残念な宮田シリーズ
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1.誰にも言えない
相当珍しい部類だと思うが、オレは今まで「本気で好きな女」なんて1人も出来たことがない。
人のやること為すことに、いちいち声援を送ってきて。
こちらの都合もおかまい無しに、ズカズカと入り込んできて。
女なんて只のめんどくさい生き物だ、くらいに思っていたんだ。
それなのに、彼女は。
「よっ、久しぶり~」
オレのことなど、男だとも思っていないような感じで接してくる。
自分が男であることを忘れられる、初めての経験だった。
快活で、さっぱりとした性格。
彼女は唯一と言って良いくらい、オレが比較的心を許した女性だった。
「こないだの試合、おめでとうね」
「どうも」
「次も頑張れよ?」
「どうも」
素っ気ないオレの態度にも臆することなく、彼女は肩を軽く叩いて、軽やかな足取りで事務室へ向かった。
このご時世、どこのジムも生存競争に必死だ。
スポンサーを付けたり、銀行と相談したり、とにかく金を上手に回すことが必要になってくる。
選手が何も考えずに練習に励めるようにと、会長が知り合いのツテで頼んだマーケティング担当。
それが彼女・・・・谷みちるだ。
といっても正式なスタッフではなく、完全なボランティアだ。
一体なんで、1円の得にもならないボランティアでこんなことをしてくれているのだろうと疑問に思ったことはある。
しかし、それを直接聞いてみたことはない。
彼女は嫌な顔ひとつしないで、熱心に仕事をしてくれている。
それだけで十分だと思ったからだ。
先ほどの挨拶からしばらくして、谷さんが事務所から出てきた。
相変わらず、いつも楽しそうな笑顔を浮かべている。
「じゃ、またね~」
こちらをロクに見ずに、後ろ手を振るだけの挨拶。
相変わらずだな、と思った矢先、ふと彼女の通り過ぎた後に何かが落ちているのに気がついた。
よく見てみると、パスケースの類だ。
本人は全然気づいていないようだし、仕方ないので拾ってやろうと手を伸ばし、「谷さん、落としましたよ」なんて言いながら、何気なく、二つ折りになったパスケースの中味を見てしまった。
そこに入っていたのは、衝撃的な写真。
「あっ!!!」
谷さんは慌てて、ものすごいスピードでこちらに戻り、ひったくるようにしてパスケースを奪った。
「・・・中味・・・・見たでしょ」
「・・・別に」
「嘘だっ!見たでしょ!今、開いてたもんねぇ!?」
「・・・見たから何だって言うんですか」
正直、見なきゃ良かった、と思った。
「だって!宮田くん・・・か、彼のこと、嫌いでしょ?」
「・・・・・・」
何も言い返せない。
もちろん好きではないが、嫌いというほど熱烈な感情は持っていない。
そしてそれを弁解するのも馬鹿馬鹿しい。
「私、このジムのスタッフしときながら、そ、そんなヤツのプロマイド的なものをパスケースに後生大事に入れてさ・・・」
谷さんが弁解すればするほど、オレのテンションは著しく下がっていく。
「我ながらスパイみたいな感じするじゃない・・・っていうか、気分悪いよね?」
「別に」
「でも、ただのファンだから!あの、その、悪気はないから!」
オレの態度に、谷さんは少し肩を落として、それからもの凄く気恥ずかしそうに
「みんなには黙っててよね」
と言って、パタパタと帰って行った。
黙ってて、だと?
言えるわけがない。
谷さんのパスケースに、 間柴 の写真が入ってるだなんて。
つーか寄りにもよって、なんでアイツなんだよ。
まだ鷹村さんとか、幕之内なら許せたのに。
・・・許す?誰を?
そもそもなぜ、許せないんだ?
「・・・悪趣味め」
オレの独り言は、サンドバッグを叩く音にかき消された。
---------------
2011.3.22 高杉R26号
残念な宮田シリーズの第一弾です。
たまりませんね!
相当珍しい部類だと思うが、オレは今まで「本気で好きな女」なんて1人も出来たことがない。
人のやること為すことに、いちいち声援を送ってきて。
こちらの都合もおかまい無しに、ズカズカと入り込んできて。
女なんて只のめんどくさい生き物だ、くらいに思っていたんだ。
それなのに、彼女は。
「よっ、久しぶり~」
オレのことなど、男だとも思っていないような感じで接してくる。
自分が男であることを忘れられる、初めての経験だった。
快活で、さっぱりとした性格。
彼女は唯一と言って良いくらい、オレが比較的心を許した女性だった。
「こないだの試合、おめでとうね」
「どうも」
「次も頑張れよ?」
「どうも」
素っ気ないオレの態度にも臆することなく、彼女は肩を軽く叩いて、軽やかな足取りで事務室へ向かった。
このご時世、どこのジムも生存競争に必死だ。
スポンサーを付けたり、銀行と相談したり、とにかく金を上手に回すことが必要になってくる。
選手が何も考えずに練習に励めるようにと、会長が知り合いのツテで頼んだマーケティング担当。
それが彼女・・・・谷みちるだ。
といっても正式なスタッフではなく、完全なボランティアだ。
一体なんで、1円の得にもならないボランティアでこんなことをしてくれているのだろうと疑問に思ったことはある。
しかし、それを直接聞いてみたことはない。
彼女は嫌な顔ひとつしないで、熱心に仕事をしてくれている。
それだけで十分だと思ったからだ。
先ほどの挨拶からしばらくして、谷さんが事務所から出てきた。
相変わらず、いつも楽しそうな笑顔を浮かべている。
「じゃ、またね~」
こちらをロクに見ずに、後ろ手を振るだけの挨拶。
相変わらずだな、と思った矢先、ふと彼女の通り過ぎた後に何かが落ちているのに気がついた。
よく見てみると、パスケースの類だ。
本人は全然気づいていないようだし、仕方ないので拾ってやろうと手を伸ばし、「谷さん、落としましたよ」なんて言いながら、何気なく、二つ折りになったパスケースの中味を見てしまった。
そこに入っていたのは、衝撃的な写真。
「あっ!!!」
谷さんは慌てて、ものすごいスピードでこちらに戻り、ひったくるようにしてパスケースを奪った。
「・・・中味・・・・見たでしょ」
「・・・別に」
「嘘だっ!見たでしょ!今、開いてたもんねぇ!?」
「・・・見たから何だって言うんですか」
正直、見なきゃ良かった、と思った。
「だって!宮田くん・・・か、彼のこと、嫌いでしょ?」
「・・・・・・」
何も言い返せない。
もちろん好きではないが、嫌いというほど熱烈な感情は持っていない。
そしてそれを弁解するのも馬鹿馬鹿しい。
「私、このジムのスタッフしときながら、そ、そんなヤツのプロマイド的なものをパスケースに後生大事に入れてさ・・・」
谷さんが弁解すればするほど、オレのテンションは著しく下がっていく。
「我ながらスパイみたいな感じするじゃない・・・っていうか、気分悪いよね?」
「別に」
「でも、ただのファンだから!あの、その、悪気はないから!」
オレの態度に、谷さんは少し肩を落として、それからもの凄く気恥ずかしそうに
「みんなには黙っててよね」
と言って、パタパタと帰って行った。
黙ってて、だと?
言えるわけがない。
谷さんのパスケースに、 間柴 の写真が入ってるだなんて。
つーか寄りにもよって、なんでアイツなんだよ。
まだ鷹村さんとか、幕之内なら許せたのに。
・・・許す?誰を?
そもそもなぜ、許せないんだ?
「・・・悪趣味め」
オレの独り言は、サンドバッグを叩く音にかき消された。
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2011.3.22 高杉R26号
残念な宮田シリーズの第一弾です。
たまりませんね!
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