太陽の少年
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11.嫁?
「あがったか」
「う、うん」
奈々はタオルで頭を乾かしながら、千堂に借りたジャージとTシャツに身を包んで風呂場から出て来たところを、千堂に呼び止められた。
「ほなら、ワイも風呂入るさかい。先寝ててええで」
「ね、寝るって・・・ど、どこで!?」
この人は本気で自分を泊める気なんだ、と奈々は改めて思い、少し身体を緊張させた。
すると千堂は一瞬びっくりしたような顔をして、それから吹き出すように笑い、
「客間や、客間。すぐそこや。それとも何か?ワイと一緒がええか?」
カカカッと笑って、手を振りながら風呂場へ消えて行く千堂の後ろ姿を、奈々は面白くなさそうに見つめることしか出来なかった。
茶の間のふすまを開けた奥が、すぐ客間のようだ。お客様用、という感じの奇麗な布団が敷いてあった。電気を消して、布団に潜り込む。
明日は土曜日で、学校は無い。
とりあえず一晩寝て、明日の昼ごろには自宅に帰ろうと思いながら、奈々は泣いた疲れもあってすぐに眠りに落ちてしまった。
*****
「どこ行くねん」
ダラリと伸びきったスウェット姿の千堂が、すっかり制服に着替えた奈々を見て、牽制するように呟いた。
「い、家に・・・」
「アカン」
千堂がサンダルを履いて追いかけて来、奈々の行く手を阻むように立ちふさがった。
「昨日の今日で何が変わんねん」
「でも、私、着替えも何も持って来てないし・・・」
「ほなら、ワイもついてったる」
そしてまたガチャンと乱暴に自転車を取り、奈々に後ろに乗るように促した。
奈々は諦め半分で乗り込み、大きなため息をついた。
「た、ただいま」
奈々の家に着くと、父親と弟はそろって家に居た。
台所にはカップラーメンを食べた形跡があり、食器はそのままになっている。
部屋の中も、脱いだ洋服があちこちに散らばっており、見るも無惨な状態だ。
「ねーちゃん!」
「奈々、どこ行ってたんだ」
奈々が姿を現すと、父親と弟が駆け寄ってきて、あれやこれやを問いただそうとした。
その間を千堂がぐいっと割り込んで、
「ねーちゃんはもう、ワイの家に住むことになってん」
「な、なんだね君は」
「クラスメイトっちゅーやつや」
うろたえる父親と弟を見て、奈々は同情心に駆られたものの、千堂がギロリと睨むので何も言えない。黙って自分の部屋に行き、必要なものを旅行鞄に詰め込んで、また千堂のもとへ戻った。
「き、君は奈々の恋人か何かかね」
父親がどもりながら質問すると、千堂は凄んだ態度で
「そうや」
と答えた。
奈々はとっさに「違う!」と言い返しそうになったものの、再度千堂の目配せにより、ただ黙って背中に隠れるしかなかった。
「アンタの娘はワイのところに嫁にくるから、もうここには戻らん。ほなな」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!奈々、なんとか言ったらどうなんだ!奈々!」
「ねーちゃん!」
本当は何度も振り向いて、弁解したかったが、出来なかった。
自分が1日いないだけで、台所や部屋はこの有様。
父親や弟が自分にたっぷりと依存しているというのは、確かに千堂の言う通りだと思ったからだ。
バタン、と冷たい音を立てて玄関のドアが閉まった。
再び自転車の後ろに乗る。
帰りは二人とも、ただただ無言だった。
「千堂くん、早く起きないと遅刻するよ?」
千堂が目を覚ますと、既に制服に着替えた奈々が自分を揺り起こしているのが目に入った。
眠たい目をこすりながら1階に降りると、すでに朝食が用意されていて、ちゃぶ台の上には2人分の弁当まで置いてある。
「ワイは後から行くさかい、先行きや」
「ダメです」
きちんとした時間に学校に行くなんて、もう何年もしていない。
朝のニュース番組を見るのも、ずいぶんと久々な気がした。
千堂の祖母はいつになく嬉しそうな顔をして「ええ嫁もろたなぁ」と勘違いも甚だしいセリフを吐いている。
「ほなバァちゃん、いってくるわぁ」
朝のHRに千堂がいることに、担任もクラスメイトもやや驚きの表情を浮かべていた。
千堂の取り巻きもさすがに、こんな朝っぱらから学校には来ていないようだ。
奈々との間には、いつもの壁はなく、とても見晴らしがいい。
「追試は今週末やからな。該当してるモンは頑張りや」
担任はそう言ってチラリと千堂を見て、HRをしめた。
しかし、しめたのかしまったのか分からないくらい、相変わらず教室は騒がしい。
「高杉」
担任は手招きして奈々を呼んだ。奈々が駆けつけると、こそっと耳打ちして
「お前、家から連絡あったで。帰ってないそうやな。どないした?」
奈々はふと父親の顔を思い浮かべた。まぁ保護者としては当然の連絡か、と思いながら、どう説明したらいいのか分からず、うーんと言葉を選んだ後
「今、千堂くんちにいます」
「・・・せ、千堂!?」
「追試の合宿みたいなもんです。やましいことはありませんので、大丈夫です」
早口でそうまくしたて、奈々は担任の元を去った。
担任は驚いた表情を浮かべたものの、千堂と奈々の間に何かがあるわけではないだろう、という信頼のもと、頭をポリポリと掻いて小さなため息をつき、ふっと笑って教室を出て行った。
もちろん奈々も、この担任はある程度信頼できそうだという確信の元に告げたわけで、その様子をみて少しホッとしたのは事実。
そうして、千堂の家で過ごすこと約1週間。特訓のおかげで、千堂は無事に追試を終えた。
解答を丸暗記するだけのことだ、何も難しいことではないのだが、千堂にしては久々に頭を使ったのもあって、非常に気づかれしていた。
それにここ1週間ほど、ケンカもしていない。
前のように「退屈だ」と思うことはないにしろ、やはり物足りなさがつきまとう。
ゴロン、と畳の上を転がりながら、飼い猫のトラと戯れていると、大きな旅行鞄を持った奈々が襖から出てくるのが目に入った。
「何してるんや?」
「そろそろ帰るよ。試験も終わったし」
「・・・・そか」
千堂はトラを抱きかかえながら起き上がり、それからすっくと立ち上がって
「送ってったる」
と言った。
「あがったか」
「う、うん」
奈々はタオルで頭を乾かしながら、千堂に借りたジャージとTシャツに身を包んで風呂場から出て来たところを、千堂に呼び止められた。
「ほなら、ワイも風呂入るさかい。先寝ててええで」
「ね、寝るって・・・ど、どこで!?」
この人は本気で自分を泊める気なんだ、と奈々は改めて思い、少し身体を緊張させた。
すると千堂は一瞬びっくりしたような顔をして、それから吹き出すように笑い、
「客間や、客間。すぐそこや。それとも何か?ワイと一緒がええか?」
カカカッと笑って、手を振りながら風呂場へ消えて行く千堂の後ろ姿を、奈々は面白くなさそうに見つめることしか出来なかった。
茶の間のふすまを開けた奥が、すぐ客間のようだ。お客様用、という感じの奇麗な布団が敷いてあった。電気を消して、布団に潜り込む。
明日は土曜日で、学校は無い。
とりあえず一晩寝て、明日の昼ごろには自宅に帰ろうと思いながら、奈々は泣いた疲れもあってすぐに眠りに落ちてしまった。
*****
「どこ行くねん」
ダラリと伸びきったスウェット姿の千堂が、すっかり制服に着替えた奈々を見て、牽制するように呟いた。
「い、家に・・・」
「アカン」
千堂がサンダルを履いて追いかけて来、奈々の行く手を阻むように立ちふさがった。
「昨日の今日で何が変わんねん」
「でも、私、着替えも何も持って来てないし・・・」
「ほなら、ワイもついてったる」
そしてまたガチャンと乱暴に自転車を取り、奈々に後ろに乗るように促した。
奈々は諦め半分で乗り込み、大きなため息をついた。
「た、ただいま」
奈々の家に着くと、父親と弟はそろって家に居た。
台所にはカップラーメンを食べた形跡があり、食器はそのままになっている。
部屋の中も、脱いだ洋服があちこちに散らばっており、見るも無惨な状態だ。
「ねーちゃん!」
「奈々、どこ行ってたんだ」
奈々が姿を現すと、父親と弟が駆け寄ってきて、あれやこれやを問いただそうとした。
その間を千堂がぐいっと割り込んで、
「ねーちゃんはもう、ワイの家に住むことになってん」
「な、なんだね君は」
「クラスメイトっちゅーやつや」
うろたえる父親と弟を見て、奈々は同情心に駆られたものの、千堂がギロリと睨むので何も言えない。黙って自分の部屋に行き、必要なものを旅行鞄に詰め込んで、また千堂のもとへ戻った。
「き、君は奈々の恋人か何かかね」
父親がどもりながら質問すると、千堂は凄んだ態度で
「そうや」
と答えた。
奈々はとっさに「違う!」と言い返しそうになったものの、再度千堂の目配せにより、ただ黙って背中に隠れるしかなかった。
「アンタの娘はワイのところに嫁にくるから、もうここには戻らん。ほなな」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!奈々、なんとか言ったらどうなんだ!奈々!」
「ねーちゃん!」
本当は何度も振り向いて、弁解したかったが、出来なかった。
自分が1日いないだけで、台所や部屋はこの有様。
父親や弟が自分にたっぷりと依存しているというのは、確かに千堂の言う通りだと思ったからだ。
バタン、と冷たい音を立てて玄関のドアが閉まった。
再び自転車の後ろに乗る。
帰りは二人とも、ただただ無言だった。
「千堂くん、早く起きないと遅刻するよ?」
千堂が目を覚ますと、既に制服に着替えた奈々が自分を揺り起こしているのが目に入った。
眠たい目をこすりながら1階に降りると、すでに朝食が用意されていて、ちゃぶ台の上には2人分の弁当まで置いてある。
「ワイは後から行くさかい、先行きや」
「ダメです」
きちんとした時間に学校に行くなんて、もう何年もしていない。
朝のニュース番組を見るのも、ずいぶんと久々な気がした。
千堂の祖母はいつになく嬉しそうな顔をして「ええ嫁もろたなぁ」と勘違いも甚だしいセリフを吐いている。
「ほなバァちゃん、いってくるわぁ」
朝のHRに千堂がいることに、担任もクラスメイトもやや驚きの表情を浮かべていた。
千堂の取り巻きもさすがに、こんな朝っぱらから学校には来ていないようだ。
奈々との間には、いつもの壁はなく、とても見晴らしがいい。
「追試は今週末やからな。該当してるモンは頑張りや」
担任はそう言ってチラリと千堂を見て、HRをしめた。
しかし、しめたのかしまったのか分からないくらい、相変わらず教室は騒がしい。
「高杉」
担任は手招きして奈々を呼んだ。奈々が駆けつけると、こそっと耳打ちして
「お前、家から連絡あったで。帰ってないそうやな。どないした?」
奈々はふと父親の顔を思い浮かべた。まぁ保護者としては当然の連絡か、と思いながら、どう説明したらいいのか分からず、うーんと言葉を選んだ後
「今、千堂くんちにいます」
「・・・せ、千堂!?」
「追試の合宿みたいなもんです。やましいことはありませんので、大丈夫です」
早口でそうまくしたて、奈々は担任の元を去った。
担任は驚いた表情を浮かべたものの、千堂と奈々の間に何かがあるわけではないだろう、という信頼のもと、頭をポリポリと掻いて小さなため息をつき、ふっと笑って教室を出て行った。
もちろん奈々も、この担任はある程度信頼できそうだという確信の元に告げたわけで、その様子をみて少しホッとしたのは事実。
そうして、千堂の家で過ごすこと約1週間。特訓のおかげで、千堂は無事に追試を終えた。
解答を丸暗記するだけのことだ、何も難しいことではないのだが、千堂にしては久々に頭を使ったのもあって、非常に気づかれしていた。
それにここ1週間ほど、ケンカもしていない。
前のように「退屈だ」と思うことはないにしろ、やはり物足りなさがつきまとう。
ゴロン、と畳の上を転がりながら、飼い猫のトラと戯れていると、大きな旅行鞄を持った奈々が襖から出てくるのが目に入った。
「何してるんや?」
「そろそろ帰るよ。試験も終わったし」
「・・・・そか」
千堂はトラを抱きかかえながら起き上がり、それからすっくと立ち上がって
「送ってったる」
と言った。