LUCKY STAR
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20.気になる存在
『私、もうすぐいなくなると思う』
アイツのセリフが頭から離れない。
結ばれるまでは、消えないんじゃないのか?
何を急に、どうして……
『1番は、宮田くんに私を好きになってほしい』
その言葉を思い出して、ギクリとした。
消えかかっている原因は、まさか…
いやいや、と疑念をかき消すように頭を振る。
そんなわけない。
あんな得体の知れないヤツ…
好きになるわけがない。
---------------
「久しぶりね、宮田くん」
上から名前を呼ばれて振り向くと、目に飛び込んだ人物は飯村だった。
「取材ですか」
ベンチに座りバンテージを巻きながらぶっきらぼうに答える宮田を、飯村はクスリと笑う。
「いいえ、今日は別件なのよ」
「別件?」
「ええ、例の彼女の」
彼女、という言葉に反応して、ジム内の数人の動きが止まった。
聞いてはいけないような、聞きたいような、気まずい雰囲気が漂う。
宮田はすっと立ち上がり、
「場所を変えましょう」
「あら、ここでもいいのに」
わざとだな、と宮田は飯村のいたずら心に、身近な悪ふざけ大王の面影を感じた。
「で…なんですか」
ジム2階の応接間で、宮田はソファにどかりと座って問いかけた。
飯村も、テーブルを挟んで向かい側に座る。
「あら、意外ね」
「え?」
「いつ引き取ってくれるのか?って、そちらから言ってくるかと思ってた」
ニヤニヤ、と半笑いの飯村が気になる。
何もないところに、何かを発生させようというような、魂胆が見える。
「出張から帰って来たし、私の方は、いつでもいいわよ?」
そうだ。
一度はうまくあしらって、自分の側から離れさせた存在だった。
相手の出張のせいで、あえなく戻って来て。
でもまたこうして、引き取ってくれるようなことを言っているのに。
オレはどうして、何も答えられない?
「宮田くん?」
「…もう、大丈夫です」
「そうなの?」
「そのうち消えるとか言ってたから」
「えっ…!」
何の気なしに言った言葉にもかかわらず、飯村が顔色をありありと変えたのを、宮田は見逃さなかった。
「飯村さん、アイツ、何なんですか」
「え?」
「知ってるんでしょう、何か」
二人の沈黙をよそに、遠くからサンドバッグを叩く音や、縄跳びのロープがリングを叩く音が、小さく聞こえてくる。
飯村はなにも答えず、おもむろに立ち上がって、カバンを肩にかけた。
「待ってください、オレはまだ…」
「宮田くん」
ドア前で立ち止まり、くるりと振り返る飯村。
「そんなに興味があるなら、自分で聞けばいいじゃない」
「…そういうコトじゃないです」
「あら、じゃあ、どういうことなのかしら?」
嫌味な女狐だ、と宮田は相手を睨みたくなった。
「前は今すぐにでも捨てたくて仕方ない顔してたのにね。私のいない間に何があったのかしら」
言葉の最後に音符でもついていそうな話し方で、飯村は去っていった。
何があったって?
何もねぇよ!
ずっと居座ってる女が何者か、それくらい気になって当然だろうが。
1階へ降りて、ベンチに座る。
バンテージを巻き直して集中力を高めようと試みたものの・・・
言われたセリフが耳にまとわりついて、寝静まった夜に侵入して来た蚊みたいにうざったく、通り過ぎては近づいてくる。
『前は今にでも捨てたくて仕方ない顔してたのにね』
前は…
じゃあ、今は…?
オレはどうして…
ふっと頭に浮かぶ出来事。
濡れた髪、濡れた体、一糸まとわぬ姿の、女。
残像を壊すかのように、後頭部を壁に打ち付ける。
ゴツンと鈍い音が室内に響く。
あまりの音に、さすがの練習生たちも驚いて宮田の方に目を見やる。
しかし、当の本人は周りの目など気にならないらしく、頭を掻き毟るように手を当てながら呟いた。
「…バカじゃねえの」
ふと見上げた天井の蛍光灯がやけに眩しく感じ、そっと目を閉じた。
『私、もうすぐいなくなると思う』
アイツのセリフが頭から離れない。
結ばれるまでは、消えないんじゃないのか?
何を急に、どうして……
『1番は、宮田くんに私を好きになってほしい』
その言葉を思い出して、ギクリとした。
消えかかっている原因は、まさか…
いやいや、と疑念をかき消すように頭を振る。
そんなわけない。
あんな得体の知れないヤツ…
好きになるわけがない。
---------------
「久しぶりね、宮田くん」
上から名前を呼ばれて振り向くと、目に飛び込んだ人物は飯村だった。
「取材ですか」
ベンチに座りバンテージを巻きながらぶっきらぼうに答える宮田を、飯村はクスリと笑う。
「いいえ、今日は別件なのよ」
「別件?」
「ええ、例の彼女の」
彼女、という言葉に反応して、ジム内の数人の動きが止まった。
聞いてはいけないような、聞きたいような、気まずい雰囲気が漂う。
宮田はすっと立ち上がり、
「場所を変えましょう」
「あら、ここでもいいのに」
わざとだな、と宮田は飯村のいたずら心に、身近な悪ふざけ大王の面影を感じた。
「で…なんですか」
ジム2階の応接間で、宮田はソファにどかりと座って問いかけた。
飯村も、テーブルを挟んで向かい側に座る。
「あら、意外ね」
「え?」
「いつ引き取ってくれるのか?って、そちらから言ってくるかと思ってた」
ニヤニヤ、と半笑いの飯村が気になる。
何もないところに、何かを発生させようというような、魂胆が見える。
「出張から帰って来たし、私の方は、いつでもいいわよ?」
そうだ。
一度はうまくあしらって、自分の側から離れさせた存在だった。
相手の出張のせいで、あえなく戻って来て。
でもまたこうして、引き取ってくれるようなことを言っているのに。
オレはどうして、何も答えられない?
「宮田くん?」
「…もう、大丈夫です」
「そうなの?」
「そのうち消えるとか言ってたから」
「えっ…!」
何の気なしに言った言葉にもかかわらず、飯村が顔色をありありと変えたのを、宮田は見逃さなかった。
「飯村さん、アイツ、何なんですか」
「え?」
「知ってるんでしょう、何か」
二人の沈黙をよそに、遠くからサンドバッグを叩く音や、縄跳びのロープがリングを叩く音が、小さく聞こえてくる。
飯村はなにも答えず、おもむろに立ち上がって、カバンを肩にかけた。
「待ってください、オレはまだ…」
「宮田くん」
ドア前で立ち止まり、くるりと振り返る飯村。
「そんなに興味があるなら、自分で聞けばいいじゃない」
「…そういうコトじゃないです」
「あら、じゃあ、どういうことなのかしら?」
嫌味な女狐だ、と宮田は相手を睨みたくなった。
「前は今すぐにでも捨てたくて仕方ない顔してたのにね。私のいない間に何があったのかしら」
言葉の最後に音符でもついていそうな話し方で、飯村は去っていった。
何があったって?
何もねぇよ!
ずっと居座ってる女が何者か、それくらい気になって当然だろうが。
1階へ降りて、ベンチに座る。
バンテージを巻き直して集中力を高めようと試みたものの・・・
言われたセリフが耳にまとわりついて、寝静まった夜に侵入して来た蚊みたいにうざったく、通り過ぎては近づいてくる。
『前は今にでも捨てたくて仕方ない顔してたのにね』
前は…
じゃあ、今は…?
オレはどうして…
ふっと頭に浮かぶ出来事。
濡れた髪、濡れた体、一糸まとわぬ姿の、女。
残像を壊すかのように、後頭部を壁に打ち付ける。
ゴツンと鈍い音が室内に響く。
あまりの音に、さすがの練習生たちも驚いて宮田の方に目を見やる。
しかし、当の本人は周りの目など気にならないらしく、頭を掻き毟るように手を当てながら呟いた。
「…バカじゃねえの」
ふと見上げた天井の蛍光灯がやけに眩しく感じ、そっと目を閉じた。