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19.不意打ち
望んでいた天罰が下った。
たっちゃんが選んだ女性は、
綺麗で、清楚で、優しそうなひとだった。
私が好きなたっちゃんだもの、
変な女性を好きになるはずがないよね。
鏡を見ると、自分の子供っぽさが恥ずかしくなる。
笑っちゃうくらい、完敗という言葉がふさわしい。
そうだよね、たっちゃんが
私なんて、選ぶはずなかったんだ。
バカなのは、私のほうだったね。
「宮田ぁ」
授業が終わって帰り際、カバンを整理している宮田に奈々が話しかけた。
「なんだ」
「今日ヒマ?」
「・・・なわけねーだろ」
「だって今日、ボクシングのバッグ持ってないじゃん」
奈々が鋭い指摘をすると、宮田は呆れたように
「工事が入って、今日はジム使えないんだよ」
「じゃ、ヒマじゃん」
「自主トレするから無理」
ふう、と溜息をついて、横をすり抜けようとする宮田の腕を、奈々は強引に掴んで
「1時間だけちょうだい」
腕を掴んでいるものの、奈々の顔は宮田の方を向いていなかった。
普段、奈々がこれほどせっぱ詰まった雰囲気を出すことは珍しい。
おそらく、また自分に何か助けを求めているのだろうと宮田は察知した。
「1時間だけ・・・だからな」
「ホント!?やった!」
「で、何がしたいんだよ?」
「まぁとりあえず行こ!」
宮田の腕をぐいぐいと引っ張って、奈々は陽気に玄関を目指す。
周りの生徒が何事かと注視している中、そんな目線はみじんも気にしていないらしい。
宮田は奈々が繊細なのか図太いのか、たまに訳が分からなくなる。
奈々が“1時間だけの遊び先”に選んだのはゲームセンターだった。
中は、学校帰りの学生で賑わっている。
宮田自身はゲームセンターに興味は無いが、鷹村が入門したての頃、会長に頼まれてよく迎えに行ったことがある。
なんだか懐かしい気分だ、と思いつつ、目の前ではしゃぐ奈々に軽く溜息をついた。
手当たり次第にゲームを選ぶ。両替した100円玉は次々と減っていった。
宮田はゲームをやるのは生まれて初めてだったらしい。
カーレースで脱線、逆送を繰り返す宮田を見て、奈々は手を叩きながら笑った。
異常なハイテンションでゲームを楽しむ奈々を見て、宮田は違和感を感じていた。
前にもどこかで見たような光景だと、記憶を辿ってみて思い出した。
一緒に映画を見に行った時だ。
無理して笑っているような、どこか痛々しい笑顔。
心の奥の痛みを隠すように、押し込めるように、暗示をかけるように、笑う姿。
先日の、木村の彼女の一件から立ち直れていないのは容易に把握できたものの、前に失恋したときは自分を頼って素直に涙を見せた奈々が、今度は悲しみを隠そうと必死なことに、少し苛立ちを覚えた。
はしゃぎたいだけなら他の友人を誘えばいい話。わざわざ自分を誘っておいて、他の人と何も変わらない役割を与えられると、さすがに面白くない。
そう思って宮田はふと立ち止まった。
面白くない?なぜ?
見ないふりをしていた答えが急に目の前に現れたような感覚がし、宮田はそれを遮るように目を閉じた。
「もうすぐ1時間だけど」
モグラたたきにいそしむ奈々の横で、宮田がボソリと呟く。
「あっと言う間だね」
「もう思い残すことはねぇか?」
宮田の言葉に、奈々はゲームセンターをぐるりと見渡して
「プリクラ撮ろう!」
「・・何それ」
「嘘っ!プリクラも知らないの!?写真だよ写真」
奈々は宮田の制服の袖を引っ張りながら、プリクラコーナーへ移動する。
宮田はそれが何なのかサッパリ分からなかったが、機械から垂れ幕のように下がっているギャル写真を見て、嫌な予感がした。
「この画面見て、ポーズ決めてね」
「・・・絶対やらない」
「よし、カップル設定にしよう!」
宮田の言うことはまるで耳に入っていないらしい。
奈々は一連の設定を終え、棒立ちする宮田の横で様々なポーズを取っていた。
『もっと寄って~』
プリクラが呑気な音声を出す。
「ホラ、もっとラブラブな感じ出していこうよ!」
「・・・勝手にしてくれ」
奈々は宮田の胸に飛び込み、ギュッと抱きしめながらおどけた。
少し気恥ずかしそうに、宮田が目を片手で覆う。
相変わらず、奈々は終始カラ元気で明るい声で笑っている。宮田はそれを見るたびに、失恋時に泣きついて来た奈々の泣き顔を思い出す。
そんな風に笑ってないと壊れちまうのかよ。
そんなにあの人が好きなのかよ。
『次は、チュ~してみてぇ~』
プリクラの音声が再び呑気なセリフを吐く。
奈々は宮田に抱きついたまま、唇をちょっと上に上げて
「チューだって宮田」
「バカか」
「ほーらほら、遠慮するなって!」
「あのなぁ・・・」
「いいじゃん、フリだけしようよ」
機械が相変わらず間の抜けた声で、「3,2,1」と掛け声を始めた。
奈々は、宮田に対するからかい半分、バカップル演技半分で、静かに目を閉じる。
カシャ、とシャッターの音がしたと同時に、奈々の唇は温かい感触に包まれた。
突然の出来事に思わず目を見開くと、宮田が今までに見たこともない至近距離に居るのが分かった。
重なった唇が、ゆっくりと離れていく。
一方で機械は『外で落書きしてネェ~』というユルい音声を吐き出している。
驚きの余り固まった奈々を、宮田はゆっくり抱きしめた。
「泣かないのかよ」
背中に回した両手に、一層力が入る。
奈々は混乱の余り、今自分がどういう状態にいるのかよく分からなかった。
「なんでだよ」
「・・・な、何が・・」
「バカみてぇに強がりやがって」
宮田が何を言い出したのか、奈々には全く分からなかった。
その様子が、ますます宮田を苛立たせたようだ。
ギリっと歯を食いしばり、さらに強く抱きしめて宮田が言う。
「気になるんだよ」
しばしの沈黙のあと、宮田はすっと力を抜き、奈々から身体を離した。
それから、地面に置いていたカバンを取り、機械の中と外を分けるカーテンを開けた。
「ちょ、ちょっと待って!・・・アンタ、何言って・・・」
奈々が宮田の袖を後ろから引っ張ると、宮田は振り向きもせずに答えた。
「もう時間だから」
去っていく宮田の後ろ姿を見ながら、奈々は何が起きたのかと現実を信じられないで居た。
思い出したように、機械の取り出し口からプリクラを取り出す。
そこには“あの瞬間”が、しっかりと写っていた。
望んでいた天罰が下った。
たっちゃんが選んだ女性は、
綺麗で、清楚で、優しそうなひとだった。
私が好きなたっちゃんだもの、
変な女性を好きになるはずがないよね。
鏡を見ると、自分の子供っぽさが恥ずかしくなる。
笑っちゃうくらい、完敗という言葉がふさわしい。
そうだよね、たっちゃんが
私なんて、選ぶはずなかったんだ。
バカなのは、私のほうだったね。
「宮田ぁ」
授業が終わって帰り際、カバンを整理している宮田に奈々が話しかけた。
「なんだ」
「今日ヒマ?」
「・・・なわけねーだろ」
「だって今日、ボクシングのバッグ持ってないじゃん」
奈々が鋭い指摘をすると、宮田は呆れたように
「工事が入って、今日はジム使えないんだよ」
「じゃ、ヒマじゃん」
「自主トレするから無理」
ふう、と溜息をついて、横をすり抜けようとする宮田の腕を、奈々は強引に掴んで
「1時間だけちょうだい」
腕を掴んでいるものの、奈々の顔は宮田の方を向いていなかった。
普段、奈々がこれほどせっぱ詰まった雰囲気を出すことは珍しい。
おそらく、また自分に何か助けを求めているのだろうと宮田は察知した。
「1時間だけ・・・だからな」
「ホント!?やった!」
「で、何がしたいんだよ?」
「まぁとりあえず行こ!」
宮田の腕をぐいぐいと引っ張って、奈々は陽気に玄関を目指す。
周りの生徒が何事かと注視している中、そんな目線はみじんも気にしていないらしい。
宮田は奈々が繊細なのか図太いのか、たまに訳が分からなくなる。
奈々が“1時間だけの遊び先”に選んだのはゲームセンターだった。
中は、学校帰りの学生で賑わっている。
宮田自身はゲームセンターに興味は無いが、鷹村が入門したての頃、会長に頼まれてよく迎えに行ったことがある。
なんだか懐かしい気分だ、と思いつつ、目の前ではしゃぐ奈々に軽く溜息をついた。
手当たり次第にゲームを選ぶ。両替した100円玉は次々と減っていった。
宮田はゲームをやるのは生まれて初めてだったらしい。
カーレースで脱線、逆送を繰り返す宮田を見て、奈々は手を叩きながら笑った。
異常なハイテンションでゲームを楽しむ奈々を見て、宮田は違和感を感じていた。
前にもどこかで見たような光景だと、記憶を辿ってみて思い出した。
一緒に映画を見に行った時だ。
無理して笑っているような、どこか痛々しい笑顔。
心の奥の痛みを隠すように、押し込めるように、暗示をかけるように、笑う姿。
先日の、木村の彼女の一件から立ち直れていないのは容易に把握できたものの、前に失恋したときは自分を頼って素直に涙を見せた奈々が、今度は悲しみを隠そうと必死なことに、少し苛立ちを覚えた。
はしゃぎたいだけなら他の友人を誘えばいい話。わざわざ自分を誘っておいて、他の人と何も変わらない役割を与えられると、さすがに面白くない。
そう思って宮田はふと立ち止まった。
面白くない?なぜ?
見ないふりをしていた答えが急に目の前に現れたような感覚がし、宮田はそれを遮るように目を閉じた。
「もうすぐ1時間だけど」
モグラたたきにいそしむ奈々の横で、宮田がボソリと呟く。
「あっと言う間だね」
「もう思い残すことはねぇか?」
宮田の言葉に、奈々はゲームセンターをぐるりと見渡して
「プリクラ撮ろう!」
「・・何それ」
「嘘っ!プリクラも知らないの!?写真だよ写真」
奈々は宮田の制服の袖を引っ張りながら、プリクラコーナーへ移動する。
宮田はそれが何なのかサッパリ分からなかったが、機械から垂れ幕のように下がっているギャル写真を見て、嫌な予感がした。
「この画面見て、ポーズ決めてね」
「・・・絶対やらない」
「よし、カップル設定にしよう!」
宮田の言うことはまるで耳に入っていないらしい。
奈々は一連の設定を終え、棒立ちする宮田の横で様々なポーズを取っていた。
『もっと寄って~』
プリクラが呑気な音声を出す。
「ホラ、もっとラブラブな感じ出していこうよ!」
「・・・勝手にしてくれ」
奈々は宮田の胸に飛び込み、ギュッと抱きしめながらおどけた。
少し気恥ずかしそうに、宮田が目を片手で覆う。
相変わらず、奈々は終始カラ元気で明るい声で笑っている。宮田はそれを見るたびに、失恋時に泣きついて来た奈々の泣き顔を思い出す。
そんな風に笑ってないと壊れちまうのかよ。
そんなにあの人が好きなのかよ。
『次は、チュ~してみてぇ~』
プリクラの音声が再び呑気なセリフを吐く。
奈々は宮田に抱きついたまま、唇をちょっと上に上げて
「チューだって宮田」
「バカか」
「ほーらほら、遠慮するなって!」
「あのなぁ・・・」
「いいじゃん、フリだけしようよ」
機械が相変わらず間の抜けた声で、「3,2,1」と掛け声を始めた。
奈々は、宮田に対するからかい半分、バカップル演技半分で、静かに目を閉じる。
カシャ、とシャッターの音がしたと同時に、奈々の唇は温かい感触に包まれた。
突然の出来事に思わず目を見開くと、宮田が今までに見たこともない至近距離に居るのが分かった。
重なった唇が、ゆっくりと離れていく。
一方で機械は『外で落書きしてネェ~』というユルい音声を吐き出している。
驚きの余り固まった奈々を、宮田はゆっくり抱きしめた。
「泣かないのかよ」
背中に回した両手に、一層力が入る。
奈々は混乱の余り、今自分がどういう状態にいるのかよく分からなかった。
「なんでだよ」
「・・・な、何が・・」
「バカみてぇに強がりやがって」
宮田が何を言い出したのか、奈々には全く分からなかった。
その様子が、ますます宮田を苛立たせたようだ。
ギリっと歯を食いしばり、さらに強く抱きしめて宮田が言う。
「気になるんだよ」
しばしの沈黙のあと、宮田はすっと力を抜き、奈々から身体を離した。
それから、地面に置いていたカバンを取り、機械の中と外を分けるカーテンを開けた。
「ちょ、ちょっと待って!・・・アンタ、何言って・・・」
奈々が宮田の袖を後ろから引っ張ると、宮田は振り向きもせずに答えた。
「もう時間だから」
去っていく宮田の後ろ姿を見ながら、奈々は何が起きたのかと現実を信じられないで居た。
思い出したように、機械の取り出し口からプリクラを取り出す。
そこには“あの瞬間”が、しっかりと写っていた。