太陽の少年
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1.最悪の学校
奈々は教室の隅で、視界を遮るように顔を伏せて寝ていた。
周りからはギャアギャアと騒がしい話し声。突然始まるケンカと、机やイスの倒れる音。
それとは対照的に、全く聞こえない先生の声。
寒々しいチャイムの音が鳴ったけれど、授業と休み時間の区別など無い。
吹けば倒れそうなくらいの、気の弱そうな先生がすごすごと帰っていく。
「あのクソ親父・・・・・」
奈々はぼそりと呟いて、ぼーっと眺めるようにグラウンドを見た。
すると突然複数のバイクが現れ、さらに木刀などの武器を持った連中がなだれ込んできた。
巣に群がるアリのように、小さな黒い影が広いグラウンドに点々と散らばってゆく。
「ゴラァア!千堂出てこいやぁあ!リベンジや!」
「西高コケにしくさってからに~!許さへんぞ!」
どこの極道ですか?これは日本映画専門チャンネルですか?というようなセリフ。
最初は酷く驚いたけれど、こうも毎日聞いているとBGMか何かのようにすら感じられてくるから、人間の適応能力とは不思議なものだ。
「西高程度に千堂さん出すまでもないわぁ!」
「なんやワレェ!いてまうぞボケが!」
下界で始まった乱闘騒ぎに、奈々は冷ややかな目線を送って溜息をついた。
「また始まったよ、バカ高祭が」
奈々の独り言は、騒がしい教室の中に静かに消えた。
奈々がなんで、"大阪一のバカ高校"に居るのか、というと・・・。
奈々は母親を早くに亡くしており、父と弟との3人暮らしだった。
父親の大阪転勤が決まり、当然単身赴任をさせることもできない。
そんなわけで、大阪に引っ越すことを余儀なくされたのだが・・・。
しかし、時期は高校2年の秋である。さすがに進路のことも考えなくてはならない。
奈々は転校先をどこにするか考え、同じくらいの学力レベルである≪大阪府立北高校≫の編入試験をすることにした。
大阪には今まで一度も行ったことが無く、よく分からない。
そこでしばしば出張に出かける父親に全てを託していたわけだが・・・学校側からの回答は「編入試験は要りません」。
奈々はラッキー!と思って、何も考えずに大阪へ来た。
そして、制服を受け取りに初めて高校を訪れた日。
奈々は門をくぐって初めて、なにか様子がおかしいことに気づいた。
転入先は、そこそこの進学校だったはず。
なのに、目に入るのは、一昔前の着こなしをしたヤンキー達ばかりだったのだ。
そこで驚愕の事実が判明する。
父親は間違えて大阪一のバカ高校≪大阪市立北高校≫に編入届を出していたのだった。
≪大阪府立北高校≫と≪大阪市立北高校≫。
偏差値にすれば軽々と40は違うだろう2校。
「道理で、編入試験がないハズだよ!!!」
奈々はこのことを思い出すだけで、腹が立って仕方が無くなる。
なのに父親に問い詰めると「とりあえず2年の終わりまで通えばいいじゃない」と呑気な返事。
こんな学校、通ったほうがバカになると思いながらも、優等生生活の染みついた奈々に「欠席」の二文字は無い。
嫌々ながらも通学して、今日で2週間が経った。
「はぁ」
相変わらず冷ややかな目でグラウンドを眺めていると、誰かに横から机を蹴られた。
その衝撃に驚いて振り返ると、長いスカートを引きずるように履いている女生徒複数人が立っている。
「アンタ、こないだ転校してきた東京モンやろ?」
「何ひとの彼氏ジロジロ見てんねん」
「済ました顔しおってからに、前から気に食わんかってんや」
「ちょい、ツラ貸しな」
引っ張られるように屋上へ連れていかれる。
そしてドン、と突き飛ばすように肩を押され、奈々はよろけた。
「ホンマにその目、生意気やな。腹立つわぁ」
「きっちりシメたるからの」
2週間前なら、怖くて足が震えたかもしれない。だがもう2週間もこんなところにいる。
多少のヤンキーには、何も動じなくなっていた。
「・・・っていうか、私とあなたに何の関係があるのよ?」
「なんやとコラァ!」
奈々の言葉に、いかにもレディースといった感じのヤンキーが、拳を振り上げながら一歩前へ出てくる。
しかし奈々も、そうとうストレスが溜まっていた。負けじと言い返して睨み付ける。
「初対面の人間を大勢で取り囲んで、卑怯にも程があるんじゃない?大阪のヤンキーってのはずいぶん情けないのね」
「このブタ、ホンマにナメとったら血ィみんぞ!!」
パシッと乾いた音がして、奈々は頬にジンジンと痛みを感じた。
その一撃が合図となったのか、4~5人が続けざまに手なり足なりを出してくる。
奈々に格闘技経験などない、ましてや喧嘩の経験すらも。
取り囲まれてのリンチに近い制裁に、為す術なく膝をつきそうになった時のこと。
「やめとけや」
上の方から、不機嫌な声が落ちてきた。
ここは屋上である、上は空しかない。
どこから、誰が?と思っている間に、女ヤンキー共はさっとその身を引いていた。
まるで、何かに怯えるように。
高いところから降りたような、着地音がした。
スタスタと近づいてくる影が、女ヤンキー共の間を抜けて自分に落ちてくる。
「せ、千堂くん・・・」
「なんで止めるんや!?」
「コイツが要らんこと言うから・・・」
「じゃかあしいわっ!」
スッと差し出された分厚い手。
奈々はふと顔を上げたが、太陽が眩しくてよく見えない。
とりあえず、差し出されるままに手を取って、立ち上がる。
相手は・・・わりと小柄な、猫のような目をした男だった。
「お前ら、リンチはアカンやろ」
「せ、せやけど・・・生意気やねんコイツ」
どうやらこの男は、女ヤンキーに一目置かれている存在のようだ。
奈々は身を隠すように、男の背後に回る。
するとこの男、奈々の肩にガッと手を置き、なにやら気合いの入った表情で
「やるんならタイマンで、キッチリどつき合わんと!」
な、なんですと・・・!?
助けに来たんじゃないのかいっ!?
奈々は吉本新喜劇並みにすっころびそうなほど驚いたが、男のまなざしは真剣だ。
ここの高校の人たちは、喧嘩にしか興味がないのか、と。
この風景を見て、助けるどころか、タイマンを推奨しだすなんて。
奈々はやり場のない怒りを無意識のうちに拳に集中させていたらしい。
「ほな、始めよか。ワイが見ててやるさかい」
などと言いだした男に対し、その平手を思いっきりブチかましていた。
「やるわけないでしょーがぁあああ!!」
学校中に響きそうな声と、バチーーーンという打撃音。
その場に居た全員が、時間を止められたかのように固まった。
特に男は、何が起きたか分からないというような顔だ。
奈々はヒリヒリする手のひらを握り、鈍痛の走る身体を引きずるように、屋上を後にした。
奈々は教室の隅で、視界を遮るように顔を伏せて寝ていた。
周りからはギャアギャアと騒がしい話し声。突然始まるケンカと、机やイスの倒れる音。
それとは対照的に、全く聞こえない先生の声。
寒々しいチャイムの音が鳴ったけれど、授業と休み時間の区別など無い。
吹けば倒れそうなくらいの、気の弱そうな先生がすごすごと帰っていく。
「あのクソ親父・・・・・」
奈々はぼそりと呟いて、ぼーっと眺めるようにグラウンドを見た。
すると突然複数のバイクが現れ、さらに木刀などの武器を持った連中がなだれ込んできた。
巣に群がるアリのように、小さな黒い影が広いグラウンドに点々と散らばってゆく。
「ゴラァア!千堂出てこいやぁあ!リベンジや!」
「西高コケにしくさってからに~!許さへんぞ!」
どこの極道ですか?これは日本映画専門チャンネルですか?というようなセリフ。
最初は酷く驚いたけれど、こうも毎日聞いているとBGMか何かのようにすら感じられてくるから、人間の適応能力とは不思議なものだ。
「西高程度に千堂さん出すまでもないわぁ!」
「なんやワレェ!いてまうぞボケが!」
下界で始まった乱闘騒ぎに、奈々は冷ややかな目線を送って溜息をついた。
「また始まったよ、バカ高祭が」
奈々の独り言は、騒がしい教室の中に静かに消えた。
奈々がなんで、"大阪一のバカ高校"に居るのか、というと・・・。
奈々は母親を早くに亡くしており、父と弟との3人暮らしだった。
父親の大阪転勤が決まり、当然単身赴任をさせることもできない。
そんなわけで、大阪に引っ越すことを余儀なくされたのだが・・・。
しかし、時期は高校2年の秋である。さすがに進路のことも考えなくてはならない。
奈々は転校先をどこにするか考え、同じくらいの学力レベルである≪大阪府立北高校≫の編入試験をすることにした。
大阪には今まで一度も行ったことが無く、よく分からない。
そこでしばしば出張に出かける父親に全てを託していたわけだが・・・学校側からの回答は「編入試験は要りません」。
奈々はラッキー!と思って、何も考えずに大阪へ来た。
そして、制服を受け取りに初めて高校を訪れた日。
奈々は門をくぐって初めて、なにか様子がおかしいことに気づいた。
転入先は、そこそこの進学校だったはず。
なのに、目に入るのは、一昔前の着こなしをしたヤンキー達ばかりだったのだ。
そこで驚愕の事実が判明する。
父親は間違えて大阪一のバカ高校≪大阪市立北高校≫に編入届を出していたのだった。
≪大阪府立北高校≫と≪大阪市立北高校≫。
偏差値にすれば軽々と40は違うだろう2校。
「道理で、編入試験がないハズだよ!!!」
奈々はこのことを思い出すだけで、腹が立って仕方が無くなる。
なのに父親に問い詰めると「とりあえず2年の終わりまで通えばいいじゃない」と呑気な返事。
こんな学校、通ったほうがバカになると思いながらも、優等生生活の染みついた奈々に「欠席」の二文字は無い。
嫌々ながらも通学して、今日で2週間が経った。
「はぁ」
相変わらず冷ややかな目でグラウンドを眺めていると、誰かに横から机を蹴られた。
その衝撃に驚いて振り返ると、長いスカートを引きずるように履いている女生徒複数人が立っている。
「アンタ、こないだ転校してきた東京モンやろ?」
「何ひとの彼氏ジロジロ見てんねん」
「済ました顔しおってからに、前から気に食わんかってんや」
「ちょい、ツラ貸しな」
引っ張られるように屋上へ連れていかれる。
そしてドン、と突き飛ばすように肩を押され、奈々はよろけた。
「ホンマにその目、生意気やな。腹立つわぁ」
「きっちりシメたるからの」
2週間前なら、怖くて足が震えたかもしれない。だがもう2週間もこんなところにいる。
多少のヤンキーには、何も動じなくなっていた。
「・・・っていうか、私とあなたに何の関係があるのよ?」
「なんやとコラァ!」
奈々の言葉に、いかにもレディースといった感じのヤンキーが、拳を振り上げながら一歩前へ出てくる。
しかし奈々も、そうとうストレスが溜まっていた。負けじと言い返して睨み付ける。
「初対面の人間を大勢で取り囲んで、卑怯にも程があるんじゃない?大阪のヤンキーってのはずいぶん情けないのね」
「このブタ、ホンマにナメとったら血ィみんぞ!!」
パシッと乾いた音がして、奈々は頬にジンジンと痛みを感じた。
その一撃が合図となったのか、4~5人が続けざまに手なり足なりを出してくる。
奈々に格闘技経験などない、ましてや喧嘩の経験すらも。
取り囲まれてのリンチに近い制裁に、為す術なく膝をつきそうになった時のこと。
「やめとけや」
上の方から、不機嫌な声が落ちてきた。
ここは屋上である、上は空しかない。
どこから、誰が?と思っている間に、女ヤンキー共はさっとその身を引いていた。
まるで、何かに怯えるように。
高いところから降りたような、着地音がした。
スタスタと近づいてくる影が、女ヤンキー共の間を抜けて自分に落ちてくる。
「せ、千堂くん・・・」
「なんで止めるんや!?」
「コイツが要らんこと言うから・・・」
「じゃかあしいわっ!」
スッと差し出された分厚い手。
奈々はふと顔を上げたが、太陽が眩しくてよく見えない。
とりあえず、差し出されるままに手を取って、立ち上がる。
相手は・・・わりと小柄な、猫のような目をした男だった。
「お前ら、リンチはアカンやろ」
「せ、せやけど・・・生意気やねんコイツ」
どうやらこの男は、女ヤンキーに一目置かれている存在のようだ。
奈々は身を隠すように、男の背後に回る。
するとこの男、奈々の肩にガッと手を置き、なにやら気合いの入った表情で
「やるんならタイマンで、キッチリどつき合わんと!」
な、なんですと・・・!?
助けに来たんじゃないのかいっ!?
奈々は吉本新喜劇並みにすっころびそうなほど驚いたが、男のまなざしは真剣だ。
ここの高校の人たちは、喧嘩にしか興味がないのか、と。
この風景を見て、助けるどころか、タイマンを推奨しだすなんて。
奈々はやり場のない怒りを無意識のうちに拳に集中させていたらしい。
「ほな、始めよか。ワイが見ててやるさかい」
などと言いだした男に対し、その平手を思いっきりブチかましていた。
「やるわけないでしょーがぁあああ!!」
学校中に響きそうな声と、バチーーーンという打撃音。
その場に居た全員が、時間を止められたかのように固まった。
特に男は、何が起きたか分からないというような顔だ。
奈々はヒリヒリする手のひらを握り、鈍痛の走る身体を引きずるように、屋上を後にした。
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