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15.シンクロ
たっちゃんの隣に、私の知らない人がいる。
あの優しい手で頭を撫でられて
あの愛しい声で愛を囁かれて
あの逞しい胸に包まれて眠って
目と目で、幸せを謳うんだ。
どうして?
どうして、私じゃなかったんだろう。
どうして、私じゃダメなんだろう。
「おはよう、宮田」
木村に彼女が出来た、という“事件”の次の日。
奈々があっけらかんといつも通りの挨拶をしてきたので、宮田は少々驚いた。
ひょっとしたらまだ知らないのかもしれないと思い、宮田も平然と挨拶を返す。
奈々は宮田の斜め前に座って、鞄の中から教科書等を取り出して授業の準備をする。
まもなくHRが始まって、それから1時間目は物理。実験室へ移動するため、教室がガタガタと騒がしくなる。
椅子から立ち上がった奈々が、ふっと宮田にささやく。
「平気な顔してる、と思ってるでしょ?」
「何が?」
「でももう泣かないよーだ」
そういって奈々が不敵に笑うと、宮田は無表情のまま教科書で奈々の頭を小突いた。
「痛ッ」
「遅れるぜ」
「待ってよ、一緒に行こ!」
二人並んで歩く姿は、端から見ればカップルそのものだった。
普段無表情な宮田が奈々の前では少し態度を軟化させることに、気づいたものは少なくない。
ある女生徒は、二人の背中を険しい目つきでじっと眺めていた。
「重ッ・・・たいなぁ、コレ」
放課後、奈々は大きなゴミ袋を携えながら、焼却炉を目指して歩いていた。
ふと誰かの話し声が聞こえ、足を止める。
「悪いけど・・・ごめん」
おそるおそる首を伸ばして様子を伺うと、そこにいたのは宮田と、後ろ姿で誰かは分からないが女生徒のようだった。
女の子は鼻をすすりながら、うなだれている。どうやら泣いているらしい。
奈々は両手のゴミ袋を眺めて、困ったなと溜息をついた。
遠慮するのも面倒だと、一歩踏み出そうとしたそのときだった。
「宮田くんって・・・高杉さんと付き合ってるって本当なの?」
いきなり自分の名前が出てきたことに奈々は驚き、思わず声をあげそうになった。
しかし、話の流れ的に今顔を出してはいけないような気がして、隠れるように壁にもたれて様子を伺う。
「付き合ってねぇよ」
「でも、抱き合ってたの見たっていう人もいるし・・・」
「見違いだろ」
宮田はつまらなそうに吐き捨てて、女の子の横を通り過ぎ、奈々の居る方へ歩いてきた。
奈々はとっさに、更に奥へと身を潜める。
「どうして?」
女の子の言葉に、宮田がピタリと足を止める。
「どうして、私じゃダメなの?どうして、高杉さんなの?」
「・・・だから、付き合ってねぇって言ってるだろ」
宮田はあからさまに苛立った様子で、珍しく声を荒げた。
すると女の子は、小さな声を震わせながら、
「だって宮田くん、高杉さんのことが好きなんでしょう?」
奈々は心臓が跳ね上がるような心地がした。
二人とも、自分がここにいるなどと露にも思っていないはず。
奈々は宮田が自分を好きなはずがないと分かっていた。
それなのに、改めて他人から突きつけられた疑問に、宮田がどう答えるのかと些か緊張しはじめた。
「そんなの考えたことねぇよ」
と言って、興奮を抑えるように目を瞑りながら、奈々に気付くことなく通り過ぎていった。
女の子はしばしその場に立ちつくしていたようだったが、その後、宮田とは逆の方向に去っていった。
すっかり人の気配が無くなったのを確かめてから、奈々は改めてゴミ袋を担ぎ、焼却炉へ放り込んだ。
一仕事を終えて、ふうっと息を整える。
辺りには誰もいなくて、遠くから下校時の喧噪が聞こえてくるだけだ。
「どうして、私じゃダメなの?」
それは自分が木村に対して思っていることと同じだ。
宮田は何も悪くないし、自分との関係を誤解されて苛立つ気持ちも分からなくはない。
いっそのこと、宮田を好きになればいい?
確かに宮田とは仲良くしているけれど・・・
殆ど、たっちゃんの話しかしてない。
宮田だって、私のこと好きだなんて考えたこと無いって言ってる。
確かにお互い、そんな感情を持ったことは一切無い。
そんな私たちを、勘ぐられても困るのに。
あの子は私に嫉妬している。
私は、彼女に嫉妬している。
あの子は宮田の側にいたい。
でも側に居るのは、私。
私はたっちゃんの側にいたい。
でも側に居るのは、彼女。
「どうしてこう、うまくいかないのかねぇ」
独り言は、蝉の大きな鳴き声にかき消された。
たっちゃんの隣に、私の知らない人がいる。
あの優しい手で頭を撫でられて
あの愛しい声で愛を囁かれて
あの逞しい胸に包まれて眠って
目と目で、幸せを謳うんだ。
どうして?
どうして、私じゃなかったんだろう。
どうして、私じゃダメなんだろう。
「おはよう、宮田」
木村に彼女が出来た、という“事件”の次の日。
奈々があっけらかんといつも通りの挨拶をしてきたので、宮田は少々驚いた。
ひょっとしたらまだ知らないのかもしれないと思い、宮田も平然と挨拶を返す。
奈々は宮田の斜め前に座って、鞄の中から教科書等を取り出して授業の準備をする。
まもなくHRが始まって、それから1時間目は物理。実験室へ移動するため、教室がガタガタと騒がしくなる。
椅子から立ち上がった奈々が、ふっと宮田にささやく。
「平気な顔してる、と思ってるでしょ?」
「何が?」
「でももう泣かないよーだ」
そういって奈々が不敵に笑うと、宮田は無表情のまま教科書で奈々の頭を小突いた。
「痛ッ」
「遅れるぜ」
「待ってよ、一緒に行こ!」
二人並んで歩く姿は、端から見ればカップルそのものだった。
普段無表情な宮田が奈々の前では少し態度を軟化させることに、気づいたものは少なくない。
ある女生徒は、二人の背中を険しい目つきでじっと眺めていた。
「重ッ・・・たいなぁ、コレ」
放課後、奈々は大きなゴミ袋を携えながら、焼却炉を目指して歩いていた。
ふと誰かの話し声が聞こえ、足を止める。
「悪いけど・・・ごめん」
おそるおそる首を伸ばして様子を伺うと、そこにいたのは宮田と、後ろ姿で誰かは分からないが女生徒のようだった。
女の子は鼻をすすりながら、うなだれている。どうやら泣いているらしい。
奈々は両手のゴミ袋を眺めて、困ったなと溜息をついた。
遠慮するのも面倒だと、一歩踏み出そうとしたそのときだった。
「宮田くんって・・・高杉さんと付き合ってるって本当なの?」
いきなり自分の名前が出てきたことに奈々は驚き、思わず声をあげそうになった。
しかし、話の流れ的に今顔を出してはいけないような気がして、隠れるように壁にもたれて様子を伺う。
「付き合ってねぇよ」
「でも、抱き合ってたの見たっていう人もいるし・・・」
「見違いだろ」
宮田はつまらなそうに吐き捨てて、女の子の横を通り過ぎ、奈々の居る方へ歩いてきた。
奈々はとっさに、更に奥へと身を潜める。
「どうして?」
女の子の言葉に、宮田がピタリと足を止める。
「どうして、私じゃダメなの?どうして、高杉さんなの?」
「・・・だから、付き合ってねぇって言ってるだろ」
宮田はあからさまに苛立った様子で、珍しく声を荒げた。
すると女の子は、小さな声を震わせながら、
「だって宮田くん、高杉さんのことが好きなんでしょう?」
奈々は心臓が跳ね上がるような心地がした。
二人とも、自分がここにいるなどと露にも思っていないはず。
奈々は宮田が自分を好きなはずがないと分かっていた。
それなのに、改めて他人から突きつけられた疑問に、宮田がどう答えるのかと些か緊張しはじめた。
「そんなの考えたことねぇよ」
と言って、興奮を抑えるように目を瞑りながら、奈々に気付くことなく通り過ぎていった。
女の子はしばしその場に立ちつくしていたようだったが、その後、宮田とは逆の方向に去っていった。
すっかり人の気配が無くなったのを確かめてから、奈々は改めてゴミ袋を担ぎ、焼却炉へ放り込んだ。
一仕事を終えて、ふうっと息を整える。
辺りには誰もいなくて、遠くから下校時の喧噪が聞こえてくるだけだ。
「どうして、私じゃダメなの?」
それは自分が木村に対して思っていることと同じだ。
宮田は何も悪くないし、自分との関係を誤解されて苛立つ気持ちも分からなくはない。
いっそのこと、宮田を好きになればいい?
確かに宮田とは仲良くしているけれど・・・
殆ど、たっちゃんの話しかしてない。
宮田だって、私のこと好きだなんて考えたこと無いって言ってる。
確かにお互い、そんな感情を持ったことは一切無い。
そんな私たちを、勘ぐられても困るのに。
あの子は私に嫉妬している。
私は、彼女に嫉妬している。
あの子は宮田の側にいたい。
でも側に居るのは、私。
私はたっちゃんの側にいたい。
でも側に居るのは、彼女。
「どうしてこう、うまくいかないのかねぇ」
独り言は、蝉の大きな鳴き声にかき消された。