太陽の少年
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12.萌芽
「ただいま」
約1週間ぶりに開ける自宅の扉。
明かりは既についていて、靴を見ると弟も父親も帰って来ているようだった。
「・・・奈々!?」
「ねーちゃん!!」
なにやらガチャガチャと騒がしい台所から、エプロンをつけた父親と弟が駆け寄って来た。
「二人とも、なにしてるの?」
「何って、夕飯作ってたんだけど・・・」
「何回やっても、ねーちゃんの味になんないよ!困ってたんだから!早く来てよ!」
あのだらしない父親と弟が、二人そろって夕食の準備をしているなんて。
ふとリビングを見渡すと、それなりに奇麗に片付いているのが目に入った。
くるりと玄関の方に目をやると、千堂は小さな笑みを浮かべていた。
「良かったな、高杉。ほなな」
千堂はそういって、扉を開けて出て行った。
その後、父親と弟が作った夕飯を囲みながら、奈々はこれまでのことを説明した。
父親は正直、大阪のヤンキーと大切な一人娘が恋人同士ということにショックを受けていたそうだ。それも勘違いだということがわかり、目を細めておいしそうに箸を進めている。
「奈々、ごめんな・・・。今までずっとお前に負担かけてた」
父親がぼそりと言う。すると弟も、袖を引っ張りながら無邪気に
「ねーちゃん、今度料理教えてよ!ボク、結構料理好きかも!」
奈々は思わず泣くかと思った。
久しぶりの団らんに、奈々は千堂の顔を思い浮かべながら、何度も何度も感謝した。
「高杉、書類整ったで」
担任に呼ばれて職員室に入ると、すぐに大きな封筒を手渡された。
「前の学校での成績が良かったから、試験は要らんと。ラッキーやな」
「・・・もう、学校名を間違ったりしてませんよね?」
「アホォ、俺を信じろ!」
転校に必要な手続きが終了し、次の3学期から、奈々は別の高校に通うことが決定した。
封筒を手に持って廊下を歩くと、どこもかしこも気合いの入った制服のヤンキーが、座ったり立ったりタバコを吸ったりしてたむろしているのが見える。
この光景も、あと2週間ほどで終わりだと思うと、ずいぶんと嬉しい気持ちがこみ上げて来た。
「なんや、高杉。エラい嬉しそうやの」
教室で声をかけられ思わず振り向くと、そこに居たのは千堂だった。
今は4時間目の直前。千堂にしては、今日は割と早く来たなと奈々は思った。
「うん、転校の手続きが終わってね」
「・・・転校?」
「そう、来学期から、別の高校に通うの」
そういえば前にもそんなことを言っていた気がする、と千堂は思った。
そうして、しばらく奈々をじいっと観察するように眺めていると、奈々があまりにも嬉しそうにしていることに、なんとなく腹が立った。
「ほなら、もうすぐお別れか」
「そうね」
「お別れすんのが、そないに嬉しいんか」
千堂の吐き捨てるような口調に、奈々はそれまでの陽気が吹っ飛んだ。
一瞬のことに固まる奈々に冷たい目線を送って、千堂は通り過ぎざまに言った。
「アホちゃう」
この学校を離れることには、確かになんの感慨も無い。
毎日怒号が飛び交って、勉強もロクにできないで、友達もできず、ただただ時間が過ぎるのを待っていたような所だ。
でも・・・
この学校を離れるということは、千堂武士という男と離れるということでもある。
千堂のせいで拉致されたり、千堂のせいで姐御なんていう変なあだ名をつけられたり、千堂のせいで追試勉強に付き合わされたり、散々なことばかりだったけれど・・・
考えてみれば、一生のうちで絶対に経験できないようなことを、経験できた。
なんだかんだで、彼のおかげで学校生活を楽しく、快適に過ごせたのかもしれない。
それに、彼のおかげで家族がひとつになったのもある。
彼の家で過ごした一週間も、また楽しかった。
この学校を去っても、彼にだけはまた会いたい。
そんな気持ちが、自然と沸いてきた。
「アホちゃう」
千堂が通り過ぎ様に言った言葉。
ひょっとしたら千堂も同じように思ってくれているのだろうか、と奈々は考えて・・・
二人の間に密かに芽生えようとしている芽を摘むように、頭を振った。
「ただいま」
約1週間ぶりに開ける自宅の扉。
明かりは既についていて、靴を見ると弟も父親も帰って来ているようだった。
「・・・奈々!?」
「ねーちゃん!!」
なにやらガチャガチャと騒がしい台所から、エプロンをつけた父親と弟が駆け寄って来た。
「二人とも、なにしてるの?」
「何って、夕飯作ってたんだけど・・・」
「何回やっても、ねーちゃんの味になんないよ!困ってたんだから!早く来てよ!」
あのだらしない父親と弟が、二人そろって夕食の準備をしているなんて。
ふとリビングを見渡すと、それなりに奇麗に片付いているのが目に入った。
くるりと玄関の方に目をやると、千堂は小さな笑みを浮かべていた。
「良かったな、高杉。ほなな」
千堂はそういって、扉を開けて出て行った。
その後、父親と弟が作った夕飯を囲みながら、奈々はこれまでのことを説明した。
父親は正直、大阪のヤンキーと大切な一人娘が恋人同士ということにショックを受けていたそうだ。それも勘違いだということがわかり、目を細めておいしそうに箸を進めている。
「奈々、ごめんな・・・。今までずっとお前に負担かけてた」
父親がぼそりと言う。すると弟も、袖を引っ張りながら無邪気に
「ねーちゃん、今度料理教えてよ!ボク、結構料理好きかも!」
奈々は思わず泣くかと思った。
久しぶりの団らんに、奈々は千堂の顔を思い浮かべながら、何度も何度も感謝した。
「高杉、書類整ったで」
担任に呼ばれて職員室に入ると、すぐに大きな封筒を手渡された。
「前の学校での成績が良かったから、試験は要らんと。ラッキーやな」
「・・・もう、学校名を間違ったりしてませんよね?」
「アホォ、俺を信じろ!」
転校に必要な手続きが終了し、次の3学期から、奈々は別の高校に通うことが決定した。
封筒を手に持って廊下を歩くと、どこもかしこも気合いの入った制服のヤンキーが、座ったり立ったりタバコを吸ったりしてたむろしているのが見える。
この光景も、あと2週間ほどで終わりだと思うと、ずいぶんと嬉しい気持ちがこみ上げて来た。
「なんや、高杉。エラい嬉しそうやの」
教室で声をかけられ思わず振り向くと、そこに居たのは千堂だった。
今は4時間目の直前。千堂にしては、今日は割と早く来たなと奈々は思った。
「うん、転校の手続きが終わってね」
「・・・転校?」
「そう、来学期から、別の高校に通うの」
そういえば前にもそんなことを言っていた気がする、と千堂は思った。
そうして、しばらく奈々をじいっと観察するように眺めていると、奈々があまりにも嬉しそうにしていることに、なんとなく腹が立った。
「ほなら、もうすぐお別れか」
「そうね」
「お別れすんのが、そないに嬉しいんか」
千堂の吐き捨てるような口調に、奈々はそれまでの陽気が吹っ飛んだ。
一瞬のことに固まる奈々に冷たい目線を送って、千堂は通り過ぎざまに言った。
「アホちゃう」
この学校を離れることには、確かになんの感慨も無い。
毎日怒号が飛び交って、勉強もロクにできないで、友達もできず、ただただ時間が過ぎるのを待っていたような所だ。
でも・・・
この学校を離れるということは、千堂武士という男と離れるということでもある。
千堂のせいで拉致されたり、千堂のせいで姐御なんていう変なあだ名をつけられたり、千堂のせいで追試勉強に付き合わされたり、散々なことばかりだったけれど・・・
考えてみれば、一生のうちで絶対に経験できないようなことを、経験できた。
なんだかんだで、彼のおかげで学校生活を楽しく、快適に過ごせたのかもしれない。
それに、彼のおかげで家族がひとつになったのもある。
彼の家で過ごした一週間も、また楽しかった。
この学校を去っても、彼にだけはまた会いたい。
そんな気持ちが、自然と沸いてきた。
「アホちゃう」
千堂が通り過ぎ様に言った言葉。
ひょっとしたら千堂も同じように思ってくれているのだろうか、と奈々は考えて・・・
二人の間に密かに芽生えようとしている芽を摘むように、頭を振った。