太陽の少年
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18.振り切れ!
「千堂、どないしたんや?」
「つまらん」
派手なKO勝利で勝った割に、千堂は面白くなさそうな顔をしている。
「強い男に会わせたるってゆうたやんか、柳岡はん」
「4回戦で何言うとんねん。これからや、辛抱せぇ」
どうやら、対戦相手に物足りなさを感じているらしい。
控え室にたどり着くやいなや、ふぅと椅子に腰を下ろして、シューズを脱ぐ。
「祝勝会どないする?」
「要らんわ、あんなん祝うまでもない相手やろ」
柳岡は千堂の言葉を聞いて、ぷっと吹き出した。本当に根っからのボクサーだと思った。
「ほな、今日はもうまっすぐ帰り。ダメージも無いやろ」
「そーさせてもらうわ、ほなな」
着替えを終えて、ボストンバッグを肩から下げて、千堂は控え室を後にした。
パタンと閉じた扉の向こうでは、柳岡や会長が千堂に対する期待を楽しそうに話し込んでいた。
帰り道、千堂はふと拳を前に突き出して、それからマジマジと眺めた。
「価値のない拳、か」
奈々に言われた一言を思い出す。
最後に見た、おびえたような表情も。
けれど、今の自分の拳は、以前とは違う。
誰も自分を見て怯えない。
相手の返り血で、拳が赤く染まることもない。
相手をねじ伏せても、警察が駆けつけることもない。
「・・・アカン」
本当はこの拳を、奈々に見てほしいと思っていた。
しかし一度「もう二度と会わない」などと言ってしまったため、連絡することも出来ない。
いや、潔く撤回して電話をかければ済む話ではないのか、と思いつつ・・・
男が一度立てた誓いをそう易々と翻すものではない、と意固地な自分もいたりするのだ。
駅の改札をくぐり、電車を待つ。
時間は18時ごろで、ちょうど帰宅ラッシュにさしかかる。
人ごみが嫌いな千堂は、比較的空いている車両の端に進んだ。
列車が来るのをただ呆っと待っていると、階段付近でふと、見慣れた人物が目に飛び込んで来た。
「高杉・・・・?」
見間違いかと思って、一度大きく目をこする。
それから再度目を凝らしてみると、以前より髪が長く伸びているものの、奈々その人に間違いなかった。
奈々は、千堂からは3~4両ほど離れたところで、歩みを止めて列に並んだ。
千堂は一瞬、躊躇した。
駆け寄って声をかけたい。けれど、二度と会わないなどと口走った手前、行くに行けない。
それに、また自分を見て怯えるのではないか、という不安もあった。
やがて、プァンという音を立てて列車が構内に入って来たのが分かった。
「・・・知るか!」
千堂は人の波を押しのけるように、奈々に向かって走り出した。
何のために離れたんや?
何のためにあきらめたんや?
ここでウジウジ眺めるためやない。
証明したいんや。
伝えたいんや。
「高杉っ!!!」
奈々はヘッドフォンをしていて、千堂の声が聞こえていないようだ。
人波に押されて、そのまま車両に乗り込もうとしている。
「どいてくれっ!!」
千堂は並ぶ人々の間を両手でかき分けて、奈々の手をぐっと引っ張った。
奈々はものすごい力で引き戻されたことに驚いて振り返り、目の前の人物に愕然とした。
「せ、千堂くん・・・・?」
電車はプァンという音を立てて、通り過ぎて行った。
ホームに2人を残して。
「千堂、どないしたんや?」
「つまらん」
派手なKO勝利で勝った割に、千堂は面白くなさそうな顔をしている。
「強い男に会わせたるってゆうたやんか、柳岡はん」
「4回戦で何言うとんねん。これからや、辛抱せぇ」
どうやら、対戦相手に物足りなさを感じているらしい。
控え室にたどり着くやいなや、ふぅと椅子に腰を下ろして、シューズを脱ぐ。
「祝勝会どないする?」
「要らんわ、あんなん祝うまでもない相手やろ」
柳岡は千堂の言葉を聞いて、ぷっと吹き出した。本当に根っからのボクサーだと思った。
「ほな、今日はもうまっすぐ帰り。ダメージも無いやろ」
「そーさせてもらうわ、ほなな」
着替えを終えて、ボストンバッグを肩から下げて、千堂は控え室を後にした。
パタンと閉じた扉の向こうでは、柳岡や会長が千堂に対する期待を楽しそうに話し込んでいた。
帰り道、千堂はふと拳を前に突き出して、それからマジマジと眺めた。
「価値のない拳、か」
奈々に言われた一言を思い出す。
最後に見た、おびえたような表情も。
けれど、今の自分の拳は、以前とは違う。
誰も自分を見て怯えない。
相手の返り血で、拳が赤く染まることもない。
相手をねじ伏せても、警察が駆けつけることもない。
「・・・アカン」
本当はこの拳を、奈々に見てほしいと思っていた。
しかし一度「もう二度と会わない」などと言ってしまったため、連絡することも出来ない。
いや、潔く撤回して電話をかければ済む話ではないのか、と思いつつ・・・
男が一度立てた誓いをそう易々と翻すものではない、と意固地な自分もいたりするのだ。
駅の改札をくぐり、電車を待つ。
時間は18時ごろで、ちょうど帰宅ラッシュにさしかかる。
人ごみが嫌いな千堂は、比較的空いている車両の端に進んだ。
列車が来るのをただ呆っと待っていると、階段付近でふと、見慣れた人物が目に飛び込んで来た。
「高杉・・・・?」
見間違いかと思って、一度大きく目をこする。
それから再度目を凝らしてみると、以前より髪が長く伸びているものの、奈々その人に間違いなかった。
奈々は、千堂からは3~4両ほど離れたところで、歩みを止めて列に並んだ。
千堂は一瞬、躊躇した。
駆け寄って声をかけたい。けれど、二度と会わないなどと口走った手前、行くに行けない。
それに、また自分を見て怯えるのではないか、という不安もあった。
やがて、プァンという音を立てて列車が構内に入って来たのが分かった。
「・・・知るか!」
千堂は人の波を押しのけるように、奈々に向かって走り出した。
何のために離れたんや?
何のためにあきらめたんや?
ここでウジウジ眺めるためやない。
証明したいんや。
伝えたいんや。
「高杉っ!!!」
奈々はヘッドフォンをしていて、千堂の声が聞こえていないようだ。
人波に押されて、そのまま車両に乗り込もうとしている。
「どいてくれっ!!」
千堂は並ぶ人々の間を両手でかき分けて、奈々の手をぐっと引っ張った。
奈々はものすごい力で引き戻されたことに驚いて振り返り、目の前の人物に愕然とした。
「せ、千堂くん・・・・?」
電車はプァンという音を立てて、通り過ぎて行った。
ホームに2人を残して。