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11.身代わり
手を離したときの、あの空気の冷たさ。
風が余計にまとわりついて、寂しくなった。
たっちゃんの手は温かくて、分厚くて、
誤魔化しながらでも握り返してくれた優しさに、
私は思いっきり甘えた。
嘘でも良かったんだ。
たっちゃんの側に、いられるのなら。
--------------------
「おはよ、宮田」
いつものように、机に伏せて寝ている宮田の頭上から挨拶をする。
宮田の頭には、奈々が来た=もうすぐ朝礼が始まる、ということが既にインプットされていて、奈々の挨拶を目覚まし代わりのように思っていた。
「おはよう」
先日の席替えで、奈々の席は宮田の斜め前になった。
宮田からは、否が応でも目に入る距離である。
ふと見ると、奈々からどことなくいつもと違うような雰囲気を感じた。
表情が暗いというか、やや落ち込んだような表情をしている。
しかし、わざわざそれを指摘したり、尋ねたりするつもりはない。
おおかた、木村と何かあったのだろう、と宮田は察した。
外は梅雨のジメジメとした雰囲気で、そのせいもあるのかもしれない。
一日の授業が終わって、下校の頃。
宮田は玄関で立ち尽くす奈々を見かけた。
何やら、キョロキョロと辺りを見回している。
「どうした?」
「あ、宮田。・・・傘、盗られたっぽいんだよね」
「盗られた?」
「うん。見当たらないんだ」
外は大雨が降っていて、とても傘無しで帰れる雰囲気ではない。
傘の特徴を聞いてみたが、どうもそれらしきものは見当たらない。
おそらく傘を忘れた誰かが、持って行ってしまったのだろう。
「駅まででいいか?」
「ん?」
「入れてやるよ」
宮田は手に持っていた傘を広げて、奈々に入るよう目で促した。
「方向、逆じゃない?」
「その駅からでもジム行けるから」
バス亭まで歩き、それからバスが来るのを待つ。
雨が傘を叩く音が、ボタボタと激しく響く。
いつもは饒舌な奈々だったが、今日はずっとふさぎ込んだように大人しい。
宮田はそれが少し気になったが、だからといって何か心配しているようなセリフを吐くことは無かった。
バスに揺られて駅に着くと、そこからはもう屋内である。
宮田は傘を小さく畳んで、カバーをかけて鞄に放り込んだ。
「わざわざ遠回りさせてごめんね」
「・・・別に」
「ありがと」
宮田は返事をしなかった。
その様子が、奈々には面白くて、ついクスリと笑いが漏れた。
ふと気がつくと、さっきまで傘をさしてくれていた宮田の左手が空いている。
奈々は昨日の木村を思い出した。
ついフラフラと、握ってみたくなった。
突然の出来事に、宮田は一瞬身を固くして呟いた。
「なにしてんだよ」
木村と手をつないだときはもっと、全身が心臓になったみたいな鼓動を感じた。
宮田と手をつないでいる今は、やはり昨日のそれとは違う。
昨日、いきなり手を離してしまったせいで、奈々の右手はいつもより寒くて、誰かの手を欲しがっていた。
ただ単に、隣にいたという理由で宮田の手を握りしめてしまった。
彼ならば、手を握ったくらいで、どうにかなるわけじゃないと甘えていることを知りながら。
「ドキドキする?」
「・・・お前相手に?」
「失礼ね・・・」
「でもまぁ・・・少しするよ」
宮田が意外な一言を放ったので、奈々は驚いて
「本当?」
「誰かに見られてて、勘違いされないかって」
「・・・本当に失礼ね、あんた」
手をつないだまま、駅の構内を歩く二人。
確かに、端から見れば単なるカップルにしか見えないだろう。
当の本人たちに、その気はなくても。
「仕方ねぇから気の済むまで握らせてやる」
「・・・・別に好きで握ってるわけじゃないわよ」
「オレは身代わりってわけか」
「・・・癒し係、って感じ」
「あっそ」
それから一言も会話を交わさなかったにも関わらず、不思議と暖かい気持ちになれたのは、手を伝う体温のおかげかなと奈々は思った。
駅のホームに着いてからも、宮田は電車が来るまで手を離さず奈々の隣にいた。
「宮田ぁ」
「なんだよ」
「ありがとう」
「・・・別に」
宮田がつまらなそうに言うと、奈々は少し固い笑みを浮かべて
「ごめんね」
「・・何が」
「でも助かった・・・宮田が居てくれて良かった」
その言葉に宮田は一瞬、言葉を詰まらせた。
何を答えたらいいものかと思案しているうちに、構内が騒がしくなりはじめた。
「・・・・電車、来たぜ」
奈々は宮田から手を離し、電車に乗り込んだ。
バイバイと手を振ったあと、手中には昨日と違うぬくもりがまだ残っていた。
手を離したときの、あの空気の冷たさ。
風が余計にまとわりついて、寂しくなった。
たっちゃんの手は温かくて、分厚くて、
誤魔化しながらでも握り返してくれた優しさに、
私は思いっきり甘えた。
嘘でも良かったんだ。
たっちゃんの側に、いられるのなら。
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「おはよ、宮田」
いつものように、机に伏せて寝ている宮田の頭上から挨拶をする。
宮田の頭には、奈々が来た=もうすぐ朝礼が始まる、ということが既にインプットされていて、奈々の挨拶を目覚まし代わりのように思っていた。
「おはよう」
先日の席替えで、奈々の席は宮田の斜め前になった。
宮田からは、否が応でも目に入る距離である。
ふと見ると、奈々からどことなくいつもと違うような雰囲気を感じた。
表情が暗いというか、やや落ち込んだような表情をしている。
しかし、わざわざそれを指摘したり、尋ねたりするつもりはない。
おおかた、木村と何かあったのだろう、と宮田は察した。
外は梅雨のジメジメとした雰囲気で、そのせいもあるのかもしれない。
一日の授業が終わって、下校の頃。
宮田は玄関で立ち尽くす奈々を見かけた。
何やら、キョロキョロと辺りを見回している。
「どうした?」
「あ、宮田。・・・傘、盗られたっぽいんだよね」
「盗られた?」
「うん。見当たらないんだ」
外は大雨が降っていて、とても傘無しで帰れる雰囲気ではない。
傘の特徴を聞いてみたが、どうもそれらしきものは見当たらない。
おそらく傘を忘れた誰かが、持って行ってしまったのだろう。
「駅まででいいか?」
「ん?」
「入れてやるよ」
宮田は手に持っていた傘を広げて、奈々に入るよう目で促した。
「方向、逆じゃない?」
「その駅からでもジム行けるから」
バス亭まで歩き、それからバスが来るのを待つ。
雨が傘を叩く音が、ボタボタと激しく響く。
いつもは饒舌な奈々だったが、今日はずっとふさぎ込んだように大人しい。
宮田はそれが少し気になったが、だからといって何か心配しているようなセリフを吐くことは無かった。
バスに揺られて駅に着くと、そこからはもう屋内である。
宮田は傘を小さく畳んで、カバーをかけて鞄に放り込んだ。
「わざわざ遠回りさせてごめんね」
「・・・別に」
「ありがと」
宮田は返事をしなかった。
その様子が、奈々には面白くて、ついクスリと笑いが漏れた。
ふと気がつくと、さっきまで傘をさしてくれていた宮田の左手が空いている。
奈々は昨日の木村を思い出した。
ついフラフラと、握ってみたくなった。
突然の出来事に、宮田は一瞬身を固くして呟いた。
「なにしてんだよ」
木村と手をつないだときはもっと、全身が心臓になったみたいな鼓動を感じた。
宮田と手をつないでいる今は、やはり昨日のそれとは違う。
昨日、いきなり手を離してしまったせいで、奈々の右手はいつもより寒くて、誰かの手を欲しがっていた。
ただ単に、隣にいたという理由で宮田の手を握りしめてしまった。
彼ならば、手を握ったくらいで、どうにかなるわけじゃないと甘えていることを知りながら。
「ドキドキする?」
「・・・お前相手に?」
「失礼ね・・・」
「でもまぁ・・・少しするよ」
宮田が意外な一言を放ったので、奈々は驚いて
「本当?」
「誰かに見られてて、勘違いされないかって」
「・・・本当に失礼ね、あんた」
手をつないだまま、駅の構内を歩く二人。
確かに、端から見れば単なるカップルにしか見えないだろう。
当の本人たちに、その気はなくても。
「仕方ねぇから気の済むまで握らせてやる」
「・・・・別に好きで握ってるわけじゃないわよ」
「オレは身代わりってわけか」
「・・・癒し係、って感じ」
「あっそ」
それから一言も会話を交わさなかったにも関わらず、不思議と暖かい気持ちになれたのは、手を伝う体温のおかげかなと奈々は思った。
駅のホームに着いてからも、宮田は電車が来るまで手を離さず奈々の隣にいた。
「宮田ぁ」
「なんだよ」
「ありがとう」
「・・・別に」
宮田がつまらなそうに言うと、奈々は少し固い笑みを浮かべて
「ごめんね」
「・・何が」
「でも助かった・・・宮田が居てくれて良かった」
その言葉に宮田は一瞬、言葉を詰まらせた。
何を答えたらいいものかと思案しているうちに、構内が騒がしくなりはじめた。
「・・・・電車、来たぜ」
奈々は宮田から手を離し、電車に乗り込んだ。
バイバイと手を振ったあと、手中には昨日と違うぬくもりがまだ残っていた。