残念な宮田シリーズ
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3.インタビュー
「宮田くん、取材が入ったんだけど」
ジムで顔を合わせるなり、マーケティング担当の谷さんが声をかけてきた。
「取材?雑誌のですか?」
試合前ならともかく、この時期に自分の試合は無い。
一体何の取材なのかと首を傾げると
「ボクシングの雑誌じゃなくて、En-Enっていう女性誌」
女性誌?
女性誌がボクサーに一体なんの用だと、オレは露骨に嫌な顔をした。
すると谷さんは
「イケメンアスリート特集だってさ」
やっぱり。
嫌な予感が的中した。
別に自分がイケメンだとか自負して驕っているわけではなく。
女性誌とくると、だいたいそういうくだらない特集なのだろうと容易に予測が出来ただけだ。
「まあ、君の場合は知名度的にいうと、ランク外だったのよ」
「はあ」
確かにボクシングに興味のある女など滅多に居ない。
聞いてみると、上位はサッカー選手や野球選手といった、メジャーな競技の選手で溢れていた。
鷹村さんが7位に入っていたのには驚いたが、あの人は知名度だけはあるからな。
「そこの編集者の人がね、君のことを推薦する読者からの手紙がチラホラあったから、興味がわいて調べてみたんだって。そしたらゾッコンLOVEな感じになっちゃったみたいでさ」
さらっと死語を放ったけれど、オレはそれにツッコミを入れるほど優しくない。
っていうか谷さんって見た目よりだいぶ年が上なのだろうか。
実年齢は聞いたことがない(オレより年上だとは聞いたことがあるけれど)。
「そんなわけで、“PICK UP”という別枠で出したいんだって」
「・・・断ってくださいよ」
「あ、もうOKしちゃった」
オレが断るのを分かっていてもうOKを出したとは、この人もなかなかやるなと思った。
関心している場合じゃない。オレはこんな軟派な雑誌に出て、女に媚び売るようなことは苦手だ。
「まぁ、君が嫌だって言いそうだったから、撮影はナシにして宣材使うことにした」
「はぁ」
「まぁウチには無いから月刊ボクシングファンから借りるんだけどね。カッコよく写ったの使うから心配しないで!」
とりあえずカメラマンが来てあーだこーだ言う面倒な撮影は無いとのことで、オレの心の負担は幾ばくか軽くなった。
「アンケートに答えてくれるだけで良いって言うから、ちょっと事務所で答えてくれない?」
「・・・まさか谷さんが取材するんですか?」
「そうよ?」
嫌な予感がする。
「ロードワークの後でもいいですか?」
「別に時間取らないから、今でもいい?私、夕方から別のアポが入ってて」
有無を言わせぬ態度で谷さんが2階の事務所に上がっていく。
オレは何も言い返せずに、黙ってその後をついていくほか無かった。
「じゃ、最初の質問ね。生年月日。1973年8月27日よね?」
「はい」
「で血液型。A型、と」
「・・・・はい」
「家族構成は、父が一人、と」
「・・・あの」
「なに?」
さっきからオレは何も答えていない。
なのに谷さんは不思議な顔でオレを見ている。
いや、おかしいのはアンタだろ、と喉元まで言葉が出かける。
「いや・・・」
「じゃあ、次は・・・好きな女性のタイプ」
嫌な質問が来た。
低俗な女性誌にありがちな質問だ。
オレがあからさまに嫌そうな顔をすると、谷さんは笑って
「私が勝手に書いていい?」
ダメだろそれは。
「だって宮田くん、答える気なさそうなんだもん」
「オレのインタビューで、なんで谷さんが答えるんですか?」
「あのね、インタビューって大事なのよ?君のファンが増えて客足が増えたら、興行的にはオイシイわけよ?」
正論だ。
「じゃあ、自分で答えますよ・・・」
「好きな女性のタイプ、ツンデレ、と」
「おい、何勝手に書いて・・・」
思わず言葉が乱れる。
谷さんの酷く面白そうな様子に若干苛立ってきた。
この人、案外Sだなと思う。
「じゃあどんな子が好み?」
「・・・・普通の人」
「普通って何よぉ?つまんないなぁ」
「好きになった相手に寄るでしょう、そんなの」
すると谷さん、ニコニコと笑いながら
「好きになった子がタイプ、と。ヒネりがないなぁ」
「うるさいよ」
「じゃあ次は、初体験はいつ?」
低俗にもほどがある、と思う。
「そんなの聞いてどうするんですか?」
「えー、知的好奇心を満たすんじゃないの?」
「答えたくありませんね」
当たり前だ。知的好奇心じゃなくて単なる煩悩を満たしたいだけじゃねぇか。
「まさか童貞だったりして?」
「・・・・あのなぁ、オレをいくつだと思って・・・」
「高校の時、とか?」
「・・・・」
「海外遠征中にその辺のおねーちゃんと?」
「・・・・」
「プロになってからファンと?」
「・・・・最初のですよ」
答えたくもねぇってのに。
「へー!じゃ高校の時?彼女と?」
「・・・あんまり聞かないでください」
「うまく出来た?ねぇ、どうだった?」
「・・・次の質問は?」
「ちょっと待ってメモるから!えーと、初体験は高校生の時、彼女と、うまくできなかった、と」
「な、何勝手に書いてんだアンタ!」
「だってはぐらかすからさぁ」
まったく腹が立つ。
仕方がないだろ、お互い初めてだったわけだし・・・って
オレは何を弁解しているんだ?
「じゃあ、今彼女は居ますか?」
「・・・・アスリート特集なのにスポーツ全然関係ないんですね」
「いません、と」
「アンタ、人の話聞いてんのかよ!?」
確かにいねぇけどよ。
別に全国紙に公言することじゃねぇだろ。
頭のイカれたファンだって居るんだぜ。
いません、なんて言ったらどうなることやら。
「こういうのはね、居ても居なくても“いません”がベストアンサーなのよ」
「そうですか」
苛立ちながら答える。
「だって“いる”なんて言ったらファンが泣くでしょ?」
「ファンなんて・・・」
「あら、宮田くんは知らないかもしれないけど、たっくさんファンレターとかプレゼント来てるのよ?」
「知ってますよ」
バレンタインデーが近づくと紙袋の数が凄いことになる。
テレビ放映された試合の後は、ジムに見学者が来ることも多い。
たいていオレが無愛想すぎて、話しかけて来たりはしないけれど。
「女性客だって多いんだから」
「オレは別にそういうつもりでボクシングしてるわけじゃありません」
「マーケティングの視点からは、君のそのルックスは武器なのよ?」
別に好きでこんな顔してるわけじゃねぇ。
ただでさえ親父がボクサーで2世のボンボンなんて言われたりするんだ。
これにアイドル要素が加わったら最悪の展開じゃねぇか。
「じゃ、これがラストの質問」
「・・なんです?」
「今後の抱負だってさ!」
やっとまともな質問が来た。
「世界目指して頑張ります」
「・・・それだけ?」
「他に目指すものなんて無いですけど」
「そうだけどさぁ。僕のカウンターにシビれてください!みたいなの無いの?」
いちいちフレーズが古いんだよ、この人は。
「じゃあ谷さんが適当に考えてくださいよ」
「・・・ふ~ん、私でいいんだ」
谷さんがニヤリと笑みを浮かべる。
やはりこの人には任せておけない。
前言撤回しようとした瞬間、谷さんは
「自分のスタイルを貫いて頂点を取りたいと思っています、ってのはどう?」
珍しくまともな言葉を発して来た。
「じゃ、それで」
「はーい。じゃあこれでインタビューは終了!清書して編集部に送っておくね!」
「はい・・・・」
「どうもありがとう!じゃ、練習頑張ってね!」
その後、発売されたEn-Enがジムに届いた。
全く興味は無かったが、谷さんがわざわざ掲載ページを開いて見せて来たので、否が応でも読むハメに。
「その厚い胸板に抱かれたい!イケメン王子・宮田一郎(ボクシングOPBFフェザー級王者)」
見出しを見て、目眩がした。
「侍のような眼差しに胸キュン!クールなカレの熱いファイトスタイルに女性ファンはメロメロ…」
この編集者もそんなに若くないだろうな、と推測できる。
「そんな宮田くんの初体験は高校生の時、初カノと☆お互い初めてなのもあって緊張してうまくできなかったとか↓↓」
そこまで話してねぇよ!
「現在宮田くんはフリー!読者にもチャンスはあるかも!?」
少なくともこんなのを愛読する女には興味がない。
オレは絶望を感じながら雑誌を閉じた。心なしか、練習生のオレを見る目がいつもと違う気がするが、まぁいい。
みんなそのうち忘れるだろう…
なんて思っていたのが甘かった。
それからオレが試合に出る度、どこからか「王子~!!」というかけ声が飛ぶようになった。
もう二度と、女性誌の取材は受けない。
END
---------------
2011.6.11 高杉R26号
残念な宮田シリーズです。実際にこんな特集があってもおかしくないかな、なんて。
ちなみにこんな頭の弱い文章を書く雑誌は見たことありません(笑)
「宮田くん、取材が入ったんだけど」
ジムで顔を合わせるなり、マーケティング担当の谷さんが声をかけてきた。
「取材?雑誌のですか?」
試合前ならともかく、この時期に自分の試合は無い。
一体何の取材なのかと首を傾げると
「ボクシングの雑誌じゃなくて、En-Enっていう女性誌」
女性誌?
女性誌がボクサーに一体なんの用だと、オレは露骨に嫌な顔をした。
すると谷さんは
「イケメンアスリート特集だってさ」
やっぱり。
嫌な予感が的中した。
別に自分がイケメンだとか自負して驕っているわけではなく。
女性誌とくると、だいたいそういうくだらない特集なのだろうと容易に予測が出来ただけだ。
「まあ、君の場合は知名度的にいうと、ランク外だったのよ」
「はあ」
確かにボクシングに興味のある女など滅多に居ない。
聞いてみると、上位はサッカー選手や野球選手といった、メジャーな競技の選手で溢れていた。
鷹村さんが7位に入っていたのには驚いたが、あの人は知名度だけはあるからな。
「そこの編集者の人がね、君のことを推薦する読者からの手紙がチラホラあったから、興味がわいて調べてみたんだって。そしたらゾッコンLOVEな感じになっちゃったみたいでさ」
さらっと死語を放ったけれど、オレはそれにツッコミを入れるほど優しくない。
っていうか谷さんって見た目よりだいぶ年が上なのだろうか。
実年齢は聞いたことがない(オレより年上だとは聞いたことがあるけれど)。
「そんなわけで、“PICK UP”という別枠で出したいんだって」
「・・・断ってくださいよ」
「あ、もうOKしちゃった」
オレが断るのを分かっていてもうOKを出したとは、この人もなかなかやるなと思った。
関心している場合じゃない。オレはこんな軟派な雑誌に出て、女に媚び売るようなことは苦手だ。
「まぁ、君が嫌だって言いそうだったから、撮影はナシにして宣材使うことにした」
「はぁ」
「まぁウチには無いから月刊ボクシングファンから借りるんだけどね。カッコよく写ったの使うから心配しないで!」
とりあえずカメラマンが来てあーだこーだ言う面倒な撮影は無いとのことで、オレの心の負担は幾ばくか軽くなった。
「アンケートに答えてくれるだけで良いって言うから、ちょっと事務所で答えてくれない?」
「・・・まさか谷さんが取材するんですか?」
「そうよ?」
嫌な予感がする。
「ロードワークの後でもいいですか?」
「別に時間取らないから、今でもいい?私、夕方から別のアポが入ってて」
有無を言わせぬ態度で谷さんが2階の事務所に上がっていく。
オレは何も言い返せずに、黙ってその後をついていくほか無かった。
「じゃ、最初の質問ね。生年月日。1973年8月27日よね?」
「はい」
「で血液型。A型、と」
「・・・・はい」
「家族構成は、父が一人、と」
「・・・あの」
「なに?」
さっきからオレは何も答えていない。
なのに谷さんは不思議な顔でオレを見ている。
いや、おかしいのはアンタだろ、と喉元まで言葉が出かける。
「いや・・・」
「じゃあ、次は・・・好きな女性のタイプ」
嫌な質問が来た。
低俗な女性誌にありがちな質問だ。
オレがあからさまに嫌そうな顔をすると、谷さんは笑って
「私が勝手に書いていい?」
ダメだろそれは。
「だって宮田くん、答える気なさそうなんだもん」
「オレのインタビューで、なんで谷さんが答えるんですか?」
「あのね、インタビューって大事なのよ?君のファンが増えて客足が増えたら、興行的にはオイシイわけよ?」
正論だ。
「じゃあ、自分で答えますよ・・・」
「好きな女性のタイプ、ツンデレ、と」
「おい、何勝手に書いて・・・」
思わず言葉が乱れる。
谷さんの酷く面白そうな様子に若干苛立ってきた。
この人、案外Sだなと思う。
「じゃあどんな子が好み?」
「・・・・普通の人」
「普通って何よぉ?つまんないなぁ」
「好きになった相手に寄るでしょう、そんなの」
すると谷さん、ニコニコと笑いながら
「好きになった子がタイプ、と。ヒネりがないなぁ」
「うるさいよ」
「じゃあ次は、初体験はいつ?」
低俗にもほどがある、と思う。
「そんなの聞いてどうするんですか?」
「えー、知的好奇心を満たすんじゃないの?」
「答えたくありませんね」
当たり前だ。知的好奇心じゃなくて単なる煩悩を満たしたいだけじゃねぇか。
「まさか童貞だったりして?」
「・・・・あのなぁ、オレをいくつだと思って・・・」
「高校の時、とか?」
「・・・・」
「海外遠征中にその辺のおねーちゃんと?」
「・・・・」
「プロになってからファンと?」
「・・・・最初のですよ」
答えたくもねぇってのに。
「へー!じゃ高校の時?彼女と?」
「・・・あんまり聞かないでください」
「うまく出来た?ねぇ、どうだった?」
「・・・次の質問は?」
「ちょっと待ってメモるから!えーと、初体験は高校生の時、彼女と、うまくできなかった、と」
「な、何勝手に書いてんだアンタ!」
「だってはぐらかすからさぁ」
まったく腹が立つ。
仕方がないだろ、お互い初めてだったわけだし・・・って
オレは何を弁解しているんだ?
「じゃあ、今彼女は居ますか?」
「・・・・アスリート特集なのにスポーツ全然関係ないんですね」
「いません、と」
「アンタ、人の話聞いてんのかよ!?」
確かにいねぇけどよ。
別に全国紙に公言することじゃねぇだろ。
頭のイカれたファンだって居るんだぜ。
いません、なんて言ったらどうなることやら。
「こういうのはね、居ても居なくても“いません”がベストアンサーなのよ」
「そうですか」
苛立ちながら答える。
「だって“いる”なんて言ったらファンが泣くでしょ?」
「ファンなんて・・・」
「あら、宮田くんは知らないかもしれないけど、たっくさんファンレターとかプレゼント来てるのよ?」
「知ってますよ」
バレンタインデーが近づくと紙袋の数が凄いことになる。
テレビ放映された試合の後は、ジムに見学者が来ることも多い。
たいていオレが無愛想すぎて、話しかけて来たりはしないけれど。
「女性客だって多いんだから」
「オレは別にそういうつもりでボクシングしてるわけじゃありません」
「マーケティングの視点からは、君のそのルックスは武器なのよ?」
別に好きでこんな顔してるわけじゃねぇ。
ただでさえ親父がボクサーで2世のボンボンなんて言われたりするんだ。
これにアイドル要素が加わったら最悪の展開じゃねぇか。
「じゃ、これがラストの質問」
「・・なんです?」
「今後の抱負だってさ!」
やっとまともな質問が来た。
「世界目指して頑張ります」
「・・・それだけ?」
「他に目指すものなんて無いですけど」
「そうだけどさぁ。僕のカウンターにシビれてください!みたいなの無いの?」
いちいちフレーズが古いんだよ、この人は。
「じゃあ谷さんが適当に考えてくださいよ」
「・・・ふ~ん、私でいいんだ」
谷さんがニヤリと笑みを浮かべる。
やはりこの人には任せておけない。
前言撤回しようとした瞬間、谷さんは
「自分のスタイルを貫いて頂点を取りたいと思っています、ってのはどう?」
珍しくまともな言葉を発して来た。
「じゃ、それで」
「はーい。じゃあこれでインタビューは終了!清書して編集部に送っておくね!」
「はい・・・・」
「どうもありがとう!じゃ、練習頑張ってね!」
その後、発売されたEn-Enがジムに届いた。
全く興味は無かったが、谷さんがわざわざ掲載ページを開いて見せて来たので、否が応でも読むハメに。
「その厚い胸板に抱かれたい!イケメン王子・宮田一郎(ボクシングOPBFフェザー級王者)」
見出しを見て、目眩がした。
「侍のような眼差しに胸キュン!クールなカレの熱いファイトスタイルに女性ファンはメロメロ…」
この編集者もそんなに若くないだろうな、と推測できる。
「そんな宮田くんの初体験は高校生の時、初カノと☆お互い初めてなのもあって緊張してうまくできなかったとか↓↓」
そこまで話してねぇよ!
「現在宮田くんはフリー!読者にもチャンスはあるかも!?」
少なくともこんなのを愛読する女には興味がない。
オレは絶望を感じながら雑誌を閉じた。心なしか、練習生のオレを見る目がいつもと違う気がするが、まぁいい。
みんなそのうち忘れるだろう…
なんて思っていたのが甘かった。
それからオレが試合に出る度、どこからか「王子~!!」というかけ声が飛ぶようになった。
もう二度と、女性誌の取材は受けない。
END
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2011.6.11 高杉R26号
残念な宮田シリーズです。実際にこんな特集があってもおかしくないかな、なんて。
ちなみにこんな頭の弱い文章を書く雑誌は見たことありません(笑)