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25.永遠の絆
考えてみればあの二人は
どこか似ているのかもしれない
困っている人を放っておけない優しさとか
言わなくても危機を察知してくれる勘の良さとか
心からホッとさせてくれる安心感とか
表現の方法は違うけれど
私はきっと、ああいう人が好きなんだ
けれど私は、ああいう人たちに
好かれる人間では無いのかもしれない
もっと、魅力のある人間になりたい。
今度こそ、思いが叶うように。
「たっちゃん、映画行こう」
家で悶々とくすぶっている木村に対して、奈々は電話で映画に誘った。
受話器の向こうで木村は、まるっきり精の抜けた声で「いいよぉ」と答えた。
日曜日、支度をして木村の家に行くと、木村は既に支度を終えて店先に居た。
表情を見ると、些か元気のない顔をしているものの、想定していたほどではない。
「あら、意外と元気じゃん」
「・・・せっかくの映画だもん、楽しまないとな」
そういって木村は笑ってから、
「それに前回、一緒に行ってやれなかったしさ」
と言った。
まだそのことを覚えていたのか、と奈々は少し驚きつつも、嬉しさの余り笑みがこぼれる。
そういうところが好きなんだよな、と思いつつも、以前と違う感情を自分が抱いていることは知っていた。
「じゃ、行こう!失恋記念でパフェでもおごってよ」
「おいおい、おごってくれるんじゃないのかよ」
「たまには妹孝行くらいしなさい」
「はいはい・・・」
日曜日の昼とあってか、はたまた人気映画の公開直後とあってか、映画館は大勢の人で賑わっていた。
親子連れやカップル、友達同士といった様々な団体が、楽しそうに開演を待っている。
肝心の映画は、「さすがスティーブン監督の愛弟子」と奈々が評するほど、最高のエンターテイメントに仕上がっていた。
上映後、木村と感想を言い合いながら、映画館の近所にある喫茶店へと足を運んだ。
「チョコレートパフェ1つとダージリン。たっちゃんは?なんでも好きなもの頼んでいいよ」
「お前のおごりで?」
「まさか」
「・・・・ホットコーヒーください」
注文の品が来る間、先ほどの映画の感想の続きに始まり、最近のジムでの様子や今後の試合などについて話をする。
木村の試合も約1ヶ月後に決まったらしく、拳をパシンと打って一言、
「フラれて落ち込んでる場合じゃなかったからな。今日は良い気分転換になったわ」
「私のおかげ、だね」
「まぁな。感謝してるよ」
「パフェで勘弁してあげるよ」
「へーへー。そりゃどうも」
ここちよいBGMを聞きながら、木村もリラックスして指をトントンとテーブルに打ち付け、リズムを取っている。
夕日が暮れかけ、赤の強い光が店内に差し込んで来た。
「たっちゃん、私さ・・・」
パフェを食べながら奈々が口を開くと、木村は指をピタリと止めて、「なに?」と聞き返した。
「私、おかしいんだ、最近…」
その言葉に、木村は口につけていたコーヒーカップをソーサーに戻し、姿勢を正して、
「どうした?」
「うーん…」
何から話していいものかと悩んでいると、木村は笑って
「恋愛がらみか」
「ま、まぁ…」
先日の花火の時、それから今日と、奈々の様子がいつもと違うことに木村は気づいていた。
心ここにあらずというか、他の人のことを考えているような感じがした。
ひょっとして、と思い、ふと思いついた人物名を挙げてみる。
「宮田か?」
突然の言葉に、奈々は驚きのあまりスプーンから手を離してしまった。
グラスに跳ね返ったスプーンのチャリーンとマヌケな金属音が、店内にこだまする。
あまりにも分かりやすい態度に、木村は内心ビンゴ!と叫んだ。
「な、な、なんで…!」
「違うのか?」
「わ、私、たっちゃんが好きなんだよ?」
顔を真っ赤にしながら奈々が反論する。しかし木村は表情を変えることなく
「じゃあオレと付き合う?」
木村が意地悪そうに笑う。
冗談だと分かり切った交際の申し込みにも関わらず、奈々の脳裏には正直にも別の男が浮かぶ。
その様子を見逃さない木村、突然だはははと笑って
「昔なら即答したろ?」
「う…ずるいよ、今更そういう冗談…」
「で、誰のこと考えてたんだよ?」
「だ、誰って…」
しどろもどろで答えに詰まる奈々。じいっと見つめる木村の目線に、もはや隠し事は出来ないと悟った。
「しかし宮田かぁ…やるなぁ、あいつも…」
再びカップを持って、コーヒーを一口すすって木村が言った。
すると奈々は、パフェをすくう手を止めて、ちょっと考えてから、
「・・・でも宮田は私のこと好きじゃないんだって」
「…え?」
奈々の言葉に、木村は驚きの声をあげた。むしろ、宮田の方が奈々に好意を寄せていると思っていたからだ。
「告白してフラれたのか?」
「いや、違うけど・・・そう言われた」
「ふぅん・・・」
木村はそれから、何かを考えるかのように頬杖をついて窓の外を眺めた。
奈々は残りのパフェをスプーンで掻き出して完食すると、ダージリンを一口すすって、深呼吸した。
「男心って難しいね」
独り言のように奈々が呟くと、木村は再び顔を奈々の方向に向け、ちょっと笑いながら答えた。
「女よりは単純だぜ」
「うそぉ?」
「好きな女の幸せを一番に考えるのが男ってもんよ。女の笑顔は男の喜び、単純だろ?」
「・・・よくわかんない」
もしそれが男の喜びなのだとしたら、自分から笑顔を奪っている宮田は、自分の幸せなど考えてもいないのだろうと思った。
そんな風に考えてしまう自分は、自分のことしか考えていない嫌な人間だな、とも思う。
1人あれこれと思案する奈々を前に、暮れかけた空を見て、木村が伝票を手に取った。
「そろそろ行くか」
昔、ショッピングをした時の帰り道も同じような夕暮れだった。
長く伸びた自分たちの影を見ながら、そっと手を握ったあの日。
今はそれが遠く昔のことのように感じられるくらい、心が落ち着いている。
「ねぇ、たっちゃん」
「んー?」
木村は暖かな空気を吸うように、顔を空に向けながら答えた。
「私、たっちゃんのこと好きで良かったよ」
奈々がそういうと、木村は空を向いたまましばし固まって、
「・・・オレも、好きになってくれてありがとうな」
と言い、奈々を見つめて微笑んだ。
それから少し照れくさそうに頭をガシガシと掻いて、再び歩き出す。
「今も大好きだよ」
「宮田の次にか?」
茶化して笑う木村の背中をバシンと叩いて奈々が言う。
「たっちゃんは特別だから」
すると木村は、奈々の頭をくしゃくしゃと撫でた。
考えてみればあの二人は
どこか似ているのかもしれない
困っている人を放っておけない優しさとか
言わなくても危機を察知してくれる勘の良さとか
心からホッとさせてくれる安心感とか
表現の方法は違うけれど
私はきっと、ああいう人が好きなんだ
けれど私は、ああいう人たちに
好かれる人間では無いのかもしれない
もっと、魅力のある人間になりたい。
今度こそ、思いが叶うように。
「たっちゃん、映画行こう」
家で悶々とくすぶっている木村に対して、奈々は電話で映画に誘った。
受話器の向こうで木村は、まるっきり精の抜けた声で「いいよぉ」と答えた。
日曜日、支度をして木村の家に行くと、木村は既に支度を終えて店先に居た。
表情を見ると、些か元気のない顔をしているものの、想定していたほどではない。
「あら、意外と元気じゃん」
「・・・せっかくの映画だもん、楽しまないとな」
そういって木村は笑ってから、
「それに前回、一緒に行ってやれなかったしさ」
と言った。
まだそのことを覚えていたのか、と奈々は少し驚きつつも、嬉しさの余り笑みがこぼれる。
そういうところが好きなんだよな、と思いつつも、以前と違う感情を自分が抱いていることは知っていた。
「じゃ、行こう!失恋記念でパフェでもおごってよ」
「おいおい、おごってくれるんじゃないのかよ」
「たまには妹孝行くらいしなさい」
「はいはい・・・」
日曜日の昼とあってか、はたまた人気映画の公開直後とあってか、映画館は大勢の人で賑わっていた。
親子連れやカップル、友達同士といった様々な団体が、楽しそうに開演を待っている。
肝心の映画は、「さすがスティーブン監督の愛弟子」と奈々が評するほど、最高のエンターテイメントに仕上がっていた。
上映後、木村と感想を言い合いながら、映画館の近所にある喫茶店へと足を運んだ。
「チョコレートパフェ1つとダージリン。たっちゃんは?なんでも好きなもの頼んでいいよ」
「お前のおごりで?」
「まさか」
「・・・・ホットコーヒーください」
注文の品が来る間、先ほどの映画の感想の続きに始まり、最近のジムでの様子や今後の試合などについて話をする。
木村の試合も約1ヶ月後に決まったらしく、拳をパシンと打って一言、
「フラれて落ち込んでる場合じゃなかったからな。今日は良い気分転換になったわ」
「私のおかげ、だね」
「まぁな。感謝してるよ」
「パフェで勘弁してあげるよ」
「へーへー。そりゃどうも」
ここちよいBGMを聞きながら、木村もリラックスして指をトントンとテーブルに打ち付け、リズムを取っている。
夕日が暮れかけ、赤の強い光が店内に差し込んで来た。
「たっちゃん、私さ・・・」
パフェを食べながら奈々が口を開くと、木村は指をピタリと止めて、「なに?」と聞き返した。
「私、おかしいんだ、最近…」
その言葉に、木村は口につけていたコーヒーカップをソーサーに戻し、姿勢を正して、
「どうした?」
「うーん…」
何から話していいものかと悩んでいると、木村は笑って
「恋愛がらみか」
「ま、まぁ…」
先日の花火の時、それから今日と、奈々の様子がいつもと違うことに木村は気づいていた。
心ここにあらずというか、他の人のことを考えているような感じがした。
ひょっとして、と思い、ふと思いついた人物名を挙げてみる。
「宮田か?」
突然の言葉に、奈々は驚きのあまりスプーンから手を離してしまった。
グラスに跳ね返ったスプーンのチャリーンとマヌケな金属音が、店内にこだまする。
あまりにも分かりやすい態度に、木村は内心ビンゴ!と叫んだ。
「な、な、なんで…!」
「違うのか?」
「わ、私、たっちゃんが好きなんだよ?」
顔を真っ赤にしながら奈々が反論する。しかし木村は表情を変えることなく
「じゃあオレと付き合う?」
木村が意地悪そうに笑う。
冗談だと分かり切った交際の申し込みにも関わらず、奈々の脳裏には正直にも別の男が浮かぶ。
その様子を見逃さない木村、突然だはははと笑って
「昔なら即答したろ?」
「う…ずるいよ、今更そういう冗談…」
「で、誰のこと考えてたんだよ?」
「だ、誰って…」
しどろもどろで答えに詰まる奈々。じいっと見つめる木村の目線に、もはや隠し事は出来ないと悟った。
「しかし宮田かぁ…やるなぁ、あいつも…」
再びカップを持って、コーヒーを一口すすって木村が言った。
すると奈々は、パフェをすくう手を止めて、ちょっと考えてから、
「・・・でも宮田は私のこと好きじゃないんだって」
「…え?」
奈々の言葉に、木村は驚きの声をあげた。むしろ、宮田の方が奈々に好意を寄せていると思っていたからだ。
「告白してフラれたのか?」
「いや、違うけど・・・そう言われた」
「ふぅん・・・」
木村はそれから、何かを考えるかのように頬杖をついて窓の外を眺めた。
奈々は残りのパフェをスプーンで掻き出して完食すると、ダージリンを一口すすって、深呼吸した。
「男心って難しいね」
独り言のように奈々が呟くと、木村は再び顔を奈々の方向に向け、ちょっと笑いながら答えた。
「女よりは単純だぜ」
「うそぉ?」
「好きな女の幸せを一番に考えるのが男ってもんよ。女の笑顔は男の喜び、単純だろ?」
「・・・よくわかんない」
もしそれが男の喜びなのだとしたら、自分から笑顔を奪っている宮田は、自分の幸せなど考えてもいないのだろうと思った。
そんな風に考えてしまう自分は、自分のことしか考えていない嫌な人間だな、とも思う。
1人あれこれと思案する奈々を前に、暮れかけた空を見て、木村が伝票を手に取った。
「そろそろ行くか」
昔、ショッピングをした時の帰り道も同じような夕暮れだった。
長く伸びた自分たちの影を見ながら、そっと手を握ったあの日。
今はそれが遠く昔のことのように感じられるくらい、心が落ち着いている。
「ねぇ、たっちゃん」
「んー?」
木村は暖かな空気を吸うように、顔を空に向けながら答えた。
「私、たっちゃんのこと好きで良かったよ」
奈々がそういうと、木村は空を向いたまましばし固まって、
「・・・オレも、好きになってくれてありがとうな」
と言い、奈々を見つめて微笑んだ。
それから少し照れくさそうに頭をガシガシと掻いて、再び歩き出す。
「今も大好きだよ」
「宮田の次にか?」
茶化して笑う木村の背中をバシンと叩いて奈々が言う。
「たっちゃんは特別だから」
すると木村は、奈々の頭をくしゃくしゃと撫でた。