TENDERNESS
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
27.もしも
たっちゃんの時は、こんな風にイライラなんてしなかった。
たっちゃんは格好良いなとか、優しいなとか
考えているだけで幸せで
たっちゃんの側に居られない自分に腹は立ったけど
宮田はいつも冷たくて、何考えているか分からなくて
最近は側にいても落ち着かないくらいで
あいつのことを考える度に腹立たしくなる。
どうしてこんなに苦しくて、腹が立つのに
どうして泣きたいくらい悲しい気持ちになるの?
どうしてこんな風に怒りに震えながら
こんなにも相手を好きで居られるんだろう?
「好き」ってなに?
最近、奈々は宮田の悩みが頭から離れず、どうも何をしても身が入らなかった。
好きな科目であるはずの体育すら、頭が上の空でいい加減に過ごしてしまう。
夏もすっかり終わりに近づき、そろそろ球技大会の話が持ち上がってきた。
それの予行練習とあってか、グラウンドは奈々の気も知らずに盛り上がっている。
今日はクラスの半分がソフトボールとサッカーに分かれての練習をしていた。
奈々も宮田もソフトボール組に入ることになり、男女混合での練習試合が始まった。
3組VS4組の試合。
奈々はベンチで自分の打順を待っていた。
時折カキーンと気持ちのよい打撃音が聞こえてきたが、奈々にはテレビの向こうの甲子園のように遠く感じられた。
そうこうしている内に、宮田の打順が回ってきた。
一瞬、女子から黄色い歓声が飛ぶ。
奈々はどこを見て良いやら分からなかった。
あまりジロジロと見るのも面白くないと思って、わざと遠くのサッカーの試合を見るように目を細めた。
目の前の試合の風景どころか、音までもが遠く遠くに感じられる。
随分と遠くなった太陽を眺めて、奈々は今年の夏を思い出していた。
あの頃は、木村のことが好きで好きで、太陽を見る度に応援していたな。
そんな懐かしい思いに胸が少し痛んだ、その瞬間だった。
「奈々、危ない!!」
友人の叫び声も虚しく、奈々が気付いたときには、頭を鈍い衝撃が走っていた。
思わずベンチから崩れ落ちる。
一体何が起きたのかと思い、やっとのことで目を開けると、上から宮田が自分をのぞき込んでいるのが見えた。
「大丈夫か、高杉」
なぜ宮田が自分をのぞき込んでいるのかよく分からない。
よく見ると宮田だけじゃなく、友人らやクラスメイトまでもが自分を見下ろしていた。
「大丈夫・・・」
と良いながら身体を起こすと、頭に激痛が走った。
近くにソフトボールが転がっている。どうやらファウルボールが直撃したらしい。
怪我を聞きつけた体育教師が走ってきて、その場を制しながら奈々の様子を伺う。
「ファウルボールが当たったのか・・・大丈夫か?意識はハッキリしてるか?」
「はい・・すいません、ボーッとしていたもので」
「謝る必要はない。とりあえず保健室に行こう」
あまりの騒ぎに、次々と人が集まってきた。
サッカーのグループですら、試合を中断して遠くから様子を伺っている。
奈々がようやくのことで立ち上がると、宮田が担任と奈々の間に割って入り、
「オレが連れていきます」
「宮田、お前・・・」
「元々はオレの打った球なんで」
「そうか・・・じゃあ頼んだぞ」
淡々と進んでいく二人のやりとりを見て、余りにも大げさだと思った奈々は
「別に大したことないし、ちょっとここで休めば・・・」
すると宮田は声を荒げて
「いいから行くぞ」
というなり、奈々の手を引っ張って強引に歩き出した。
怪我人と怪我をさせた本人とは言え、噂になったばかりのカップルである。
中には口笛を吹いて茶化すような男子もいた。
それを意にも介さず、宮田はすいずいと歩いていく。
「ちょっと宮田!」
「・・・頭だぞ頭!大したことないわけないだろ!」
「何言って・・」
「保健室行ったあと、絶対病院に行けよ」
「大げさな・・・」
保健室に着くと、宮田は怪我の経緯を一通り保険医に説明した。
ボールの当たった所は少し腫れ出していて、奈々はそこをアイスで冷やしながら、ベッドに横たわった。
当たった場所が場所なだけに、保険医も奈々の自宅に電話し、迎えに来てもらった後に病院に連れていくよう話をしていた。
じわじわと痛むものの、単なるたんこぶ程度のものとしか思えない奈々には、なんだか仰々しいやりとりのような気がしてならなかった。
「高杉」
ベッドの横に宮田が腰掛けて、ぼそりと呟いた。
「ごめん」
「・・・何が?」
「別に狙って打ったわけじゃねぇけどよ」
奈々が自分で抑えていたアイスを、宮田がそっと抑えて続ける。
手と手が重なって、奈々は心臓までもが冷やされる思いがした。
「まさかボケーッと余所見しているなんて思わなかったから」
「・・・失礼ね」
「怒ると頭に血が上るぜ」
「うるさい!」
奈々は自分の手をアイスから離した。
宮田がアイスを抑えてくれているおかげで、打撲部分にしっかりと固定されている。
グラウンドから、試合の歓声が再び聞こえ始めた。
それがやけに遠いものに感じられる。
宮田がじっと奈々の顔を見つめているので、奈々は気恥ずかしさのあまり目を閉じた。
打撲の痛みはアイスのおかげで少しずつ治まってきている。
熱で氷が溶ける度、宮田が抑える位置を正してくれる。
顔全体が熱く感じるのは、きっと打撲のせいだけではなさそうだ。
「ごめんね、宮田」
「なにが?」
「面倒なことになって」
再び目を開けると、すぐに宮田と目が合った。
宮田は真剣な顔をしたまま、
「面倒なことって?」
宮田は自分の打ったボールが奈々に直撃したことに対し詫びていたが、一方で奈々は、自分の不注意で勝手にファウルボールを喰らったことを反省していた。
そもそも余所見などしていなければ避けられたはず。
宮田に余計な心配や保健室の付き添いをさせて、奈々は申し訳ない気持ちになっていた。
「私のお守り」
その気持ちを、少しふざけた言い方で表してみると、宮田もそれを汲んでくれたらしい。
少し微笑んで、ふっと目を瞑った。
「いつもだろ、そんなの」
奈々も、いつもの宮田節を聞いて安心したのか、笑って答えた。
「ばーか」
それから奈々は、目を閉じて、気がつくと眠ってしまっていたらしい。
おぼろげな意識の中で、アイスが何度か位置を変える音が聞こえた。
宮田は自分のことを「好きじゃない」と言った。それに「利用した」というような冷酷な言葉すら放った。
けれども、その言葉と矛盾するような優しい態度を取られると、奈々は好きな気持ちがますます募って抑えられなくなる。
そして、互いに憎まれ口を叩きながらも、どこか心の通じ合ったような会話をする度に、勘違いしそうになる。
もし仮に、宮田が自分のことを好きだとして。
まだ自分が木村のことを好きだと思っていて、それに遠慮しているとしたら・・・・
そんな図々しい計算式すら浮かんでくる。
そしてすぐさま、宮田は遠慮なんてする男ではないと思い直し、過度な期待をせぬように意識を奥へと引っ込めるのだった。
たっちゃんの時は、こんな風にイライラなんてしなかった。
たっちゃんは格好良いなとか、優しいなとか
考えているだけで幸せで
たっちゃんの側に居られない自分に腹は立ったけど
宮田はいつも冷たくて、何考えているか分からなくて
最近は側にいても落ち着かないくらいで
あいつのことを考える度に腹立たしくなる。
どうしてこんなに苦しくて、腹が立つのに
どうして泣きたいくらい悲しい気持ちになるの?
どうしてこんな風に怒りに震えながら
こんなにも相手を好きで居られるんだろう?
「好き」ってなに?
最近、奈々は宮田の悩みが頭から離れず、どうも何をしても身が入らなかった。
好きな科目であるはずの体育すら、頭が上の空でいい加減に過ごしてしまう。
夏もすっかり終わりに近づき、そろそろ球技大会の話が持ち上がってきた。
それの予行練習とあってか、グラウンドは奈々の気も知らずに盛り上がっている。
今日はクラスの半分がソフトボールとサッカーに分かれての練習をしていた。
奈々も宮田もソフトボール組に入ることになり、男女混合での練習試合が始まった。
3組VS4組の試合。
奈々はベンチで自分の打順を待っていた。
時折カキーンと気持ちのよい打撃音が聞こえてきたが、奈々にはテレビの向こうの甲子園のように遠く感じられた。
そうこうしている内に、宮田の打順が回ってきた。
一瞬、女子から黄色い歓声が飛ぶ。
奈々はどこを見て良いやら分からなかった。
あまりジロジロと見るのも面白くないと思って、わざと遠くのサッカーの試合を見るように目を細めた。
目の前の試合の風景どころか、音までもが遠く遠くに感じられる。
随分と遠くなった太陽を眺めて、奈々は今年の夏を思い出していた。
あの頃は、木村のことが好きで好きで、太陽を見る度に応援していたな。
そんな懐かしい思いに胸が少し痛んだ、その瞬間だった。
「奈々、危ない!!」
友人の叫び声も虚しく、奈々が気付いたときには、頭を鈍い衝撃が走っていた。
思わずベンチから崩れ落ちる。
一体何が起きたのかと思い、やっとのことで目を開けると、上から宮田が自分をのぞき込んでいるのが見えた。
「大丈夫か、高杉」
なぜ宮田が自分をのぞき込んでいるのかよく分からない。
よく見ると宮田だけじゃなく、友人らやクラスメイトまでもが自分を見下ろしていた。
「大丈夫・・・」
と良いながら身体を起こすと、頭に激痛が走った。
近くにソフトボールが転がっている。どうやらファウルボールが直撃したらしい。
怪我を聞きつけた体育教師が走ってきて、その場を制しながら奈々の様子を伺う。
「ファウルボールが当たったのか・・・大丈夫か?意識はハッキリしてるか?」
「はい・・すいません、ボーッとしていたもので」
「謝る必要はない。とりあえず保健室に行こう」
あまりの騒ぎに、次々と人が集まってきた。
サッカーのグループですら、試合を中断して遠くから様子を伺っている。
奈々がようやくのことで立ち上がると、宮田が担任と奈々の間に割って入り、
「オレが連れていきます」
「宮田、お前・・・」
「元々はオレの打った球なんで」
「そうか・・・じゃあ頼んだぞ」
淡々と進んでいく二人のやりとりを見て、余りにも大げさだと思った奈々は
「別に大したことないし、ちょっとここで休めば・・・」
すると宮田は声を荒げて
「いいから行くぞ」
というなり、奈々の手を引っ張って強引に歩き出した。
怪我人と怪我をさせた本人とは言え、噂になったばかりのカップルである。
中には口笛を吹いて茶化すような男子もいた。
それを意にも介さず、宮田はすいずいと歩いていく。
「ちょっと宮田!」
「・・・頭だぞ頭!大したことないわけないだろ!」
「何言って・・」
「保健室行ったあと、絶対病院に行けよ」
「大げさな・・・」
保健室に着くと、宮田は怪我の経緯を一通り保険医に説明した。
ボールの当たった所は少し腫れ出していて、奈々はそこをアイスで冷やしながら、ベッドに横たわった。
当たった場所が場所なだけに、保険医も奈々の自宅に電話し、迎えに来てもらった後に病院に連れていくよう話をしていた。
じわじわと痛むものの、単なるたんこぶ程度のものとしか思えない奈々には、なんだか仰々しいやりとりのような気がしてならなかった。
「高杉」
ベッドの横に宮田が腰掛けて、ぼそりと呟いた。
「ごめん」
「・・・何が?」
「別に狙って打ったわけじゃねぇけどよ」
奈々が自分で抑えていたアイスを、宮田がそっと抑えて続ける。
手と手が重なって、奈々は心臓までもが冷やされる思いがした。
「まさかボケーッと余所見しているなんて思わなかったから」
「・・・失礼ね」
「怒ると頭に血が上るぜ」
「うるさい!」
奈々は自分の手をアイスから離した。
宮田がアイスを抑えてくれているおかげで、打撲部分にしっかりと固定されている。
グラウンドから、試合の歓声が再び聞こえ始めた。
それがやけに遠いものに感じられる。
宮田がじっと奈々の顔を見つめているので、奈々は気恥ずかしさのあまり目を閉じた。
打撲の痛みはアイスのおかげで少しずつ治まってきている。
熱で氷が溶ける度、宮田が抑える位置を正してくれる。
顔全体が熱く感じるのは、きっと打撲のせいだけではなさそうだ。
「ごめんね、宮田」
「なにが?」
「面倒なことになって」
再び目を開けると、すぐに宮田と目が合った。
宮田は真剣な顔をしたまま、
「面倒なことって?」
宮田は自分の打ったボールが奈々に直撃したことに対し詫びていたが、一方で奈々は、自分の不注意で勝手にファウルボールを喰らったことを反省していた。
そもそも余所見などしていなければ避けられたはず。
宮田に余計な心配や保健室の付き添いをさせて、奈々は申し訳ない気持ちになっていた。
「私のお守り」
その気持ちを、少しふざけた言い方で表してみると、宮田もそれを汲んでくれたらしい。
少し微笑んで、ふっと目を瞑った。
「いつもだろ、そんなの」
奈々も、いつもの宮田節を聞いて安心したのか、笑って答えた。
「ばーか」
それから奈々は、目を閉じて、気がつくと眠ってしまっていたらしい。
おぼろげな意識の中で、アイスが何度か位置を変える音が聞こえた。
宮田は自分のことを「好きじゃない」と言った。それに「利用した」というような冷酷な言葉すら放った。
けれども、その言葉と矛盾するような優しい態度を取られると、奈々は好きな気持ちがますます募って抑えられなくなる。
そして、互いに憎まれ口を叩きながらも、どこか心の通じ合ったような会話をする度に、勘違いしそうになる。
もし仮に、宮田が自分のことを好きだとして。
まだ自分が木村のことを好きだと思っていて、それに遠慮しているとしたら・・・・
そんな図々しい計算式すら浮かんでくる。
そしてすぐさま、宮田は遠慮なんてする男ではないと思い直し、過度な期待をせぬように意識を奥へと引っ込めるのだった。