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28.断絶
わかりにくくて、不器用な優しさ
憎まれ口を叩きながらも、それが伝わってくる
宮田は私の事なんて好きじゃないのに、
今も相変わらず、不器用な優しさをくれる。
思わず勘違いしそうになる距離。
でも宮田は、
あの時、ボールに直撃したのが私じゃなくても
きっと同じ事をしたんじゃないかなと思う。
だから、私はこう唱える。
「カンチガイ シナイヨウニ」って。
「おっ!奈々~!ちょーど良いところで会った!入れてくれっ!」
大声で名前を呼ばれ、少し伏し目がちだった目線を起こすと、目の前から誰かが走ってくるのが見えた。
よく見ると他でもない木村である。
奈々が傘を木村の背の高さに合わせて持ち上げると、木村はひょいとその中に入ってきた。
「たっちゃん、どーしたの?」
「バンテージ買いに行ったんだけどよ、帰りにいきなり土砂降りになっちまって」
「天気予報見なかったの?今日15時以降の降水確率100%だったよ」
奈々が呆れたように言う。
木村は「いやいや」などと笑いながら、ごく自然に奈々の傘に手を掛け、自らの手で傘をさした。
身長差があって、奈々が木村の背の高さに合わせて傘を持つのは一苦労である。
そういうさりげない気遣いができるのはさすがだな、と奈々は関心した。
「お前は学校帰りか?」
「うん。今日は雨降るの分かってたしバス通なの。たっちゃんジムは?」
「オレはこれからだわ。雨の中ロードワークすんの嫌なんだよなー・・・」
木村が傘越しに空を見上げて、覇気のない声で言った。
「そういや最近宮田とは仲良くしてんのか?」
何気ない一言に、奈々は先日の保健室の件を思い出して一瞬赤面した。
「・・・その反応は、何かあったな?」
「ないないない!無いって!本当に無い!」
奈々はブンブンと首を振って連呼する。
「宮田は、ジムでは元気にしてるの?」
「んー?まぁいつも通りだよ」
「そっかー」
世間話をしながら帰路に着く。
木村を家に送ってから、奈々も自宅へ戻った。
雨はますます激しくなって、それでも走らなければならないボクサー達の厳しさ。
1人、暖かい家の中でクッキーをかじりながら漫画を読んでいる現状と比べ、なんだか身につまされる思いがした。
次の日。
休み時間にまたも、自分のことを見ながらヒソヒソと話をされているような気配がした。
また宮田のことで何かあったのだろうか?と思いながらも、自分に直接何かを言ってくるような猛者はいない。
些か気分の悪いものを感じたが、特段気にせずに教室へ戻ると、突然ガタンと大きな音が聞こえた。
「おい!落ち着け宮田!!」
「・・・もう一回言ってみろよ?」
「おう、何遍も言ってやらぁ!!」
「止めろよお前ら!」
騒ぎの方に目を遣ると、宮田が立ち上がり、相手の男子を睨み付けているところだった。
1人が宮田を制止するように、肩に手を置いている。
「あんな浮気女に遊ばれて可哀想になぁ!」
「・・・・取り消せ」
「おっ!?いい顔してんなぁ。いつもスカした顔してっからなぁ!」
ざわざわと教室中が騒がしくなった。
対立する二人と、制止しようと側にいる数人の男子を中心に、円状にギャラリーが増えていく。
「ちょっとどうしたの?」
奈々がクラスメイトに尋ねると、言いづらそうに口をつぐんで答えない。
「ボクサーだか何だか知らねぇが、カッコつけんじゃねーよ!」
「・・・取り消せって言ってるだろ」
「尻軽女に騙されて、可哀想ですねぇ~!!」
宮田は思わず拳に力を入れた。
そのまま、対峙する相手の前に一歩踏み出す。
宮田の怒りは、肩を通じて制止しているクラスメイトにも伝わったらしい。
そのオーラに、思わず手を引っ込めてしまった。
「別にアイツと付き合ってるわけじゃないし、好きでもないけど」
ゆっくりと近づき、怒りをたっぷり蓄えた笑みを浮かべながら、宮田は相手の胸ぐらを掴んだ。
「アイツを侮辱するのは許さない」
「あぁ?」
「浮気女って言ったな」
対する男は宮田の手を掴んで払いのけようとしたが、相手はボクサーである。
とてつもない力に太刀打ちできず、そこで初めて宮田に恐怖を感じた。
「ボ、ボクサーが一般人に手ェ出すのかよ」
「取り消せよ」
「じょ、冗談だよ宮田ぁ・・ちょっとからかっただけ・・・」
「取り消せって言ってんだろ!!」
普段大人しい宮田が怒りを露わにし、怒鳴り声をあげる姿にクラスメイト全員が静まりかえった。
しばしの沈黙のあと、乾いたチャイムが鳴った。
宮田はしばらく相手を睨み付けていたが、やがて腕を離すと、何も言わずに自分の席へ戻っていった。
ギャラリー達も、ハッと我に返り各々席に着く。
奈々も何が起きたのか全く掴めないまま、大人しく席に着いた。
何も知らない教師が授業にやってきて、寒々しいギャグを交えながら講義を垂れていたが、クラスメイトは皆、上の空だった。
授業中、隣の席の男子からポイと手紙らしきものを投げて寄越された。
ふと見てみると、同じ列の廊下側に座っている友人が小さく手を振っている。
どうやら手紙の主は彼女らしい。
こっそりと手紙を開けて、内容を確認する。
「奈々が別の男性と相合い傘で歩いていたって噂になってる」
昨日、木村を傘に入れたのは事実である。
けれどそれは全くの偶然で、誰かに見られていたとは言え、それが「他の男と歩いていた」ことになるとは思ってもいなかった。
授業明けに更に詳しく聞いたところ、ファウルボールで保健室に行った時以来、「やっぱりあの二人は付き合っている」などという噂が立ったらしい。宮田が奈々の手を引いて歩いていたのが、その噂に信憑性をもたらしたという。
それに加えて昨日、奈々が木村と歩いている現場を誰かが目撃したために、クラスメイトが宮田を「浮気された男」とからかったそうだ。
宮田が怒ったのは自分がからかわれたことに対してではない。
クラスメイトが奈々を「浮気女」と揶揄したことに対してだ。
それも、見たことのないほどの怒りを。
奈々は放課後、既に下校してグラウンドを歩いている宮田を教室の窓から見かけ、走って追いかけた。
捕まえて何を言えばいいのか分からない。
自分に対する侮辱に怒ってくれた事への感謝?
それとも誤解させるような態度を取ったことへの謝罪?
ただ、このまま何も言わずにいるのは気が許さなかった。
「待って、宮田!」
校舎から大分離れたところで、やっと宮田に追いついた。
宮田は奈々を見るやいなや、見るからに嫌そうな顔をした。
「あ、あのさ・・・」
「なんか用かよ」
冷たい返事に、奈々は次の言葉を失った。
しばしの沈黙のあと、奈々は制服のスカートをギュッと握りながら、
「今日・・・怒ってくれてありがとう」
宮田は返事をせずに、険しい顔をして固まったままだ。
奈々は続けて
「それと・・なんか・・変なことになっててゴメン」
曖昧な謝罪をする奈々に対し、宮田はくるりと背を向けて、呟いた。
「もうオレに関わらないでくれ」
突き放すような冷たい言いぐさに、奈々は思わず固まる。
「オレもお前に関わらないようにする。そうしたら、もう変な噂が立つこともない」
「・・・それってどういう・・・」
宮田は少し振り返って、無表情のまましばし奈々を見つめた後、何も言わずにまた前を向き、歩き始めた。
「ちょっと、宮田ぁ!」
奈々が呼んでも、宮田がこちらを振り返ることはなかった。
わかりにくくて、不器用な優しさ
憎まれ口を叩きながらも、それが伝わってくる
宮田は私の事なんて好きじゃないのに、
今も相変わらず、不器用な優しさをくれる。
思わず勘違いしそうになる距離。
でも宮田は、
あの時、ボールに直撃したのが私じゃなくても
きっと同じ事をしたんじゃないかなと思う。
だから、私はこう唱える。
「カンチガイ シナイヨウニ」って。
「おっ!奈々~!ちょーど良いところで会った!入れてくれっ!」
大声で名前を呼ばれ、少し伏し目がちだった目線を起こすと、目の前から誰かが走ってくるのが見えた。
よく見ると他でもない木村である。
奈々が傘を木村の背の高さに合わせて持ち上げると、木村はひょいとその中に入ってきた。
「たっちゃん、どーしたの?」
「バンテージ買いに行ったんだけどよ、帰りにいきなり土砂降りになっちまって」
「天気予報見なかったの?今日15時以降の降水確率100%だったよ」
奈々が呆れたように言う。
木村は「いやいや」などと笑いながら、ごく自然に奈々の傘に手を掛け、自らの手で傘をさした。
身長差があって、奈々が木村の背の高さに合わせて傘を持つのは一苦労である。
そういうさりげない気遣いができるのはさすがだな、と奈々は関心した。
「お前は学校帰りか?」
「うん。今日は雨降るの分かってたしバス通なの。たっちゃんジムは?」
「オレはこれからだわ。雨の中ロードワークすんの嫌なんだよなー・・・」
木村が傘越しに空を見上げて、覇気のない声で言った。
「そういや最近宮田とは仲良くしてんのか?」
何気ない一言に、奈々は先日の保健室の件を思い出して一瞬赤面した。
「・・・その反応は、何かあったな?」
「ないないない!無いって!本当に無い!」
奈々はブンブンと首を振って連呼する。
「宮田は、ジムでは元気にしてるの?」
「んー?まぁいつも通りだよ」
「そっかー」
世間話をしながら帰路に着く。
木村を家に送ってから、奈々も自宅へ戻った。
雨はますます激しくなって、それでも走らなければならないボクサー達の厳しさ。
1人、暖かい家の中でクッキーをかじりながら漫画を読んでいる現状と比べ、なんだか身につまされる思いがした。
次の日。
休み時間にまたも、自分のことを見ながらヒソヒソと話をされているような気配がした。
また宮田のことで何かあったのだろうか?と思いながらも、自分に直接何かを言ってくるような猛者はいない。
些か気分の悪いものを感じたが、特段気にせずに教室へ戻ると、突然ガタンと大きな音が聞こえた。
「おい!落ち着け宮田!!」
「・・・もう一回言ってみろよ?」
「おう、何遍も言ってやらぁ!!」
「止めろよお前ら!」
騒ぎの方に目を遣ると、宮田が立ち上がり、相手の男子を睨み付けているところだった。
1人が宮田を制止するように、肩に手を置いている。
「あんな浮気女に遊ばれて可哀想になぁ!」
「・・・・取り消せ」
「おっ!?いい顔してんなぁ。いつもスカした顔してっからなぁ!」
ざわざわと教室中が騒がしくなった。
対立する二人と、制止しようと側にいる数人の男子を中心に、円状にギャラリーが増えていく。
「ちょっとどうしたの?」
奈々がクラスメイトに尋ねると、言いづらそうに口をつぐんで答えない。
「ボクサーだか何だか知らねぇが、カッコつけんじゃねーよ!」
「・・・取り消せって言ってるだろ」
「尻軽女に騙されて、可哀想ですねぇ~!!」
宮田は思わず拳に力を入れた。
そのまま、対峙する相手の前に一歩踏み出す。
宮田の怒りは、肩を通じて制止しているクラスメイトにも伝わったらしい。
そのオーラに、思わず手を引っ込めてしまった。
「別にアイツと付き合ってるわけじゃないし、好きでもないけど」
ゆっくりと近づき、怒りをたっぷり蓄えた笑みを浮かべながら、宮田は相手の胸ぐらを掴んだ。
「アイツを侮辱するのは許さない」
「あぁ?」
「浮気女って言ったな」
対する男は宮田の手を掴んで払いのけようとしたが、相手はボクサーである。
とてつもない力に太刀打ちできず、そこで初めて宮田に恐怖を感じた。
「ボ、ボクサーが一般人に手ェ出すのかよ」
「取り消せよ」
「じょ、冗談だよ宮田ぁ・・ちょっとからかっただけ・・・」
「取り消せって言ってんだろ!!」
普段大人しい宮田が怒りを露わにし、怒鳴り声をあげる姿にクラスメイト全員が静まりかえった。
しばしの沈黙のあと、乾いたチャイムが鳴った。
宮田はしばらく相手を睨み付けていたが、やがて腕を離すと、何も言わずに自分の席へ戻っていった。
ギャラリー達も、ハッと我に返り各々席に着く。
奈々も何が起きたのか全く掴めないまま、大人しく席に着いた。
何も知らない教師が授業にやってきて、寒々しいギャグを交えながら講義を垂れていたが、クラスメイトは皆、上の空だった。
授業中、隣の席の男子からポイと手紙らしきものを投げて寄越された。
ふと見てみると、同じ列の廊下側に座っている友人が小さく手を振っている。
どうやら手紙の主は彼女らしい。
こっそりと手紙を開けて、内容を確認する。
「奈々が別の男性と相合い傘で歩いていたって噂になってる」
昨日、木村を傘に入れたのは事実である。
けれどそれは全くの偶然で、誰かに見られていたとは言え、それが「他の男と歩いていた」ことになるとは思ってもいなかった。
授業明けに更に詳しく聞いたところ、ファウルボールで保健室に行った時以来、「やっぱりあの二人は付き合っている」などという噂が立ったらしい。宮田が奈々の手を引いて歩いていたのが、その噂に信憑性をもたらしたという。
それに加えて昨日、奈々が木村と歩いている現場を誰かが目撃したために、クラスメイトが宮田を「浮気された男」とからかったそうだ。
宮田が怒ったのは自分がからかわれたことに対してではない。
クラスメイトが奈々を「浮気女」と揶揄したことに対してだ。
それも、見たことのないほどの怒りを。
奈々は放課後、既に下校してグラウンドを歩いている宮田を教室の窓から見かけ、走って追いかけた。
捕まえて何を言えばいいのか分からない。
自分に対する侮辱に怒ってくれた事への感謝?
それとも誤解させるような態度を取ったことへの謝罪?
ただ、このまま何も言わずにいるのは気が許さなかった。
「待って、宮田!」
校舎から大分離れたところで、やっと宮田に追いついた。
宮田は奈々を見るやいなや、見るからに嫌そうな顔をした。
「あ、あのさ・・・」
「なんか用かよ」
冷たい返事に、奈々は次の言葉を失った。
しばしの沈黙のあと、奈々は制服のスカートをギュッと握りながら、
「今日・・・怒ってくれてありがとう」
宮田は返事をせずに、険しい顔をして固まったままだ。
奈々は続けて
「それと・・なんか・・変なことになっててゴメン」
曖昧な謝罪をする奈々に対し、宮田はくるりと背を向けて、呟いた。
「もうオレに関わらないでくれ」
突き放すような冷たい言いぐさに、奈々は思わず固まる。
「オレもお前に関わらないようにする。そうしたら、もう変な噂が立つこともない」
「・・・それってどういう・・・」
宮田は少し振り返って、無表情のまましばし奈々を見つめた後、何も言わずにまた前を向き、歩き始めた。
「ちょっと、宮田ぁ!」
奈々が呼んでも、宮田がこちらを振り返ることはなかった。