太陽の少年
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3.「番長」
とある昼休み。
むなしいチャイムがなって、その通りに行動するのは先生だけ、という悲しい教室。
今日は千堂は登校しておらず、奈々の横はガランとしている。
ギャアギャアと相変わらずやかましい教室内で、一人で弁当を食べるのも気が紛れない。
奈々は弁当の包みを持って、屋上へと向かった。
屋上にはあちこちにタバコの吸い殻が落ちていたが、今のところ誰もいないらしい。
入り口の横に小さなハシゴがかかっている。
奈々はそこから上へあがり、弁当の包みを開けた。
グラウンドが一望できる。
誰もいない。
どこかの教室から、騒がしい声が聞こえてくる。
でもそれも、遠い。
おにぎりに食らいつきながら、おかずの卵焼きに手を伸ばす。
ああ、平穏な時間だ・・・・そう思いながら、目をふっと閉じたときだった。
「うまそうやな」
背後から声がして、奈々は思わず体を硬直させた。
この声には、聞き覚えがある。
恐る恐る振り返ってみると、そこに居たのは、あの千堂だった。
「・・・食べたい?」
奈々が尋ねると、千堂は顔色ひとつ変えずに、黙って大きく口を開けた。
餌をもらう虎のようだ、と思いながら、奈々はウインナーを放り込む。
「おおきに」
奈々はムシャムシャとウインナーを噛み締める千堂を見て、この高校で一番強い男という評判とは全く別人のような・・・子供のような人だと思った。
ごくんと飲み込んだと思ったら、また物欲しそうな目でじーっとこちらを見ている。
奈々は弁当を隠すようにして、
「・・・・もうあげないよ」
「足りひんねん」
「自分のお弁当は?」
「んなモンあるかい」
千堂は相変わらず、じーっと獲物を狙うかのような目でこちらを見ている。
仕方なく、奈々は2つ持って来たおにぎりのうちのひとつをあげた。
千堂は無言でそれを受け取り、また大きな口を開けて頬張った。
どうやらお腹が空いていたらしい。
2~3口で、あっという間におにぎりを食べてしまった。
「それで、チャラにしてよね」
「なにが?」
「その・・・ビンタしたこと」
千堂は一瞬キョトンとして、それから拳をパンッと打って立ち上がった。
「あれはええビンタやったで。久々に効いたわ」
そして千堂は「見えない角度から来よってどーのこーの」「スナップがどーのこーの」、などとブツブツ言いながら、一人でビンタの様子を再現するように立ち回っていた。
「・・・アンタが男やったらな」
千堂はつまらなそうに吐き捨てて、再度その場に座った。
そして、じーっと奈々を見つめて、「ふん」とそっぽを向いた。
「あの・・・・怒ってないの?」
「何がや?」
千堂の様子からして、彼はただ純粋にビンタの威力に感心しただけであり、彼の興味はケンカ以外には注がれていないのだと奈々は理解した。それにしても、頭のてっぺんからつま先まで、毎日毎日ケンカのことばかり。奈々は不思議に思って、千堂に尋ねた。
「千堂くん・・・・さ」
「何や?」
「どうしてそんなに、ケンカが好きなの?」
すると千堂、頭をガシガシと掻いて
「ケンカやない、どつき合いや」
同じでしょうよ、とツッコミたい気持ちを堪えて、奈々は黙って耳を傾けた。
「強い男とどついて、どつかれて、勝つ。ワイは強いんや、と腹の底から思える瞬間。最高やないか」
拳を握って目の前に差し出し、ニヤリと笑う千堂。奈々は、体がゾクッとするような闘気を感じた。
千堂は「女には分からんやろ」と吐き捨てて、その場にゴロンと横になった。
空がやけに高くて、秋の終わり、そして初冬のにおいがする。
千堂は黙ったまま、目を閉じて昼寝モードに入っているようだ。
もうすぐ5時間目が始まる。
だけど、チャイムを気にするような文化はこの学校には無い。
奈々は弁当を片付け、教室に戻る準備を始めた。
一方で先ほどの千堂のセリフに対する違和感が、頭を支配していて、片付けは一向に進まない。
ワイは強いんや、と思える瞬間・・・だって?
ただの力比べで?
この人は何を言ってるんだろう?
「千堂くん」
「なんやぁ」
めんどくさそうに、目を瞑ったまま千堂が答える。
「強いって何?」
遠くの方で、カラスがカァと鳴いた。
千堂は目をゆっくりと開いて、空に浮かぶ雲を眺めながら、答えた。
「知らん」
この学校で一番強くて、一番恐れられている男なのに、ここで寝ている姿は日向ぼっこ中の猫みたいだ。
奈々はそのギャップに驚いた。
ヤンキーというと皆一様に極悪なイメージを抱きがちだが、千堂に至っては本当にただの「やんちゃ坊主」という言葉がピッタリである。
変わった「番長」だな、と思いながら、奈々は屋上を後にした。
とある昼休み。
むなしいチャイムがなって、その通りに行動するのは先生だけ、という悲しい教室。
今日は千堂は登校しておらず、奈々の横はガランとしている。
ギャアギャアと相変わらずやかましい教室内で、一人で弁当を食べるのも気が紛れない。
奈々は弁当の包みを持って、屋上へと向かった。
屋上にはあちこちにタバコの吸い殻が落ちていたが、今のところ誰もいないらしい。
入り口の横に小さなハシゴがかかっている。
奈々はそこから上へあがり、弁当の包みを開けた。
グラウンドが一望できる。
誰もいない。
どこかの教室から、騒がしい声が聞こえてくる。
でもそれも、遠い。
おにぎりに食らいつきながら、おかずの卵焼きに手を伸ばす。
ああ、平穏な時間だ・・・・そう思いながら、目をふっと閉じたときだった。
「うまそうやな」
背後から声がして、奈々は思わず体を硬直させた。
この声には、聞き覚えがある。
恐る恐る振り返ってみると、そこに居たのは、あの千堂だった。
「・・・食べたい?」
奈々が尋ねると、千堂は顔色ひとつ変えずに、黙って大きく口を開けた。
餌をもらう虎のようだ、と思いながら、奈々はウインナーを放り込む。
「おおきに」
奈々はムシャムシャとウインナーを噛み締める千堂を見て、この高校で一番強い男という評判とは全く別人のような・・・子供のような人だと思った。
ごくんと飲み込んだと思ったら、また物欲しそうな目でじーっとこちらを見ている。
奈々は弁当を隠すようにして、
「・・・・もうあげないよ」
「足りひんねん」
「自分のお弁当は?」
「んなモンあるかい」
千堂は相変わらず、じーっと獲物を狙うかのような目でこちらを見ている。
仕方なく、奈々は2つ持って来たおにぎりのうちのひとつをあげた。
千堂は無言でそれを受け取り、また大きな口を開けて頬張った。
どうやらお腹が空いていたらしい。
2~3口で、あっという間におにぎりを食べてしまった。
「それで、チャラにしてよね」
「なにが?」
「その・・・ビンタしたこと」
千堂は一瞬キョトンとして、それから拳をパンッと打って立ち上がった。
「あれはええビンタやったで。久々に効いたわ」
そして千堂は「見えない角度から来よってどーのこーの」「スナップがどーのこーの」、などとブツブツ言いながら、一人でビンタの様子を再現するように立ち回っていた。
「・・・アンタが男やったらな」
千堂はつまらなそうに吐き捨てて、再度その場に座った。
そして、じーっと奈々を見つめて、「ふん」とそっぽを向いた。
「あの・・・・怒ってないの?」
「何がや?」
千堂の様子からして、彼はただ純粋にビンタの威力に感心しただけであり、彼の興味はケンカ以外には注がれていないのだと奈々は理解した。それにしても、頭のてっぺんからつま先まで、毎日毎日ケンカのことばかり。奈々は不思議に思って、千堂に尋ねた。
「千堂くん・・・・さ」
「何や?」
「どうしてそんなに、ケンカが好きなの?」
すると千堂、頭をガシガシと掻いて
「ケンカやない、どつき合いや」
同じでしょうよ、とツッコミたい気持ちを堪えて、奈々は黙って耳を傾けた。
「強い男とどついて、どつかれて、勝つ。ワイは強いんや、と腹の底から思える瞬間。最高やないか」
拳を握って目の前に差し出し、ニヤリと笑う千堂。奈々は、体がゾクッとするような闘気を感じた。
千堂は「女には分からんやろ」と吐き捨てて、その場にゴロンと横になった。
空がやけに高くて、秋の終わり、そして初冬のにおいがする。
千堂は黙ったまま、目を閉じて昼寝モードに入っているようだ。
もうすぐ5時間目が始まる。
だけど、チャイムを気にするような文化はこの学校には無い。
奈々は弁当を片付け、教室に戻る準備を始めた。
一方で先ほどの千堂のセリフに対する違和感が、頭を支配していて、片付けは一向に進まない。
ワイは強いんや、と思える瞬間・・・だって?
ただの力比べで?
この人は何を言ってるんだろう?
「千堂くん」
「なんやぁ」
めんどくさそうに、目を瞑ったまま千堂が答える。
「強いって何?」
遠くの方で、カラスがカァと鳴いた。
千堂は目をゆっくりと開いて、空に浮かぶ雲を眺めながら、答えた。
「知らん」
この学校で一番強くて、一番恐れられている男なのに、ここで寝ている姿は日向ぼっこ中の猫みたいだ。
奈々はそのギャップに驚いた。
ヤンキーというと皆一様に極悪なイメージを抱きがちだが、千堂に至っては本当にただの「やんちゃ坊主」という言葉がピッタリである。
変わった「番長」だな、と思いながら、奈々は屋上を後にした。