太陽の少年
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5.忠告
「高杉」
担任に呼び止められ、手招きされるがままに職員室へ入る。
職員室は、なにやら毎日がお通夜のようなしめやかさが充満している。
一方で、体育教師らしき厳つい先生がヤンキー達を叱る声(というか、やりあう声)が隣室から漏れてきて、なんとも定義しづらい空間だ。
「なんですか、先生」
「お前・・・最近、千堂とツルんでるってホンマか?」
担任の顔に、明らかな嫌悪感が浮かんでいる。
誰がどういう噂を流したのか知らないが、まったく余計なお世話だと奈々は思った。
「ツルんだ覚えはありませんけど」
「・・・ほならええねんけど・・・危ないから気ぃつけや」
千堂が極悪人か何かでもあると言いたげな担任のセリフに、奈々はムッとした。
彼は確かにケンカの問題は起こすかもしれないけれど、人柄が極悪なわけではないのに。
しかし自分はつい最近ここに越して来た身。彼については、何も知らない。
単なる好奇心でリサーチするように、担任に尋ねた。
「先生、千堂くんって、昔っからああいう感じですか?」
「ん?」
「ケンカが大好きなんですよね、彼」
「あー・・・」
担任は椅子に深く腰掛け直し、ふぅとため息をついて語りだした。
「中学の内申書には"正義感がある"って。つまり・・・カツアゲされた子やイジメられた子を助けたりっちゅーことで、ケンカに発展することが多かったそうや。まぁ、今もわりとそうや。そこは変わってへん」
そして担任は、自分を落ち着かせるためにタバコをくわえて火をつけた。
この学校は無法地帯だなと呆れつつ、奈々は担任の向かいにある椅子に座って、じっくり話を聞く体勢を整えた。
「アイツの父親、消防士でな」
担任がふぅっと煙を吐く。
「アレがまだ小さい頃に、同じくらいの小さい子、助けるために亡くなってな。それもあってアイツは、誰かを助けるっちゅーことには、人一倍敏感なところがあんねん」
とんとん、と灰を灰皿に落とし、担任が続ける。
「アイツの正義感は否定せんよ?そやけど、アイツは単に殴り合いが好きなヤンチャ坊主なんや。それがタチ悪いんよ。結局は腕っ節で解決するやろ?履き違えてんねん、アレは」
担任の言うことはもっともな気がした。
同時に、この担任は千堂のことをよくわかっているのだと、話の流れから奈々はそう悟った。
「さっき俺が危険や、っていうたのはな、千堂のことやないねん。お前のことや」
「え?」
担任はタバコをもみ消して、くるっと椅子を翻してつぶやいた。
「アイツとツルんでたら、狙われるで」
*****
名ばかりのHRが終わって、下校時。
校門の前には、よその制服を着た人たちがゾロゾロと座っている。
誰かを待ち構えているとか、そういう類のものだ。
すっかり見慣れた光景で、その中を歩くことにも、もう躊躇はしなかった。
「千堂はどこや!!」
「さっさと出さんかい!」
そんな怒号が耳をかすめる。他校の制服に身をまとった不良たちが、血管を浮き上がらせて怒鳴っている。
いつも千堂を囲んでいる不良たちが、なにやらワーワーと言い返して、今にも殴り合いに発展しそうな雰囲気だ。
そういえば今日は千堂は学校に来なかったな、と思いながら人ごとのように帰路についた。
学校からちょっと離れたところで、奈々は鞄から音楽プレイヤーを取り出し、ヘッドフォンを耳に装着した。
これで何も聞こえない。騒がしい一日も終わりだ、とホッと胸をなで下ろした。
「アレでっせ、あの女」
「千堂の女か?」
奈々には見えないところで、なにやら男数人が話をしている。
「この女使えば、千堂は間違いなく来るで」
「あのガキ、こっちが弱いとか言いおって来ぇへんしの」
「今日こそケリつけたらぁ」
背後から忍び寄る影に、奈々は全く気づかない。
口を塞がれ、体を掴まれたところでようやく異変に気づいたが、既になす術はなかった。
「高杉」
担任に呼び止められ、手招きされるがままに職員室へ入る。
職員室は、なにやら毎日がお通夜のようなしめやかさが充満している。
一方で、体育教師らしき厳つい先生がヤンキー達を叱る声(というか、やりあう声)が隣室から漏れてきて、なんとも定義しづらい空間だ。
「なんですか、先生」
「お前・・・最近、千堂とツルんでるってホンマか?」
担任の顔に、明らかな嫌悪感が浮かんでいる。
誰がどういう噂を流したのか知らないが、まったく余計なお世話だと奈々は思った。
「ツルんだ覚えはありませんけど」
「・・・ほならええねんけど・・・危ないから気ぃつけや」
千堂が極悪人か何かでもあると言いたげな担任のセリフに、奈々はムッとした。
彼は確かにケンカの問題は起こすかもしれないけれど、人柄が極悪なわけではないのに。
しかし自分はつい最近ここに越して来た身。彼については、何も知らない。
単なる好奇心でリサーチするように、担任に尋ねた。
「先生、千堂くんって、昔っからああいう感じですか?」
「ん?」
「ケンカが大好きなんですよね、彼」
「あー・・・」
担任は椅子に深く腰掛け直し、ふぅとため息をついて語りだした。
「中学の内申書には"正義感がある"って。つまり・・・カツアゲされた子やイジメられた子を助けたりっちゅーことで、ケンカに発展することが多かったそうや。まぁ、今もわりとそうや。そこは変わってへん」
そして担任は、自分を落ち着かせるためにタバコをくわえて火をつけた。
この学校は無法地帯だなと呆れつつ、奈々は担任の向かいにある椅子に座って、じっくり話を聞く体勢を整えた。
「アイツの父親、消防士でな」
担任がふぅっと煙を吐く。
「アレがまだ小さい頃に、同じくらいの小さい子、助けるために亡くなってな。それもあってアイツは、誰かを助けるっちゅーことには、人一倍敏感なところがあんねん」
とんとん、と灰を灰皿に落とし、担任が続ける。
「アイツの正義感は否定せんよ?そやけど、アイツは単に殴り合いが好きなヤンチャ坊主なんや。それがタチ悪いんよ。結局は腕っ節で解決するやろ?履き違えてんねん、アレは」
担任の言うことはもっともな気がした。
同時に、この担任は千堂のことをよくわかっているのだと、話の流れから奈々はそう悟った。
「さっき俺が危険や、っていうたのはな、千堂のことやないねん。お前のことや」
「え?」
担任はタバコをもみ消して、くるっと椅子を翻してつぶやいた。
「アイツとツルんでたら、狙われるで」
*****
名ばかりのHRが終わって、下校時。
校門の前には、よその制服を着た人たちがゾロゾロと座っている。
誰かを待ち構えているとか、そういう類のものだ。
すっかり見慣れた光景で、その中を歩くことにも、もう躊躇はしなかった。
「千堂はどこや!!」
「さっさと出さんかい!」
そんな怒号が耳をかすめる。他校の制服に身をまとった不良たちが、血管を浮き上がらせて怒鳴っている。
いつも千堂を囲んでいる不良たちが、なにやらワーワーと言い返して、今にも殴り合いに発展しそうな雰囲気だ。
そういえば今日は千堂は学校に来なかったな、と思いながら人ごとのように帰路についた。
学校からちょっと離れたところで、奈々は鞄から音楽プレイヤーを取り出し、ヘッドフォンを耳に装着した。
これで何も聞こえない。騒がしい一日も終わりだ、とホッと胸をなで下ろした。
「アレでっせ、あの女」
「千堂の女か?」
奈々には見えないところで、なにやら男数人が話をしている。
「この女使えば、千堂は間違いなく来るで」
「あのガキ、こっちが弱いとか言いおって来ぇへんしの」
「今日こそケリつけたらぁ」
背後から忍び寄る影に、奈々は全く気づかない。
口を塞がれ、体を掴まれたところでようやく異変に気づいたが、既になす術はなかった。