太陽の少年
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
4.素顔
大阪の町は、良い意味で活気づいていて、悪い意味で騒がしい。
家までの帰り道。
東京とは違う、独特の町並み、瓦屋根、細い畦道。
散歩して歩くのも悪くない。
ふと横を通りかかった、トラ模様の猫。
飼い猫の類ではなさそうだ。
奈々はその気ままな佇まいや雰囲気に、千堂を思い出した。
「浪速のドラ猫って感じね」
吹き出すように一人で笑い、暇に任せて、猫の歩いて行く方向をずっと追いかけてみた。
すると、みな、同じ方向を目指して歩いているかのように、あちこちから続々と猫が集まってくる。
ニャーニャーという声が太く重なっていく。ざっと見渡しても10匹以上はいそうな猫たち。
これから集会でもあるのだろうか?と思って、道の角を曲がると。
その先に居たのは、千堂だった。
「お前、また太ったんとちゃうか?お前は相変わらず汚いのお。お前は・・・」
千堂は楽しそうに猫と会話している。
猫たちも千堂の話が分かるのか、ニャーニャーとなついている。
そのうちの1匹が、奈々を威嚇するようにフーッと言った。
そこで千堂が、後ろを振り返る。
「・・・・なんや、アンタか」
「猫じゃなくて悪かったわね」
しゃがんでいた千堂は立ち上がって、奈々の方へ近づいて来た。
すると猫も、千堂の足下に群がって移動してくる。
「アカン、ワイはもう帰るんや。また今度遊んでやるさかい」
その口調は、不良どもに恐れられている番長のものとは、全く別人のように穏やかだった。
屋上でリンチにあったときも、女ヤンキーたちが千堂が出て来ただけで誰もがおびえた表情を浮かべ、そして今も、大阪で千堂の名前を出すと、たいていの不良は震え上がるような存在であるにも関わらず・・・
奈々はその無邪気な笑顔を可愛いとすら思った。
「ふふっ」
「・・・・なに笑ろてんねん」
「猫と会話できるんだ」
「当たり前や」
何が当たり前なのかよくわからないが、千堂にとっては普通のことのようだ。
「アンタ、名前なんやった?」
千堂がチラリとこっちを見て尋ねると、奈々は少し不機嫌そうに
「隣の席だってのに覚えてないの?」
「担任の名前すらよぉ覚えとらんわ」
はぁ、と大げさなため息をついて、奈々は答えた。
「高杉奈々です」
「そか、高杉」
千堂に名前を呼ばれ、奈々は目をぱちくりとさせて
「なに?」
「猫、好きか?」
意外なことを聞かれ、一瞬言葉に詰まる。
「好きだけど」
「そか、ワイも好きやねん」
千堂がニカッと笑った。
奈々は、千堂の素顔が本当にわからなくなった。
今向かい合っている千堂はその辺のワルガキみたいな顔で、邪気ひとつない。
しかし学校ではそんな表情は見せず、いつも不満そうな、退屈そうな顔ばかりしていて、みんなが彼を恐れているのだ。
少し大きい通りに出て、千堂と並んで歩く。帰り道が同じなのかどうかはわからない。
ただ、互いに歩く方向が同じであるようだ。
ボーッと千堂を見ていると、不注意から向こうから歩いて来た人にぶつかってしまった。
「あっ・・・」
「オイ、コラァ!気ぃつけやこのアマァ!」
ぶつかった方向を見ると、学校でよく見るような仰々しい学生服に身を包んだ、気合いの入った男。
奈々は大声に一瞬怯んで、言葉を失ってしまった。
すると気合いの入った男が、見る見るうちに青ざめて行くのが分かった。
「ひゃああ!エラいすんませんでしたっ!」
「まさか、千堂さんのツレとは知らず・・・っ!」
ふと後ろを振り返ると、千堂がまた、学校で見せているあの冷めた目つきで男たちを睨んでいた。
「し、失礼しやしたぁああ!!」
竜巻のように、あっという間に消えて行く不良たち。
千堂はそれらを見て、「ふん」とつまらなそうに吐き捨てた。
「退屈やぁ」
「え?」
「ほなな」
千堂は通りを渡り、おそらく自宅のあるだろう方角へとノシノシ歩いて行った。
先ほど、猫と戯れていたときとは全く違う、黒いオーラすら見える。
一体、どっちが本当の千堂なのだろうかと、奈々は背中を目で追いながら首を傾げた。
大阪の町は、良い意味で活気づいていて、悪い意味で騒がしい。
家までの帰り道。
東京とは違う、独特の町並み、瓦屋根、細い畦道。
散歩して歩くのも悪くない。
ふと横を通りかかった、トラ模様の猫。
飼い猫の類ではなさそうだ。
奈々はその気ままな佇まいや雰囲気に、千堂を思い出した。
「浪速のドラ猫って感じね」
吹き出すように一人で笑い、暇に任せて、猫の歩いて行く方向をずっと追いかけてみた。
すると、みな、同じ方向を目指して歩いているかのように、あちこちから続々と猫が集まってくる。
ニャーニャーという声が太く重なっていく。ざっと見渡しても10匹以上はいそうな猫たち。
これから集会でもあるのだろうか?と思って、道の角を曲がると。
その先に居たのは、千堂だった。
「お前、また太ったんとちゃうか?お前は相変わらず汚いのお。お前は・・・」
千堂は楽しそうに猫と会話している。
猫たちも千堂の話が分かるのか、ニャーニャーとなついている。
そのうちの1匹が、奈々を威嚇するようにフーッと言った。
そこで千堂が、後ろを振り返る。
「・・・・なんや、アンタか」
「猫じゃなくて悪かったわね」
しゃがんでいた千堂は立ち上がって、奈々の方へ近づいて来た。
すると猫も、千堂の足下に群がって移動してくる。
「アカン、ワイはもう帰るんや。また今度遊んでやるさかい」
その口調は、不良どもに恐れられている番長のものとは、全く別人のように穏やかだった。
屋上でリンチにあったときも、女ヤンキーたちが千堂が出て来ただけで誰もがおびえた表情を浮かべ、そして今も、大阪で千堂の名前を出すと、たいていの不良は震え上がるような存在であるにも関わらず・・・
奈々はその無邪気な笑顔を可愛いとすら思った。
「ふふっ」
「・・・・なに笑ろてんねん」
「猫と会話できるんだ」
「当たり前や」
何が当たり前なのかよくわからないが、千堂にとっては普通のことのようだ。
「アンタ、名前なんやった?」
千堂がチラリとこっちを見て尋ねると、奈々は少し不機嫌そうに
「隣の席だってのに覚えてないの?」
「担任の名前すらよぉ覚えとらんわ」
はぁ、と大げさなため息をついて、奈々は答えた。
「高杉奈々です」
「そか、高杉」
千堂に名前を呼ばれ、奈々は目をぱちくりとさせて
「なに?」
「猫、好きか?」
意外なことを聞かれ、一瞬言葉に詰まる。
「好きだけど」
「そか、ワイも好きやねん」
千堂がニカッと笑った。
奈々は、千堂の素顔が本当にわからなくなった。
今向かい合っている千堂はその辺のワルガキみたいな顔で、邪気ひとつない。
しかし学校ではそんな表情は見せず、いつも不満そうな、退屈そうな顔ばかりしていて、みんなが彼を恐れているのだ。
少し大きい通りに出て、千堂と並んで歩く。帰り道が同じなのかどうかはわからない。
ただ、互いに歩く方向が同じであるようだ。
ボーッと千堂を見ていると、不注意から向こうから歩いて来た人にぶつかってしまった。
「あっ・・・」
「オイ、コラァ!気ぃつけやこのアマァ!」
ぶつかった方向を見ると、学校でよく見るような仰々しい学生服に身を包んだ、気合いの入った男。
奈々は大声に一瞬怯んで、言葉を失ってしまった。
すると気合いの入った男が、見る見るうちに青ざめて行くのが分かった。
「ひゃああ!エラいすんませんでしたっ!」
「まさか、千堂さんのツレとは知らず・・・っ!」
ふと後ろを振り返ると、千堂がまた、学校で見せているあの冷めた目つきで男たちを睨んでいた。
「し、失礼しやしたぁああ!!」
竜巻のように、あっという間に消えて行く不良たち。
千堂はそれらを見て、「ふん」とつまらなそうに吐き捨てた。
「退屈やぁ」
「え?」
「ほなな」
千堂は通りを渡り、おそらく自宅のあるだろう方角へとノシノシ歩いて行った。
先ほど、猫と戯れていたときとは全く違う、黒いオーラすら見える。
一体、どっちが本当の千堂なのだろうかと、奈々は背中を目で追いながら首を傾げた。