶対言わねぇな?」
「ったりめーだろ!」
なんだかんだで青木は大の親友だ。木村の中での信頼も厚い。
木村が青木にこっそり耳打ちすると、青木はみるみる興奮した顔つきになって、口を押さえながら満面の笑みを浮かべていた。
そのときガチャリとロッカーのドアが開いて、入ってきたのは宮田だった。
「・・・こんちは」
「お、おう宮田」
「もう学校終わったのか、早いな~」
無愛想な挨拶に、大げさな愛想を返す二人。
宮田はすぐに、この二人がコソコソと何かを話していたのだろうと察したが、その内容については全く興味がわかなかった。
ロッカーを開けて、着替えを始める。ちょうど二人に背を向ける格好になった。
既に着替えを終えた二人は、宮田の後方で顔を見合わせてから、ニヤリと笑って
「さっきの話だけどよ、木村」
「ん?」
「奈々が元気ないって話だよ。大丈夫なのか?」
「・・・どうだろうなぁ。今度気分転換に、遊びに連れていってやるかな」
そういうなり木村は横目で宮田の背中を確認したが、本人は黙々と着替えを続けている。
しかしその背中からは、何か殺気のようなものが滲み出ているような気がしていた。
二人は再度目を見合わせて続ける。
「でも、あの空回りの元気見るのも辛いんだよな」
「あいつ強がりだからなぁ」
「そうだなあ・・・あ、宮田ぁ」
木村がわざとらしく声を掛けると、宮田は無言でゆっくりと振り返った。
「お前、なんか気づいたことないか?奈々のことで」
「・・・別に」
「別にって・・・学校で顔合わせるだろ?」
木村は宮田と奈々が相変わらず学校で仲良くしているものだと思ってそう言った。
当然、今の状況など知るよしもない。
宮田は何と答えたら良いものかと考え、それから
「見ている分には、“いつも通り”ですけど」
と答えてまた青木村に背を向けた。
宮田は、“いつも通り”という言葉の中に抑えきれない嫌味を込めた自分を疎ましく感じた。
以前と同じく木村を思って浮かない顔をしている、そんな意味の当てつけがましいセリフを吐いたところで、一体自分は何がしたいのだろうかと。
「何かちょっと元気ないみたいだから、お前少し励ましてやれよな」
木村は宮田の背中にそう話しかけたが、宮田の返事は無かった。
その後、二人はそそくさとロッカーを後にした。
ドアが閉まる音が聞こえた後、青木村は無言のまま顔を見合わせてニヤリと笑い、任務完了とばかりに小さく手を叩き合った。
1人、ロッカーに残された宮田は、2人の話し声が消えたのを確認して、ようやく背中の緊張を解いた。
シューズを履き、紐を縛って、それから2,3ステップ踏んで慣らしたあと、全ての荷物をロッカーにしまい込む。
静かに扉を閉めた後、宮田はしばし考えて、拳で扉を叩いた。
ガン、と固くて鈍い音が響き、誰も居ないロッカーに痛々しい余韻が残るばかりだ。
自分がやってきたのを見計らって、青木村たちが奈々の話をし始めたのは明らかだった。
元はと言えば誰のせいで元気がないと思っているんだ、と脳天気な木村の声色を思い出しては腹が立つ。
一方で格好つけて身を引いたくせに、木村が奈々の話をするたびに嫉妬のような嫌らしい気持ちがわいてくる自分にも腹が立った。
あれから奈々とは一言も言葉を交わしていないどころか、一目も交わしていなかった。
入学以来、毎日していた朝の「おはよう」すら交わさなくなり、席も遠いおかげで接点はまるでない。
今までは殆ど奈々の方から宮田に話しかけていた。それゆえ、相手が自分に「関わらない」となると、距離は全く縮まらなかった。
時折、無意識のうちに相手を探し、見ていることもあった。
友人らと一緒にいるときは楽しそうに笑っているのに、ふと1人になると悲しそうな目に戻るのも気になっていた。
木村のことだけを考えられるようにと、相手に迷惑をかけないようにと、身を引いたはずなのに。
離れれば離れるほど、忘れられなくなっている自分にも気がついていた。
学校では相変わらず、二人の距離は離れたままだった。
当初は周りでコソコソと噂をしている姿も見られたが、さすがに何週間も経つと事態は収束。
二人の心の中を除いて、全てが何事も無かったかのように、自然に流れていった。
宮田は相変わらず毎日牛乳を飲んでいて、休み時間はいつも寝ていて、学校が終わるとすぐにジムへ向かう。
奈々も相変わらずで、昼は例の友達同士で弁当を食べ、学校が終わると図書館へ行ったり寄り道したりして帰る。
宮田が購買に牛乳を買いに行った、ある日のことだった。
混雑する少し前に無事に牛乳を買い終え、教室に戻ろうとした矢先、奈々が自販機の前で立ちすくんでいるのが目に入った。
目を合わせられる距離ではないという安心感から宮田がしばしその様子を眺めていると、奈々が悲しそうな、切ない表情で何かを見つめているのに気づき、思わず心臓が高鳴った。
ホンの数秒のことが、とてつもなく長い時間に思われた。
奈々がハッと我に返って、その隣の自販機で飲み物を買って去っていったのを確認してから、宮田は一体何を眺めていたのかとその場所へ歩みよっていく。
そこでふと目に入った、イチゴ牛乳の文字。
心臓が大きく脈打ったのが分かった。
宮田は正直困惑していた。
自分が身を引き、余計な噂も消え、安心して木村に気持ちを向けられるはずなのに、奈々は相変わらず昔見せたような切ない表情を浮かべている。
先日のジムの話からすると、木村との仲は順調そうだ。むしろ、自分が「もう関わるな」と冷たく突き放したせいなのか…
今まで仲良くしていた友達からそういうことを言われれば、誰だって良い気分はしないだろう。
まして相手は女である。男が思っている以上に、そういうところは繊細なのかもしれない。
しかし宮田の心には、これ以上「仲の良い友達」を演じることが出来ない自分がいた。
奪い取ろうとも考えたが、余計な気苦労を増やすだけになってしまい、結局全てを「嘘」で片付けた。
相談相手として支えになろうとしても、周りは男女が仲良くしているだけで、間柄を勘ぐってくる。
「浮気女」とまで言われるような事態になったのは、自分が適度な距離を取らなかったからだ・・・そういう自責の念もまた、宮田を責める。
全ては奈々が悲しい顔をしないようにと思ってのことだったが、どの選択肢を選んでも、それは叶わないらしい。
「結局、オレのせいかよ」
宮田は小さく呟いてうつむいた。
自分のふがいなさに、腸が煮えくりかえるような心地がした。
「もうオレに関わらないでくれ」
宮田の残酷な言葉は
身体の隅々まで行き渡って
冷たい血液が感覚を鈍らせていく。
頭が働かない。
身体が動かない。
食欲もわかない。
一体自分が何をしたと言うのだろう。
何が間違っていたのだろう。
昔は当たり前のように側にいた宮田が
欲した今になって、するりと手をすり抜けていく。
狂ったように泣き喚きたい
だけど平気な顔をしなきゃ。
じゃないと、宮田が心配するから。
平気な顔を、しなきゃ。
「最近、元気ないんだよなぁ」
木村がボソリと呟くと、青木が「ん?」と呑気な返事を返してきた。
「いや、奈々だよ奈々」
「おー、どうかしたのか?」
「昨日、マンガ借りに行ったんだけどよ、なんか暗い顔しててよ・・・」
その言葉に、青木も何かを思い出したらしい。
ポンと手を叩いて
「そういえばこないだウチにラーメン食いに来たけど、そのときも言われてみれば大人しかったかもなぁ」
「そっか・・・やっぱり・・・」
「お前、心当たりあるのか?」
青木に聞かれて木村は少し考えてから
「ちょっとな」
もったいぶった態度に、青木はなにやら面白そうなニオイを嗅ぎつけたらしい。
にやけ顔をしながら木村に迫って、
「なんだよ、教えろよ」
「無理無理、お前絶対言うだろ」
「オレとお前の仲だろ?隠し事すんのかよォ」
「・・・鷹村にバレたら面倒なんだよ。絶対言わねぇな?」
「ったりめーだろ!」
なんだかんだで青木は大の親友だ。木村の中での信頼も厚い。
木村が青木にこっそり耳打ちすると、青木はみるみる興奮した顔つきになって、口を押さえながら満面の笑みを浮かべていた。
そのときガチャリとロッカーのドアが開いて、入ってきたのは宮田だった。
「・・・こんちは」
「お、おう宮田」
「もう学校終わったのか、早いな~」
無愛想な挨拶に、大げさな愛想を返す二人。
宮田はすぐに、この二人がコソコソと何かを話していたのだろうと察したが、その内容については全く興味がわかなかった。
ロッカーを開けて、着替えを始める。ちょうど二人に背を向ける格好になった。
既に着替えを終えた二人は、宮田の後方で顔を見合わせてから、ニヤリと笑って
「さっきの話だけどよ、木村」
「ん?」
「奈々が元気ないって話だよ。大丈夫なのか?」
「・・・どうだろうなぁ。今度気分転換に、遊びに連れていってやるかな」
そういうなり木村は横目で宮田の背中を確認したが、本人は黙々と着替えを続けている。
しかしその背中からは、何か殺気のようなものが滲み出ているような気がしていた。
二人は再度目を見合わせて続ける。
「でも、あの空回りの元気見るのも辛いんだよな」
「あいつ強がりだからなぁ」
「そうだなあ・・・あ、宮田ぁ」
木村がわざとらしく声を掛けると、宮田は無言でゆっくりと振り返った。
「お前、なんか気づいたことないか?奈々のことで」
「・・・別に」
「別にって・・・学校で顔合わせるだろ?」
木村は宮田と奈々が相変わらず学校で仲良くしているものだと思ってそう言った。
当然、今の状況など知るよしもない。
宮田は何と答えたら良いものかと考え、それから
「見ている分には、“いつも通り”ですけど」
と答えてまた青木村に背を向けた。
宮田は、“いつも通り”という言葉の中に抑えきれない嫌味を込めた自分を疎ましく感じた。
以前と同じく木村を思って浮かない顔をしている、そんな意味の当てつけがましいセリフを吐いたところで、一体自分は何がしたいのだろうかと。
「何かちょっと元気ないみたいだから、お前少し励ましてやれよな」
木村は宮田の背中にそう話しかけたが、宮田の返事は無かった。
その後、二人はそそくさとロッカーを後にした。
ドアが閉まる音が聞こえた後、青木村は無言のまま顔を見合わせてニヤリと笑い、任務完了とばかりに小さく手を叩き合った。
1人、ロッカーに残された宮田は、2人の話し声が消えたのを確認して、ようやく背中の緊張を解いた。
シューズを履き、紐を縛って、それから2,3ステップ踏んで慣らしたあと、全ての荷物をロッカーにしまい込む。
静かに扉を閉めた後、宮田はしばし考えて、拳で扉を叩いた。
ガン、と固くて鈍い音が響き、誰も居ないロッカーに痛々しい余韻が残るばかりだ。
自分がやってきたのを見計らって、青木村たちが奈々の話をし始めたのは明らかだった。
元はと言えば誰のせいで元気がないと思っているんだ、と脳天気な木村の声色を思い出しては腹が立つ。
一方で格好つけて身を引いたくせに、木村が奈々の話をするたびに嫉妬のような嫌らしい気持ちがわいてくる自分にも腹が立った。
あれから奈々とは一言も言葉を交わしていないどころか、一目も交わしていなかった。
入学以来、毎日していた朝の「おはよう」すら交わさなくなり、席も遠いおかげで接点はまるでない。
今までは殆ど奈々の方から宮田に話しかけていた。それゆえ、相手が自分に「関わらない」となると、距離は全く縮まらなかった。
時折、無意識のうちに相手を探し、見ていることもあった。
友人らと一緒にいるときは楽しそうに笑っているのに、ふと1人になると悲しそうな目に戻るのも気になっていた。
木村のことだけを考えられるようにと、相手に迷惑をかけないようにと、身を引いたはずなのに。
離れれば離れるほど、忘れられなくなっている自分にも気がついていた。
学校では相変わらず、二人の距離は離れたままだった。
当初は周りでコソコソと噂をしている姿も見られたが、さすがに何週間も経つと事態は収束。
二人の心の中を除いて、全てが何事も無かったかのように、自然に流れていった。
宮田は相変わらず毎日牛乳を飲んでいて、休み時間はいつも寝ていて、学校が終わるとすぐにジムへ向かう。
奈々も相変わらずで、昼は例の友達同士で弁当を食べ、学校が終わると図書館へ行ったり寄り道したりして帰る。
宮田が購買に牛乳を買いに行った、ある日のことだった。
混雑する少し前に無事に牛乳を買い終え、教室に戻ろうとした矢先、奈々が自販機の前で立ちすくんでいるのが目に入った。
目を合わせられる距離ではないという安心感から宮田がしばしその様子を眺めていると、奈々が悲しそうな、切ない表情で何かを見つめているのに気づき、思わず心臓が高鳴った。
ホンの数秒のことが、とてつもなく長い時間に思われた。
奈々がハッと我に返って、その隣の自販機で飲み物を買って去っていったのを確認してから、宮田は一体何を眺めていたのかとその場所へ歩みよっていく。
そこでふと目に入った、イチゴ牛乳の文字。
心臓が大きく脈打ったのが分かった。
宮田は正直困惑していた。
自分が身を引き、余計な噂も消え、安心して木村に気持ちを向けられるはずなのに、奈々は相変わらず昔見せたような切ない表情を浮かべている。
先日のジムの話からすると、木村との仲は順調そうだ。むしろ、自分が「もう関わるな」と冷たく突き放したせいなのか…
今まで仲良くしていた友達からそういうことを言われれば、誰だって良い気分はしないだろう。
まして相手は女である。男が思っている以上に、そういうところは繊細なのかもしれない。
しかし宮田の心には、これ以上「仲の良い友達」を演じることが出来ない自分がいた。
奪い取ろうとも考えたが、余計な気苦労を増やすだけになってしまい、結局全てを「嘘」で片付けた。
相談相手として支えになろうとしても、周りは男女が仲良くしているだけで、間柄を勘ぐってくる。
「浮気女」とまで言われるような事態になったのは、自分が適度な距離を取らなかったからだ・・・そういう自責の念もまた、宮田を責める。
全ては奈々が悲しい顔をしないようにと思ってのことだったが、どの選択肢を選んでも、それは叶わないらしい。
「結局、オレのせいかよ」
宮田は小さく呟いてうつむいた。
自分のふがいなさに、腸が煮えくりかえるような心地がした。