残念な宮田シリーズ
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2.トラウマプリンス
祝勝会、はボクサーにとって付きものだ。
自分がまだ下位のランカーだったときは、そういった申し出を断ることが出来たものの・・・
東洋太平洋チャンピオンともなると、スポンサーや後援会が黙っちゃいない。
オレ自身を応援してくれているにも関わらず、オレの希望や意向など完全無視で、祝勝会が行われる。
彼らもスポンサーと言っても、ビジネスでやっているということは分かっている。
オレはそういった期待や打算を背負っていかねばならない。
ただ拳振り回していればいいわけじゃない。
プロっていうのはそういうものだ。
オレの拳の質は軽いが、拳そのものは重い。
ランディー戦の試合後。
オレが派手に打たれたこともあって、当日の祝勝会は開催されず。
肋骨も折れ、満身創痍な中、オレは苦手な祝勝会は当然お流れになったと内心安堵していた。
しかし、大スポンサーが
「暫定王者を制しての真のチャンピオン、これは絶対に祝勝会をやるべき。ましてや親の仇討ちも果たしたわけだし」
と言って聞かないらしい。
かくて、試合より3週間後。
今オレは、店内貸切の広々とした居酒屋で、物好きなオッサン達に囲まれている。
「一郎くんは、お酒は飲まないのかい?」
スポンサーAが聞く。オレが答える前に、親父が「本人が酒を好まないんだ」と説明してくれた。
その横でオレはうんうん頷いていればいい。OK父さん、さすがセコンドだ。
後援会の会長やスポンサーのオッサン達に囲まれ、オレはやけに喉が渇いた。
応援してくれるのは本当にありがたいが、冒頭に述べたようにオレはこういう雰囲気が大の苦手だし、そもそも親父の一件もあって容易に信頼できない。
オレが一回でも負ければ離れていくんだろう、なんて冷めた目で見てしまう。
とにかく暑苦しくて堪らない。
目の前に置いてあったコップの水を一気に飲み干した。
「い、一郎くん!」
「・・・なんです?」
「それ、焼酎だよ焼酎!!」
実は、オレは大の下戸だ。
そもそも幼少の頃から酒乱の親父を見てきたのもあって、酒自体それほど好きではなかった。
成人してから一応一度だけ飲んでみたことはあるが、そのとき死ぬほど具合が悪くなったのを覚えている。
どうやら身体に合わないらしい、それ以来全く口に入れたことはなかった。
それが、怒濤の一気飲み。
すぐに、血の気が引くような沸くような、不思議な感覚に陥った。
それから記憶が途切れ途切れで、何がどうなったか分からない。
気がついたらトイレにいた。気分が少しスッキリしたのを感じる。
吐いたのかもしれない。
トイレから出て、手を洗って口を少し漱ぐ。
鏡に映った赤い顔の男が、誰だか分からなかった。
「あれ、宮田くんどしたの?」
ジムのマーケティング担当、谷みちるが声を掛けてきた。
この女は、うちのジムに所属しているくせに、間柴の大ファンだ。
パスケースに写真を入れて持ち歩いている。
アイツの顔なんて持ち歩いて、厄除けのつもりか?
なんだかちょっとイライラしてきた。
なんでオレの写真じゃないんだ。
どう考えてもオレの方がカッコいいだろうが。
「谷・・・しゃん・・・」
「・・・・しゃ、しゃん?」
上手く喋れていない気がするが、気にはならない。
「随分と酔っぱらったね、宮田くん。大丈夫かぁ?」
「大丈夫れす・・・」
「れすって・・・随分可愛い子になっちゃったねぇ」
可愛い、だと?
年下だと思ってナメやがって。
抱きついてやる。
「み、宮田くん、どうした!?」
「可愛い・・らって?おれが?」
「お、重いって!宮田くん!」
「谷しゃんも可愛いれすよ」
何言ってんだ、オレ。
なんだか柔らかい感触がする。
気持ちよくなってきた。
「宮田くん、マジで重たいって!ちょっと、寝てるでしょアンタ!!」
意識が遠のいていく。
「誰かぁー!!」
眠たい。
「オイ!!!一郎!!」
ふと横を見ると、親父の顔が目に入った。
父さん、迎えに来てくれたんだ。
もう今日はお酒飲んでないのかな?
もうシャドーしてても殴らないかな?
「父さんっ!!」
「む、むう」
思わず父さんに抱きつく。
何か変だと思ったら、オレの方が背が高くなっている。
あ、そうだ。オレはもう大人なんだ。
父さんのボクシングを証明するって、そう誓って・・・
そして雪辱を果たしたんだ、やっと・・やっと・・・
「父さんの・・・ボクシングは・・・間違っちゃいないよぉ」
「う、うむ」
「父さんは強いんらって・・・負けないんらって・・」
その後の記憶は無い。
気がついたらアパートで寝ていた。
着の身着のまま、おそらく父さんがオレを運んでくれたのだろう。
しかし昔と違って、着替えさせてはくれなかったようだ。
次の日、ジムに行ったら、他のヤツらの態度が少しおかしい気がした。
まあ特に和気藹々と接しているわけでもないから、と気にせず練習をする。
「あ、宮田くん」
谷さんがジムにやってきた。
昨日、そういえばなんだか話をしたような記憶が無くもない。
「昨日、大変だったねぇ。覚えてる?」
「・・・いえ・・・」
すると谷さんは、堪えきれなくなったようで、声を出して笑い始めた。
「あのあと、宮田コーチがキミのこと引きずって帰ったんだけどさ」
一瞬、目の前が暗くなった。
「ずっと泣いてたわよ。可愛いとこあるのね~」
オレは誓った。
もう二度と酒は飲まない。
酒の席では、得体の知れないコップの水を飲まない。
減量で辛くなったとき、このときの"水"を憎めば、きっと少しは気が紛れるだろう。
・・・たぶん。
---------------
2011.4.14 高杉R26号
残念な宮田シリーズ第2弾です。ヒロインは第1弾と同じ。
宮田くんはお酒が弱いイメージがありますが、実際はどうなんでしょうね。案外強いのも似合うかなと思います。
この話、個人的には父さんとの絡みがツボです。父さんったら照れちゃって可愛いんだから(笑)
祝勝会、はボクサーにとって付きものだ。
自分がまだ下位のランカーだったときは、そういった申し出を断ることが出来たものの・・・
東洋太平洋チャンピオンともなると、スポンサーや後援会が黙っちゃいない。
オレ自身を応援してくれているにも関わらず、オレの希望や意向など完全無視で、祝勝会が行われる。
彼らもスポンサーと言っても、ビジネスでやっているということは分かっている。
オレはそういった期待や打算を背負っていかねばならない。
ただ拳振り回していればいいわけじゃない。
プロっていうのはそういうものだ。
オレの拳の質は軽いが、拳そのものは重い。
ランディー戦の試合後。
オレが派手に打たれたこともあって、当日の祝勝会は開催されず。
肋骨も折れ、満身創痍な中、オレは苦手な祝勝会は当然お流れになったと内心安堵していた。
しかし、大スポンサーが
「暫定王者を制しての真のチャンピオン、これは絶対に祝勝会をやるべき。ましてや親の仇討ちも果たしたわけだし」
と言って聞かないらしい。
かくて、試合より3週間後。
今オレは、店内貸切の広々とした居酒屋で、物好きなオッサン達に囲まれている。
「一郎くんは、お酒は飲まないのかい?」
スポンサーAが聞く。オレが答える前に、親父が「本人が酒を好まないんだ」と説明してくれた。
その横でオレはうんうん頷いていればいい。OK父さん、さすがセコンドだ。
後援会の会長やスポンサーのオッサン達に囲まれ、オレはやけに喉が渇いた。
応援してくれるのは本当にありがたいが、冒頭に述べたようにオレはこういう雰囲気が大の苦手だし、そもそも親父の一件もあって容易に信頼できない。
オレが一回でも負ければ離れていくんだろう、なんて冷めた目で見てしまう。
とにかく暑苦しくて堪らない。
目の前に置いてあったコップの水を一気に飲み干した。
「い、一郎くん!」
「・・・なんです?」
「それ、焼酎だよ焼酎!!」
実は、オレは大の下戸だ。
そもそも幼少の頃から酒乱の親父を見てきたのもあって、酒自体それほど好きではなかった。
成人してから一応一度だけ飲んでみたことはあるが、そのとき死ぬほど具合が悪くなったのを覚えている。
どうやら身体に合わないらしい、それ以来全く口に入れたことはなかった。
それが、怒濤の一気飲み。
すぐに、血の気が引くような沸くような、不思議な感覚に陥った。
それから記憶が途切れ途切れで、何がどうなったか分からない。
気がついたらトイレにいた。気分が少しスッキリしたのを感じる。
吐いたのかもしれない。
トイレから出て、手を洗って口を少し漱ぐ。
鏡に映った赤い顔の男が、誰だか分からなかった。
「あれ、宮田くんどしたの?」
ジムのマーケティング担当、谷みちるが声を掛けてきた。
この女は、うちのジムに所属しているくせに、間柴の大ファンだ。
パスケースに写真を入れて持ち歩いている。
アイツの顔なんて持ち歩いて、厄除けのつもりか?
なんだかちょっとイライラしてきた。
なんでオレの写真じゃないんだ。
どう考えてもオレの方がカッコいいだろうが。
「谷・・・しゃん・・・」
「・・・・しゃ、しゃん?」
上手く喋れていない気がするが、気にはならない。
「随分と酔っぱらったね、宮田くん。大丈夫かぁ?」
「大丈夫れす・・・」
「れすって・・・随分可愛い子になっちゃったねぇ」
可愛い、だと?
年下だと思ってナメやがって。
抱きついてやる。
「み、宮田くん、どうした!?」
「可愛い・・らって?おれが?」
「お、重いって!宮田くん!」
「谷しゃんも可愛いれすよ」
何言ってんだ、オレ。
なんだか柔らかい感触がする。
気持ちよくなってきた。
「宮田くん、マジで重たいって!ちょっと、寝てるでしょアンタ!!」
意識が遠のいていく。
「誰かぁー!!」
眠たい。
「オイ!!!一郎!!」
ふと横を見ると、親父の顔が目に入った。
父さん、迎えに来てくれたんだ。
もう今日はお酒飲んでないのかな?
もうシャドーしてても殴らないかな?
「父さんっ!!」
「む、むう」
思わず父さんに抱きつく。
何か変だと思ったら、オレの方が背が高くなっている。
あ、そうだ。オレはもう大人なんだ。
父さんのボクシングを証明するって、そう誓って・・・
そして雪辱を果たしたんだ、やっと・・やっと・・・
「父さんの・・・ボクシングは・・・間違っちゃいないよぉ」
「う、うむ」
「父さんは強いんらって・・・負けないんらって・・」
その後の記憶は無い。
気がついたらアパートで寝ていた。
着の身着のまま、おそらく父さんがオレを運んでくれたのだろう。
しかし昔と違って、着替えさせてはくれなかったようだ。
次の日、ジムに行ったら、他のヤツらの態度が少しおかしい気がした。
まあ特に和気藹々と接しているわけでもないから、と気にせず練習をする。
「あ、宮田くん」
谷さんがジムにやってきた。
昨日、そういえばなんだか話をしたような記憶が無くもない。
「昨日、大変だったねぇ。覚えてる?」
「・・・いえ・・・」
すると谷さんは、堪えきれなくなったようで、声を出して笑い始めた。
「あのあと、宮田コーチがキミのこと引きずって帰ったんだけどさ」
一瞬、目の前が暗くなった。
「ずっと泣いてたわよ。可愛いとこあるのね~」
オレは誓った。
もう二度と酒は飲まない。
酒の席では、得体の知れないコップの水を飲まない。
減量で辛くなったとき、このときの"水"を憎めば、きっと少しは気が紛れるだろう。
・・・たぶん。
---------------
2011.4.14 高杉R26号
残念な宮田シリーズ第2弾です。ヒロインは第1弾と同じ。
宮田くんはお酒が弱いイメージがありますが、実際はどうなんでしょうね。案外強いのも似合うかなと思います。
この話、個人的には父さんとの絡みがツボです。父さんったら照れちゃって可愛いんだから(笑)