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21.胸の痛み
これは推測に過ぎない。
相手は何も、私のことだとは限らない。
だって宮田は、私の事なんて、
「考えたことない」って言ってたもん。
だけどもし、仮に、そうだとしたら、
私はどれだけ宮田を傷つけてきたんだろう。
そもそも宮田は、いつから私を
「考え始めた」んだろう。
いや、やっぱりこれは、推論に過ぎない。
「奈々、電話よ」
母親が子機を持って2階に上がり、奈々の部屋のドアをノックしながら言った。
「はーい」と気の抜けた返事をしてドアを開けると、母親は「達也くんから」と言いながら受話器を渡した。
木村からの電話は久しぶりで、いつもならハイテンションになるところだったが、今日はそんな気分になれなかった。
というのも、ここしばらくはずっと宮田のことで頭がいっぱいで、木村のことを考えるのすら忘れていたのだ。
「よぉ、まだ起きてたか?」
「たっちゃん、どうしたの?」
「明日の夜、ジムの連中で花火やるんだよ。お前も来ないか?」
そう言われてふと、木村の彼女の存在が頭を過ぎった。
「・・・・誰が来るの?」
牽制するように聞くと、木村は青木、鷹村、そのほか練習生の名前をいくつか挙げた。
なぜか宮田の名前は出なかったが、そもそも花火などやりそうもない性格をしているので、誘ってすらいないのだろうと奈々は思った。
「彼女は誘わないの?」
念のため聞くと、木村は笑って
「仕事だってさ。まぁ野郎ばっかりのところに、あの子を連れていくつもりは無かったけど」
「へぇ、私ならいいんだ」
「いや、そういうコトじゃなくて・・・お前は特別だからよ!」
「上手いこと言っちゃって。まぁ別にいいけどね」
それから電話を切って、しばし考え込む。
いつもなら、木村と電話をした日は一日中ハッピーな気持ちで居られたのに、どうも溜息しか出ない。
それもこれも、宮田の一件が頭から離れないせいだ。
その一方で、彼女と順調そうな木村を思って胸が痛むのをまだ確認していた。
次の日、夕方のジムにて、鷹村達が今日のプランについてワイワイと話をしているところに、宮田がロードワークから帰ってきた。
「おぉ宮田、今日は7時に河原の大橋付近だからな」
鷹村が肩を叩きながら言うと、宮田はいぶかしげな顔をして
「何の話です?」
「キサマ知らないのか、今日の花火大会を」
「あー、オレまだ話してないんスよ」
青木がそう言うと木村は驚いて、
「マジかよ?連絡無いから断られたんだと思ってたぜ」
「どっちにしろ興味ありませんけど」
宮田はつまらなそうに、その場を離れようとした。
すると鷹村がガシッと肩を掴んで引き留めるように
「キサマ、まさか来ないのか?オレ様の主催だというのに」
「お前が居ないとこの理不尽大王をコントロール出来ねぇんだよ、来てくれよ宮田」
「そうそう、頼むよ宮田!」
やんややんやと引き留められて、宮田は溜息をつきながら「いいですけど」と答えた。
見た目はクールであるが実は情に脆いという宮田の欠点を、鴨川ジムのメンツはよく心得ているらしい。
特に木村と青木は、鷹村の世話役を宮田に任せることができそうだと喜びを隠せないでいた。
「そうそう、他に何人かの練習生と、あと奈々も来るからよ」
木村は宮田の背中めがけて声を掛けたが、聞こえているのか居ないのか、宮田は返事をしなかった。
7時を迎えて、奈々は木村と共に河原へ向かった。
既に鷹村が沢山の花火を前に、ウキウキと品定めをしているところだった。
そして、その横にいる人物を見て奈々は驚愕する。
来ないと思っていた、宮田が立っていたからだ。
「よーっし!パーッとやろうぜ今日は!」
各々が好きな花火を手に持ち、走ったり踊ったり騒ぎながら楽しんでいる。
鷹村は大きな打ち上げ花火を股間に押しつけて、卑猥なギャグを飛ばしながら後輩を追いかけ回していた。
木村と奈々は比較的小さな手持ち花火に火をつけて、遠くから騒ぎを眺めていた。
「楽しいか、奈々」
「うん。花火なんて久しぶりだよ。お誘いありがとね」
「いやいや。鷹村さんがお前も誘ったらどうだって言うから」
どこかで聞いたセリフだと思ったら、前回のバーベキューの時と同じだ。
奈々は少し可笑しくなって、軽く笑みを浮かべながら
「また鷹村さんなんだ・・・私、好かれてるね」
「なんだかんだで、お前のこと気に入ってるみたいだぜ。生意気で面白いって」
「あーら、素敵な褒め言葉ね」
そういって奈々は火口を木村に向ける。
木村は「うわっ」と慌てふためいて、ボクサーのフットワークを生かして距離を取った。
「危ねぇだろバカ!」
「変なこと言うからだよ」
木村に彼女が出来てからしばらくまともに話せなくなっていた奈々だったが、ふと自分がいつもの調子で接していられることに気がついた。
彼女の存在が発覚する前、失恋する前の、男女を超えた兄妹のような関係。
どうしてだろうと考えながら騒がしい輪の方に目を遣った途端、宮田と目が合い、奈々は思わずドキリとした。
目があった瞬間、宮田は興味なさそうな態度ですぐさま目を逸らした。
その態度が、ちくりと胸を刺した。
奈々は、宮田が見えなくなるようにくるりと背を向けて、再び花火に火をつけた。
これは推測に過ぎない。
相手は何も、私のことだとは限らない。
だって宮田は、私の事なんて、
「考えたことない」って言ってたもん。
だけどもし、仮に、そうだとしたら、
私はどれだけ宮田を傷つけてきたんだろう。
そもそも宮田は、いつから私を
「考え始めた」んだろう。
いや、やっぱりこれは、推論に過ぎない。
「奈々、電話よ」
母親が子機を持って2階に上がり、奈々の部屋のドアをノックしながら言った。
「はーい」と気の抜けた返事をしてドアを開けると、母親は「達也くんから」と言いながら受話器を渡した。
木村からの電話は久しぶりで、いつもならハイテンションになるところだったが、今日はそんな気分になれなかった。
というのも、ここしばらくはずっと宮田のことで頭がいっぱいで、木村のことを考えるのすら忘れていたのだ。
「よぉ、まだ起きてたか?」
「たっちゃん、どうしたの?」
「明日の夜、ジムの連中で花火やるんだよ。お前も来ないか?」
そう言われてふと、木村の彼女の存在が頭を過ぎった。
「・・・・誰が来るの?」
牽制するように聞くと、木村は青木、鷹村、そのほか練習生の名前をいくつか挙げた。
なぜか宮田の名前は出なかったが、そもそも花火などやりそうもない性格をしているので、誘ってすらいないのだろうと奈々は思った。
「彼女は誘わないの?」
念のため聞くと、木村は笑って
「仕事だってさ。まぁ野郎ばっかりのところに、あの子を連れていくつもりは無かったけど」
「へぇ、私ならいいんだ」
「いや、そういうコトじゃなくて・・・お前は特別だからよ!」
「上手いこと言っちゃって。まぁ別にいいけどね」
それから電話を切って、しばし考え込む。
いつもなら、木村と電話をした日は一日中ハッピーな気持ちで居られたのに、どうも溜息しか出ない。
それもこれも、宮田の一件が頭から離れないせいだ。
その一方で、彼女と順調そうな木村を思って胸が痛むのをまだ確認していた。
次の日、夕方のジムにて、鷹村達が今日のプランについてワイワイと話をしているところに、宮田がロードワークから帰ってきた。
「おぉ宮田、今日は7時に河原の大橋付近だからな」
鷹村が肩を叩きながら言うと、宮田はいぶかしげな顔をして
「何の話です?」
「キサマ知らないのか、今日の花火大会を」
「あー、オレまだ話してないんスよ」
青木がそう言うと木村は驚いて、
「マジかよ?連絡無いから断られたんだと思ってたぜ」
「どっちにしろ興味ありませんけど」
宮田はつまらなそうに、その場を離れようとした。
すると鷹村がガシッと肩を掴んで引き留めるように
「キサマ、まさか来ないのか?オレ様の主催だというのに」
「お前が居ないとこの理不尽大王をコントロール出来ねぇんだよ、来てくれよ宮田」
「そうそう、頼むよ宮田!」
やんややんやと引き留められて、宮田は溜息をつきながら「いいですけど」と答えた。
見た目はクールであるが実は情に脆いという宮田の欠点を、鴨川ジムのメンツはよく心得ているらしい。
特に木村と青木は、鷹村の世話役を宮田に任せることができそうだと喜びを隠せないでいた。
「そうそう、他に何人かの練習生と、あと奈々も来るからよ」
木村は宮田の背中めがけて声を掛けたが、聞こえているのか居ないのか、宮田は返事をしなかった。
7時を迎えて、奈々は木村と共に河原へ向かった。
既に鷹村が沢山の花火を前に、ウキウキと品定めをしているところだった。
そして、その横にいる人物を見て奈々は驚愕する。
来ないと思っていた、宮田が立っていたからだ。
「よーっし!パーッとやろうぜ今日は!」
各々が好きな花火を手に持ち、走ったり踊ったり騒ぎながら楽しんでいる。
鷹村は大きな打ち上げ花火を股間に押しつけて、卑猥なギャグを飛ばしながら後輩を追いかけ回していた。
木村と奈々は比較的小さな手持ち花火に火をつけて、遠くから騒ぎを眺めていた。
「楽しいか、奈々」
「うん。花火なんて久しぶりだよ。お誘いありがとね」
「いやいや。鷹村さんがお前も誘ったらどうだって言うから」
どこかで聞いたセリフだと思ったら、前回のバーベキューの時と同じだ。
奈々は少し可笑しくなって、軽く笑みを浮かべながら
「また鷹村さんなんだ・・・私、好かれてるね」
「なんだかんだで、お前のこと気に入ってるみたいだぜ。生意気で面白いって」
「あーら、素敵な褒め言葉ね」
そういって奈々は火口を木村に向ける。
木村は「うわっ」と慌てふためいて、ボクサーのフットワークを生かして距離を取った。
「危ねぇだろバカ!」
「変なこと言うからだよ」
木村に彼女が出来てからしばらくまともに話せなくなっていた奈々だったが、ふと自分がいつもの調子で接していられることに気がついた。
彼女の存在が発覚する前、失恋する前の、男女を超えた兄妹のような関係。
どうしてだろうと考えながら騒がしい輪の方に目を遣った途端、宮田と目が合い、奈々は思わずドキリとした。
目があった瞬間、宮田は興味なさそうな態度ですぐさま目を逸らした。
その態度が、ちくりと胸を刺した。
奈々は、宮田が見えなくなるようにくるりと背を向けて、再び花火に火をつけた。