太陽の少年
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15.記憶の残骸
街を歩けば、誰かが喧嘩を売ってくる。
それに答えるように拳を打ち付ける。
一発ごとに味わう快感。
相手が倒れてひれ伏したときの、空の高さ。
好きなどつき合いをしているのに、どうしてこうも心が晴れないのだろうと、千堂は腹の中に潜む不快感を拳で発散させるかのように、ひたすら相手を殴った。
******
「お前か、千堂ってのは」
呼び止められて振り返ると、ジャージ姿の男が数人、自分を取り囲んでいるのが分かった。
「なんや」
「生意気なガキやな。お前が先日ボコッたんはウチの練習生や」
「それがどないしてん」
「ボクサーナメとったら怪我すんで」
男たちが拳を構え、今にも千堂に殴り掛かりそうな姿勢を見せた。
「ナメとんのはどっちか、思い知らせたるわ」
今までかかってきた不良よりは少し腕が立つ、と思いつつ。
どれもこれも千堂の相手には物足りないレベルだった。
どつき、どつかれ、何度も強いパンチを交換し合う。
それが自分の至福のときであるはずなのに、物足りない。
「価値のない拳」
奈々の言葉が頭をぐるぐる回り、無意識に拳に力が入る。
すでに相手は自分の足で立てないほど弱っていたが、無理矢理立ち上がらせるように下から拳を打ち抜く。
退屈や。
強いってなんや?
好きなどつき合いして、なんでこないな気持ちにさせられるんや?
ワイは自分の強さを知りたい。
この拳に何の価値があるのか、知りたいんや。
全員が跪き、うめき声しか発せられなくなった頃。
バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきたのが分かった。
眼鏡をかけた、監督者らしき男が唖然とこちらを見ている。
「なんやワレ、見せモンちゃうぞ」
それが、すべての始まりだった。
「高杉さんって、あのバカ高に居たん!?」
転校初日に話しかけられた言葉。
バカ高、たしかにその通りだし、自分もかつてそんな風に呼んでいたけれど、改めて他人から言われると、なんだか腹が立つ。
「あー、"市立北"ね」
「府立と間違ったんやろ?めっちゃウケんなぁ」
「アホすぎて退屈やったろ。よかったなぁウチに転校できて」
明らかにバカにした感じの話し方に、奈々はカチンときた。
バン!と机を大げさに叩き、にっこり笑って
「私の母校、バカにしてんの?」
そういうと、バカ高から来た転校生を物珍しがるギャラリーは一斉に引いた。
2ヶ月のヤンキー生活を経て、改めて優等生生活に身を投じてみると、こちらもこちらで、案外つまらないものだと思った。
ヤンキーは確かに頭は悪いかもしれないが、毎日ギラギラしていて、ある意味で活気があった。一方で優等生は、毎日大人しく、授業も真面目に聞いてはいるが、覇気がない。
静か過ぎる授業、決まりきった時間に始まって、決まりきった時間に終わる学校。綺麗に整備されたグラウンド。
正直、物足りない気さえした。
ふと、千堂を思い出す。
「もう二度と会わん」
そういって去って行った後ろ姿が忘れられない。
「猫、好きか?」
そういって笑った無邪気な笑顔が忘れられない。
「泣け」
そういって抱きしめてくれた胸を忘れられない。
奈々は机に伏して、大きなため息をついた。
自分の気持ちはとうに分かっていた。
一方で・・・
「殺したるわ」
そういって血まみれの拳を振るう姿も忘れられない。
彼は今、何をしているんだろう。
相変わらず、ケンカばかりしてるんだろうか。
学校からの帰り道。
ふと、前の学校の制服を見かけて、思わず目をやる。
そこに千堂の姿は無かった。
あんなに目立つ人なのに、あれからいつでも、どこを見渡しても、彼の姿はなかった。
街を歩けば、誰かが喧嘩を売ってくる。
それに答えるように拳を打ち付ける。
一発ごとに味わう快感。
相手が倒れてひれ伏したときの、空の高さ。
好きなどつき合いをしているのに、どうしてこうも心が晴れないのだろうと、千堂は腹の中に潜む不快感を拳で発散させるかのように、ひたすら相手を殴った。
******
「お前か、千堂ってのは」
呼び止められて振り返ると、ジャージ姿の男が数人、自分を取り囲んでいるのが分かった。
「なんや」
「生意気なガキやな。お前が先日ボコッたんはウチの練習生や」
「それがどないしてん」
「ボクサーナメとったら怪我すんで」
男たちが拳を構え、今にも千堂に殴り掛かりそうな姿勢を見せた。
「ナメとんのはどっちか、思い知らせたるわ」
今までかかってきた不良よりは少し腕が立つ、と思いつつ。
どれもこれも千堂の相手には物足りないレベルだった。
どつき、どつかれ、何度も強いパンチを交換し合う。
それが自分の至福のときであるはずなのに、物足りない。
「価値のない拳」
奈々の言葉が頭をぐるぐる回り、無意識に拳に力が入る。
すでに相手は自分の足で立てないほど弱っていたが、無理矢理立ち上がらせるように下から拳を打ち抜く。
退屈や。
強いってなんや?
好きなどつき合いして、なんでこないな気持ちにさせられるんや?
ワイは自分の強さを知りたい。
この拳に何の価値があるのか、知りたいんや。
全員が跪き、うめき声しか発せられなくなった頃。
バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきたのが分かった。
眼鏡をかけた、監督者らしき男が唖然とこちらを見ている。
「なんやワレ、見せモンちゃうぞ」
それが、すべての始まりだった。
「高杉さんって、あのバカ高に居たん!?」
転校初日に話しかけられた言葉。
バカ高、たしかにその通りだし、自分もかつてそんな風に呼んでいたけれど、改めて他人から言われると、なんだか腹が立つ。
「あー、"市立北"ね」
「府立と間違ったんやろ?めっちゃウケんなぁ」
「アホすぎて退屈やったろ。よかったなぁウチに転校できて」
明らかにバカにした感じの話し方に、奈々はカチンときた。
バン!と机を大げさに叩き、にっこり笑って
「私の母校、バカにしてんの?」
そういうと、バカ高から来た転校生を物珍しがるギャラリーは一斉に引いた。
2ヶ月のヤンキー生活を経て、改めて優等生生活に身を投じてみると、こちらもこちらで、案外つまらないものだと思った。
ヤンキーは確かに頭は悪いかもしれないが、毎日ギラギラしていて、ある意味で活気があった。一方で優等生は、毎日大人しく、授業も真面目に聞いてはいるが、覇気がない。
静か過ぎる授業、決まりきった時間に始まって、決まりきった時間に終わる学校。綺麗に整備されたグラウンド。
正直、物足りない気さえした。
ふと、千堂を思い出す。
「もう二度と会わん」
そういって去って行った後ろ姿が忘れられない。
「猫、好きか?」
そういって笑った無邪気な笑顔が忘れられない。
「泣け」
そういって抱きしめてくれた胸を忘れられない。
奈々は机に伏して、大きなため息をついた。
自分の気持ちはとうに分かっていた。
一方で・・・
「殺したるわ」
そういって血まみれの拳を振るう姿も忘れられない。
彼は今、何をしているんだろう。
相変わらず、ケンカばかりしてるんだろうか。
学校からの帰り道。
ふと、前の学校の制服を見かけて、思わず目をやる。
そこに千堂の姿は無かった。
あんなに目立つ人なのに、あれからいつでも、どこを見渡しても、彼の姿はなかった。