太陽の少年
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
19.訂正
「せ、千堂くん・・・・?」
奈々は、目の前の人物に驚きの色を隠せなかった。ついさっき、試合を見たばかりの人物だからだ。
どうしてこんなところに居るのだろう?と頭に大きなクエスチョンマークが浮かぶとともに、約1年という長い年月を前に、どんな言葉も出てこなかった。
「高杉・・・お前、なんでここにおるんや」
「えっ・・・いや、ちょっと用事が・・・」
まさか千堂の試合を見に来たなどとは言えなかった。
今更、何の目的で?と聞かれると、何も答えられないからだ。
「・・・いや、そ、そんなことはええねん。ちょっと来い!」
千堂は奈々の手首を強引に掴んで、人気の少ない場所まで連れ出した。
懐かしい感触、懐かしい景色の流れ、懐かしい後ろ姿に、奈々は胸がギュッと押しつぶされるような気がした。
ホームの端まで抜けて、千堂はくるりと振り返り、大きく深呼吸した。
「ひ、久しぶりやな」
「・・・・うん」
それから、二人とも言葉に詰まってしまい、寒々しい空気が流れた。
互いに、互いの次の言葉を待つように見つめ合っている。
「あのな」
「あのね」
言葉が重なり、また一瞬の沈黙が流れる。
「・・・なんや?」
「いや、千堂くんこそ・・なに?」
ぎこちない会話が続く。千堂は頭をガシガシと掻きむしって、何やら脳みそフル稼働といった形でウーンと考え込んでいる。
奈々は、ここまで黙っているのも卑怯な気がして、とうとう自分がここにいるワケを話そうとした。
「あの、その・・・し、試合・・・見たの」
「・・・・は?」
奈々の思わぬ一言に、千堂は驚きの声を上げた。
「その・・・千堂くんの試合、今、見て来たの」
「・・・・知っとったんか?」
「こないだ、ポスターを見て知って・・・」
奈々は両拳をギュッと握りしめて、下を向いて固まってしまった。
その後の言葉が続かない。
なんて声をかけたらいいのか分からなかった。
千堂のあまりの変わりようと、あまりの光のまぶしさに。
「見に来てくれたんか」
「う、うん・・・」
すると、下を向いたままの奈々に、すっと千堂の拳が差し出された。
ふと顔を上げると、千堂は鋭い眼光を向けたまま、
「・・・ほな、訂正せぇ」
奈々と目が合うと、千堂は拳を奈々の前にピタリと合わせて、再度呟いた。
「価値がないって言っとったな。訂正せぇ」
千堂がニカッと笑った。
あの、無邪気な子供のような笑顔。
太陽みたいにまぶしくて、暖かいあの笑顔だ。
奈々はたまらず、千堂の胸に飛び込んで、泣いた。
「・・・・訂正する」
「そか」
千堂は奈々の頭をよしよしと撫でて、また笑った。
「あんときは何言うてんねん、って思ったんやけど、よぉやく意味がわかったわ」
千堂が撫でながら続ける。
「今はまだ、相手も弱くてモノ足りんけどな。せやけど・・・街中でどつき合いしてる時と、決定的に違うモンがあるんや」
その言葉に奈々が顔を上げると、千堂は「何やと思う?」と呟いた。
「・・・・わかんない」
奈々は千堂に抱きついた腕を離して、両手で涙を拭いながら尋ねた。
「今のワイの拳はな、好きな女を泣かせる拳やないねん」
そういって千堂はファイティングポーズをとり、拳を2、3前に突き出して、
「ワイのKOを楽しみにしてくれるオッサンとか、ワイがチャンピオンになるのを期待するオッサンとか、ワイのこと一生懸命に面倒みてくれるオッサンがおんねんけどな」
「・・・オッサンばっかりじゃん」
奈々が突っ込むと、千堂はまたカカカッと楽しそうに笑って
「そういうオッサンにな、夢見させたる拳やねん」
と言った。
夜もふけて、駅のライトがまぶしく千堂を照らす。
かつて自分が言った「価値のない拳」の面影は、そこにはなかった。
「まあ、高杉の言った"強いって何?"ってのは、今もわからんけどな」
千堂はファイティングポーズをやめ、再び奈々の方を向いて言った。
「・・・そのうち、わかるよ」
「そか?」
「うん・・・その拳なら、きっとわかるよ」
そう言われて、千堂は少し照れながら頭を掻いた。
奈々は再度千堂に抱きついて、胸に顔を埋めながら尋ねた。
「訂正して」
「・・・な、何をや?」
またも抱きつかれて、少し混乱した千堂がどもりながら聞き返す。
「もう二度と会わないっての、訂正して」
顔を隠したまま、小さな声で言った奈々を、千堂は強く抱きしめて言った。
「当たり前や」
「せ、千堂くん・・・・?」
奈々は、目の前の人物に驚きの色を隠せなかった。ついさっき、試合を見たばかりの人物だからだ。
どうしてこんなところに居るのだろう?と頭に大きなクエスチョンマークが浮かぶとともに、約1年という長い年月を前に、どんな言葉も出てこなかった。
「高杉・・・お前、なんでここにおるんや」
「えっ・・・いや、ちょっと用事が・・・」
まさか千堂の試合を見に来たなどとは言えなかった。
今更、何の目的で?と聞かれると、何も答えられないからだ。
「・・・いや、そ、そんなことはええねん。ちょっと来い!」
千堂は奈々の手首を強引に掴んで、人気の少ない場所まで連れ出した。
懐かしい感触、懐かしい景色の流れ、懐かしい後ろ姿に、奈々は胸がギュッと押しつぶされるような気がした。
ホームの端まで抜けて、千堂はくるりと振り返り、大きく深呼吸した。
「ひ、久しぶりやな」
「・・・・うん」
それから、二人とも言葉に詰まってしまい、寒々しい空気が流れた。
互いに、互いの次の言葉を待つように見つめ合っている。
「あのな」
「あのね」
言葉が重なり、また一瞬の沈黙が流れる。
「・・・なんや?」
「いや、千堂くんこそ・・なに?」
ぎこちない会話が続く。千堂は頭をガシガシと掻きむしって、何やら脳みそフル稼働といった形でウーンと考え込んでいる。
奈々は、ここまで黙っているのも卑怯な気がして、とうとう自分がここにいるワケを話そうとした。
「あの、その・・・し、試合・・・見たの」
「・・・・は?」
奈々の思わぬ一言に、千堂は驚きの声を上げた。
「その・・・千堂くんの試合、今、見て来たの」
「・・・・知っとったんか?」
「こないだ、ポスターを見て知って・・・」
奈々は両拳をギュッと握りしめて、下を向いて固まってしまった。
その後の言葉が続かない。
なんて声をかけたらいいのか分からなかった。
千堂のあまりの変わりようと、あまりの光のまぶしさに。
「見に来てくれたんか」
「う、うん・・・」
すると、下を向いたままの奈々に、すっと千堂の拳が差し出された。
ふと顔を上げると、千堂は鋭い眼光を向けたまま、
「・・・ほな、訂正せぇ」
奈々と目が合うと、千堂は拳を奈々の前にピタリと合わせて、再度呟いた。
「価値がないって言っとったな。訂正せぇ」
千堂がニカッと笑った。
あの、無邪気な子供のような笑顔。
太陽みたいにまぶしくて、暖かいあの笑顔だ。
奈々はたまらず、千堂の胸に飛び込んで、泣いた。
「・・・・訂正する」
「そか」
千堂は奈々の頭をよしよしと撫でて、また笑った。
「あんときは何言うてんねん、って思ったんやけど、よぉやく意味がわかったわ」
千堂が撫でながら続ける。
「今はまだ、相手も弱くてモノ足りんけどな。せやけど・・・街中でどつき合いしてる時と、決定的に違うモンがあるんや」
その言葉に奈々が顔を上げると、千堂は「何やと思う?」と呟いた。
「・・・・わかんない」
奈々は千堂に抱きついた腕を離して、両手で涙を拭いながら尋ねた。
「今のワイの拳はな、好きな女を泣かせる拳やないねん」
そういって千堂はファイティングポーズをとり、拳を2、3前に突き出して、
「ワイのKOを楽しみにしてくれるオッサンとか、ワイがチャンピオンになるのを期待するオッサンとか、ワイのこと一生懸命に面倒みてくれるオッサンがおんねんけどな」
「・・・オッサンばっかりじゃん」
奈々が突っ込むと、千堂はまたカカカッと楽しそうに笑って
「そういうオッサンにな、夢見させたる拳やねん」
と言った。
夜もふけて、駅のライトがまぶしく千堂を照らす。
かつて自分が言った「価値のない拳」の面影は、そこにはなかった。
「まあ、高杉の言った"強いって何?"ってのは、今もわからんけどな」
千堂はファイティングポーズをやめ、再び奈々の方を向いて言った。
「・・・そのうち、わかるよ」
「そか?」
「うん・・・その拳なら、きっとわかるよ」
そう言われて、千堂は少し照れながら頭を掻いた。
奈々は再度千堂に抱きついて、胸に顔を埋めながら尋ねた。
「訂正して」
「・・・な、何をや?」
またも抱きつかれて、少し混乱した千堂がどもりながら聞き返す。
「もう二度と会わないっての、訂正して」
顔を隠したまま、小さな声で言った奈々を、千堂は強く抱きしめて言った。
「当たり前や」